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Stage2



「あー、いつものことね」
口論…と言うよりは子どものケンカのようなレベルの言い合いを繰り返している横で、とりあえず状況説明するアリンとマリン――と、それを受ける社長。
だが社長からしてもこの二人の騒動はいつもの事のようで、特に大きな反応を見せる様子は無かった。
……というより、退屈そうにあくびをしながら聞いている辺り、そこまで大きな関心は無いのかもしれない。
「結局原因ってなんなんでしょうか?」
「主義の違いってわけでもないですよね?」
主義、という話では、リューガは速度主義でとにかく速さを追及するタイプであり、クリエはバランスを重視し、自分のスタイルに合わせつつも、ある程度全体的な性能を考慮に入れる。
その場合、リューガは箒が、クリエはボードの方がそれに合わせやすい、という理由から、それぞれの道具を手持ちに選んでいた。
――まぁ、それなりに長いこの組織の歴史には、そんな主義の違いから箒派とボード派にわかれ、激しく論戦を繰り返した時期があったのは確かではあるのだが、それはまた別の話である。
「そーねぇ。 リューもクゥも、他人の趣味に口出しするタイプじゃぁないわね」
「まぁ、リューくんは危なっかしい気がするのは確かですけど」
「リューくんと同じ速度で飛べる人って、いませんよね」
……速さを追求するが故に、他の制御が甘くなっているのは事実。
本人の腕は確かにそれができるレベルまできているのは確かだが、ひとつ謝れば大事故につながりかねないのは間違いない。
ついでに言うならば、彼の箒もまた速度を出せるようにカスタマイズされたものであり、高度は殆ど出す事が出来ず、常に地面スレスレを飛び回る事になる。
それは、『上』に逃げて障害物を避ける、と言う行為が不可能に等しいということでもあった。
「あらー、スピードなら私だって負けてないわよー?」
「……いやまぁ、社長は色々と格が違うような……」
「比べるとかそんなレベルじゃないですよね……」
とは言っても、飛んでいるところはあまり見ない気もする――
そう思ったのは、二人の秘密だったりそうでなかったり。
とはいえ、雲の上まで飛び上がれるのは、社長以外にいないという事実は否定できないのだが。
……それでも、天にあると言われている『天空の広場』にまでは辿りつけないのはどういう事だろうと言う者もいたが……
社長本人は、『地上に住む者は”塔”を介さないと辿りつけない。あそこはそういう場所よ』と言っていた。
謎である、主に社長が。
「ま、その話はグランドブレイカーの底にでも捨てといて」
「捨てるんですか」
「この状態じゃお客さん入れないわねぇ」
「ツッコミ無視ですか」
ふーむ、と口元に手を当てながら、アリンとマリンのツッコミは完全にぶっちぎってそんなことを口にする社長。
まぁ確かに待ち合いスペースで口論するメンバーの二人……と、普通ならこの状態に足を踏み入れて配達を頼むような気にはならないだろう。
それでもかまわず入ってくる図太い神経を持っている客もいるかもしれないが、そんな少数派だけを相手にするわけにも行かない。
「……というか、社長でも客入りは気にするんですね」
「”でも”ってなによ。 まー確かに普段は口出さないようにしてるけどねー」
どちらかというと、口出ししないのではなく任せきって何もしてないの間違いでは。
……と、二人は思ったが、どうせ聞き流されると考え何も言わずに受け流すことにした。
「仕事が入らなきゃ、元締めの私にもお金が入らなくなるじゃない。 何事も世間体が命なのよ、特にこういう組織は一人の素行が組織全体の評判に繋がるんだから」
「世間体って……せめて信頼と言って欲しい気がしますが……」
世間体などという言い方では、どうにもあまりいい響きには聞こえなくなるのは気のせいだろうか。
「まーいいじゃないの。 それより今はあの二人、でしょ?」
『……ですね』
はぁ、とため息をつきながら口を揃えるアリンとマリン。
そろそろ社長のペースにも慣れてきたと思っていても、どこか投げやりな印象を与えるこの態度は、組織を代表する者としてどうかと思わされる事実はどこまでもついてまわる。
それでも、組織の長として最低限やることはやっているので、なんとも文句はつけづらかったりもするのが辛いところ。
……あくまで、”最低限”だが。
「でもどーやって止めるんですか?」
「あの二人、飽きるか気が済むか疲れるかするまで止まりませんよ?」
「大丈夫よ。 感情なんてのも、突き詰めれば一種のエネルギーに過ぎないわ。 怒りも怒鳴るか暴れれば消耗する……要は、発散する先を与えれば、下手に止めようとするより早く収まるのよ」
ふふふ……と、なにやら楽しそうな笑みを浮かべてリューガとクリエの方へと歩いていく社長。
アリンとマリンは、首を傾げつつもその様子を傍観する体勢にはいっていた。
はっきり言って、社長があんな顔をした時は不安になることは隠せない。
が、絶対安全圏から見ている分には面白いので、とりあえず遠巻きに観察するのが吉である。
――一番手がつけられないのは、他ならない社長なのだから。




「大体、俺らの仕事は速さが最大のウリだろ!」
「だからといって、そればかりに固執するものじゃない。 先月スピードを出しすぎて、制御を誤って事故した人がいたけど、その二の舞になりたいの」
「俺がそんなヘマするように見えるか?」
「普通の速度域なら問題ないと思う。 でも、あなたの箒の最大速度は通常値を大きく越えているから――」

「はーい、そこまで!」

終わりの見えない平行線。
そんな口論を止めたのは、にゅっ、とでも聞こえてきそうな感じに二人の間に割り込んできた、一本の箒だった。
絵の先にエメラルドグリーンの独特な紋様が走るそれは、持ち主を特定するには十分な要素である。
『社長!?』
声をそろえて驚く二人。
その叫びの意図は、『まさかいるとは思わなかった』と言うものの現れに他ならなかった。
……まぁ、彼女がこの場所にいるのがそれだけ珍しいのか、それとも単にここに来ているのに気がついていなかったのか……
そのどちらの意味としてもとれるが、この場ではどちらの意図だったのかは伏せておこう。
「正反対の主張をぶつけ合っても、どっちも引かないんじゃキリが無いでしょ。 そのケンカ、私に預からせてくれないかしら?」
そして、そう口にする彼女の表情は……
悪戯っぽさに満ちた、見る者が妙に不安を煽られる、色々な意味でイイ笑顔だった。


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