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怖かった

夜の暗さが
光が無くなる事が

怖かった

隣に温もりが在った事を思い出すことが
隣に温もりが無い事を認めることが

怖かった

出会うことが
失われる事が

たまらなく怖くて

――――わたしは、ただ泣いていた



 Freesia



■リエステール 聖アルティア教会

「先生。ハーブティです」
「ごくろうさま。いつも悪いわね」

 コトリ、とティーカップが置かれ
 モノクルを付けた、細い青の髪の老婆は
 目の前のカーディアルトに微笑み、読んでいた資料を机の上に投げ、
 置かれた紅茶を口にする。
 カーディアルト・シスターアエリルは、その言葉に恐縮したように小さく首を振り、
 そして、アエリルは自分が部屋に入ってきたドアとは違う、奥の部屋につながるドアを見る。

「いえ、ところで・・相変わらず、ですか?」

 相変わらず。これこそが、アエリルが部屋に訪れた本題だった。
 老婆は、その相変わらず。という言葉に、一つ頷いて答えた。

「ええ。あれから一ヶ月かしら、誰とも会おうとしない。話そうともしない。ただ、お腹は空くみたいだからごはんは食べてくれるみたいだけど」

 紅茶を口にしながら、老婆はその現状を説明した。
 しかしアエリルは、予想外に淡々とした老婆の言葉に、ちょっと驚いた。

「は、はぁ・・?」

 気の抜けた返事をしながら、アエリルは思う、

(先生にしては少し冷たいんじゃないかしら・・・)

 と。
 本当は、もっと心配そうな顔をすると思っていたのだが・・・。
 しかし、老婆はその考えを読んでか、軽い笑いと共にアエリルに聞かせた。

「ねぇ。もし私が死んでしまったら、貴女は悲しんでくれるかしら?」
「そ、そんな!! 軽々しくそんな事を口になさらないでください、先生!!」

 その態度を見て、老婆は笑いを堪える。
 慌てぶりをみれば察する。それだけ教え子であるこの子にとって
 老婆の事は大きな存在であるのだということ。

「なら、貴女もあの子の気持ちが判るんじゃないかしら?
 人は強くない。だから、際限なく怖い。ただ“その可能性”を考えようとする事を避けているだけ。
 けれど、人はどこまでも弱いワケじゃないわ。
 だけども、私たちのような“オトナ”が、どうのこうの手を尽くしても仕方が無い。
 それは、結果としてあの子を甘えさせてしまうから。
 だから、あの子自身でどうにかそれに気付いて、勇気を持たなくちゃいけないの」
「それは・・・そう、ですが・・。でも、このままで良い筈が」

 そう。老婆の言っている事は判る。
 しかし、ただそれは、その事を理由に部屋に引きこもってるだけで、
 それが良好とは言い難い。
 それでも、老婆は首を小さく振って言葉を続けた。

「構わないわ。むしろ、鳥が折れた翼で無理に空へ飛ぼうとすれば、逆に落ちてしまうわ」
「ですが、このままではあの子はクラスから浮いた存在になってしまいます。・・・先生の例えを借りるなら、群れから離れた鳥は、簡単に群れに戻れないのですよ」
「ふふ。これは一本取られたわね。確かに、今のあの子に必要なのはそういうもの」
「え、、、ええ! そうです!! あの子は一人じゃない。その事を―――」
「しかし、ただ“群れているだけの存在”では駄目。そうね・・・もしこの問題が本当に解決する時が来るとしたら、あの子の大切な大切な妹と同じくらい、心から信頼しあえる。という条件が必要ね」

 老婆は、カーディアルトの言葉を切って一つ息をつく。

「あの子も可哀相ではあるわね・・・私はこうして仕事に身を扮する立場。ウチの子もその嫁も、死んでしまった。
 それからあの子は、ずっと一人でフィナを拠り所にして、そのフィナの為に光を与え続けていた
 でも、あの子自身は愛されたくても愛される人が居ないんですもの」
「で、でも、先生はそこまであの子の事を思っていらっしゃいます」
「いいえ。私が如何に想っていたとしても、通じなければ意味が無いわ。その通じる為の努力を私は“忙しい身”という事で放棄している。とも言えるのよ。まったく、酷い親代わりよね」
「そんな・・・」

 そして、老婆は少し寂しそうな表情で、机の上に飾ってあった写真・・・中には、老婆を中心に、五人の姿が写っている、それをそっと撫でる。
 老婆と、その右側に少し困った顔をした青年。そして、左には微笑む女性。その下に、元気にピースをする少女と、椅子に座って静かに笑う女の子。
 それを見て、アエリルは何も言えず、言葉を飲み込んだ。
 アエリルは、老婆の思いが二律背反している事が判っていた。
 本当はあの子に構ってやりたい。しかし、老婆の元には毎日沢山の資料と仕事がやってくる。
 ・・・本来なら、その仕事を行うべく人物・・・写真に写る青年と女性は事故で亡くなってしまったから。 

