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(ああクソ・・・なんで今、この場所にいるんだろうな)



『っ!! こいつ等!! ぜってぇにここのレベルの敵じゃ無ぇだろうが!!!』
 一人叫び、剣を振るう。
 先なんか見えない。
 でも、死んでしまえばそれで、その先は本当に無くなる。
『待ってろ!! 絶対に・・・絶対に護ってやるから!!!』



(くそったれ!!! それがオレの『戦う道を選んだ理由』だろうが!!!)




 息が重い。身体が・・・続かない。
 それでも、やらなければならない。


『護って、くれるんだよね・・?』
『ああ。絶対だ。絶対に護ってやる!! 生きて帰ってやる!!』
『・・・うん!! 貴方なら、絶対に護れるよね!!』


 オレは敵陣に走り、先陣を切り込む。


 ・・・が、そこで全てが真っ黒になった。



「じゃあ・・・・」

 ふと、さっき会話していた少女が、妙に暗い声で呟いた。

「・・ノ・」

 少女の名を呼ぼうとした。その時、
 前髪で見えなかった顔を上げ、少女の顔がハッキリと見えた。


 ・・・虚ろな瞳。まるで、硝子玉を埋め込んだような表情かお
 しかし、そこに感じるのは、激しい・・憎悪。


  ――――――――― ジ ャ ア 、 ナ ン デ マ モ ッ テ ク レ ナ カ ッ タ ノ ?


「あ・・・・・あぁ・・・・・・」


 少女が、にじり寄ってくる。
 その惨たらしい死に様を再現しての事か、一歩、また一歩オレの元に近づくごとに、
 足は折れ、腕は砕け、顔の半分は抉られ、頭から血を流し、魔物の汚液を浴び・・・・


 そして、オレの目の前に来た瞬間に、まるで巨大な鈍器で殴られたように、その頭が砕け散った。


「うあああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!」







  大陸南部中央都市リエステール


 ここに一つの島大陸がある。

 大きな分け目『グランドブレイカー』を中心に大陸が上下に分かれ、
 北部の端には雪原、北西には自然豊かな深き森が。
 南部の端には砂漠。南西に鉱山。南側に河川広がる風景など、平原の平和な町並みが広がる。

 その大陸では、此れといって大きな軍力を持つわけでもなく、人と人が手を結びながら生活する風習がある平和な大陸。
 その風習を作る要因として、昔から今も、人間側共通の敵である魔物が居る事が大きいのだが・・・とにかく魔物の脅威から逃れるために、人々は共闘し、現在に至っているという訳である。

 そして、十年ほど前に、一つの事件・・・というよりも、ニュースが起こった。
 人と人とが手を取り合う世の中。
 魔物の脅威から護る為の戦闘可能な便利屋みたいなもの『支援士ヘルパー』と呼ばれる仕事を生業としていた青年が、一つの短剣を持ち帰ったのだ。
 それは、風エンチャント付加・・・・つまり、風属性付加の剣だったのだ。
 人々自身には能力が宿るのは昔からだった。
 これは一般の者が少しでも魔物から抗う為の術として使っていたものだった。
 だが、個々人に覚える能力には限りがあり、そう何個も覚えられるものではない。
 しかし、これはそんなものを一切無視して、風の能力を持たぬ者にも、風の能力と同等の加護を持ち主に与えることが出来たのだ。
 武器にエンチャントを一時的に宿らせる能力はあれど、武器にずっとエンチャントが宿り続ける例は今までに無かった。
 それこそ、研究を行っていた者は居たのかも知れないが、今までに紹介されたことは一切無かった。

 この話は、それだけでは終わらない。
 青年は『スナイパー』という弓使いの職業であり、別に短剣を必要としてはいなかった。
 だから、この物珍しい武器を家宝にと、とある貴族が、『丸四年は飲んで遊んでを続けても暮らせるような金額で』青年からこの武器を購入したのだ。
 このニュースは、人々の間へと瞬く間に伝わり、人々は『一攫千金』の文字に目の色を変えた。

 大陸の人々は古代より魔物と相見えてきた。今でこそ街の中で魔物の脅威は無いが、古の時代には魔物が街を蹂躙したと言う記述もある。
 その時代の人々は、今よりも凄い技術を持って、魔物と相見えていたのかもしれない。
 ・・・世は、『冒険者』の時代となった。
 人々は各々、見つけたダンジョンを散策し、宝を見つけたり無価値の物を掘り当てたりで一喜一憂していた。
 それでも、一攫千金の可能性に心を奪われ、人々は今も冒険者を生業として生きる人も多い。
 ・・・そして、10年。青年がエンチャント付加の武器を持ち帰り、冒険者が流行り始めてから10年の月日が流れた。





  大陸南部中央都市リエステール 酒場



 扉を開け、常のように酒場へと入る。
 外と酒場では空気が違う・・・と言うのは、偏見だ。まあ、酒場の奥の方まではそう否定は出来無いのも現状だが。
 と言うのは、如何に10年前から冒険者が急激に増えだしたとは言え、支援士ヘルパーの数が減ったわけではないからだ。
 ・・・むしろ、支援士ヘルパーの数は増えている一方にある。
 何故ならば、冒険一つ行うのにも金が要るからである。
 だから、支援士の仕事でお金を稼ぐために、冒険者は支援士を兼任しているのが普通だと言えた。
 その為、酒場のカウンターに近い位置は外の明るい雰囲気と大した差は無い。
 酒場の客を規制してでもそうしなければ、支援士の仕事がサッパリ来ないからである。
 ・・・まあ、そんな御託はどうだって良いのだ。ようは、オレも同じであるという事だから。

「お・・? ヴァイ!? ヴァイじゃ無ぇか!! お前、今まで何処に行ってたんでぇ!!?」

 ・・・酒場のカウンターから、活きの良い声がする。
 オレを一目見て、そう叫んだのは酒場のマスターである。
 恰幅の良い筋肉質な身体をしており、昔は魔物退治のヘルパーとして『狂気の獅子』のベルセルクとか呼ばれていたと豪語していたが、オカミに弱いところとか見るとどうも嘘っぽい。
 とにかく、自分の事を良く見せたがると言うか・・・それでも、仕事はしっかりしていて気さくなおっちゃんという感じな。とにかく、豪快な人なのである。
 まあ、マスターはそんな人なのだ。

「何処に行ったもなにも、依頼を受取ったのは此処だろうが・・・」

 オレは呆れてマスターに突っ込みを返し、片目で確認して歩み行く。

「へへっ・・・オイ。『殺し』たヴァイさんだぜ」
「ああ。護ることが出来なかったら『逃げる』為に速さを鍛えてるってんだろ?」

 その途中。酒を飲んでいた奴等の下らない悪口もあったが、今では気にならない。
 どうせ、昼間から酒を飲むことしか能が無い奴等だ。

「マスター。報告だ」
「おう」

 マスターも始めオレが『あのことを』気にしていた時は、ああいう悪口にも激を飛ばし、場合によっては殴り飛ばしていた。
 だが、今ではオレが気にしてないことを知ってか、特に何かを言うことは無い。

「南部中央都市リエステールの守備兵長殿の書簡を北部中央都市リックテールの守備兵長殿に届け、書簡の伝達を確認。証明書も貰っている」
「そうか、ご苦労さん。ホレ、報酬だ」

 皮袋を渡され、その場で確認を行う。
 ・・・まあ、事前に用意してあるって所は仕事が速くて誤差も起きにくくなる。
 その点では、マスターは良い仕事をしていると言えるだろう。

「ま、一杯オレの奢りだ。飲んで行きな」

 コトンと置かれた一杯のグラス。アルコール濃度は高くない。
 ・・・まあ、オレが下戸だって判ってるしな。マスターは

「有難う・・・にしてもマスター。今は誰も居ないんだな」
「ああ、そうだな」

 誰も居ない。と言うのは酒場の中を指しての事ではない。
 酒場の一つのテーブル。そこには普通、緊急時の為に一人や二人、仕事を持ってない支援士ヘルパーが交代制で常駐しているものだった。

「まあ、というのもよ。教会の偉い人が『ミナル』の方で会合を開くんだとよ。さすがにリックテール向こうの教会の坊さん達は諦めたみてぇだが、リエステールこっちの方の坊さんは殆どミナルの方に行っちまったよ。護衛として常駐していた支援士全員引き連れてよ」
「・・・そんなに多かったのか?」
「多かったな。殆ど全員って言っても良かったんじゃ無ぇのか、あの人数なら。・・・まあ、興味が無ぇ坊さんも居るだろうから、そいつ等は聖堂の方に残ってるだろ」

