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「―――解りました。ではこちらでも調査してみますわ」

リエステールのとある一室、そこで2人の男女がテーブル越しに向かい合って話していた。

部屋は防音性になっており、部屋から外部へ一切の音が漏れない様になっていて、さらに話し始める前に慎重に人払いをしていることから、機密事項かはたまた内密な話か、まあそういった類の話なのだろう。

「ああ、よろしく。・・・ところであの事だが・・・」

男の方が再度確認をしてくると、女の方は分かっている。という様に頷いた。

「ええ、教会や自警団の方には黙っておきます」

「悪いな、色々無茶言って」

その言葉に、女は首を横に振った。

「いいえ。あなたの頼みでしたら、これ位大したことはありませんわ」

その言葉を聞いて男は悪戯っぽく二ヤリと笑った。

「いやぁ借りは作っておくもんだなー。それじゃ、まぁよろしく」

そう言うと男は、話は済んだと言わんばかりに席を立ち上がり、「それじゃ」と片手を上げて部屋を出て行った。

 

***

 

部屋を出たライトは、しばらく廊下を進んだところで脱力しきった様に肩を落とし、まるで溜め込んでいる不満を全て吐き出そうとしているように深く溜息を吐いた。

 

「はぁー・・・。まったく何でオレがこんな事しなきゃならないんだよ・・・」

そして、溜息だけでは不満が出しきれないのか、そう愚痴をこぼした。

ただでさえ連れの今後について頭を抱えているというのに、今度は得体の知れない連中に意味も分からず狙われたのだ。次から次へと苦労ごとが増えるのは、正直精神的にあまりよろしくない。

そして今もっともライトの頭を悩ませているその最たるものは、

「金・・・もう無いなぁ・・・」

その生活資金不足である。

 

何やら面倒事に巻き込まれ―――まあそれだけならば連れの所為で日常茶飯事なので許容できる範囲なのだが、まさかあれだけあった金が僅か2日で無くなろうとしているのは(しかもその消費の大部分が連れ2人の食費)、正直どうなのだろうか。

しばらく面倒を見ることになった少女が随分と豪快な食欲の持ち主だったのは流石に予想外だったが、1人でなら1、2ヶ月(本気を出せば3ヶ月)は生活できる自身があるほどの資金だったので、この消費の凄さには頭を抱えざるを得ないだろう。

「今更後悔してもしかたがないんだがなぁ・・・」

それにしても、1人増えただけでああも出費が増えるものなのだろうか?と、ライトはどうも納得いかない様子で首を傾げた。

 

「まあ・・・そういうことにしておこう」

そう独り呟きながら早朝の街道を歩くその背中は、どこか哀愁を帯びていたりしていた。

 

閑話休題。

 

そんな感じでしばらくトボトボと道を歩いている途中、ふと顔を上げると、近くの家―――正確にはその屋根、が目に留った。

(そういえば、ここの所屋根の上で寝てなかったな・・・)

何かと面倒を引っ下げてくる連れのいない屋根の上での昼寝は、ライトの数少ない楽しみであったのだが、この頃のゴタゴタ続きですっかり忘れていたのだ。そして、思い出せばやりたくなってくるのがライトという人間だ。

「・・・ま、最近あいつらに引っ張り回されっぱなしだったからな。偶にはいいか」

本人(主にアホ毛の方)が聞いたら必死で抗議してきそうなことを言うや否や、ライトは手ごろな家の壁に手をつけ、屋根の上によじ登り始めた。そこは流石と言うべきか、手慣れた様子で2分と経たずに屋根の上へ上がり、早速と言わんばかりに体を横にした。

早朝の澄んだ空気が頬を撫で、まだ昇り始めたばかりのやわらかい日の光が、全身をやさしく照らしだす。思わずライトはほぅ、と息を吐いた。

 

「あー・・・。昼寝もいいが早朝も悪くないなー」

人はそれを2度寝と言うが、まあ今は割とどーでもいい事かもしれない。

ライトはそのままゆっくりと目を閉じて、屋根に体を預けた。

 

それからどれくらい経ったか分からないが、唐突にぱちりと目を覚ました。まあそれほど時間は経っていないだろう。ライトはしばらく夢見心地に空を眺めていたが、しかし、しばらくしてふと現実に戻ってみると、その頭の中では今後の事をどうするか考え始めていた。

―――無論、金のことだ。

流石に依頼の無い中で生活費を稼ぐなんていう虫の良い話は持ち合わせてはいない。一応は金の稼ぎ方にはいくつか心辺りがあるにはあるが―――正当法ではなかったり効率が悪かったりと、余り気の進まないものしかない。