「そうね・・・これは“アルティア様の試練”こう言えば、貴女も納得するかしら?」

 しかし、そんなアエリルに対して、ふふっ、と、今度はからかうのではなく、優しく微笑んで
 老婆は「よし」という声と共に、再び投げた資料を手にとって仕事を再開した。

「はい・・判りました。今はそれで納得します。しかし、リックテール教会との定例友会にはしっかり参加させようと思います」
「そうね。少なくともそういった行事に参加して、一緒な思い出を持つという事はあの子の為になるわ」
「はい。では、失礼しますね」

 一つ礼をして、アエリルはその場から下がってドアに向かう。
 部屋を出る際、もう一度振り返り、

「無理はなさらないで下さいね。エルナ先生」
「ええ、ありがとう」

 そうして、老婆は再び資料に目を落とした。
 部屋を後にして、思う。

 ――――なんだかんだで、あの子を一番心配しているのは、やっぱり先生なんですね

 老婆には本来、部屋での作業以外にもするべき事が沢山ある。
 それをしていない内は、そっちの仕事が溜まる一途である。

(何か手伝える事は無いかしらね)

 そう思いながら、彼女は午後の授業を準備する為に、その場を後にした。






■リックテール 聖アルティア教会

ねぇね!  リエステールのみんな、まだ来ないのかなぁ?」

 ある日ある時の昼下がり。
 一人のアリスキュアが待ち遠しそうに友人の一人へ声をかける。
 それは歓喜に満ちており、口調から仕草。どれを一つ見ただけでも彼女がはしゃいでいる。という事はありありと判った。
 といっても、それは彼女だけに限らず、他の皆もどこか落ち着かない雰囲気を出していた。
 ―――定例友会。それは、教会のセントロザリオ・アリスキュア時代に数回行われる行事であり、
 その目的は、同年の同級生と親睦を深めると共に、将来の仕事仲間の顔をこの時点で知っておく意味合いがあり、
 また、“定例会”の集まりを遊びを取り入れて擬似的に行う事で、今の内から教会職としての自覚を植えつけるという意味もある。
 ・・・まあ、貴族階級からの圧力で、“自由参加”という名目にはなっているが、
 大抵の生徒はこの定例友会に参加している。
 しかし話は逸れるが、多くの生徒はこの定例友会の認識として、“禁欲”を例外的に免除され、
 お茶とお菓子。そして見知らぬ友達と遊ぶ事を、教会公認で楽しめる行事。と思っているのも事実だろう。
 そんな彼らにとって、これは初めての定例友会になるのである。

「ええ、もうそろそろ到着しても良い頃だとは思います」

 そんな色めきだつ空気の中、一人のアリスが、待ち遠しそうな声ではしゃぐクラスメイトに
 落ち着いた声で一つ微笑んで、言葉を返す。
 南の首都に居て、こちらにやって来る彼らもまた、自分たちと同じ生徒。
 こうした楽しめる中での交流を得られる事は、喜ばしい事であった。

「もぉ、そんなぽやぽやとしてても、シアだって『まだかなーまだかなー』って楽しみなんでしょ?」
「ええ。それはもちろんですよ」

 にこりと微笑んで、少女・・シアは、クラスメイトに言葉を返す。
 この定例友会前。彼女の周りに人が多い事からも、彼女がクラスでも人気のある人物だという事は察する事が出来るだろう。
 クラスメイトはふふんと冗談気に笑って、シアにいたずら口調で思ったことを口にする。

「ふふん。シア“ママ”に落ちるリエステールの男子は、ざっと15人以上と見た」
「もう、そんな事言わないの」

 笑いを崩さぬクラスメイトの言葉に、シアは困ったような表情を見せる。
 シア“ママ”。彼女のその歳のわりに落ち着いた性格や暖かく包むような優しさから呼ばれるようになったあだ名ともいえるだろう。
 このクラス内でも、そんなシア“ママ”に好意を抱いている男子も少なからず
 15人以上。という言葉もそう現実味の無い話という事も無い。

「じゃあ、私は20人から25人に夕食のパン一つで♪」
「おー。大きく出たね。20人は多すぎじゃないかな」
「ふふん。そう言うなら超えたときはパン頂戴よね」
「望むトコだよ!」
「こらこら・・そんな賭け事をしないの」

 またその会話にクラスメイトが加わり、どんな子が来るのか、どんな事をしようか
 そう話題に花を咲かせていると、
 待ちきれず偵察に行っていたのだろう。教室に駆け込むセントロザリオが告げた。

「みんな! 南の奴らが到着したぜ!」





■定例友会会場

(・・・・虚しいわね)