 その言葉に、オレは思わず眉をひそめた。

「オイ。今更そんな客が来るなんてことは無いだろうな」

 それを聞いて、マスターが慌てて言葉を付け加える。

「ああ。まあでも、会合は今日だぜ? 今更、ミナルまで連れてけなんて言う僧侶は居ねぇだろ?」
「そ、そうか・・・冷静に考えればそうだな」

 あはは。とお互いに笑い、少し上げた腰を下ろし、酒を嚥下した。
 ・・・・だが、オレがその事を聞いたのは、ある意味、勘とか予感のレベルだったのかもしれない。
 その直後に、酒場のドアが勢いよく開いたのだ。
 ・・・・それはもう、全員がそっちを向くぐらいの勢いで。

「す、すみませっ・・ん!! どなたか、ヘルパーの方はいらっしゃらないですか!!」

 しかし、全員が注目したのに気づいて無いのか・・・まあ、珍しいことじゃないので他の客達は視線を既に元に戻していたが。
 とにかく、走り駆け込んできたのは、15歳くらいだろうか? 栗色の髪を肩まで下ろした一人の・・・・・・聖女の癒し手アリスキュア

「嬢ちゃん。慌てなくていいぜ。なんだい? 緊急の依頼かい?」

 激動な雰囲気を壊すようなマスターのふざけつつも落ち着いた物言いは、相手を直ぐに落ち着かせる喋り方でもある。
 この辺りはさすがだと常に思うが・・・まあ、オレは酒場のマスターになるか。といえば、ならないだろうから必要ないスキルだろう。
 落ち着きを取り戻しつつある少女が、マスターに向かって声を荒げる。

「へ、ヘルパーを紹介して下さい!! ミナルに・・今日会合があるなんて知らなくて・・・!! ミナルに連れてってください!!」
「へぇ・・護衛依頼ってワケだな。嬢ちゃん」
「は、はいっ!!」

 その少女の返事でマスターは頭を抱えた。
 どこをどう聞いても護衛依頼だ。依頼名は『ミナルまでの護衛依頼』と言った所だろうか。
 ・・・それを理解すると同時に、オレはこの場に居たたまれなくなる。
 ふと、そんなオレを見て少女が腕を掴んだ。

「あ・・ヘルパー、さん? マスターさん。この方、今、大丈夫なんですか?」
「あー、まぁ・・・フリーっちゃあフリー・・なんだけどよ」

 マスターの声がしどろもどろする。
 ・・・まあ、マスターは嘘はつけない性格だからな。
 だから、仕方が無くオレは「はぁ・・」と、オレは一つため息を吐いて、

「断る」
「・・・え?」

 少女に冷たく言い放った。完全な、否定の言葉を。
 それを聞いた少女は、信じられない顔をしている。

「嫌だと言ったんだ。どうしても行きたいなら他のヘルパーにあたれ」
「で、でも、フリーなんですよね・・・?」

 涙目で不安そうに少女がマスターの方を向く。
 しかし、マスターも首をゆっくりと左右に振り、少女に味方はしなかった。

「スマンね、嬢ちゃん・・・・ヘルパーにはヘルパーの事情で、紹介されている仕事を選ぶ権利が有るんでぇ・・・。
 生命の危機、緊急の援助、人物の捜索などなど。重要度の高い依頼で無い限り、儂からヘルパーへ強制することは出来ん・・・護衛なんかの重要度はDクラス。選ぶのは支援士ヘルパーの権利なんでぇ」

「そんな・・・」

 少女も、前の護衛でほとんどの同僚がミナルに出向いたのを気付いているんだろう。
 だから、空いているヘルパーなんて、今のところオレぐらいしか居ない。
 ・・・だけど、それでもオレはその依頼を請ける気が無い。

「悪いが、話は以上だ」

 そうオレは一方的に告げて、酒場を後にした・・・。


   ※


「けっ。例のご病気かよ。今でも聖女の癒し手アリスキュアはお嫌いだってか?」
「オイラがヘルパーならぜってぇに引き受けんのによぉ。腰抜けめ」

 酒場の一角で、男が二人。ヴァイの悪口を言う。

「・・・いつまでも昼間から酒をあおってるなら、オメェ等には一生を持ってしてもワカランだろう。アイツの『傷』ってヤツがよ」
「な、なんでぇマスター・・・たかが、ミナルだぜ? リエステール街道のモンスターなんざ、オレ達でも殺れるぜ!!」
「そうじゃない。アイツのは、そう言う問題じゃ無ぇんだ」
「・・・」

 その会話を尻目に、少女はヴァイを追いかけた。





  南部中央都市リエステール 大本通り


「待ってください!!」

 酒場から出て、大本通りを歩いていると、後ろからさっきの聖女の癒し手アリスキュアの少女がやってきた。

「・・・なんだ」

 不機嫌そうに。というより、不機嫌にオレは言葉を返す。
 しかし、それに臆せず、少女は言葉を続ける。
 ・・・その顔を、少なくともオレは直視できなかった。

「ミナルまで・・ミナルまで護衛してください!! チャンスなんです・・教会の偉い方に認めていただければ・・・!!」
「だから、なんなんだ」

 言葉途中でオレは区切り、少女に背を向ける。
 いい加減にして欲しい。なんで、こんなにも付きまとうのか。
 それでも、少女は背中にしがみ付いて叫んだ。
 ・・・そう、一番言っちゃいけない言葉を。

「何で!! ヴァイさん、ブレイブマスターですよね!!? ミナルまでなら・・・貴方なら、絶対に護れるのに!!」



『・・・うん!! 貴方なら、絶対に護れるよね!!』



「っ!!」
「いっ・・痛い痛い痛い!! 腕、腕が、強すぎです・・・痛ぅっ!!」

 オレは、少女の腕を乱暴に掴み、裏路地の方へと引き連れる。
 大通りだったから、多くの人々がこっちの方に目を向けていた。
 だが、そんなのは気にしない。
 どうせ街の奴等こいつらだって、自警団が来るまでは何も手を出すような事は無い。

「ふざけるなっ!! 絶対だと・・・? その確証が何処にある!!? 護れなかった時の気持ちがテメェに判るのかっ!!!!!」
「嫌ぁ!! 助けっ・・!!」

 お互いに叫び、そのまま、裏路地の壁に押し付け、少女を至近距離で睨みつけた。
 怯えた目だ・・・それが、怒りに火を注ぐ。

「アリスキュアの時代ってのは禁欲をするんだったよな? その禁欲の中には『性欲』も含まれている。そのため、少女ならば絶対に処女で無ければならない。
 ・・・ま、カーディアルトに昇格すれば話しは別らしいが、純潔を散らしたアリスキュアは破門と堕者の刻印を受けるそうだ」
「っ・・!!」

 言葉の意味を知ってか、ビクンッと身体を一つ震わせ、少女は顔を背ける。
 だが、そんな事にも気にせずにオレは言葉を続けた。

「この場でミナルに行く理由を潰しても構わないんだぜ。これ以上しつこく食い下がるんなら容赦はしない」
「っ・・ひくっ・・・ぅぅ・・・」

 少女は涙を流し、ギュッと目を閉じている。
 肩を震わせて、恐怖に耐えている・・・。

(何、やってんだ。オレ・・・)

 腕を離し、泣き顔を両手で隠す少女を尻目に、その場から立ち去った。

(くそっ・・・!! 今朝から夢に見るし。最悪だ・・・!!)

 壁を殴って、自分の方も、悔しさに耐える・・・・・本当に、何をしているんだ。と。


  ※


「おっ・・ヴァイ。丁度良かったな。新しい依頼が入ったぜ」
「・・・護衛じゃ無ぇだろうな?」

 結局、何処かへ行くにも思い当たらずに、酒場へ戻ってきたが、そこでの第一声が此れだった。

「警戒すんじゃ無ぇよ。前と同じで書簡伝達さ」
「ふぅ・・・そうか。だったら丁度良い。それを請けとくぜ」
「・・内容も聞かずに請けるとは。勇ましいな」

 含み笑いを入れてマスターは依頼の内容を話し始めた。
 だが、その内容を聞いてオレは安請け合いした事をちょっと後悔する。

「聖アルティア教会のケルト神父から依頼だぜ。書簡を河川の街ミナルに居るフォーゲン神父に届けて欲しいんだと」
「・・・フォーゲン神父? そいつがミナルで会合を開いたヤツなのか?」
「ああそうだ。なんでリエステールで開か無ぇのか謎過ぎるが・・・とにもかくにも、伝報を一つ頼みたいらしいぜ」
「偉い人には偉い人なりの交流・・・ってか」

 はぁ・・と呆れる。所詮、神の教えを伝える神父とは言え、偉い人には偉い人でこう言った『コネ』を取ることに必死なのだろう。

(禁欲はセントロザリオにアリスキュアの時代で終わりってか)