だからと言ってリインを置いていく訳にもいかないので、まさにお手上げの状態だ。

「・・・どうしたもんか」

そう呟いてまた溜息1つ。

溜息を吐くと幸せが逃げるという話が本当なら、既にライトの幸福残量はもうスッカラカンだろう。いや、そもそも幸せならこんなに疲れた表情で溜息など吐かないのだろうが。

 

「・・・はぁ」

そして溜息。そういえば何時から溜息が多くなったかなぁ、と割とどーでもいいことを一瞬考えたが、その程度の現実逃避では、文無しという妙に説得力のある現実から逃げられる筈もなく、瞬く間に現実一色に思考が染められてしまった。

こみ上げてくる頭痛に思わず顔が引きつる。それ程追い詰められているということだろうが、恐らく連れの2人はそんな苦労を分かってくれないだろうなと、また溜息を吐いた。

 

「やっほー。久しぶりー」

―――と、そんな風に解決策の浮かばない思考にどっぷりと浸かっていたところ、急に辺りに影ができたと思ったら、そんな空気を読まない吞気な声が頭上から聞こえてきた。

解りすぎるほどに聞き覚えのある、この声は―――。

「・・・よぉ、ソールか」

明らかに気だるそうに相手を呼ぶその態度は、正直相手に失礼以外の何物でもない気がするが、声をかけられた者はそれを特に気にした様子も無くライトの隣に座った。

「相変わらずだねーライト」

そう言ったのは燃えるような赤い髪の少女だった。それも普通の一般に人間と呼ばれる人種ではなく、本来耳があるはずの場所には、代わりに獣のそれが生えており、世間一般には亜人と呼ばれる種族の少女だった。

しかしその外見は仮の姿で、本来の姿は小さな妖精―――それも普通の妖精なんぞとは比べ物にならない程の強大な力をもった、陽光を司る古代妖精―――だったりするのだが、それは世間では殆ど、というより1部の関係者以外には知られていなかったりする。というか本来の姿は無論、人の形態を取っている時ですら目撃されることは少ないらしい。一体いつも何処をほっつき歩いてんだか。

「そんなに暗い顔をしてると運が逃げちゃうよ?」

「・・・うるせー」

まるでひだまりのような笑顔のソールに対し、ライトはまるで曇り時のジメッとした空気のようにふて腐れていた。傍から見たら背景の明暗すら両者で異なっているように錯覚してしまうだろう。

「人数が増えて生活費が増して・・・おまけに2人共大食ときたもんだ。お陰様で文無しどころか破産しそうだ・・・」

ズーンという擬音がピッタリと合いそうな表情でふて寝をするライトを見て、ソールは「んー」と僅かに考える素振りを見せた後に口を開いた。

「あれー?じゃあ依頼を受ければいーんじゃないかな?」

「それができたら苦労しねぇよ・・・。南じゃどっかのギルドの所為で何処に言っても依頼が無い状態って位、ソールも知ってるだろ?」

曲がりなりにも彼女も上位ランクの支援士だ。南最大の街であるリエステールの住民でも知っていることを、彼女が知らない訳がない。

「え?さっき見た時はあったよ?」

 

・・・・・・・・・・・・・・はい?

 

「スマンちょっとまて、悪い今聞き逃したんだが・・・なんて言った?」

「だからー、さっき見た時はあったよ?」

 

それから、時計の秒針がぐるりと一周するまでの間、2人の間に妙な沈黙が流れた。

 

そして、ようやく脳にその言葉の意味が伝わったのか、

「―――それを早く言ってくれよ、親友!」

そう叫ぶと、ライトは突然ガバリと起き上がった。

先程の姿から一変、その全身からは生気がみなぎり、その顔には希望が宿っていた。

現金な奴である。

 

「悪いな、ソール!ちょっと急ぎの用事ができたんで、そんじゃまた!」

「うん。またねー」

話している時間ももったいない。と言わんばかりにビシッと片手を上げて別れを告げると、ライトはきちんと降りればいいものを、余程慌てていたのか、いきなり屋根の上から跳躍。しかも落下中に態勢を崩し、そのまま数M下の地面に頭から激突。ゴズッだかメシャッだか―――まぁそんか感じの何だか危ない音が周囲に響き渡ったりもしたが、そんな事は意に介さずにゾンビの如く起き上がると、まるで何かに操られるように物凄い速さで走りだした。

 

