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    ――――『ありがとう』・・・・わたしは、ただそう言いたかった



 貴方は、こんなにもわたしの為に悩んでくれた。
 貴方は、こんなにもわたしの事を思ってくれた。

 ・・・ありがとう。ヴァイ



「・・・・」
 光が収束し、銀十字のロザリオから、粒子が空へと舞い上がっていく。


『浄化・・・ですか?』


 それは、リスティに頼んだ、一つの選択。


『確かにやり方は習ってますけど・・・でも、浄化の儀式は一介のアリスキュアでは・・・』
『他の誰でもない。お前に頼みたいんだ』



 片足を地に着け、大聖堂で祈りを捧げるリスティ。
 その隣で、オレは呟いた。
 ・・・目が熱い。視界は、潤んでいた。


 ――――真っ先に、ノアはオレに謝ったのだ。
 自分の事に巻き込んで苦悩させた事。
 そして、今回の事件にも巻き込んだこと。
 しかし、それでもオレは、ノアと居た事を後悔してない。
 ・・・締めに、彼女は微笑んで――――「ありがとう」
 そう言ったのだ。


「馬鹿・・馬鹿ヤロ・・・。ありがとうって・・・それはオレの台詞だろうが。
 お前は、ホントに馬鹿なんだよ・・・!! 散々、クラスで浮いてでも孤児院の方に来やがって・・・!!
 孤児のオレ達なんか放っておけば、聖女の器の儀式にも良いナイトが付いたんだろうに・・・!!
 だけど、それじゃあ嫌なんだよ・・・お前が来てくれた事、お前が、オレ達と一緒に過ごしてくれた事。
 ・・・お前のくれた時間が、本当に嬉しかったんだ。
 ノア・・・たとえ、オレがヴェイルの生まれ変わりだとか、そう言う運命と位置づけられていたのだろうが、
 結果、お前がオレに微笑みかけてくれたのは・・・オレの光になってくれたのは、お前が居たからじゃねぇか・・・」
「・・・ヴァイ、さん・・」
「すまなかった・・・。オレが、お前の事を何時までも引きずっていたから、お前は逝けなかったんだな・・・。
 ありがとう・・・・ノア、ありがと・・・・・」
「・・・」

 崩れ落ちたオレは、リスティにそっと抱きしめられた。
 顔は、リスティの胸元に付いている。・・・泣き顔は、彼女から見れない。
 ただ、そっと抱きしめられただけだ。
 ・・・・だけど、ただそれがありがたかった

「・・・くっ・・うぅ・・・っ・・!!」

 ―――――せめて今は、誰かの温もりを与えて欲しかったから


  こうして、ノア・アゼット・プラティアの魂は昇華され、輪廻の均衡に乗って動き出したのだ。
  それは、今まで形見としてヴァイを護ってきた効力を消す事・・・つまり、ヴァイはそれだけいつもより脆くなった。
  だが、代わりに『心』が、大きくなったのだ。聖女の加護より放たれ、過去に縛られず自らの道を行く為に―――――




 それから一ヶ月。

「おう!! ヴァイ。今日も仕事か?」
「ああ。どんなのが来てるか見せてくれるか」

 相変わらずオレは支援士として今日も酒場へ依頼を請けに来ていた。
 声を掛けて、マスターに依頼の帳簿を受け取る。
 ファイルの隅から隅まで見たが・・・今日は、受けられそうも無かった。

「悪いな。現状、止めとくわ」
「なんでぃ? 確かに護衛依頼ばっかかも知れねぇが・・・って、まさか、まだ引きずってんじゃねぇだろうな?」

 そういってファイルを返し、マスターはそれを受け取ってそう言葉を返し眉をひそめた。
 だが、きっと彼の考えは誤解だ。
 そんな風に言ったマスターにオレはふぅっと一つ息をついて、苦笑いをした。