 全く『全ての者を温かく包む気持ちこころを持つ』という信条があるとはよく言ったものだ。
 ・・ホント、反吐が出るほど笑えてくる。

「じゃあ、聖堂の方に行って来る。書簡、取りに行か無ぇとな」
「・・・ああ。行って来い」

 愚痴っても何も始まりはしない。
 依頼を受け、オレは再び大本通りへと向かった。
 ・・・そこにある、リエステール聖アルティア教会聖堂へ向かって。


  ※


 リエステール聖アルティア教会大聖堂。
 そこは、魔物との戦いであった動乱の時代に村々を守り抜いた教会のエクソシスト部隊、『聖十字騎士団』を率いていたリーダーであるその聖女を讃えての教会である。
 今ではその精神を受け継がれ『弱きものを護る』『全ての者を温かく包む気持ちこころを持つ』等の信条を掲げている。

(・・・だが、その実態はやはり人間なんだ)

 この教会に来るたびに、思い出す・・・全く持って、嫌なくらい鮮明に。


『支援士が聞いて呆れますよね・・・』
『可哀想に・・・きっと、見捨てられたんだわ・・・』


 そう。ヒソヒソと会話する声が・・・。

(・・・今は仕事だ。個人的な感情は抜け)

 聖堂の扉を開き、中央のカーペットを闊歩する。
 確か、一日に一時間のお祈りを朝の時間と夜の時間に二回やるのだ。これは絶対だが・・・もちろん、昼の間にどれだけ大聖堂でお祈りをしても構わない。
 それに、昼の時間には一般の人々にも解放されているために、教会にはそれなりに人が長椅子に座り、『聖アルティア』を模したステンドグラスに祈りを捧げていた。

(なあ。聖女アルティア。アンタが今の教会の現状を見たら、どう思うんだろうな)

 ・・・まあ、物語程度に聞くアルティアならばその者達も優しく包み込むのだろうけど・・・その平和的趣向というか、平和ボケした考えも気に食わない。
 だから、魔物を殲滅しなかったのか? だったら、そのことで犠牲になった人は?

(・・・止めよう。アルティアは神じゃない。ただの人間だ)

 そう。アルティアは聖十字騎士団を束ねた聖女でしかない。出来ることと出来無いこともあるだろう。
 ステンドグラスから目を逸らし、教会の人間・・・というか、ケルトの姿を探す。

(お、居た)

 どうやら、大きな机と椅子がある場所で、生徒の聖に祈る者セントロザリオ聖女の癒し手アリスキュアに特別講義でも開いているんだろう。
 あいつ等は会合に行かなかったのだろうか?
 まあ、もしかしたらケルトの話を聞くためだけに残ったってヤツも多そうだよな・・・全く、相変わらずの人気者な優男だった。

「オイ。ケルト」
「・・え? ヴァイ? 久し振りじゃないか!!」

 後ろからぶっきらぼうに声を掛けると、ケルトが微笑んでこちらに手を振る。
 生徒の数名はちらりとオレを見るも、すぐに俯いてしまった。
 ・・・まあ。こういう所に詰められてるようなヤツはすべからくして人見知りだって事だ。

「酒場に依頼に来たろ? ミナルに手紙を運べってよ」
「ああ。そうなんだよ!! でも、まさかキミが受けてくれるとは思わなかったな・・・」

 その言葉には、意味がある。
 そう・・『まさか、教会嫌いのキミが』教会からの依頼を請けるとは・・という意味が。

「・・・別に、手が空いていただけの事だ」

 だから、当たり障りの無い答えで返す。
 少なくとも、嘘や偽りは言っていない。

「そうか・・じゃあ、手紙をとってくるから待っててくれよ」
「いや。お前の部屋にあるんなら直接取りに行く。その方が早いしな」
「そうかい? わかった、付いてきてくれ・・・みんな、少し待っててくれないかい?」

 オレと会話の後に、ケルトは生徒に声を掛ける。
 箇所箇所で頷く合図が見えたが・・・まあ、ケルトはそれで判るんだろう。

「じゃあ、行こうか」
「ああ。ま、昔話でもしながらゆっくりな」

 ケルトが歩き出すのに続いて、オレもその横へと並ぶ、
 そう久し振りに二人で肩を並べながら、冗談交じりにケルトへ言いったが、
 ケルトの方は「はぁ・・」とため息を吐いて、大きく呆れた。

「・・・ヴァイ。早くしたいんじゃなかったの?」
「まっ、堅いことは言うなって」

 ・・・そう、この時、オレは去っていくオレ達を妙に見ている視線に気付いてはいたのだが
 たぶん、教会に缶詰されている彼等は、オレのような部外者が物珍しいから見ていただけなんだろうと思っていた・・・

    ※

 ヴァイとケルトが去ってすぐに、一人の聖女の癒し手アリスキュアが席を立ち、歩き出そうとした。

「あれ? りーりん。ケルト先生のお話、聞かないの?」
「ご、ゴメンなさい!! ちょっと、急用が出来たから!!」

 そう『りーりん』と呼ばれた生徒は友人の聖女の癒し手アリスキュアに告げて、急いで去っていった。
 それを、ぽかんと見ていた友人は、『りーりん』が立ち去った後に、「んもう!!」と声を上げた。

「ミナルに行きそびれたって言うから、折角先生の授業に誘ってあげたって言うのにぃ~!!!」




「懐かしいな・・・オレと、兄貴と、お前と。結構いろいろ遊んでいたよな」

 教会の孤児院の方を見ながら、オレはケルトに話を始めた。
 と言うか、神父・聖母の部屋には必然的に渡り廊下を通る必要があるからだ。

「そうだね・・・僕なんかはあんまり無茶には付いていけなかったけど、キミやヴァジルさんは色々やって色々怒られたよね」
「くっ・・テメェだけ良いコ面しやがって」
「ははっ。やっぱり、この位置にいられるのもその事が付いているからかな?」
「あほう。それこそお前の実力じゃ無ぇか」

 まあ、昔みたいに木登りをして塀を越え外に出ようだとか考えもしないが、
 あの木は今でも立派に生えていたりして嬉しく思ったりする。

「エルナさん。今でもあの木を手入れしているんだよ。僕もエルナさんが忙しい時には手伝ったりしているし」
「あはは・・エルナさんか。その名前聞くのも久し振りだな」
「そりゃ・・僕ですらエルナさんが何歳だかわからない時があるもん」

 エルナさんというのは、オレ達が孤児院に入っていた時代、最もお世話になったシスターだった。
 しかし、若くて綺麗なもんだから、気になってエルナさんに歳を聞いた兄貴は直後に簀巻きで木に吊るされていたりした。
 オレ達がこの歳になった今でも昔の見た目とあまりに変わらないものだから実は恐怖していたりする。
 しかし、それ以外の点に関しては至って普通。むしろ、面倒見の良いお姉さんという感じであった。

「にしても、北のリックテールで最強の支援士ヘルパーじゃないのかって噂されている兄貴がトラウマで恐怖しているのがエルナさんなんだもんな」
「それは、エルナさんが最強だってことかしら?」
「どうだろう? まあでも、カーディアルトがパラディンナイトと単独戦闘で勝利したって話は聞かない・・っていうより、無いよね」
「あははっ!! エルナさんならカーディアルトでもジャッジメントだったとしても素手で兄貴を吹っ飛ばせるって!! 聖母って感じじゃ無ぇ!!」
「うんうん。もしかしたらブレイブマスターのヴァイ君もぶっ飛ばせるかも知れないわねん♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 いつの間にか入り込んでいた第三者の声に、オレ達の動きは固まる。
 そのまま、ケルトの目を見て、それだけで会話をこなした


 ・・・・やっちまった?
 ・・・・かもね・・。


 あな恐ろしきかな。そろり、と後ろを見ると、そこには案の定

「やっほ。拳一つお届けに参りました」
「え、エルナさん!!? いやあのこれはその!!」

 慌てるオレと祈るケルトを見てエルナさんは「にしし」っと軽快に笑った後

「今更んなこと言われたってどうこうする気は無いわよ」

 そう言って、オレとケルトの間に入り込んだ。

「それよりも」

 しかし、そんな軽い態度から一転
 ホント、急にふわりと笑って抱きしめてくるのだ・・・相変わらずの、抱き癖だ。

「良く来てくれたわね・・・『アレ』以来、さっぱり来なかったんだもの・・・」
「あ・・エルナ・・ねーちゃん」

 思わず、昔の呼び方で答えてしまったが、急に気恥ずかしくなって、

「し、仕事だからな。仕方が無かったんだよ」

 そう言って、返すも、エルナさんは

「もう。仕事でも何でも来てくんなきゃ寂しいじゃん。
 やっぱりケルトのやぁかい身体も良いけど、ちょっと筋肉ついてるヴァイくらいが一番好みかな。
 ヴァジル君は筋肉付きすぎだもん。時代はやっぱりブレイブマスターよ」
「ど、どうでもいいけどそろそろ離してくれよ!!」