そんなかなり切羽詰まった様子でライトが走り去った後、ソールがおもむろに下を見ると、ライトが着地(激突)した道の部分がすり鉢状にへこみ、その中に僅かだが血だまりができていた。

「今日も元気だねー」

そして出てきたのはそんな言葉。特に驚いた様子もないので、こんな事が割とよくあるのかもしれない。

 

 

まあそう言う訳で。

「マスタァアアアアア!!」

ドーンだかバーンだか、まあそういった感じの騒々しい音と共に酒場のドアを開け放ち、ライトは大声で叫んだ。

その大声に夜通し酒を飲んでうつらうつらしていた連中も、一体何事だと視線をこちらに向けるが、ライトはまるで見えていないかの様にそれらの視線をことごとく無視しながら、カウンターにずかずかと歩みよった。

歩みよるその体からは、殺気とは少し違うがそれによく似た凄みのあるものが放たれており、新米の支援士が見たら恐らく腰を抜かしてしまうだろうと思われる程の迫力があった。

 

まあぶっちゃけるとそれだけ切羽詰まっているわけだが。

 

「おおっ!?そんなに慌ててどうしたんでぇ?」

しかしそこは流石年中酔っ払いの喧嘩が後を絶たない酒場の主人だけあり、多少は驚いたようだが他の連中に比べて平然とした様子で酒場のマスターは受け答えをした。

 

「マスター!!依頼が残ってるって本当か!?」

「ん?ああ、昨晩に入った依頼がまだ残っているが・・・」

「よっしゃー!!」

そう叫ぶやライトはカウンターの中に置いてあった依頼帳簿のファイルを何の躊躇いもなく引っ張りだし、カウンターの上に置いて開いた。

ファイルの中には、遂行中の依頼が殆どだったが、しばらく根気よくページをめくっていると、不意にライトの手がピタリと止まり、そして1枚の紙を取り出した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

依頼:オース海岩礁洞窟調査。及び指定魔物の討伐

報酬:7万フィズ

ランク:A

ダンジョン調査協会南大陸支部より調査、及び討伐依頼。

オース海岩礁洞窟の浅い場所にゼルド・バオアクードが出没したとの情報があった。

放っておけば洞窟に訪れた者に被害が及ぶ危険性がある。

事実を確かめ、可能なら討伐してほしい。

尚、こちらからも調査隊を派遣するので、指定された場所で合流してほしい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

依頼の紙を持つ手が、自然と歓喜に震えた。

「なあマスター。この依頼、3人で受けられるか?」

「ん?ああ、募集が3人だったから大丈夫だぞ」

都合の良い数字に心の奥底で少し奇妙な違和感を覚えてしまったが、特に根拠も無かったので、たぶん気の所為だろうと思い直し、この偶然に、この時だけは幸運の女神とやらに感謝したかった。そして、これを見逃す手は無い。

「マスター。この依頼、オレとティラとリインの3人で受けるぜ」

「おう。分かった。調査隊との合流場所は城門前広場だ。昼には出発するらしいから、早めに合流しておけよ」

「了解」

満足げにそう答え、踵を返して酒場の外に出ようと歩きだした時、ガチャリと酒場の扉が開かれ、3人の支援士が入ってきた。それだけならば大した関心も持たなかったが、この3人、妙に目立つ。

 

最初に入ってきた支援士を見た時に、真っ先に目につくのは、その背に背負っている人1人を容易に叩き潰せそうな巨大なハンマーだろう。何の鉱物で作られたのか分らない不思議な光沢と装飾が施されたそれは、見ているだけで叩き潰されそうな威圧感を感じさせる。武器から恐らくジョブはベルセルク。そしてそれを背負う支援士は―――なんと年齢13~14と思われる小柄な少女なのだ。その細い腕で巨大なハンマーを扱えるのかという疑問は置いておいても、自分の身長よりも大きいハンマーを背負うその姿は、奇妙にアンバランスな感じだった。

次に入ってきたのは、年齢16~17の少女だった。流石に先程の少女ほどのインパクトは受けなかったが、それでもその装備や格好は変わっていた。武器はパルチザンだが、その刃の部分が不思議な色合いをしていた。何色と言われれば黄金色に近いが、黄金色と言われれば控え目すぎるし、黄色と言われれば、その刃は余りにも光沢を帯び過ぎている。要は表現しづらい変わった刃を持つパルチザンだった。武器からジョブは恐らくレンジャーナイトだろう。さらに何の意味があるのか分らないが、片方の袖は指の先が辛うじで見えるくらいの長袖なのに、逆の袖は二の腕がはっきり見える半袖で、さらに腕に不釣り合いなほど大きいガントレットを装備していた。両腕に装備すればいいのに、なぜ片腕だけなのか良く分からない。金が足りなかったのだろうか?

