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『セレスティアガーデン』第1話『ギルド・セレスティアガーデン』




その1


――リエステール~ミナル街道――
  ――の橋の下。

「はぁ~・・・」

 深くため息をつく。
 無理もない。もう朝の10時からこの採掘作業を進めているのに、日が西に傾きはじめた今になっても一向に成果が上がらないのだから。

「あー、もうっ!! いつになったら出てくんのよーっ!! 翠水晶石はっ!!」
「リリー、無駄口叩いてる暇があったら手を動かさないと、このままじゃ晩御飯までに終わらないよ。」
「なによ~、そういうセーはさっきから全然手伝ってないじゃない。」
「さっきからじゃなくてはじめからよ。・・・じゃなくて、私はこんな格好だから土木作業なんてできるわけないでしょ!!」

 透明な羽根をパタパタさせて頭上を飛び回りながらそう言い放つ妖精、セー。
その正体は異世界の住人セレスティアがこの世界に送り込んだセレスティアの一部。『影』。
 異世界では、世界の管理権限を持つ者と同等の力を持つとも、それ以上とも言われているらしいが、
現在、身長15センチ程度の小さな体で飛び回る姿からは、とても信じられない。

(それを言うならマージナルの私だって同じだっての。)

 ついこの前マージナルに昇格したばかりの私だって、こんな力作業が向いていないのは同じ。
でも、妖精一匹作業に加わったところで、私の作業のペースに比べたら、無いに等しいかもしれない。

 目の前の空中で停滞し、青くて長い髪を掻き揚げて、えっへんと威張るセー。
自慢することじゃないっての。

(・・・なんか納得いかない。)


「・・・すー、すー。」

 ふと気が付くと傍らの岩陰から寝息が聞こえてくる。

「あーっ!! シルエラちゃん寝てるーっ!!! ずるい~っ!!!」

 岩を背にして気持ちよさそうに寝息を立てているのはハンターの少女、シルエラちゃん。
 今回共同でこの翠水晶石の採取依頼を頼まれた仲間の一人。
 しかし、さっきから砂遊びをしている所と、お菓子を食べている所以外を目撃した記憶がない。

「私も寝る~。」
「駄目よ、リリー。シルエラちゃんはまだ子供だから仕方ないの!!」
「セー、そのセリフ、3回目だよ。」

 そう、さっきシルエラちゃんが砂遊びを始めた時と、お菓子を食べていた時にも、私もやりたいと言い、セーが止める。
これでもう3回目。

「はぁ~・・・」

 本日何回目か分からないため息。

「実質、作業してるの私だけじゃん。」




「リリーっ!! シルエラーっ!! 交代の時間だよーっ!!」

 橋の上から声がした。
 マグノリア。私と同期の支援士で、レンジャーナイトの亜種派生職、スペースナイト(宇宙騎士)を名乗っている。
 今回の依頼に共同で当たっている3人目。
 その最大の特徴は光の剣、ライトセイバー。なんでも、月刊誌・スペースヒーローに毎月付いてくる付録を組み立てて作ったとのこと。
 しかし、そんな雑誌、街の書店でも見たことない。まさか異世界の雑誌? ってことはマグノリアは異世界の住人!?

「わかったー!! 今いくー!!」

 ここで詮索したところで、答えが見つかるわけでもない。

(今度、機会があったら本人に直接聞いてみよ。)

 そう決めてとりあえずの思考に終わりを告げ、次にすることは・・・。


「シルエラちゃん!! 交代だって!!! 起きてっ!!!」
「シルエラちゃんなら、リリーが無い脳で考え事している内に、もう先に行ったよ。」
「あれ?」

(さっきまで寝てたのに、いつの間に・・・)