「違う違う。・・・オレは、もう護衛の仕事はし無いんだ」
「あん? それが、何が違うって言うんでぃ?」
「・・・そうだな。言うなれば、『オレが護衛をするのは、今日から“ただ一人”って事』だな」

 その物言いに、マスターもピンッと来たらしく、一つニカッと笑い、大いに笑った。

「なんでぇ!! 若いじゃねぇか!! つーことは何か? 今日はこれから教会って事か?」
「だな。バザーも今日からだし、クリエイターもそのアイテムを求める人も至る街から来る。
 ――――『人さらい』には格好の日和ってとこじゃねぇのか」

 そんな、事情を知らない人が聞けば自警団に通報されるような会話を笑いながらマスターと語って時間を潰す。
 今行っても待ちぼうけを喰らう。だからオレは、先に手紙の伝達なり何なり仕事を引き受けたくて来たのだが・・・まあ、最初は宛ても無いというのも悪くは無い。
 マスターから奢りで酒を少々貰い、談笑しつつ四十分程後。オレは時計を見て、席を立った。

「・・・っと。そろそろ終わる時間だな。そろそろ行くわ」
「おう。たまには此処にも帰ってきやがれよ」
「落ち着いた頃にでもな」

 そう言って、オレはリエステールの酒場を後にした。
 そう。今からオレが行う事は、教会から見れば完全に『人攫い』というレッテルを貼られるだろう。
 誰を奪っていくのかって?
 ・・・・教会が言うところの、『アルティア様』と言った所だろうか。





 リエステール教会。
 この日。全ての授業を終えた生徒、セントロザリオとアリスキュアは、教会よりジャッジメント、及びビショップ、カーディアルトへの昇就を認められる。
 その年齢は、大体が16~18歳なのだが、その昇就の中に、なんと最年少でリスティが組み込まれてしまったのだ。
 と言うのは、やはりフォーゲンの引き起こした副作用が絡んでいる。
 『主たるアルティア様がアリスキュアの身分であるのは教会としてどうだろうか?』という事で、教会側は知識もアルティアのものを持っている・・・即ち、既に上級生の授業をも理解してしまっているリスティを昇格させる事に問題が無いと判断し、
 彼女の希望であるカーディアルトへ例外的に昇格しよう。という事にしたのである。
 ・・・まあ、全く持ってオレ達一般市民にとっては理解しがたい理屈では有るのだが・・・。
 まあ、その昇格の儀式は教会関係者しか立ち居る事が許されない。
 それに、あまりに浮かれていて少々早かったようである。
 ので、教会前で佇んでいると・・・

「ヘルパーさん? 今、大丈夫なんですか?」

 しばらくして、ふと、背中から声を掛けられた。
 だから、仕方なくオレは一つ「はぁ・・」と、ため息を一つ吐いて、言って返した。

「断る。支援士ってのは依頼の掛け持ちは基本的に出来ねぇんだ。護衛任務なんざすれば、支障が出ちまうじゃねぇか」
「ふふっ。相変わらずなんですね」
「・・・まあ、どうしてもってなら話は別だけどよ」

 そっちを向けば、そこにはカーディアルトの制服を着たリスティが立っていた。
 そう。エルナさんと同じ衣装である。だが、真新しいそれはエルナさんとはまた違った印象を与えるのは何故だろうか・・・

(・・・やっぱ、胸か?)

 ぺたん娘なリスティの身体を見ながらそう思ったが、口にすれば間違いなく不機嫌にさせるだろう。
 だからオレは直ぐに頭からその考えを追い払い、彼女の顔を見たのだ。

「どうですか? ・・・似合います、か?」

 だが、オレがリスティの身体・・・というより、服の方を見た事をどう受け止めたか、リスティはスカートの裾を持って、微笑を返した。
 ――――だけど、オレはそれが恥ずかしくて、ついそっけない返事を返してしまう。