 つか、エルナさんは胸がデカイからそれを押し付けられるのは男として辛かったりする。
 いや、オレがもしエルナさんと付き合いが薄かったなら甘受しただろうが、オレはエルナさんを子供のときから知っているのだ。
 いくら少なく見たとしても、五、六歳は離れているだろう。だから、推定二十五は超え・・

「がふっ!!!」
「うわっ!! ヴァ、ヴァイ!! 首が!! 首が反ってる!!」

 わー・・ケルト君の声が遠くに聞こえるなー・・・

「ヴァイ? 女の子の前では言葉にも気持ちにも気をつけなきゃダメよ?」
「だれが・・・・女の『子』だ・・・」


  ゴギリ




「・・・全く。筋肉あるから少しくらいは平気だと思ったのに」
「うっさい」

 ケルトから手紙を預かったエルナさんが、暗転に落ちたオレを自分の部屋に運んだそうだ。
 何でも、なにか話したいことがあるんだそうで。さっき様子を見に来たケルトがそんなことを言っていた。

「んで、話って?」
「・・・ノアちゃんの事よ」
「・・・・・・」

 はぁ。と、ため息を吐いた。
 これが、昔からなじみの無い神父とかだったなら、殴っていたかも知れない。
 下手をすれば、半殺しにしていたかも知れない。
 ・・・だけど相手がエルナさんだ。そんな気にはなれなかった。

「・・・オレの、力不足さ。アイツを護れなかったのは・・・」
「そう卑下しなくていいわ・・・だって、わたし、気になって後で調べたの。そしたら、ヴァイが司祭に言っていた通り、討伐されたモンスターは南リエステール街道に出るようなレベルの敵じゃ無かった。アレは・・モレク鉱山の中級レベルの敵だった」
「はは・・だからって、それが言い訳になると思うか? 結局、オレの力不足を証明したようなもんじゃ無ぇか」

 オレの言っている事は、間違いじゃない。
 それを、エルナさんも判っているんだろう。
 ・・・だから、それ以上の追求はせずに、エルナさんは聞きたくないもう一つの話題へと変えた。

「ヴァイ・・マスターのおじさんから聞いたけど、『グノル中継村までの護衛依頼』『港町フラーナまで馬車を護ってください』『クロッセルの臨時門番募集』・・・どれも、断ってたみたいね」
「・・・」
「やっぱり、ノアちゃんのこと?」
「ねーちゃんには・・・カンケー無いだろ」
「あるわ。ノアちゃんは私の生徒だった。もしも、ノアちゃんのそのことで迷惑をかけているなら、私がなんとかしないといけない」
「・・・いいんだよ。ねーちゃんは何にも気にしなくて良い。悪いのは、護れなかったオレなんだ」

 しばらくの沈黙。
 その後に、「はぁ・・・」とエルナさんは一つため息を付いた

「ぶっちゃけると、私の生徒の一人が『支援士の人に護衛依頼を断られた』って事を言ってきたわけよ。ミナルまででも護衛依頼を断るなんて、ヴァイしかいないと思ってね・・・今日ここに来なかったら、私があなたのトコに出向いて問い詰めてたと思うわ」
「それって・・栗色の髪をしたヤツか?」
「ええ。リスティって生徒。真面目でやる時はやるけど、だけどやっぱり何処か弱気でね・・・」
「・・・悪いのは、アイツじゃない。全部、オレだ・・・」
「アホッ!!!」

 その言葉の直後に、ドシンと腹に重みが落下して、思わず吐きそうになるのを堪えた。
 腹の上に、エルナさんが乗っかってきたのだ。

「馬鹿クソドジ死ね!!!」
「・・・何年代の子供だよ。今どきそんな事言わ無ぇって」
「るさい!! あの事件で・・・ノアちゃんが、死んじまった事件で!! わたしがどれだけ悲しんだと思ってるの!!?
 あんたが全部悪いんなら、この気持ちをどうにかしてよっ!! わたしも罪悪感あんのよ!! 辛いこと全部自分で背負い込もうとすんなっ!!!」
「ご・・ゴメン・・・」

 思わぬエルナさんの剣幕に、寝ながらではあったが、思わずたじろいでしまった。
 まあ・・・エルナさんはエルナさんなりに伝えたかったのだろう・・・あの事件の、事後アフターケアを。
 だけど、それでもオレには無理なのだ。
 如何に「あの時ああすればよかった」といわれたとしても、それはイフの話でしかない。
 ノアは死んだ。その時に、護ってやれるオレが護ることが出来なかった。
 その事実は、どう足掻いても動かないのだ。

「・・・そろそろ仕事に行くよ。エルナねーちゃん・・・その、色々と、ゴメン」
「・・・ばぁか。昔からそう素直だと良かったのにさ」

 そう言って、笑いながらオレの上を退く。
 エルナさんは、きっと気付いているだろうけれど、オレはエルナさんの期待には応えられないと思う。

(・・・ゴメン。エルナさん)

 どうやら、オレはまだ素直じゃ無いみたいだった。


  ※


「あ、ヴァイ。もう良いのかい?」
「ああ・・・」

 エルナさんの部屋を出て、教会を後にしようとすると、生徒達の授業を見ていたケルトがオレの元へとわざわざやってきて心配の言葉を投げかけてくれた。
 だが正直、エルナさんの部屋の中での事は聞かれたくは無い。
 だから、当たり障りの無いようにオレは他の話題へとそらすことにした。

「えーっと・・それにしても、この手紙は何なんだ? お前がコネに執着を持ってたなんて話は聞いたことが無かったぞ?」
「あはは。違うよ。それは、この教会の副司祭からさ。特別な仕事としてお金を貰って、代筆を任されたんだよ」
「ああ・・・アレはコネにうるさそうな顔をしていたな」
「あ、あはは・・・」

 さすがにケルトも教会の中では上の人の悪口は言えないのだろう。

「んじゃあ、オレは行ってくるわ・・・丁度、昼前だしな。向こう付く頃には夕方って所だろ」
 そう告げてオレは、ケルトに背を向けて手をひらひらとさせて去ろうとした・・・

「ああ、待って。ヴァイ」

 ・・・ら、ケルトに呼び止められる。
 思わず上半身だけで振り返り、ケルトの言葉の続きを待った。

「道中。気をつけて」
「ああ・・・」

 確かにこの言葉は冗談ではすまない笑えない言葉ではあった。
 だが、同時にこう言った言葉を投げかける変わりないケルトの気配りに感謝して、
 その気恥ずかしさの代償として頭を軽く叩いた。

「って、ばぁか。オレ一人くらいならどうとでもなるっつの」
「まぁ。それもそうだね。余計な事だったかな?」
「んにゃ。ありがたく受け取っておくわ」

 そうして、今度こそこの場を・・・そして、教会を後にしたのだった。





   東リエステール街道


「った!!」

 振り下ろされるトカゲ人の剣戟を受け流し、背中から片刃剣の斬撃を見舞う。
 なれぬ時にはこのモンスター相手にも一進一退の戦いをしていたが、今ではある程度の余裕を見せて戦うことくらいは出来る。
 リエステール街道のブロックで舗装された道を闊歩し、箇所箇所に見える川の橋に差し掛かる。

(にしても、こういう所だけではおんなじ考え持ってるんだもんな。魔物も)

 河川が多く広がるミナルの周りはその広がる光景が美しいのではあるのだが・・・それ故に、河川を越える為に橋や渡り舟が必要だった。
 まあ魔物の危惧のこともあってか、街の中で渡り舟の職業をしている人はあれども、外でそれを行う人はいない。
 だから、外には人が行き来できるように河川へ多くの橋が建てられたのだが・・・作業時に魔物に襲われる危惧や、作業が終わったとしても魔物に壊される危惧などがあった。
 だが実際は、橋が建てられるまでの間、魔物から一切の奇襲は無く、橋も建てられた後に壊されることは一切無かったのだった。

(・・・まっ。敵さんも存分に利用させて貰ってるって事なんだろうケド)

 その通りで、橋を渡って向こうからトカゲ人が何匹かこちらに向かい渡ってきていた。

「まいったね。川に突き落とすのもアリだけど・・・その流れる水をミナルで飲むって考えるとちょいと頂けないんだよなぁ」

 ミナルの川の水は綺麗で美味しい水だと謳われているが・・・思えば、魔物が何匹も川の中に突き落とされているんだと思うと微妙な心境になる。
 まあ、それも今更なんだろう。気にしなければ良いだけの話しではあったし、出される水は綺麗にされてるって話しだ。

