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緊急の患者じゃない限り、夜中扉を叩く者は罰金を科すべきだ。
いつも隈を作って起きてくる医者兼錬金術師はそう呟いてやまない。
そんなことを言う理由が、なんとなくわかった気がした。
罰金を科すよりも、縛り首にしてしまえばいいと個人的に思う。

ソファーの上であぐらを書き、ドンドンと鳴り響いている家の扉を彼女は睨みつけた。

(何時だと思ってるんだ……。)

そのまま無視を決め込んで眠ろうとするが扉の音は大きくなるばかり。
ドンドン、という音がバンバン、という切迫した音に変わっている。
更に訪問者は薄い戸板にすがるような声をあげ始めていた。

「…いだ、開けてくれ、頼むから。」

うっさい、死ね。

もういっそ、朗らかなほどの殺意をこめて彼女はテーブルの上から
硬く重く、投げるのに丁度いいものを手に取る。
のそりのそりと玄関へ歩いていき、非常識な輩にぶつけてやろうと考え扉を開けた。

「な、なぁっ?!」

驚きの声を上げる訪問者、理由も何も聞きたくない。
ていうか、聞いてやんねー。

「誰だか知らないが日を改めろ…
ハリケーンが来ようが、怒り狂った魔物の群れが3ブロック先まで迫っていようが…
私は今、猛烈に眠たいんだっ!!」

ガツンッ

「………お、まえ。」

当たり所が悪かったのか、そのまま後ろに倒れて石畳に頭をぶつける訪問者。
妙に血がどくどくと出ているが、まぁ多分大丈夫だろう。
死なないだろう、放っておいても。
さぁ、扉を閉めて眠ろうか。
そう思った瞬間、
どこかで聞いた声だと気がつき、
ぱちくりと瞬きを繰り返し、眠気で霞んでいた視界を晴らす。
現実を確認するのに3秒。更に自分がしてしまったことを理解するのに15秒

「あぁ、しまった。これはちょっとだけまずい。生きてる、か?」

返事がない、ただの屍のようだ。

「ちっ。」

どうしよ、またやっちゃったよ…。

―――翌朝

頭に包帯を巻いたジャックが、キッチンから運んできた食事。
頭を打ったから料理が下手になったのか、もとから下手なのか。

「……そんなに、あれか?食いたくないってか?」
『何だ、これは?』
「敢えて言えば、…暗黒物質、だね。」

フォークで突いていたサラバンドがボソリと答える。

「暗黒物質ってお前な…。」
「…じゃあ、消し炭で。」
「むしろよくねぇ、見た目はあれでも味は…
それよりもグランツはどうしたんだ?」
『腹が痛いと寝転げまわっている。む、降りてきたな。』

階段を一歩一歩降りてくるグランツ。

「なんだ、お前…ゾンビみたいな面して降りてくんな。」
「腹が、腹が痛いんだ…。」

よろよろと、床に座り込むグランツ。

「どんな腹痛にも効く、薬。」
「お、おい。サラバンド…。」

彼女が差し出したのは、暗黒物質もしくは消し炭。

(あんなもん食わせたら逆効果だろ!?)
(どうせ処理するんだからいいだろう…?)

「……うぇ、なんだこれ。」
「ほらみろ、見た目もあれで、味もあれだ。」
「なっ。」

見た目もあれで、味もあれな、暗黒物質をもくもくと食べるグランツ。
完食して数十分。

「………な、治った。」
「は?」
「ジャック、漢方はすごいぞ?」
「……ちょっと待て、グランツ。」
「?」

(お、おい…あれ食って治ったって聞いたか!?)
(プラシーボ効果?)
(ああ…あいつ単純だからな。)
(思い込ませておけ。)

「あ、あぁ。よかったなグランツ。」
「何こそこそサラバンドと話してた?」
「あ?漢方は正解だったなって話しだ。
い、依頼探しに酒場に行こう、ついでに朝食もくわねぇと。」

ちなみに、ジャックの作った見た目もあれで味もあれな暗黒物質は
ただの失敗した卵焼きで、何の薬理効果もない。
漢方なんていう異界の薬も実は入っていない。
恐るべきは味ではなく、心理的効果…というべきか。