「って、誰が無い脳だーーっ!!」


 「しししっ」と笑うセーにその辺に転がっていた小石を投げる。
 が、セーはそれをひょいとかわして、

「ほらっ、リリーも早く行く!! この辺の魔物は弱いけど、シルエラちゃん一人じゃちょっと厳しいから。」

 そう言うと、そのまま橋の上の方へ飛んでいった。

「セー・・・、いつかシメる!!」

 そう硬く誓った後、私も傍らにあった杖・フラワーリングロッドを手に、橋の上へと上がった。





その2


――リエステール~ミナル街道――
  ――の橋の上。

「リリー、遅い。」
「ゴメンゴメン、ちょっと考え事してた。」

 橋の上に到達した私を待っていたのは、ぷくっと頬をふくらませたマグノリア。
 シルエラちゃんは既に遠方を徘徊するトカゲ男に照準を合わせつつ、周囲を警戒していた。

 今回の依頼は『翠水晶石の採取依頼』だが、街道沿いにもかかわらず何故か魔物の数が多く、
危険なので、採掘組みと見張り兼戦闘組みに分かれて作業を行っている。
 しかし、いざ分けるとなると、前衛職はマグノリアだけなので、私とシルエラちゃんは敵の接近を許すと弱い。
 そんなこんなで、必然的に私とシルエラちゃんは互いに橋の両方の入り口を固めて近づく敵を殲滅する戦法をとることになる。
 一方がたとえ一体でも撃ちもらすともう一方にまで危険が及ぶが、私もシルエラちゃんも、この辺の敵に苦戦するほど弱くはない。
「じゃあ、見張りは任せたよ~。」
「はーい。 そっちも、早いとこ翠水晶石見つけてよ~!!」
「リリー、今までやってて見つかんなかったあんたがそれを言うかい!? まあ、それなりにがんばるわ。」

 そう言って、橋の下へと降りていくマグノリア。
 それを見送って、私もシルエラちゃんとは反対側の橋の入り口の警戒に当たる。

「こりゃ今日中には終わらないかも。」
「そうねー。」

 いつの間にかすぐ横を飛んでいたセーが相槌を打つ。

「マグノリアって戦闘狂だしねー。」
「セー、それはちょっと言いすぎじゃない。」

 橋の両の入り口に積み上げられたトカゲ男の死体を数えながら二人苦笑する。
全部で100体近くありそうなこの死体、全てマグノリアが一人で倒したものだろう。
 以前マグノリアと共同戦線を張った時のことを思い出す。
 そういえば、敵を殲滅した後、「フフフッ」って笑いを堪えていたのを思い出す。
 実は今日も、本来の交代の時間を1時間近くオーバーしていたりする。

「私、マグノリアのジョブ、『暗黒面(ダークサイド)』って呼ぼうかな~。」
「じゃあ、私は今度マグノリアの登場シーンで、B.G.M.魔法『ダース・ベイダーのテーマ(インペリアルマーチ)』でもかけようかな~。」
「その時は是非、リコーダーとウクレレでっ!!」
「あははっ!! それいいかもっ!!」

 笑い合う私とセー。どうやら『リコーダーとウクレレ』はセーのツボに入ったらしい。
 しかし、その時、橋の底板を貫いて1本の柱が目の前に出現する。

「きゃっ!!」

 それはマグノリアの武器、ライトセイバー。

「マグノリアー!! 怒ったーっ!?」

 びっくりして後ろにこけた私に対して、あっけらかんとした声で今この橋の真下にいるであろうマグノリアに質問するセー。

「リコーダーとウクレレはやめてよっ!!」
「ごめんごめん、冗談だって、あはは!!」

(って、拒否するの、そこだけ?)

 しかし、これを言い出すとまた話がややこしくなりかねないので、この疑問は私の心の中だけにしまっておくことにする。
ただ単に、はじめの方は聞こえてなかっただけかもしれないし。