 リエステール組は先に教会の一室を使って出来上がっていた会場に案内され、リックテール組の登場を待っていた。
 内装はとくにいじってあるワケでもなく、いつも自分達が授業している教室となんら変わりは無い。
 ただ違うところがあるとすれば、テーブルクロスにお菓子とケーキ。お茶が並んでいるという事。
 リエステール組の生徒の様子はといえば、
 ある者はせわしなく。ある者は隣の友達と「リックテールの生徒と友達になれるかな」とか。
 そして、
 エルナは、一人俯き座っていた。
 これから三日は、ここで過ごすこととなる。

(フィナ・・)

 ぎゅっと、エルナはペンダントを握り締めた。
 翠水晶石のペンダントは“禁欲”の中に含まれる“物欲”の禁止に対してあまりに価値の大きすぎる品だった。
 が、死した妹の形見である。という所から、多くの教師が所持の許可を容認している。
 ・・・ここには、フィナの息吹はこれしかない。
 一緒に話した部屋もベッドも無く、
 フィナの匂いも感じることが出来ない。

(・・・・本当に、下らないトコ)

 友達なんか要らない。作りたくも無い。
 だけど、他ならぬおばあ様の頼みだった。
 三日。適当に居れば良い。
 そうすれば、またリエステールに戻れるから。

「あ!」
「みんな、来たみたいだよ」

 エルナの横のクラスメイトが、声を上げる。
 どうせ廊下を通るリックテール組が見えたのだろう。
 そのエルナの予想通り、ものの一分もせずに、リックテール組は会場教室に入ってきた。
 リックテール組がリエステール組と対面するように座るのを確認し、
 リックテール側の教師だろう。ビショップが声を上げた。

「はい。みなさん。これから皆さんは、三日間いっしょに活動する友達となります。
 一応今日だけはアルティア様も友好関係を作るために禁欲を一つ多めに見てくださいますので、
 お菓子とお茶をつまみながら、まずは各自、自己紹介をしたり、お互いに交流を深めて下さい」

 はーい。という返事と友に、ビショップは笑顔で答え、そして最後に「もう自由にして結構ですよ」と、言うと、
 皆は音を立てて席を立ち、声をかけたりかけられたり。お菓子を食べに行ったりしていた。
 机にはクッキーやロールケーキ。紅茶が並び
 それに手を伸ばしながら、笑いあう声がする。

「まあ、そっちはもう聖術基礎の78ページまで行ってるの?」
「うん。と言っても、先生の授業が早すぎて、復習が大変なんだけどさ」

 ある所からはそんな話。

「うあっ、お茶が」
「ああ、溢しちゃいましたね・・はい、シミにならないうちにこれで拭いてください」
「あ、うん・・・」

 ある所では、そんな会話

「ねーえ。あれ見て♪」
「おやまあ。あれはシアママに一人落ちましたな」
「これで見たトコ本日三人目ってトコかしら」
「まだまだ勝負は始まった所よ」

 またある所でも。そんな風に

(・・・・)

 それでも、エルナは椅子に座り、動こうとはしなかった。
 もちろん、リックテールの子の中でも、積極的な子は居るもので、

「どうしたの? 具合が悪いのかしら?」

 と、エルナに声をかける者も居た。
 しかし、

「・・・放って置いて」
「でも、」
「・・・」

 そう言って一つ睨み返すと、大抵は身震いをして立ち去ってしまう。

「なによあれ・・」
「・・もう良いわよ。行きましょう」

 そう、遠巻きに立ち去る声が聞こえる。
 エルナは“これで良い”と、内心で一つ頷く。
 ・・・が、ペンダントに残った“何故か浄化出来なかったフィナの魂”が、エルナの心をじくりと痛めさせた。

(・・・フィナ?)

 しかし、形見は形見。問いかけに答える事は無い。
 ただ、形見から通じたフィナの魂は・・・悲しみだったような気もする。
 だが、その悲しみは直後、エルナを優しく包み込むような優しさに変わる。

(・・・早く終わんないかな)

 フィナの感情から、少し生徒達に向けていた敵意を削がれ、エルナはそんな事を思った。
 教師は“子供だけで気兼ねなく”という名目上。既に居なくなっている。
 もちろん、トラブルが起これば直ぐにでも駆けつけるようにクラスリーダーが呼びに行くようにはなっているんだろう。
 だから、こうして座っているだけでも煩わしく注意をされる事はなかったが、それはそれで時間の浪費を遅く感じさせるものだった。
 まあ、人間観察というのも時間つぶしには良いが、それも趣味が良いとは言えない。

(いっそ説教受けてた方が、今の居心地よりは随分マシかもね)

 と、エルナは思う。
 ・・・と、

「はい、どうぞ」
「・・・何?」

 スッと差し出されたのは、紅茶とケーキだった。
 顔を上げれば、そこには自分と同じくらい髪の長いアリスキュア。
 でも、少なくともエルナの記憶では、リエステールのクラスメイトにこんな子は居なかった。
 それに、リエステールのクラスメイトがこんな機会でも話しかけてくる事は無いだろう。
 きっと、またリックテールの生徒が性懲りも無く声をかけに来たんだろう。
 そうエルナは思って、その少女から目を逸らした。

