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Stage3



――一週間後、なにやら色々と準備がある、と言って、妙に楽しそうな顔して出かけていった社長が戻ってきたのを期に、ここ、ルナータ城門前広場は多くの野次馬で埋め尽くされていた。
その三日間で北部全域を駆け回って行った準備の結果がまさにそれで、町の外へと出るための城門部分を除いて、大勢の人が円を描くように設置されたロープの外側に並んでいる。
「……社長」
これから何が始まるのか知っている者、何も知らずに、なんだか人があつまっているから来てみただけの者……
彼らが目を向けるのは、ロープの内側の中心に並ぶライドブルームとライドボードの面々。
そう、これから始まるのは、大陸全土を撒き込んだ、スカイライダーズ主催の大レース大会である。
「……社長!」
とは言っても、ルートの関係上関係してるのはこのルナータと、リックテール。そしてシュヴァルまでの、地図上で一直線に並んだ町だけなのだが。
それでもその規模のレースを実行するように人々を納得させられる社長の力もたいがい謎である。

「社長ってば!! ちょっと人の話聞いてますか!!!?」





「あら、なにかしら?」
そんな光景を目にしながらご満悦、といった様子の社長だったが、横で顔を真っ赤にして、なぜか白黒のチェック柄の旗を持たされているアリンの声に、なんの悪気もなさそうに振り向く。
まぁ、傍から見ている者にとっては、その怒りやら羞恥やらもろもろ混ざり合ったその表情も理解できるのだが、あえてそれに口を出すような者はいなかった。
「なんで私がこんなカッコしなきゃいけないんですか!!?」
「こんなカッコって……」
――誰もが黙殺していた彼女の今の服装は、妙に光沢のあるセパレーツ水着のような胸当てに、これまた同じように光沢のある素材でつくられた超ミニのスカート。
色的には白地にスカイブルーのラインが走っており、胸元にはスカイライダーズのエンブレムである蒼い羽根があしらわれていた。
「……レースクィーンは基本でしょ?」
「知りませんよそんなの!! っていうかこういうのならマリンの方が向いてると思うんですが!!?」
叫びつつも敬語は忘れないあたりが、アリンらしいといえばらしいかもしれない。
なお、余談ではあるがアリンの方が多少大人しい性格で、彼女の言葉通り、マリンの方がおまつり騒ぎで立ち回るのが好きだったりする。
それを知っていながらあえてアリンに任せる辺りが社長というところなのかどうか。
「さー始めるわよー」
「ですから! さらりと流さないで下さいっ!!」
それでも律儀に着るあたりどうなんだ、と思う周囲の観客一同。
いや、ここまでくると無理に着せられた、という説も浮上してくるのは否定できないのだが……
もう何を言っても真実は空の彼方、といったところだろう。
「揺れる大気、音の波を広げよ――オーヴァー・フォーン」
アリンの一言を完全に無視して、社長はスタスタと広場の中心へ歩きながら呪文を唱える。
そして発動と共に手元に現れるのは、淡く薄緑色に光る小さな光球。
その光は彼女の丁度肩の高さまで上昇すると、ぴたりとその位置が固定された。



『レディース&ジェントルメン! この私、スカイライダーズ社長の気まぐれで開催されます超不定期大会、スカイライドレース!! ここに第五回の開催を宣言するわ!!』

自分で言う事かよ。
とどこかから聞こえてきそうな一言が、社長を――いや、社長の口元にある光球を中心にして広場一杯まで広がっていく。
オーヴァー・フォーン
それは歌能力者の使うスピークオーヴァーを、風能力の派生である『音』能力で再現したもの。
唯一つの違いは、『使用者の声を大きくする』のではなく、『音の波を拡大する魔法球』を作り出す、という点だろう。


『さぁ参加者諸君、ルールを言うからちゃんと聞きなさいよ!!
と言ってもやる事は単純! スタートはここ、ルナータ城門。 ここからリックテールを経由してシュヴァルで折り返し、帰りもリックテールを通って、この城門前広場まで戻ってくること!!
おっと、そこのリックテールを通らずに一気にシュヴァルまで行ってしまおうとか考えてるアナタ! 確かにリックテールに寄ろうと思えばちょっとだけ横にそれるから直線距離でシュヴァルまで行った方が僅かに早いけど、さっき渡した封筒型の参加証の中をよく見なさい。
ドコを飛んでもいいけど、スカイライダーズリックテール本拠(往路)、シュヴァル支部、リックテール本拠(復路)に立ち寄って、確認スタンプを貰って来ないとゴールは認めないわよ!!
ちなみに町の中を抜ける時に、わざわざ箒から降りる事は強制しないわ。
でも、町の中の建物やらオブジェ、人波をすり抜けながら飛べるものなら飛んでみなさい。 町のモノ壊したら即失格、弁償その他は自腹だからね!!
それと、まぁ配達のプロである我が社員に限ってそんな事は無いと思うけど、もちろん参加証&チェック表である封筒を無くしても失格!!
……さぁ、カウントダウンを始めるわよ! 全員、位置につきなさい!!!』