「ってなワケで、お前等相手にするほど暇じゃないからな」

 通りがてらに片刃剣で居合い抜き、その横を通り過ぎる。
 その直後、魔物たちは水の中へと落下していき、その中へと飲み込まれる。
 ブレイブマスターは『速』と『技』に特化した剣使い・・・所詮、防御を誇っているだけのレンジャーナイトでは護れるものなど限られてくる。

(にしても、未練たらしいったりゃ無いよな・・・)

 くっ・・と一人笑い、『あの時』を思い出す。

(一歩・・・・・。あと一歩。届いていれば良かったんだ・・・)



『きゃあああああああ!!!!!』

『!! しまった!! 後ろからだと!!?』

『やっ・・!! 離しっ・・!!』

『くっ・・・!!』

『嫌・・・いや、

『ノアァ!!』

『いやぁぁぁぁぁ



ぁぁぁぁああああああ!!!」
「!!??」

 悲鳴が聞こえた。
 橋の後方。先ほど渡ってきた所である。
 振り向けば、さっき川に突き落としたトカゲの内、一匹が聖女の癒し手アリスキュアに襲い掛かっていたのだ。
 一撃目。繰り出された斬撃を紙一重で回避する・・・というよりも、後ろに倒れこんだという感じ。
 次に来る二撃目に容赦は無いだろう・・・腱を切り、動きを封じた後に仲間の元へと持ち帰るか、その辺で汚液を浴びせるか
 どちらにせよ。まともな結果に終わりはしない。

「あ・・っく・・!!!」

 しかし、足が動かない。
 あれだけ、あれだけ間に合わなかったが故に『速さに特化したブレイブマスターへの道を選んだというのに』。
 いざこんな時になって、トカゲ一匹倒し、人を護ることすら出来無いのだ。
 ・・・だが、これは自分に返って来た罪なのかもしれない。
 人を護ることを拒否し続け、それ故に人を護る立場に立つことは無い。

(でも・・・)

 それなら、何故オレは速さを求めた?


『へへっ・・・オイ。『殺し』たヴァイさんだぜ』
『ああ。護ることが出来なかったら『逃げる』為に速さを鍛えてるってんだろ?』


(違う。違う!!!)

 護るために、護りたいが故に・・・・護りたかったからこそ、二度と後悔しないように速さを求めた。

(オレは・・・もう、後悔なんかしたくは無いんだ!!!)


『支援士が聞いて呆れますわよね・・・』
『可哀想に・・・きっと、見捨てられたんだわ・・・』


 だが、このままでは本当に『見捨てた』ことになる。
 また、罪の意識に苛まれるというのか。

(くそったれ!!! それがオレの『戦う道を選んだ理由』だろうが!!!)

 敵を見る・・・もう、少女の方に集中してこちらになど気付いてはいない。
 距離は橋一つ分。トカゲは、二撃目をまるで楽しむかのように脅している。
 間に合うか? ではない。間に合わせるのだ。
 それこそ、この片刃剣を投げつけてでも、あのトカゲをぶっ殺さなければならない。

「あ・・あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 駆け出した。
 もう、迷いなど無い。
 否、迷ったが故に、また失うかもしれない。
 これ以上は、絶対に許すことなど出来無い・・少なくとも、オレ自身が
 トカゲが声にこちらを向く。
 だが、例え相手がトカゲ人の一匹だろうが、もはや容赦をする気は無かった。
 ・・・もしかしたら、オレに後悔を二度させたかも知れない相手。
 イフの話は好きじゃない。でも、それでも現に『可能性』としてはあった。
 橋を渡りきり、跳ねて一気に距離を縮めた。
 嘗て、ノアを護れなかった後悔の念も含め、
 今、繰り出す奥義

襲破しゅうは・・・」

 片刃剣を横薙ぎに振り回し、

死点突してんとつ!!!!」

 寸分の狂い無し、『眉間』『気道』『心臓』『腸』の縦四点を同時に深々と貫き通す。
 本来ならば、トカゲ人程度に出すような技ではない。
 それこそ、こんなにも精神力を研ぎ澄ます剣技。オレは使うハズが無かった。
 ・・・だが、気付いた時には、繰り出していた。
 夢中。だった。それこそ、戦闘における冷静さを欠くほどの・・・。

「あ、あの・・・」
「え・・?」

 そこには、散々しつこく付きまとってきたあの茶髪の聖女の癒し手アリスキュア
 彼女が、申し訳なさそうにオレの前で頭を下げ始めた。

「ゴメンなさい!! あなたがミナルに手紙を届けるって聞いて・・・きっと、後を着けていけば、魔物に会うことも無いだろうって考えていたんです!!」

 両肩を震わせ、涙をぽたぽたと流し始めた。
 きっと、彼女は怒られるんだと思っているんだろう・・・出会い端が、あんなだったから。
 だけどオレは、怒る気になれなかった・・・と言うよりも、怒るような気分にはならなかった。

「はは・・・あははは・・・・」
「え?」

 突然のオレの笑いに、顔を上げる。

「なんだよオレ・・・意外に、護れんじゃ無ぇか」
「え・・・? っと、ヴァイ、さん・・?」

 彼女は知らないんだろう。
 『護る』という事に関して、未練を持ち続け。
 それなのに、『護る』事を拒否し続けた大馬鹿野郎の事を。

「・・・ミナルまでは、目の前だ」

 穏やかな気持ちで、オレはその少女の頭に手を置いた。

「あ・・じゃあ。ミナルまで護衛を・・!!」
「勘違いすんな」
「あ・・」

 オレの言葉に、明るくなった顔が再びしゅんと沈む。
 だが、オレはその後に穏やかに笑いながら、付け加えた。

「今、オレは支援士ヘルパーの仕事で手紙の配送を承っているんだ。
 支援士ヘルパーってのは仕事を掛け持ち出来無ぇんだよ。
 護衛なら他を探せ・・・・まあ、でもオレが気づかない間に付いてこられたんじゃあ、仕方ないだろうけどよ」

 ・・・本当に、エルナさんには謝らないといけないな。
 マジで、オレが素直になる日って言うのは遠そう・・・というか、一生無いような気がしてきた。

「はっ、はい!!」

 その言葉の意味に少女は顔を輝かせ、オレの隣にならんだ。

「あ、私、リスティって言います!」

 知ってるっつの。
 それよりも、

「馬鹿。これじゃあまるきし仕事の掛け持ちになってんじゃ無ぇか」
「あ、あう・・・でも、離れてるとまた襲われますし・・・」
「襲われろ。そして死ね」
「はうっ・・ほ、本当にそう思っているんですか・・・?」
「アホか。マジに死んだら夢見が悪くなるわ」
「よ、良かった・・じゃあ、ミナルに向かいましょう♪」

 ちょっと待て・・・ああいう所に缶詰されているヤツはすべからくして人見知りなんじゃないのか?
 ・・・ああ。そういえば、前にケルトが言っていたな

『始めはどこか余所余所しいけど、ふとしたきっかけで随分懐かれるようになるものだよ』

 ・・・マジか?
 本日の仕事における妙な荷物を背負いつつ、
 オレ(達)は、無事にミナルへとたどり着いたのだった・・・。





  河川の町ミナル


「よお!! ヴァイ!! お前もこっちに来てやがったのか!!」
「・・・グリッツ? お前は護衛か?」

 ミナルに入り、慌てて会合場へ急いで行ったリスティとは自然に分かれる形となり、
 その辺闊歩して時間を潰すのも嫌だったので、酒場へと入ることにした。
 ・・・手紙を渡せる機会は終了時。会合が終わるまでの間はなんにもすることが無いのだ。
 そう考えて酒場に入ると、既に出来上がっているグリッツや他のリエステールを中心に冒険者兼支援士の仕事をやっている奴等が酒を飲んでいた。

「オイ・・お前等、帰りの仕事もあるんだろうが」
「いーんだよ。この辺は雑魚いんだし」

 はぁ・・とため息を付く。この問題を抱えているのはオレくらいのもので、人に自分の考えを押し付ける気は無いが・・・

「そういえば、グリッツ。お前、そろそろ昇格するんだろ? ツインエッジからクレセントに」

 その中で顔見知りといえば、何故かいつも同じタイミングで仕事の空きが入り、常駐しているグリッツぐらいのもので、他は大抵会って数回。初見のヤツも居る。
 そんなワケで、手持ち沙汰のオレはグリッツに話題を振ったわけだが、当の本人は

「はぁ!? 違ぇよ!!」

 と、思いっきり否定してきた。
 だが、そのことに逆にオレは疑問を持った。

「は? だってお前、幾らオレより戦闘サボりがちとは言え、そろそろ昇格時期だろ?」
「ああ、違ぇーよ。オレはな、『月影剣士クレセント』じゃなくて『聖剣士セイクリッド』になるんだよ」