「ほら、リリー、前方の敵さん、こっちに気づいたみたいよ!!」

 遠くからこちらに向かって走ってくるトカゲ男。数は3,4・・・5匹。
 真っ直ぐこちらに走ってくる様はさすが下級モンスターといった所か。


「大気に宿りし雷の粒子よ、敵を貫け!! 『ライトニング』っ!!!」

 敵の前方に出現した紫電は、次の瞬間には1体のトカゲ男を貫いた。
 ドサっと崩れおちるトカゲ男。紫の初級魔法でまずは1体。

「もう一発っ!!」

 さらに出現した電撃がもう1体のトカゲ男を貫く。
 これで2体目。残りは3体。距離は30メートル。

「大地に宿りし火の精よ、敵を包みて爆ぜよ!! 『ブレイズ』っ!!!」

 2体平行して走って来ていた敵の眼前が爆炎に包まれる。
 赤の初級魔法で2体撃破。残り1体。距離10メートル。

「さらにっ!! 『エアスラッシュ』っ!!!」

 敵周辺の空気が刃となって襲う。
 最後の1体を5メートル手前で撃破。


「ふぅ~、ちょっと危なかったかな~。」
「龍槌扇!!」
「へっ?」

 パコーーーン!!!

 乾いた音が響き、直後に頭に激痛が走る。

「ったぁ~!! 何すんのよ~、セー!!」

 目の前にはハリセンを持ったセー。

「リリー、あなたはホント成長してないわね~!!」
「なによ~、勝てたんだからいいじゃない!!」
「でも次もこんな戦い方でうまくいくと思うの?」
「それは・・・」

 無意識に目をそらす。
 しかし、セーはかまわず続ける。

「『七色』能力を目指すと言って聞かないあなたのために取り寄せたその杖・『フラワーリングロッド』の付加効果は何?」
「・・・初級魔法の連携発動。」

 そう、この花びらのように切り出された宝石の装飾のついた杖『フラワーリングロッド』には、初級魔法を1回の詠唱で属性問わず連続発動させる効果がある。ちなみに現在の私の連続発動数は2回。しかし・・・

「それはメインの付加効果じゃないでしょ。メインの効果は?」

 その答えではセーを満足させることはできなかったらしい。
 そう、初級魔法の連続発動はサブの効果でしかなく、メインの効果は・・・

「・・・1つ上の能力魔法の使用。」
「そう。それよっ!! なのに、今のあなたの戦い方は何? 全て単体、多くて2体の敵しか攻撃できない下級魔法ばかりじゃない!!」

 そう、この『フラワーリングロッド』の真の付加効果はその『開花』の名が示す通り、1つ上の能力魔法の使用。
 現段階での私の所持能力は、マージナルになる時に上位能力取得を蹴って、下級能力を追加したため、『赤・青・緑・黄・紫』。
もしこの付加効果をフルに使いこなせたなら、『火・水・氷・風・土・雷』の中級クラスの魔法は習得可能なはずだが、まだ杖の力に付いて行けず使いこなせていないのが現状。

「あんな密集して真っ直ぐ走ってくることしか脳のないトカゲなんて、はじめから中級魔法使ってたら、30メートルの彼方で一網打尽よ。」
「うぅ~・・・。」





その3


「リリーねえちゃんっ!! 強いの来ました、こっち手伝って下さいっ!!!」

 セーとやりとりをしていると、反対側の橋の入り口からシルエラちゃんの救援要請。

「うーん、これはマグノリアも呼んだ方がいいわね。あのオオトカゲ人間、シルエラちゃんの属性矢がまるで効いてない。」

 巨大なトカゲ男、少々の矢が刺さるのをものともせずに、巨大な大剣を振り回しながらこちらに向かってくる。
 その様から考えて、力だけならベルセルクに匹敵するようだ。

「ほら、リリー、ボサっとしてないでさっさと動く!! 私、マグノリア呼んでくるから。」
「あっ、えーと、大地に宿りし火の精よ、敵を包みて爆ぜよ!! 『ブレイズ』っ!!!」

 橋まで10メートルといった所で、爆炎に包まれるオオトカゲ男。しかし・・・

「弱点属性なのに・・・、なんで効いてないのよっ!!」

 全くひるむ様子もなくこちらに向かってくるオオトカゲ、そしてシルエラちゃんの目の前で大剣を振り上げる。

「あわわわわっ!!」
「甘いっ!!」

 しかし、いつの間にか高くジャンプしたマグノリアがオオトカゲ男の右目に、その光る剣『ライトセイバー』を突き立てる。

「グワァァアアアア!!」

 右目を押さえて倒れこむオオトカゲ男。しかし、怒りをあらわにして残された左目でマグノリアの方を見る。大剣を握る手の力は緩めない。
「シルエラちゃん、下がって!!」
「は、はい!!」