「せっかく美味しい物を頂けるのに、座っているだけでは勿体無いですよ?」
「・・・いらないわよ」
「あら? でもコレ、結構美味しかったですよ」

 そう言って、エルナの横の椅子に座り、
 自分用にも持ってきたんだろう。もう一皿の上に載っていたケーキを自ら食べ
 お茶をゆっくりとすすり始めた。

「・・・放って置いて」
「あら? でも私は、ここが良いんです♪」

 ずいぶんとドスを効かせた声で言ったのだが、
 少女はそれに臆することなくパクパクとケーキを食べていた。
 そして、自分の分のケーキを食べ終えて、少女はエルナの方を見て、

「どうして一人で居るのですか? 一緒にお話するほうが、きっと楽しいですよ」

 能天気に、笑いかけて来た。
 それが――――



『おねーちゃん♪』
『もう。フィナは甘えん坊なんだから』
『んゆー。だって、おねえちゃんに抱っこされるの暖かくて気持ち良いもん』
『全く・・ホラ、フィナ。おいで――――』



                ―――――その手が、もう届かない――――


「っ―――!」



                ――――― パリン


 それが――――たまらなく、悲しかった。

「きゃっ・・!」
「・・・うるさい」

 彼女の持っていたお盆を払いのけ、
 エルナはその子を突き飛ばす。
 しりもちを付いた少女は、何が起こったのか判っていない様子で
 ただ、割れたティーカップと皿。地面にぶつかって潰れたケーキを。
 そして、床を濡らす紅茶を呆然と見て。

「あ、あの・・わたし・・」

 そして、少女はゆっくりとエルナの顔を見て、泣きそうな顔で何かを言おうとした。
 しかし、エルナはこの感情のままに言葉を続けた。

「うるさい、うるさい!!

 あんたウザいよ!! 何も知らないくせに!!

 そうやってわたしを哀れんで、さぞや幸せ者なんでしょうね!!

 そんな能天気な顔して話しかけて来るんじゃねえよ!!!」

 空気が凍る。
 だが、すぐに教師が駆けつけ、処理を行っていく。
 エルナは、その場に居た堪れなくて部屋を飛び出す。
 走って、リックテールのアルティア大聖堂―――今日は特別に一般信者の入場を閉め切っていた為に、誰も居ないそこの祭壇の下で、屈み込んで

「っぅ・・うぅぅ・・・フィナ・・フィナぁぁ・・・・」

 ペンダントを握り締めて、ただ涙した。






「ああ、エルナちゃん」
「あ・・・」

 ひとしきり泣いて、トイレの洗面所で顔を洗った後、
 エルナのおばあ様の生徒であった、リエステール側の引率のカーディアルト――シスターアエリルが、「やっと見つけた」。という顔をして駆け寄ってきた。
 そして、エルナと同じ目線に腰を落とし、優しく肩に手を添えて、エルナの顔を見て言った。

「エルナちゃん。さっきの事、シアちゃんも気にしてないって言ってましたから、戻りましょ?」
「・・・嘘だよ。あんな事されて気にしないワケないじゃん。わたしだったら、死んじゃえばいいのにって思っちゃうもん」
「エルナちゃん・・・」

 その自嘲気味に笑うエルナに、アエリルは悲しそうな顔をする。
 しかし、ある意味“掴み所が判らない”というエルナのおばあ様の生徒として伊達に居たわけじゃない。
 ここで諦めるような彼女では無かった。
 エルナに向き合い、言葉を続ける。

「いーえ。むしろ、シアちゃんを怒らせたら、それはそれで凄いと思いますよ」

 まあ、褒められた事では無いケド。という言葉も添えて。

「あの子が怒ったトコなんか、そう言えば見たこと無いんですよね」
「ふぅん、優等生なんだ」
「そうそ。だから、この程度の事で怒るような子じゃないんですよ」

 ね? と、優しく笑って、アエリルはエルナに言い聞かせる。
 エルナは少し難しい顔をするが、小さく頷いて

「・・・うん」

 と、言葉を返した。
 その返事に、アエリルは笑って、エルナに提案をした。

「まあ、エルナちゃんが戻り辛いのも判るから、ひとまず交流会が終わるまでは先生と一緒にお茶とケーキとクッキー頂きましょ。あそこに居た時、一口も食べてなかったんでしょ? それとも、本当に要らない?」
「ううん。食べたい」