 その言葉に、周りの奴等含めて全員が

「「「「えええ!!!!??」」」」

 と、驚きの声を上げた。
 その中で、腑に落ちない顔をしているヤツが一名・・・名を言うまでも無いが。

「な、何だよ。お前等、オレがセイクリッドの方に昇格するのがおかしいのか?」
「だって・・・なぁ?」

 酒のテーブルにいた一人が、思わず酔いが醒めたという感じで話を他の人に振る。
 他の奴等も、うんうんと首を傾げるも、その続きを誰も言わなかったが故に、オレがグリッツに続きを言ってやった。

「だってお前。三度の飯より聖女の癒し手アリスキュア魔法少女ウィッチ観察だろ?
 絶対に月影剣士クレセントに昇格して、背後から痴漢でもするんだと思ってたって」

 そのオレの突っ込みに対しても、周りの全員が首を縦に何度も振っていた。
 簡単に言えば、月影剣士クレセントというのが、双剣ツインエッジを使い、夜の影に紛れ相手に攻撃を仕掛ける『奇襲型』の速さ特化双剣士のことであり、
 聖剣士セイクリッドというのは、双剣を使って、白昼に堂々と相手に戦いを挑み、囮となったり敵を翻弄する形で戦闘を進める『策謀型』の技特化型双剣使いの事なのだ。
 だから、こいつは常々「ああ・・聖女の癒し手アリスキュア魔法少女ウィッチが彼女に欲しいなぁ・・・」と言っており。
 また、「うほ!! あのウィッチ、スッゲーえろい身体してるって!!」とか平然と言う男であるが故に、

「クレセントになって、その欲望という名のドリームを別の形で果たすのだと思っていたが・・・」
「て、テメー等!! オレをそんな目で見ていやがったのか!!!」

 その上、そうやって机を叩くグリッツだったが、
 最後のトドメにオレは一言加え付けた。

「少なくとも、聖剣士セイクリッドには見えない」
「げふうっ!!」

 オレのトドメにオーバーなリアクションで返し、
 グリッツがバタンと地面に倒れた。



「つか、お前はなんでこっちに来てんだよ。護衛の仕事、始める気になったのか?」
「・・・伝報の配達さ」

 正確に言えば、半護衛の仕事をやってはいたが、ほとんどミナルの入り口前から連れてきたようなものだ。
 護衛なんかにはなりはしない。

「なーる。まあ、そんな事だろうと思ったけどよ」
「だったらテメェ等。こんなトコで酒なんか飲んで無ぇでリエステールに帰ってきてくれりゃ良かったのに。アリスキュア一人置いてってた見たいだぜ」

 まあ、そいつはオレに付いて来たから別に良いんだけど。と付け加えようとしたら、
 グリッツは、ガバリと起き上がり、

「なにっ!! そうだったのか!! くそ~・・・戻っていれば二人っきりでミナルまでデートできたのによぉ・・・と、言いたいところだが、ダメだったんだわ」
「?」

 今までのふざけた態度から一転・・・すると良いのだろうが、コイツはそんな態度を持ち合わせていない。 
 せいぜい、他の奴等に聞かれたら不味い話題だと言う事で小声でオレに話し始めたくらいだった。

「ホラよ。ミナルの方に連れてきたオレのハニー達がよ。『リエステールに帰らないで~!!』って言うんだわ。
 ・・・お前を責めるワケじゃ無ぇけどよ。あの事件、相当教会側に刷り込まれちまってるみたいなんだわ。
 どのセントロザリオもアリスキュアの娘も揃って『支援士一人じゃ魔物に殺されるかもしれない』だってよ。オレ達を舐めてるんかって思ったぜ。さすがに」
「・・・・」

 やはり、『あの事件』の事は、教会側も大いに重く見ていたという事だろう。
 そのために、生徒には恐怖として植え付けられたのだ・・・全く、人の気も―――少なくとも、同じ教会に居る神父ビショップ聖母カーディアルトの気持ちも―――知らないで。

「・・・今回、結構やっかいだったぜ。複数の人数が居る一つの少数グループに対して、二人か三人の支援士がついたんだ。ミナルまでの道、あれだけの人数なら、全員で二、三人の支援士で十分のはずだったんだ」

 グリッツの、軽口ながらも少し怒張の入った言葉に、オレは一つ息を洩らした・・・と言っても、呆れるというか、鼻で笑うという感じの。ではあったが。

「てめっ!! オレが折角お前の為にと思って!!」
「あーはいはい。ありがとさんよ」
「くっそー!! だからアリスキュアとウィッチが良いんだよ!! ブレイブマスターなんて皆こんな感じでサバサバだ!!」

 もう飲む!! と言って、グリッツは更に酒を呷り続けた。

(・・・それにしても)

 グリッツの話しだが・・・・これが、教会が下したオレへの対応だというのか?
 外が危ない。魔物が危険だ。そう教え込むのは良い・・・だが、『支援士一人じゃ魔物に殺されるかもしれない』・・・?
 とても、『全ての者を温かく包む気持ちこころを持つ』という言葉には程遠い。
 その信条を掲げる教会の仕打ちがこれというのは・・・

(否・・・・・)

 それは、オレがそう思いたいだけなのかも知れない。
 確かに、『あの事件』はそれほどの罪なのかも知れない。
 オレは慣れぬ酒を一杯飲み、

「伝報。届けてくるわ」

 そう告げて、酒の席を離れた。


「ん・・・?」

 会合はオレが付いてから三十分ほどで終わったらしい。
 本当はどれだけの時間やっていたのかは判らないが、それほどまでに重要な話が聞けたのか、教会の者達はそれなりに満足気な顔をしていた。
 それよりも、今は何かセントロザリオやアリスキュアが大量に集まっている所があり、そこでそのフォーゲン神父は対応をしているのだろう。

「あ、ヴァイさん」
「よお。もう終わったのか?」

 その中から、リスティがオレを見つけ、駆け寄ってきた。
 そこで、リスティはオレの問いに満面の笑顔で返す。

「はいっ!!」
「そうか・・でも、お前は良いのか? アレに混じって来なくて」

 指をさし、教会の者達にに囲まれているであろうフォーゲン神父を示した。
 だが、リスティはそこでふるふると首を横に振る。

「いえ。これ以上、私は目立てませんから・・・だって、会合の途中で入ってきて、その上に『聖女の器』だってフォーゲン神父直々に言われてしまいましたし・・・近い内に、アルティア様からの神託を受けるかも知れないんです」

 はにかみ、恥ずかしそうな顔をするリスティに対し、
 だがオレは、その言葉を聞いて心が凍った。

「・・・聖女の、器だと・・・!!?」

 驚き、絶句するオレに、リスティは不思議そうに首をかしげた。

「え・・はい。そう、ですけど・・・?」
「・・・あ。そ、そうか。そりゃあ、名誉な事だよな。聖女の器って言えば、シスターでも上位を約束された潜在能力を持つ者の事だもんな」

 慌てて取り繕ったが、上手く行っただろうか?
 未だに、オレの中には動揺が走り続けている。

「はい。でも、まさか私が聖女の器だなんて・・・夢じゃなければいいんですけど」
(・・・ホント、『夢なら、どんなに良かったことか』)

 二度も、聖女の器に出会い、そして、付き合いを持ってしまった運命・・・自分自身で、呪いたくなる。
 そう・・・だって、聖女の器は、一人だけ護衛を許され、グノルダンジョンを目指すことになっているのだから。
 ただ、グノルダンジョンを目指す。それだけだ。聖女の器だと神託された者は過去に全員。リエステールの聖堂に帰ってきている。
 ・・・だが。一つの例外を除いては。

「・・・? ヴァイ、さん・・・?」
「あ、ああ。なんでもない・・・伝報を渡さなきゃいけないんだが・・・あれじゃあ、まだしばらくは掛かるだろうな」
「ええ・・・あ、帰りは・・・」

 オレの『護衛が出来無い』という事を知ってからか、リエステールでは見せなかった遠慮を見せてきたが、
 オレは「ふぅ」と一つ息を吐いて、

「今更ほっといて良い夢見れると思うか? だけど・・・悪いが、護衛って形は無理だ。オレは自分の為に戦いたいように戦う。後は、お前自身で身を護ってくれ」
「あ・・はい。私は、それで」

 通常の護衛よりも条件の悪いそれをにこりと飲み込んだリスティから、思わず顔を背ける。
 ・・・気恥ずかしかったからではあった。だが、心では同時に別のことを考えていた。

(・・・聖女の器。か・・・)

 やはり、彼女はオレにグノルまでの護衛をオレに頼むのだろうか?
 皮肉なものだ・・・付き合った聖女の癒し手アリスキュア二人が、『聖女の器』だとは・・・。

(ノア・・・)