 シルエラちゃんが後方に走り出したのを確認し、ライトセイバーを正眼に構えるマグノリア。
 トカゲも再び立ち上がり、大剣を横なぎに構える。
 そして、力の限り一振りする。しかし・・・

「これでとどめだっ!!!」

 その敵の一閃をかいくぐり、懐から心臓を一突きにするマグノリア。

「やったの?」

 橋の反対側まで走ってきたシルエラちゃんを抱きとめ、マグノリアの方を見る。
 再度跳躍し、橋の中央あたりに着地するマグノリア。本来ならばそれで終わりのはずだったのだが、マグノリアの様子がおかしい。

「ゴメン。電池切れ。」
「へ?」

 苦笑しながらマグノリアがこちらに見せたのは、弱々しく光るライトセイバー。

「それ電池式だったのーーっ!?」
「違うわよ、電池とメンタルのハイブリットっ!! 下で充電してたんだけど、間に合わなかったみたい。」

 手で、手回し式充電器を回す仕草をするマグノリア。って、それじゃあ翠水晶探しはいつやってたの?

「グワオォォォォオオオオ!!!」

 咆哮するオオトカゲ人間。胸の傷は表面を少々焼いた程度にとどまっていた。

「こりゃちょっと分が悪いね。退却だよっ!!」

 幸い、敵はパワータイプ、その分トカゲ本来の素早さを犠牲にしている。
 逃げるだけならなんとかなる相手。


「ちょっと待って、あいつの胸の所に光ってるの、あれ翠水晶石じゃない。」
「え?」

 オオトカゲ人間の胸元で光っているもの。先ほどのマグノリアの一撃でただれたそこから覗くもの、それはまさしく翠水晶石。それも特大サイズ。
 つまり、トカゲ人間が巨大化したのは、翠水晶石を取り込んでいたから?

「でも、セー、現状、私たちの戦力でアレを倒すのは難しいよ、私の剣は電池切れだし、リリーの魔法も、シルエラちゃんの属性矢も効かないんじゃ・・・」
「方法ならあるわ。リリー。」

 そう言って私の方を見るセー。それが何を示しているのかは分かる。

「でも・・・」
「いい機会じゃない。リリー。別にあなたは、中級魔法にトラウマがあるわけでもないんだし、この際やってみなさい。」
「リリー・・・。」
「リリーねえちゃん・・・。」

 私の方を見るマグノリア、シルエラ。

(あんたたち・・・、まともに採掘作業してないくせにーーっ!!)

 正直まだ不安はあるが、やらざるおえない状況みたい。


「分かったわよ、やればいいんでしょっ!!どうなっても知らないからね~っ!!」

 『フラワーリングロッド』を構え、詠唱体勢に入る。
中級魔法の詠唱法自体は、以前読んだことがある。
後は私にそれを使いこなせるだけの力があるかどうか・・・。

「いくよっ!!」

 どちらかというと自分に、再度確認の意味でそう叫ぶ。
 既に橋を渡り始めているオオトカゲ男。

「『開花』の名を冠する汝、我に力を貸し与えたまえ、大地に宿りし火の精よ、大気に眠りし炎の粒子よ、我が呼びかけに答え、その力を解き放て!! 『イラプトブレイズ』っ!!」