 エルナとて、禁欲の中で・・・まあそれでも、こっそりとつまみ食いしたり、黙って外へウィンドウショッピングしに行ったりはしているが、
 こうして堂々と禁欲を気にしないで良い機会があるのに、美味しいものを食べられないのは正直苦痛ではあったのだ。
 リエステール組の教師にあてがわれた部屋に入り、エルナの前にお茶とケーキが出される。

「ところでね、エルナちゃん」
「ん?」

 ケーキを食べながら、シスターアエリルの言葉に顔を上げて、エルナは疑問顔を浮かべた。

「三日間お世話になる間の部屋が、リックテールの生徒と相部屋になるのは出発前に説明しましたよね?」
「うん。流石に覚えてないほどバカじゃないわよ」
「それが、さっき交流会の中で決まっちゃったんだけども、」

 と、その言葉を気に留めず――それよりも、目の前のケーキに心を奪われている為、エルナは話半分に流していた
 が、アエリルはニコニコという感じの言葉を止めずに言葉を続けた。

「なんとエルナちゃん。76倍の競争率の中、三日間シアちゃんと一緒の部屋になる事となりました♪」
「ふーん・・・・え?」

 相部屋といえば、三日間の間、ほぼ二十四時間一緒に居る事となる。
 その為、気に入った友達との相部屋を強く望み、より深い友好関係を築き上げたいと考えるのだが、

(確かに、優等生と一緒の部屋っていうのは人気が出るわよね)

 と、エルナは思う。その一方で、

「そんなに人気株なら、わたしなんかよりもっと一緒に居たい子にすれば良いのに」

 と、呆れたように言った。
 正直、エルナは相部屋の事は深く考えていなかった。
 リックテール組にも、誰かと仲良くなるのが得意じゃない子くらい居るだろう。
 そうした余り者同士で相部屋になって、適当に三日過ごせば良いと思っていた。
 しかし、アエリルはゆっくりと首を振って、エルナの言葉を否定する。

「でも、シアちゃんどの子の誘いも断って、“あなたが良い”って言ってるの。76倍率。つまり、76人もの誘いを断って、ね?」
「・・・わかったわよ」

 アエリルの言葉に、仕方ないという感じでエルナは頷き、話を打ち切って、再びケーキへと意識を向けた。
 アエリルも特に追加で物を言う事もなかったのでエルナは気にしなかった・・・が、

(76人・・・男女込みでも、リエステール側の8割は“アレ”との同室を望んだワケだ)

 と、冷静に思って呆れ返った。






■定例友会二日目

 エルナは、リックテール教会の中を歩いていた。
 ただし、歩いていたと言っても散歩みたいなのんびりしたものではない。
 定例友会の二日目は、合同での授業。
 少し練度の高い授業を相部屋の友人と協力しながらクリアしていく。というモノだったような気もするが。まあそんな事は関係ないので忘れた。
 とにかく、その授業をエルナはボイコットしてる為に―――正確には、朝のお祈りの時からボイコットしてるのだが―――、他の教師に見つかるような真似は出来ない。
 立ち話をしている教師の様子を覗い、隙をついて反対の通路に行く。

 “アレ”が授業で一人になる事も考えたが、どうせすんなりとどこかのグループに入って三人でやるだろうし、そう気にする事も無いだろう。

――――

 あの後、アエリルの部屋を後にしてから眠るまでの間、食事に入浴とあったのだが
 まあ、あんな問題を起こしたという事で、その後はもはや、もともと浮いていたリエステールのクラスメイトからも当然として
 リックテールのクラスメイトからも声をかけられる事はなかった。
 ・・・ただし、相変わらずの例外。“アレ”を除いては、である。

『エルナさん。一緒にご飯食べましょう』
『エルナさん。お風呂一緒に行きましょう?』
『エルナさん。リックテールに居る三日間相部屋になりますけど、よろしくお願いしますね♪』

 いつの間に名前を知ったのか・・まあ、エルナもアエリルから“アレ”の名前くらいは聞いているし、
 大方、リエステールの引率教師から聞いたのかもしれないが、
 本当に、ウザいくらいに付きまとわれている感じであった。

――――

(・・・わたしの何が良いんだか)

 ともあれ、迷惑な話であった。
 大聖堂に出て、少しゆっくりとする。
 昨日は定例友会初日ということで閉め切っていたが、今では一般信者がご苦労な事に礼拝をしに来ている。
 礼服をしっかりと来て礼拝に来る人の子供は、大抵入学前でもセントロザリオやアリスキュアの衣装を着たりするため、
 アリスキュアの格好でも別段目立つことは無い。これはリエステールで身に着けたサボりの知恵であった。
 そのまま礼拝堂から庭に出て、教会練の壁を伝うように回る。
 そこで、エルナは一つ発見をして足を止めた。