「知らん。そんな事より」
「は、はぅぅ・・・そんな事って、酷いぃ・・」
「ホラ」

 まあ、だけど今、そんな馬鹿をやっているシーンではない。
 オレはしばらく考えていた事を、気落ちするリスティに、行う。
 ・・・そう。オレは、自らの手の中のモノを彼女に突き出した。
 それを受け止め、リスティはハッと息を呑んだ。

「コレは・・・!! そんな、受け取れません!!」

 そう。それは、ノアからオレに託された、銀十字のロザリオ。
 形見というのは、魂入りで有れば何らかの効果をもたらす。
 だが、魂が無ければそれはその辺の店に売っているモノと変わりはしない。
 ・・・だけども、形見は魂無しでも、そう簡単に割り切れるものではないのだ。
 これは、ノアが生きていた証。だから、彼女に受け取って欲しいのだ。
 兄貴の言葉・・・ノアに出来なかった事。してあげたい事。それを彼女にするから。
 それに――――

「―――オレは、コイツに護られて、助けられて。・・そして、導かれた。もう、オレには必要の無い品さ。
 ・・・ノアの出来なかった事、してあげたい事。それをお前がリスティとしてノアとの繋がりを持って楽しんで欲しい。
 だから、このお守りはお前が持ってて欲しいんだ」
「・・・はいっ!!」

 その気持ちを告げたら、笑顔で。リスティは銀十字のロザリオを受け取り、首につけた。
 首から下がった銀十字のロザリオは光を返し、まるでそれがオレ達の道を示すかのように輝いている。
 ・・・だが、それはそうとて話し込み過ぎたかも知れない。
 そろそろ教会の方が騒がしくなってきた。
 中から、『アルティア様は何処だ!!』『向こうで見なかったか!!?』などど聞こえてくる。
 それに、なにやら聞き覚えのある声で、『あっちの方に行ってたわよー』という声も。

「・・・じゃあ、そろそろ行くか」
「はい。どこに連れてってくれますか?」

 その言葉にオレは一つ考え、
 ・・・そして、含み笑いながら彼女に言った。

「そうだな・・・手始めに、ミナルまで護衛しますよ。リスティ様」
「も、もぅ!! そんな言い方止めてください!!」

 怒る彼女に対して、オレは笑いながら、大通りの方へリスティの手を引く。
 路上では、聖歌師バードの女性が、その歌を披露していた。

 ――――旅立ちを告げる、希望の行進曲マーチ

 バザーが始まりにぎやかな通りの人ごみに身を隠しながら、
 彼女と、二人で旅に出る。





 人の数だけ、物語がある。
 それは、オレとリスティだけの話じゃない。
 誰にでも、物語がある。
 ――――これは、その中の一つの物語。


 Tale of Vai






  -リックテール・・・外れの森-

  はっ・・・はっ・・・はっ・・はっぁ・・!!

 お母様に手を引かれ、夜の森を駆ける。
 後ろから追って来るのは、お父様の命を奪った盗賊。

「くっ・・おのれ、ゲイズ。やはり、貴様が裏切っていたのか・・!!」

 お母様の言葉にドキリとさせられた。
 ゲイズ。それは、マージナルであるお父様の弟子のネクロマンサ。

「テイル、我が愛しき娘・・・良くお聞きなさい。奴は、きっとお前の事を狙っている筈です」
「っ!!?」
「お前のその力は、何処かの次元より人を呼び、導く事の出来る力。もしもの事があれば・・・『聖勇者伝記』より、『セイジ』様を呼ぶのです」
「セイジ・・様!!? 彼の、聖勇者様を!!??」

 その問いに、お母様は一つ頷いた。
 ・・・セイジ・T・フォース様。その力は、絶対な剣・・・
 その、伝説を呼ぶ力が、わたしに・・・?

「居たぞ!! あそこだ!!」
「くっ・・・テイル!! 行くのです!!」
「は、はい!!」

 ・・・決して離さなかったお母様の手を、暖かさを、
 ここで手放し、わたしは、再び夜の森を駆けだした・・・



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