 はじめて唱える火属性の中級魔法。
 それは敵を膨大な熱量で包み込み、爆発する炎の魔法。

「やった、できたっ!!」
「やったじゃない、リリー!!」

 魔法の成功をともに喜んでくれるセー。

「確かに魔法は一応成功したみたいだけど・・・」
「へ?」

 喜びも束の間、マグノリアが横から口を挟む。

「敵さんまだ動いてます。」

 振り返ると黒こげになりながらも眼前まで迫ったクロトカゲ人間。・・・ではなくてオオトカゲ人間。

「まだ・・・動けるの?」

 再び臨戦態勢を取ろうとする3人。しかし、この距離では間に合わない。


「『フレイムソード』っ!!」

 その時、背後から聞き覚えのある声がした。
 突如として敵の頭上に現れた10メートルはあろうかという巨大な炎の剣。

「グワァァアアアア!!」

 それは深々と敵の胴に突き刺さり。オオトカゲ人間は断末魔の叫びを上げる。
 その光景は正に裁きの一撃と呼ぶにふさわしい。
 先ほどの私の中級魔法とは比べ物にならないほどの大火力。そして、一刺しで敵を貫く破壊力。
 これほどの魔法の使い手はそうそういるものではない。

「ヴィオレ先輩っ!! 助けてくれてありがとうございます!!!」
「・・・店長が、晩御飯できたから、迎えにいって来いって。」





その4


――中央都市リエステール――

「やっぱり店長の料理はおいしー♪」
「あら、おだてたって何も出ないわよ。」

 古びた店の一角で毎日この時間に開かれる夕食会。
 テーブルに並べられた椅子は5脚。しかし、席に着いているのは6人という奇妙な晩餐。
 店長、ヴィオレ先輩、私に、マグノリア、シルエラちゃん、そして椅子の要らないセーで6人というわけ。
 最も、セーは水しか飲んでないんだけど。

「そういえば、私たちって、もう結構ここに住んで、共同で支援士活動とかやってますけど、チーム名とか考えてみませんか? 先輩っ?」

 そう、実を言うと、私たちは、この店にそれぞれ一室与えられていて、最後にやってきたシルエラちゃんとでさえ、もうかれこれ3ヶ月は同じ屋根の下で暮らしている。
 私は前々から何かカッコイイチーム名みたいなのが欲しいな~と思っていたので、思い切って言ってみることにする。

「・・・う~ん・・・。」

 考える先輩。

「・・・ん~・・・。」

 さらに考える先輩。


 ガチャ。

「・・・・・・・・・・・・ごちそうさまでした。」

 箸を置いて席を立つ先輩・・・って、え!?

「せ、せんぱい~?」

 困惑しながら先輩を見つめる私。
 そんな私の視線に気づいたのかこちらを見る先輩。

「・・・あ、・・・リリー。今日の魔法、よかった。練習すればもっと上手くなる。」
「あ、えっと、ありがとうございます、先輩っ!!」

 しかし、先輩はそれから再び私と視線を交わすことなく、流しに食器を置くと、自室へと入っていった。

「せ、せ~ん~ぱ~い~ぃ~・・・。」

 先輩は普段から寡黙で、時々私には理解できない行動を取る。
 戦闘の時は、漆黒のドレスに身を包み、その紫色の長い髪をたなびかせて、強力な魔法を次々と使いこなす天才魔術師なのに、
日常生活では、寡黙天然キャラだなんて・・・。
 ここに住みはじめる前に、魔物を次々と撃つその様を見て、その戦いぶりに惚れていただけに、
そのギャップはショックだった。
 店長やセーは、ただ単に忘れっぽいだけだと言ってるけど、とてもそれだけとは思えなかった。


 正確には、ヴィオレ先輩のジョブ名は『太古の智(エンシェント)』と言うらしい。
 マージナルの派生亜種職で、今のように能力属性が系統化されるはるか以前に存在した、どの属性にも属さない魔法、古代魔法を使いこなす魔術師。それがエンシェント。
 ちなみに、その古代魔法について書かれた古代書がこの店のどこかにあるらしい。
 ただし、セーが言うには、今の私がいくらそれを探しても、その本が目の前に現れることはないらしい。
 何でそんなことが言えるのか、その意味さえ今の私には分からない。


「リリー、ヴィオレがチーム名決めていいって。」
「え?あれ?」

 そう私に言ってくるセーだが、さっきから見ている限り、先輩がセーに話しかける所はおろか、近づくのすら見ていない。

(え? なんで? もしかして、これも古代魔法の力なの?)