「あ、、」

 そう。花壇とそこに生えた白い花。

「綺麗・・」

 屈みこんで、その葉をすっと指で撫でる。
 花の名前なんか判らなかったし、センスが無いと言われればそれまでだが、
 ただ、漠然とキレイという言葉が出た。

「お前は良いね。こんなにも家族が居るんだから」

 その白い花は、まるで家族のように並び
 朝方にでも誰かが水やりをしたのだろう。露が光を反射し、
 風を受けて元気に揺らめいて居た。

「大きいのがおとうさん。その隣のがおかあさん。お前がわたしで、ちっちゃいのがフィナ」

 そんな白い花のそれぞれを指でさし、エルナは独り言を漏らす。
 その独り言に、エルナは少し黙って、
 そして、堪えきれずに言葉を吐き出した。

「でも・・・わたしには、おとうさんもおかあさんも居ない・・・」

 ぽろりと、涙がこぼれた。
 一つ。二つ。

「フィナも・・いなくなっちゃった・・・!」

 流れる涙を手の甲で拭い
 それでも、溢れて止まらない。
 ペンダントから、絶えず優しさが伝わるが、
 エルナには、それを受け止める余裕も無かった。
 ただ、手の甲で涙を抑える。
 ―――その後ろ。

「エルナさん・・」
「!!!??」

 声をかけられ、驚いてバッと振り返れば、
 そこには、やはり“アレ”が居た。

「っ・・・!」
「えへへ・・・初めて、授業サボっちゃいました」

 不覚だった。
 見られて厄介な奴に、見られてしまった。
 しかし、特に何を言うでもなく
 そっと隣に座って、話し始めた。

「このお花。私が育てたんですよ」
「・・・」

 彼女は、さっきエルナがしたのと同じように
 葉っぱを指でそっと撫でる。

「エルナさん。私・・」

 しばらくそうしていると
 ふと顔を上げてエルナの名前を呼び、
 その直後―――

「こら!! あなたたち!! 今授業の時間でしょ!! 何やってるの!!」
「うあ、」

 エルナは、その声を聞いて、あちゃーと頭を抱えた。
 一人のカーディアルトがこちらに向かってくるのが判る。
 それに気づいたエルナは立ち上がって、ざっと道を探った。

「え?」

 一方、“アレ”は声のした方を振り向こうとしたが、
 エルナは無理やりそれを制し、

「ばか! 顔見られたら特定されるでしょ!!」
「え? ええ?」
「どいつもこいつも制服一緒なんだから、顔さえ見られなきゃバレないのよ!! さっさと逃げるわよっ!!」

 脱兎のごとく、エルナは手を引いて連れて駆け出し、
 その後ろから

「あ、こら!! 待ちなさい!!」

 と、荒げる声も、遠くなっていく
 どこをどう駆けたか判らない。
 ひょっとしたら、何人かの教師に見られたかも知れないが、
 とにかく、エルナ達は部屋の前にたどり着いた。

「はぁ・・はぁ・・もぅ、わたしがエンカウントを許すなんて・・・」
「ふぅ・・ふふ、私、こんなに走ったの久しぶりです」
「はぁ・・そりゃ・・優等生は・・廊下走る事も、それで怒られるなんて事も・・ないでしょ・・」

 息を付いて、「見つからないうちに」と、エルナは彼女と一緒に部屋へ入る。
 皆が授業している中、サボって部屋で「ふーっ」と一息を着く二人。
 しばらく息を整えると、彼女はエルナにちょっと文句を言うように口を尖らせて

「もう。エルナさんが授業に来なかったから、一人で寂しかったんですよ?」
「あ、そう」

 さも興味の無い感じでエルナは言葉を返した
 しかし、彼女はそれにクスクスと笑って、楽しそうな声で返す。

「だけど、良いんです。おサボりしちゃいましたけど、エルナさんと一緒に走ったの。楽しかったですから」
「・・・・どうでも良いんだけどさ」

 笑う彼女に対し、エルナはどこまでも冷たく反応を返す、
 しかし、一番聞きたかったことを口にした。

「なんでわたしなんかに付きまとうわけ?」
「え?」

 彼女は、エルナの言葉をよく判ってない感じに首をかしげる。
 その態度にエルナは呆れ、「なんでわざわざこんな事」と文句を言いながら話をした。

「出会いから最悪で、喋ってても面白くもなんともないでしょ。よっぽど他の子と一緒に居る方がアンタの為になるんじゃないの?」
「ふふ。そうエルナさんが思っていても、私の想いは全く違うんですよ」
「ふぅん」