 心の中で、歯噛み、悔いる。
 だが、それで『あの事件』が無くなってくれるワケではない。彼女が戻ってくることも無い。

「・・・リスティ」
「はい?」

 言いたいことは、幾らもあった。
 だが、口に出た言葉は

「そろそろ、伝報を渡してくる」

 そんな言葉だった。



「フォーゲン神父。支援士から通達です」
「おや・・? ご苦労様です」

 来たときほど酷くは無いが、数が残っている教会の奴等を押しのけて、フォーゲン神父の前に出る。
 その際に、彼等はむっとした顔をしたが・・・お前らは時間があるかも知れないケド、こっちは仕事なんだっつの

「教会の副司祭からです」
「はい。確かに承りました。サインを今用意します」

 サラサラと手元のメモ用紙に受取った旨を示すフォーゲン神父のサインネームが刻まれる。
 そして、そのメモ用紙を渡される際、

「あなたは・・・ヴァイさんですよね? あの事件で、一人のアリスキュアを殺めてしまった支援士の」
「!!!」

 オレに聞こえるだけの小声で、その言葉を吐いた瞬間に、オレはヤツに殴りかかるモーションを取ろうとしたが、人が居過ぎてそれどころではなかった。
 フォーゲン神父を睨み、憎悪を見せるが、フォーゲン神父は慌てて言葉を付け加える。

「いえ!! そのことで責める神父も居るでしょうが、私はあなたを責めるつもりはありません!! あなたは、ノアさんに選ばれ、そして彼女を自分の力の尽くす限り護った・・・でしょう?」
「・・・」

 妙におどおどとしたが、オレはその瞳に妙な狂気を感じた。
 だが、嘘を言っている感は無い。
 直接的に意味を捉えれば、言ってることは励ましだろう・・・だが、意味を深く取れば、「ノアを見殺しにしてしまった事を責めはしない」つまり、「それ以外のことで責める」意味も含まれる。
 ・・・オレの、考えすぎだろうか?
 だが、少なくともオレはコイツを好きになれそうも無かった。
 口調は丁寧だ。
 だが、オレは『真に丁寧な口調で相手を思いやる喋り方をするヤツ』を一人知っている。
 コイツの場合、それには当てはまらない。

「では、副司祭さまに宜しくお伝え下さい」
「・・・でわ」

 そのまま、再び教会の奴等を押しのけて戻る。
 だとすれば、一つだけ疑問が残る。
 ・・・アイツは、教会の奴等を満足させるような話をした。それは事実だ。
 だが、ヤツは一体どんな話をした? 何がそれだけあいつの魅力を醸し出す?

(・・・ワカラン)

 やはり、オレの考えすぎなのかも知れない。
 教会の人間は須らく神の信仰の話しに目を輝かせるが・・・アルティア教会の記述にある話は、ぶっちゃけ「困った人が居たら助けよう」みたいな『正義』というより『善行』を全体のテーマとして持っている。
 嫌味くさいやつには耐えられる代物ではない。
 ・・・それに、オレにとっては嫌なヤツだと感じたが、嫌味くさいとまで言えるほど喋り方が含んでるヤツでもなかった。
 ・・・やっぱり、気のせいだろう。

「リスティ。戻るぞ」
「あ、はい!!」

 妙に腑に落ちない態度でオレは、このミナルを後にした。



「あは・・・なんだ、やれば出来るんじゃないの」
「・・・」

 帰り。真夜中にリエステールへとたどり着いたオレは、リスティと別れる時に、エルナさんに捕まって、彼女の部屋まで強制連行されていた。
 そこでオレは、エルナさんにリスティを護衛・・・とまでは行かない形で、連れて行き、連れ帰ったことを告げた。

「あれ・・? ゴメン、なんか、涙出てきた」
「何でオレのことなのにエルナさんが泣くんだよ・・・」
「あははっ。おかしーよね」

 エルナさんがひとしきり泣いた後、オレはエルナさんに呟いた。

「ミナルまでぐらい、大丈夫だっただろう。とか、そんな風に言われると思っていた」

 けれども、その呟きを否定するようにエルナさんは首を横に振る。

「誰もがいきなり強かったワケじゃないわ。始めは、誰だって・・・私だって、何の力も無かった。だから、ヴァイは今、一歩進んだんでしょ?
 それをミナル『くらい』。なんて言えるわけ無いじゃない」

 ああ・・判った。今、再確認させられた。
 この人、常の調子は軽いけど。それでもやっぱり、カーディアルトなのだ。
 人々の悩みを自分の内に取り込み、そして励まし、内から相手を癒す聖母たる癒し手。

「アリガト。エルナねーちゃん」
「そう。それ。前々から思ってたけど、なんで『さん』付けするかなぁ・・・いつも、昔みたいにそう呼んでくれりゃ良いのに」
「あのな・・けじめの問題だっての。この歳で、人前で、エルナねーちゃんの歳で、『ねーちゃん』なんて呼べるか」
「・・・・・今、なんつった?」

 冷静に考えると・・・思わず、本音を出してしまっていた。

「じ、じゃあ、夜ももう遅いし!! オレは帰るわ!!」
「んー? 別にこの部屋泊まって行けばいいのに。それよりも、さっき、なんつった?」
(この部屋に泊まったら尋問責めじゃ無ぇか!!)

 少なくとも、オレはいたってノーマルだ。そんな趣味は一切無い。
 あはは・・・と誤魔化し笑いながら、

「じゃあ、おやすみ!!」

 そう言って、オレは部屋を飛び出す。

「もうっ!!」

 後ろ手に、エルナねーちゃんの文句の声を聞きながら。



  ??????

「ふふ・・・思っていたよりも早く。こんなにも早く『聖女の器』が再び見つかるとは・・・!!」

 薄暗い地下の一部屋。
 明かりといえば、逆十字の前にある蝋燭の光しか無い部屋。
 そこで、一人の男が薄ら笑いを浮かべていた。

「しかしあの男・・・またしても私の企ての盾となるとは・・・前回の脅しではまだ朽ちないと・・・。では、今回はそう言うワケにもいきませんね・・・」

 だが、自らの独り言に唇をゆがませ、そして再び狂気の顔で微笑みだす。

「前のようなミスはしませんよ・・・今度こそ、私は『聖女』を手に入れる!! ・・・ねえ。そのために貴女の『身体』を残したのですから」





 チャプター ONE  end....?




  あとがき

 まあ、なんと言いますか・・・この作品が、エリアルワールドがどんな物か説明する足がかり。みたいな感じになっております。
 序盤や中ごろに主人公の説明くさい描写があったのはその為です(汗
 このエリアルワールド(※AW)。テーマが『人の数だけ物語がある』でして、ある種わたしが立てていた理念『創作次元管轄』の枠から外れてしまう作品なのです。
 一つの世界やその法則は私の創作次元管轄・・・即ち、わたしが色々といじくりまわせる世界ではあるのですが(矛盾や無理が無い限り)、
 人の物語や、個々人、時間軸。そんなモノの管理は範囲対象外になるのです。
 まあ簡単に言えば、皆で共通して持つ世界。言葉で言うと一番しっくりくる形は『アンソロジー』作品と言えるかも知れないです。
 そのほかに疑問質問あれば、『エルナおねーさんのエリワーなんでも相談室』にご連絡くださいませ。

 まあ、書いてると色々設定から矛盾しちゃったりしますけどネ(汗
 つか、能力の数値規定とか、結構面倒くさいのって考える気も起こらないんですけどね(ダメじゃん


 とりあえず。ステータスを



 名前:ヴァイ
 性別:男
 年齢:18歳
 ジョブ:ブレイザー → ブレイブマスター
 能力:氷・紫 → 氷牙・雷
 武器:片刃剣『フェルブレイズ』(依頼の時にブレイザー時代から使っていたロングソードが折れた時。そこまで武器を長く使った精神を認められ、北国の名匠に打って貰った倭刀)
 形見:ノアのロザリオ(今作には一回も登場して無いですね[汗]。ノアからお守りとして渡された銀細工の十字ロザリオ)

>>所持技

 散空斬(空破を飛ばす)
 散空斬双剣(空破を二連で飛ばす)
 双葉(二連撃)
 双葉弐双撃(二連撃後、空中での二連撃)
 死点突(眉間。首[気道]。心臓。腸をその素早さでその四点を同時に突く)
 襲破死点突(剣旋風で敵を巻き上げた後に、死点突を放つ。敵を吹き飛ばす効果付き)
 多段斬り(目に見えぬ速さの連続攻撃。現在のヴァイの多段回数は『八』。つまり、八段斬りとなる)