 古代魔法のことは気になるが、ひとまず目の前の課題、チーム名を考えることに専念することにする。
 その時、一部始終を見ていた店長が口を開く。

「ねぇ、リリー、どうせならギルドってことにしない?」
「え? ギルド・・・ですか?」
「そう、なんかただ単にチームって言うより、言葉の響きがいいじゃない。」
「ギルドかぁ~・・・、意味はよく分かんないけど、なんかカッコイイかも!!」

 ギルド・・・、後になってセーに聞いた話だと、元々は商業や工業に従事する人たちが集まって作った組合のことらしい。
しかし、とある世界のとある国では、仮想世界でのゲームなんかで、共同して事に当たったり、情報交換したりする仲間みたいなのを示す意味の方が主流になってきているとか。


「で、肝心のギルドの名前は何にしよっか? 何ならアタシが決めてあげてもいいよ!?」

 さっきまでソーセージを頬張っていたマグノリアがギルド名に興味を示し始める。

「そうだねぇ~・・・、『マグノリアと愉快な仲間たち』」
「なにそれ~!!?」
「いるのよね、こういう時、そういう安直な案を出す人が必ず一人は・・・。浅はかよね~。」

 反射的にツッコんだ私に対して、冷静に冷たい視線を送るセー。

「なによー、文句あんの? だったらセーは何かいい案があるっていうの!?」

 小さな水差しから水を飲んでいたセーに、マグノリアが投げ掛ける。
それを受けてセーは、半透明な紫色の羽根をパタパタとさせてテーブルを囲う私たちの頭上を旋回、
そして私たちの目線より高い、テーブル中央の上空でクルリとターンして一言。

「『フェアリー・セーと愚劣な下僕共』」
「「おいっ!!?」」

 私とマグノリアの声がハモる。
天井付近で「しししっ」と笑うセー。しかし、この時思わぬ所から伏兵が現れる。

「『シルエラとその他の下々の者共』」
「なっ?」
「シルエラちゃん!?」

 侮り難し、12歳の少女。「にひひ」と微笑むその姿。あのセーと互角に張り合うとは・・・。
集まる視線をものともせず、大皿のタコさんウインナーに箸を伸ばすシルエラちゃん。

 そして、この時、私たちに追い討ちをかけるがごとき出来事が遂に訪れたのである。

「『店長と愉快な居候たち』」
「て、てんちょ・・・」
「居候はヒドイ・・・」

 ある意味どんな悪口よりも、私たちの現状を的確に表すこの言葉はダメージが大きかった。

「てんちょぉ~~っ!!」
「アタシたちのこと、そんな風に思ってたなんて、嘘だよね? 嘘だと言ってくれーーーっ!!」
「冗談よ、フフフっ。 はい、リンゴのウサギさん。」

 私たちの過剰な反応に動揺することなく、店長は先ほどから切っていたリンゴをみんなの前に配る。
縦に8等分したリンゴの種の部分を取り、皮に切れ込みを入れてウサギの耳に見立てたリンゴのウサギさん・・・。
それが私たちに対する店長の気持ち?

「ってか、店長って名前じゃないけどね。」
「あら、さすがセーね、ツッコミ所が分かってるじゃない。」

 私たちがリンゴのウサギさんを前に騒いでいる中、店長の言葉に対して異色のツッコミを入れるセー。
しかし、店長が言うには、そこがツッコミ所らしい。なんで?

(・・・そういえば、もう1年はここに住んでるのに、私、店長の名前知らない!?)

「フフフ、『A secret makes a woman woman...(女は秘密を着飾って美しくなるものなのよ。)』」
「いや、名前ぐらい言えよ。」

 意味不明な所からセリフを引用する店長。時々ついていけなくなるこの店長の性格は、主にセーの相手をする時にだけ表れる。

「ほら、アレよ。デスノ対策。」
「ま、デスノはともかく、本気の私を相手にするんだったら、その程度じゃ時間稼ぎにもならないけどね。」
「あら、セーはもう私の名前知ってるじゃない。」
「知らなかったとしても、よ。」

 先輩が言うには、これが店長とセーの馴れ合いみたいなものらしい。
はたから見れば罵り合っているようにしか見えないが、本人たちはこれで結構楽しんでいるとのこと。
      • ところでデスノって何?