そして最後に入ってきた支援士も、やはり16~17歳ぐらいの少女だった。頭をすっぽりと覆うキノコ帽子に、ライトの物に似ているが、黒色の変わった模様が刺繡された紫色のコートで、ガントレット等の防具は見た所つけていなかった。明らかに接近戦には向いていないその格好から、ジョブはマージナルあたりが妥当だろう。しかし、何よりも注目するのは、その武器だ。

武器の種類は、多少形状が変わっているが、パルチザンだ。なんでマージナルが槍なんぞ持ってんだという疑問も湧くが、無論、それはただのパルチザンではなかった。刃から柄頭に至る全ての部分に、コートの刺繡とよく似た、奇妙な模様の様なものが彫り刻まれ、ベルセルクの少女のハンマーのような直接的な威圧感こそないが、それは見ているだけで背筋に冷や汗が流れそうな『なにか』を秘めていた。

それが何かは分からない。だが、これは“完成”されていた。無論根拠も、理由もなく、何でこんなことを思うのかも分からないが、それでもこれは“完成”された物だった。

 

だが少女達はそんな周囲の(殆ど酔っ払いの)目など気にも留めないで、さも当たり前といった様子でまっすぐにカウンターにやってきて、酒場のマスターに話しかけた。

人が少ないためか、酒場の中は少女達の放つ独特の雰囲気で満たされていた。

だがそれは決して重いものでは無い。寧ろ明るいものだ。

 

「マスター。リエステール西街道の魔物の一掃完了したっスよ」

少々変わった言葉遣いをするキノコ帽子を被った少女が、肩下げバックの中から証明書と思しき紙を取り出してカウンターの上に置いた。

酒場のマスターはそれを手に取り、ざっと目を通すと頷き、

「おう、ご苦労さん。ほら、報酬だ」

カウンターの奥から取ってきた報酬金の入った皮袋を3人の前に置いた。

 

「おっしゃー!じゃあ次行くぞー!!」

報酬金を受け取るや否や、ハンマー使いの少女が右手を上に突きだしてそう意気込むと、それに同意するように残りの2人も「「おーっ!!」」と片手を上に突きだした。

「じゃあ、まずは残ってる依頼を探さないとね」

「それに関しては大丈夫っス。昨日目をつけた奴があるっスから」

「おお!流っ石はスズだな!」

ワイワイとそんな会話をしながら、スズと呼ばれた少女はおもむろにライトがそのまま放置してカウンターの上に置かれっぱなしだった依頼帳簿のファイルを手に取った。

「昨晩に入ってた奴っスから、多分まだ残って―――」

そう言いながら依頼帳簿を開いた少女はピタリとページをめくる手を止め、目を丸くして思いっきり驚いた。

 

「あれっ!?依頼が無くなってるっスよ!?」

「何!?どこのどいつだ横取りした野郎はー!!」

「ちょっとパル、暴れないでよ!?この前ここの床を破壊した所為で集金代跳ね上がったんだから!」

 

その場でギャーギャーと騒ぎだす3人。

さっきまでのシリアスな解説が台無しだ。

そしてライトはそんな騒がしい支援士達の声を背中で聞きつつ、

取りあえず巻き込まれない様に無視を決め込んで早々に立ち去ることにした。何かよく知った奴がいた気がするが、きっと気のせいだろう。

 

その後のんびりと連れのいる場所に戻ろうと道を歩いていると、妙に周りが明るくなっていたのに気がついて驚いた。朝の明るさではない。太陽の位置から見て、おそらくもう昼前なのだろう。

一応、教会の時計塔の時間を確認したところ、やはり予想通り時計の針は昼を示していた。

まだ街が寝静まっている早朝に本来の目的を終わらせたにも関わらず、屋根の上での2度寝でうっかり時間を潰してしまったらしい。すでに日は完全に昇り、早朝あれだけ静かだった街には、いつものような活気が戻っていた。

 

そんなわけで、嫌な予感をしつつも連れの所に戻ってみると、

「おなかへったー・・・」

「がおー・・・」

案の定、見事に朝食を抜かれた連れは、ぐったりとした様子でそう呟きながら、2人仲良く公園のベンチに突っ伏して周囲から好奇の視線を集めていた。

今日も食事の値が張りそうだな。と、溜息を通り越して一種の悟ったような表情(虚ろな目のオマケ付き)で空を仰ぎ見て、こう思う。

 

うん、今日もいい天気だ。