 再び、興味の無い言葉。
 しかし、彼女は秘密ごとを打ち明かすように、人差し指を立てて自らの口元に持って行き
 微笑んで、その言葉を口にした。

「エルナさん。ずっと悲しそうな顔をしていました。きっと、強がっていても心の中は悲しみでいっぱいなのかなって」
「っ・・」

 図星。
 でも、その言葉を認めたくなくて、エルナは切り付けるような言葉で彼女に返す。

「じゃあ何。そんな可哀相なわたしに情けを掛けてるわけ?」

 嫌味をたっぷり含んだ口調で。
 でも、その言葉に彼女はゆっくりと首を横に振って、
 自信に満ちた満面の笑顔で答えるのだった。

「きっと、エルナさんが笑ったら、すごく可愛いだろうな。って、そう思って♪」
「え・・・」
「私、エルナさんの笑った顔が、見たいんです」

 内緒話を終えたように、
 彼女はそっとエルナに笑顔を見せた。

 だけど、それはやはり――――

『おねーちゃん!』

「ぁ・・・やっ!!」
「エルナさん?」

 今度は突き飛ばす事は無かった。けれども、エルナは彼女とは逆方を向いて、胸を押さえる。
 恐怖が、支配する。

「エルナさん? だい、じょうぶですか・・?」

 そんなエルナに、彼女は恐る恐るという感じで心配をした。
 昨日のあの出来事も来てるのだろうか。深入り出来ずに居た。

「ダメ・・これ以上・・わたしを、苦しませないで・・・っ!」
「エルナさん・・」

 エルナの少し涙に震えた声。
 それを安心させるように、彼女はそっと頭を撫でた。

「あ・・」
「大丈夫、一人じゃありませんよ」

 落ち着かせる笑顔。それは、フィナと同じ顔。
 深い苦しみと悲しさを与えるが・・・それでも、安らぎを得られる。
 エルナは、涙を拭って一つ頷いて、

「―――シ、」

 言葉を続けようとした刹那。
 ノックと共に、続けてドアを開ける音。
 そして、

「よーやく見つけたぁ・・・シアちゃんまでおサボりとはどう言う了見だって、全く・・・」
「あ、先生」

 頭を抱えるエルナと、状況が良く読めてない彼女は、のほほんとカーディアルト・・シスターアエリルに声を掛けていた。

「もう、まあでもシアちゃん、先生のお願い通り、エルナちゃんと仲良くなってくれたみたいだし、二人とも不問にします」
「――――え」
「も、もう! 先生盗み聞きしてたんですか!!」

 アエリルの言葉に、怒った様子は無いが、文句を言う感じに彼女・・・“アレ”は、そう言った。
 しかし、エルナはそんな事どうでも良かった。
 重要なのは、アエリルの、目の前に居るカーディアルトの言葉だった。

(お願い通り、わたしと仲良く?)

 その言葉が、エルナの心を塗りつぶしていく。

「―――ああ、なるほど。そういう事だったんだ・・」
「え・・? エルナさん?」

 そうだ。そうだったんだ。
 エルナは、思った事を思うままに留められず、
 その思いを自嘲気味に笑いながら、口にしていた。

「そうだよね。わたしみたいな跳ねっ返り、誰も相手にしてくれない。定例友会でも何一つ為になる事が無い。
 だから頼まれたんだね・・・優等生なら、嫌な顔一つしないで、嫌な相手とも仲良くしなきゃならない。先生に頼まれてるんだから
 そりゃあ、断れないよね。自分の評価上げたいんだもん。優等生だから」
「!! え、エルナさん、違・・」

 その言葉にハッとした“アレ”は、エルナに必死な顔で手を伸ばしてくる。
 だが、エルナはそれを払い、俯いて歯噛みした。
 声が震えている。悲しみに泣いている。

「・・・・ばかみたい」
「違う! 誤解ですエルナさん!!」

 “アレ”の叫ぶ声も無視して、
 ぽつり呟いて、エルナはゆっくりと立ち上がり、
 そのおぼつかない足取りで、部屋を後にした。
 ・・・追いかけて来る気配は無い。仮に追いかけてきたとしても、わたしはきっと殴りかかっていた。



 二日目も、夜がある。
 授業が終わった後、お祈りをして、
 そして食事。
 わたしは、机の端で一人で食べた。

「エルナさん・・・・あっ」

 “アレ”が声を掛けてきたけれども、わたしは振り返らなかった。
 間違いなく気付いたのに、無視をした。
 “アレ”は、わたしと違って人気があった。

「もう良いじゃん。シア頑張ったよ、あんなの良いから一緒に食べようよ」
「そうそう。昨日もあんなのと二人きりで食べてて、みんなと一緒に食べれなかったじゃん。みんなと一緒の方が楽しい、でしょ?」
「あ・・・」

 ・・・“アレ”の友人だろう。ワザと聞こえるように言ってくる。
 これで良い。これで良いんだ。

(っ・・・ぁ・・!!)