おおおおおおおお!!
とあちらこちらから雄叫びが上がる。
それは観客のものなのか参加者のものなのか、それとも両方のものなのかはわからない。
しかしその宣言に従って、参加者となるライドブルーム、ライドボード達は、それぞれ自身専用にカスタマイズされた箒やボードに搭乗していくことは確かだ。
開幕の時は近い。


「……社長の考える事って、わかんねーよなぁ……」
そんな中で、自身の箒にまたがったリューガは、周囲を見渡しながらそう一言。
始まりは、なんてことないいつもの口論だったはずなのだが……
それが社員の90%+数える程度の無所属ライダーを巻き込んだ大会にまで発展しようとは、全くもって予想外だった。
「それは同感、でも今は重要じゃない。 ……そういえば、実際に飛んで決着をつけたことはなかったわね」
そして、その口論の相手であるクリエ。
彼女はただ冷静にボードの上に乗り、精神を研ぎ澄ましつつ、隣に立つリューガに語りかけていた。
「はんっ。 スピード競技で俺に勝てると思ってんのか? 小技ばっか上手くても、この差はうまらねーぜ」
「それはどうかしら、確かに私のボードでは最高速度で貴方の箒にはかなわない。 けれど先程貴方自身が口にしたように、社長の考える事は予測不可能……このレースもスピード競技に見えて、総合競技である可能性は高いわ」
火のように熱く、感情的に言葉を返すリューガと、氷のように冷たく、冷静に口を動かすクリエ。
それは力と理論の戦いとでも例えられるかもしれないが、言葉の応酬というこの形ではクリエに分があるようだった。
「……ちっ、やっぱ口の減らねぇ奴だな、お前は」
「それはこちらの台詞。 貴方は力押しの限界を知るべきよ。 速さを追求するのは構わない、でも、それだけではいずれ身を滅ぼすわ」
「大きな世話だ! お前に心配される筋合いはねーし、口先だけ上手くても実戦で役に立たなきゃ意味ねーんだよ!!」
「……その言葉を口にした事、よく覚えておきなさい」
そこまで言い合うと、気が済んだのか時間が無いことに気がついたのか、お互いに視線を離して風除けのゴーグルを装着する。
周囲にいる参加者達も、社長が手を『3』を現すような形にして大きく空に向けているのを目にして、順次スタートの体制に入っている。

『3!!』

――待機を駆ける風精、ここに集いて流るる不可視の翼を我に――

『2!!』

長い歴史の中で、完成された形を持つこの呪文。
しかしその効果は、力加減次第でいくらでも姿を変える。

『1!!』

その呪文を、それぞれの形で習得した飛行術師達。
彼らは詠唱の開始と共に、誰よりも速く飛ぶため、精神を尖らせていく。
――そして

『―――GO!!』

社長のスタート宣言と同時に、周囲を瞬間的な乱気流で満たしながら、そこにいた彼らは矢の如くリックテールへの街道へと飛び出していった。





その直後の広場は、まさに嵐が過ぎ去ったあとのようにシンと静まり返り、もう見るモノもないと思ったらしい観客の一部が帰り始めるのが、ちらほらと見え始めていた。
……が、そこで彼らを引き止めるように、社長が一言注釈を入れる。

『会場の皆さんご安心下さい。 ここからでもレースの様子が見れるように、彼らが持っている参加証には仕掛けが施してあります。 少々お待ち下さい』

そこまで口にすると、一度オーヴァーフォーンの光球を下に降ろし、また新たに別の呪文の詠唱に入る社長。
彼女から発せられるメンタルは、『嵐』と、『炎』と『大地』の融合された力――『幻』のメンタルの二つ。
「世を満たす大気よ、界を包む光よ、我が刻みし標(しるべ)が映せし影を、風の導きをもってここに投影せよ――マークス・ミラージュ!」
その魔法は、大気に満ちる風のメンタルの流れに乗せて、遥か遠くの光景を映像として空中に映し出すもの。
――詠唱を終えたその瞬間、社長の頭上……会場の上空に、街道を飛ぶ参加者達の姿が、その周囲の景色ごと幻影として映し出される。
封筒にしかけられたもの……それは機械でいうところのアンテナの役割を果たす紋章。
それを刻み込んだ物質の周辺の光景を映し出すのがこの魔法で、実際に知っていたり使える者は極少数である。
まぁその理由としては、第一に大気を司る『嵐』の能力と、幻影を生み出す『幻』の能力を最大レベルで極めている必要がある事。
第二に使いどころが少ない事。
第三に、どんな形でとはあえて伏せておくが、過去悪用されたために使用が規制された、という事だろう。
勿論距離が遠くなればなるほど映像の鮮明さは失われていくが、社長の魔力は町二つ分程度なら問題ない、と本人が言っていた。
……相変わらず、謎は深まるばかりである。




「……というか、私はいつまでこんな格好してればいいんでしょうか……」
社長が映像を展開したその時、会場の隅ではレースクイーンの衣装のままアリンは泣きそうな顔でそう呟いていた。



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