 ブレイザー時代には兄がブレイブソードからパラディンナイトを目指していたのと同様に
 ブレイザーからレンジャーナイトを目指していたが、『あの事件』をきっかけに速さを求め、それに一番馴染む職業『ブレイブマスター』へと昇格する事を選んだ。
 子供の頃・・・と言っても、二、三年ほどだが。孤児院で世話になり、支援士ヘルパーとなって孤児院を出るまではそこで暮らしていた。
 今は、リエステールの借家で生活している。
 孤児院の時代には、(たぶん)五~六歳年上のシスターエルナに世話になりながら、兄のヴァジルと、同じ孤児となった同じ歳のケルト。
 そして、孤児院から抜け出して良く一緒に遊んでいたノアという少女と。充実した生活を送る。
 だが、『あの事件』が起こった後、教会との間に亀裂が走る。
 今の教会は、支援士は生活に必要な助け人として教会は容認しているが、人命を護る等の依頼にはヴァイを指名させないような険悪な態度を取る。
 その上、授業の一環で教会の生徒に教えるなど、信条に沿わない事後処理を行っている。
 もちろん、エルナやケルト。他の神父・聖母など、純粋にヴァイへ味方する者も居るが・・・
 それでも、この弾圧にヴァイは自信をなくし、今では『護衛が出来無い』状態になってしまった。
 だから、リスティ護る時に迷ってしまったのはその点ですな。



 名前:リスティ
 性別:女
 年齢:14歳
 ジョブ:アリスキュア
 能力:水・黄 → 水・土
 武器:聖書(教会で使う教科書。)
 形見:-

>>所持能力

 リラ(傷を癒す)
 スロウ(敵の速度を落とす)
 キュアポイズン キュアパラライ(毒を治す。麻痺を治す)
 アルティレイ(光の粒を飛ばす)

 昇格する時にはカーディアルトを目指す少女。目標はエルナ先生。
 親が信仰にあつく、その影響を受けて教会に入門した。
 あだ名はりーりん。聖女の器であると告げられた彼女に待つ運命とは・・・?



 名前:ケルト
 性別:男
 年齢:18歳
 ジョブ:セントロザリオ → ビショップ
 能力:土・青 → 生命・聖
 武器:書物『アレクタリス』(神聖な書物。しかし写本。原本は教会の人間しか入ることの許されない閲覧室の更に司祭以上の許可が必要な部屋に安置されている)
 形見:-

>>所持能力

 リラ(傷を癒す) → ラリラ(傷を大きく癒す) → ラリラル(傷を完全に癒す)
 レ・ラリラ(能力で傷を大きく癒す方陣を作る)
 スロウ(敵の速度を落とす)
 クイック(味方の速度を上げる)
 ノーマライズ(異常状態。敵から受けた能力減少を治す)
 アルティレイ(光の粒を飛ばす)

 ヴァイの友人。優れた知識と温和な性格。そして思いやる心を持っている青年。
 また、字が綺麗で話しも上手く、生徒からは大きく信頼され、中には今回の会合に行かなかった理由として『ケルト先生の話の方が絶対に面白い!!』と豪語する生徒も居たとか。
 しかし、結構な苦労人で努力家。孤児という不利な立場ながらもエルナに支えられ今の地位に立てたのは単に彼の努力の賜物であると言える。
 苦労人気質なのは昔からで、ヴァイとヴァジルが怒られる際にも何故かついでのような形で怒られたり、
 結構、知らないうちに事件に巻き込まれたり、ある意味不幸属性を兼ね揃えている。
 実は結構いいたい事をスッパリと言う性格



 名前:エルナ
 性別:女
 年齢:聞いたら殺される
 ジョブ:アリスキュア → カーディアルト
 能力:青・黄・紫 → 生命・天聖
 武器:オリシスカード(フルーカードと呼ばれる特殊な武器の中で、カードセット自体に『冥』と言う意味が込められた物)
 形見:フィナのペンダント(幼い頃に病死した妹にプレゼントしたペンダント。ミナル河にだけ存在するも、滅多に落ちていない結晶石『翠水晶石』が先端に付けられている。妹の魂は既に昇華済み)

>>所持能力

 リラ(傷を癒す) → ラリラ(傷を大きく癒す) → ラリラル(傷を完全に癒す)
 レ・ラリラ(能力で傷を大きく癒す方陣を作る) → レ・ラリラル(能力で傷を完全に癒す方陣を作る)
 ノーマライズ(異常状態。敵から受けた能力減少を治す)
 アルティレイ(光の粒を飛ばす)
 アルテナフレア(聖なる炎。本来カーディアルトでは覚えられないが、『ステータスを降昇する能力』を犠牲にして、この聖光を覚えた)
 ルナライト(月夜の聖光。本来カーディアルトでは覚えられないが、『ステータスを降昇する能力』を犠牲にして、この聖光を覚えた)

 たぶんヴァイの五~六歳上だと思いたい(笑)おねーさん。
 推定年齢は23~26。命知らずな者はもっと上だと考える。
 いつから教会に居たのかは誰も知らない。しかし、同じく教会に居た妹を病気で亡くしている。
 また、噂に寄れば『この世界を管理する者』であるとか無いとか。
 性格は基本的には明るく軽い。だが、ふとした時に子供っぽくなったり大人っぽくなったりする。
 人をからかうのは大好き。北の中央都市リックテールで活躍するヴァジルが背中を向けて逃げ出す人物。




 名前:グリッツ
 性別:男
 年齢:17歳
 ジョブ:ツインエッジ
 能力:火・緑 →炎・風 
 武器:ツインソードブレイカー(ソードブレイカーという特殊な構造の剣。酒場のマスターが昔の仲間が使っていた武器として渡した)
 形見:-

>>所持能力

 クロスラッシュ(十字斬り) → ツインクロスラッシュ(十字二閃)
 メンタルソード(武器に能力を付加。炎の能力を付加させる事が多い)
 行くぜっ!!!(グリッツの気合を入れる掛け声。自分の攻撃力を増加する)

 良くヴァイと常駐時間時に一緒になる軽いノリの男。シリアスな空気が似合わない。
 しかし、実を言うと彼は砂漠生まれで、家族を養うために支援士で溜めたお金を送って、自分の冒険の為のお金を別に貯めている。
 そして、いつかは一攫千金をと夢見る義に厚いドリーマー。
 しかし滅法女の子には弱く。特に聖女の癒し手アリスキュア魔法少女ウィッチには目が無い見境が無い街中で平然と暴走し出す。
 だから、仲間からは本気で闇に生きる月影剣士クレセントとなって、少女達を騙くらかして毒牙にかけるつもりなのだと予想されていたが、本人は
 囮や自らの戦闘技術を使い『策謀』しながら戦う聖剣士セイクリッドを目指す。
 ・・・その理由は、「日中の方が戦闘の中で華麗に舞うオレの姿を女の子達に見せ付けることが出来るから」らしい。
 だが、酒場のマスターが渡した双振りのソードブレイカーを使っていたのがセイクリッドであったというところから目指している。というのが本心。

 このソードブレイカーを使っていたセイクリッドは冒険者&支援士を引退してシュヴァルで奥さんと暮らしている。
 引退の理由は戦闘時に片腕を奪われ、双剣使いのクレセントとしてやっていけなくなったからである。



 名前:マスター(※本名不明)
 性別:男
 年齢:47歳
 ジョブ:ブレイブソード → ベルセルク → 酒場のマスター
 能力:火・土 →炎・大地・刃 
 武器:グランバルディッシュ(入手先は不明。刃の部分がありえない位デカイ[※ゆうに人一人分程は有るか]。今でも時々手入れをする)
 形見:-

>>所持能力

 紅の月(上に敵を振り上げる攻撃) → 朱月の牙(紅の月の上、ジャンプと共に下段から上段に斧を振り上げさらに上空に放り投げる)
 狂気の月(気が狂わんばかりの連撃) → 狂乱の円月(狂気の月の後、二つの円を描くように上空へと振り上げる斬撃を二度繰り出す)
 フルスイング(敵を吹き飛ばす効果が付く)
 薙倒す(一定の範囲に纏まって居る敵を纏めて薙ぐ。グランバルディッシュの大きさのためか、範囲がデカイ)
 龍牙絶斬(龍の牙を絶つ斬。その一撃は巨大な敵でも原型を留めないと言われている)

 酒場のマスター。本名不明。
 筋肉質で恰幅のいい体格をしている豪快な漢。
 しかし、元クリエイターの奥さんには甘く弱い姿を見れば、昔『狂気の獅子』と謳われた姿は何処にも無い。
 50前ではあるが、今でも斧を握ればその狂気の獅子としての遺恨を見せ付ける。
 ぶっちゃけ、今現在のリエステール側最強クラスの戦士と言える。・・・魔法と奥さんには弱いが。