 でも、
 フィナの感情が・・・・怒っているのが、伝わった。
 同時に、深く悲しんでいるのも。
 妹が何を伝えたいのか判らない。
 ただ、それが悲しくて、スープの味も思い出せなかった。




 夜眠る時、わたしは点呼の時間も気にせず屋上に居た。
 本来、屋上に出る為にはその鍵が必要であり、その為に教師以上の教会関係者に許可を取らなければならない。
 だけども、おばあ様は全ての鍵に一致するように作られたマスターキーを持っていた。
 それをちょこっと拝借し、カネモリに複製してもらったのだ。

――――

 あの時のカネモリは良い顔をしなかった。頑固に「それだけは出来ません」と断ってきた。
 だけど、色々―――と、いうよりも無茶苦茶な我侭を言い続けたんだが―――説得して、作らせた。
 その鍵の複製をしている時のカネモリは、怖いくらいに怒ったような顔と、悲しさを持っていた。
 そして、複製した鍵を手渡す時、カネモリは言った。

『複製の型は跡形もなく壊します。私もこの依頼を受けた事を忘れます
 ただし、幾つか約束をしてください。
 この鍵をフィナさんの形見のペンダントの横につなげておく事。
 ・・・この鍵は、エルナさんが思っている以上に危険な物です。フィナさんのペンダントと一緒なら落とす事はまず無いでしょう。
 そして、エルナさんがこの鍵を使う目的は、エルナさん自身で言っていたように“教会の先生方も気付かないようなトコでどうしても一人になりたい時”。それだけです。
 それ以外の目的で使用した場合、溶けて無くなるよう水魔術の仕掛けを施しました。
 最後に、もうこの鍵が必要無くなった時、フローナでもルナータでも構いません。海へ投げ捨ててください
 これも水魔術の仕掛けで、海水に触れれば溶けるようになってます。判りましたね?』


――――


 と。本当は失くした場合も溶ける仕掛けを施したのだが、それはエルナの知る所では無い。
 現に、エルナはカネモリとの約束を守って、一人になりたい時に一人になれる場所の為にしか使っていない。
 その為、教師達も“この場所には行けない”という考えから、九割九分鍵が必要な所は捜索から外している。
 きっと今頃、“アレ”と一緒に策謀していたシスターアエリルが、寝ずに走り回っているんだろう。いい気味だ。
 夜風が、エルナの長い髪を遊ばせる。
 強い孤独を感じる。
 ・・・まあ、一人で居るのだから当たり前なのだが、そういった類じゃなく、
 一人で居る事が、前よりも強く感じるのだ。

「―――月奏で やさしい 風の詩」

 そんな時、そっと歌を歌う。
 エルナは、歌なんかあまり好きじゃない。
 歌うこと自体は好き。でも、キレイな歌詞を歌っている自分の姿を思うと、どうにも性に合わない。
 だけど、エルナが歌を歌うと、フィナは喜んでくれた。

『もう、おねえちゃんがフロリアじゃなかったら、吟遊詩人になってたと思うのに』

 って、フィナは言っていたっけ。と、エルナは思い返す。
 それも、想い出。

「あなたへの この想いを 届けてくれますよう―――」

 歌を締めくくり、エルナはほろりと涙を零した。
 最近、泣いてばかりだと、思わず思ってしまう。

(・・・何、やってんだろ)

 しばらくボーっと月夜を眺めていたら、エルナはそう思った。
 フィナが居た頃は、一人で居たいなどと思っただろうか。
 答えは否。フィナと一緒に居る時間がなにより大切だった。
 ――――でも、怖い。
 フィナの前では気丈に居たけれども、本当の自分はどこまでも臆病で
 今もこうして、“一人で居たいから”屋上に居る。
 一人で居たいから? 本当に、そうだろうか。
 そう思っていると、そんなエルナの背後から、人の動く気配がする

「―――!!」

 けれども、気付いた後には人の気配は無くなっていた。
 ひょっとしたら、夜回りの教師が気付かずに去っていっただけかも知れない。

(どちらにせよ、そろそろ潮時かな)

 エルナはそう思うと、戻るために屋上を後にする・・・が、
 その前に、もう一度空の方へ振り返り、
 柔らかな月を見上げた。




「月・・ね」

 時同じくリエステール。
 老婆はそろそろ眠ろうかと顔を上げ、窓の外を見れば空には月が昇っていた。
 ――――エルナが太陽だったとすれば、フィナは月だ。
 この姉妹の事を知る人物が聞けば、この例えに大きく同意するだろう。

(でも、そうじゃないんだ)

 しかし、老婆はむしろ逆だと思っていた。
 月がその光を湛えるのは、太陽の光を受けてこその物。
 エルナという“月”は、フィナという“太陽”から光を受けることで生きて行けた。
 ―――あのコには、太陽が必要だ。言うなれば、あの子を包み込んでくれるような、そんな存在。
 それが、フィナが死んだ後。常々老婆の思っていた事だった。

「上手く行ってくれると良いんだけど」

 そう呟くも、結局何も出来ない自分を悔やみながら、
 ゆっくりと首を横に振り、月に十字を切って祈りを捧げた。

「アルティア様。フィナ・・・どうかあの子をお導き下さい」