「はい、この話題はおしまい。私の名前はいいから、ギルド名の方を考えましょう。」
「あれぇ~、もう終わり~? まだまだネタはいっぱいあるのに~。<small>中ボスとか、ジューダスとか・・・</small>」

 店長とセーの醸し出す場の雰囲気に困惑していた私たちに気づいた店長が、話題の終了を宣言する。
セーが小声で呟いた言葉に関しては、聞かなかったことにする。



 それから小一時間、夕食後の家族(?)会議、『ギルド名を考えようの会』が開催され、
いくつもの候補が上がったが、どれも決定打に欠け、なかなか決まらなかった。


そんな中・・・

「『セレスティアガーデン』なんてどう?」
「うん、なかなかいい名前だね。」

 セーの放った一言は、当たり障りのないネーミングだったけど、それまでのセーの案があまりにも
ネタに走りすぎた内容だったためか、妙にまともに聞こえた。

「セーにしてはまともな案出すじゃん。ま、アタシには劣るけど。」
「私もそれがいいと思います。」

 マグノリア、シルエラちゃんの了承も得、いよいよ決まるかと思いきや・・・。

「つまり、所詮あんたらは私(の本体)の手の内ってことさxt!!」

 バシーンッ!!

「ぎゃーーーっ!!」

 ガコーンッ!!

「むぎゅ・・・」


 目の前を誇らしげに飛行するセーに、私とマグノリアの無言のハリセンスマッシュが決まったのは、ほぼ同時でした。
二人の友情スマッシュを受けたセーは、火の粉を散らしながら壁に激突し、直後に落下してきた鍋の直撃を受け、戦闘不能に陥っていた。

「あーあ、関心して損した。」
「ほんとほんと。」


 しかし、この時更なる番狂わせが起こったのである。

「あら、この店の名前じゃない。」
「はい?」

 店長の言葉に困惑する私たち。

「て、てんちょ? この店の名前って?」
「『セレスティアガーデン』」
「・・・・・・っ!!」

 店長の衝撃的発言に言葉も出ない私たち。

「あれ? そんな名前だったっけ?」

 戦闘不能から回復したセーが静寂を破る。
頭上を飛び回っていたヒヨコを一匹捕まえて振り回しているのはこの際無視する。

 そして再び全員の眼差しが店長に向けられる。
店長との付き合いが最も古いセーでさえ否定する店の名前。
しかし、店長は動じることなく口を開く。

「今さっき決めたのよ。」
「「「「おいっ!!」」」」

 私たち3人(と1匹)がそう叫んだのはほぼ同時でした。





あとがき


セー「えー、というわけで遂に連載開始しました、『セレスティアガーデン』。そして、ギルド名『セレスティアガーデン』決定祝いに、カンパーイ」
リリー「乾杯~、ってギルド名いつ決まったの?」
セー「ま、そういう細かいことはこの際気にしないで。」
リリー「いや、全然細かいことじゃないでしょ!!」

セー「今回の作品には必殺技が使ってあるのよ!!」
リリー「・・・必殺技?」
セー「そう、数多の作者能力の中でもかなり上位に位置する必殺技。それは・・・」
リリー「それは・・・?」
セー「ズバリ、忍法『描写が面倒になったら思い切って場面を飛ばす』の術~っ!!」
リリー「なんだそりゃ~!! ただの手抜きじゃん!! (って、忍法?)」

セー「まあ、書き始めの話なんて、キャラ紹介がほとんどだし、少々イベント飛ばしても問題ないない。(でござる。にんにん♪)」
リリー「問題あるってっ!!(ところで『作者能力』はどうなったの!?)」
セー「とはいえ、このままだと伏線でも何でもないことに疑問点抱いちゃう人がいると思うので、ここで補足しちゃいましょう。(あなたには10の43乗プランク秒早くってよ!!)」
リリー「いいのかな~?(プランク秒っで何よ?)」
セー「いいの、いいのっ!!(時間の進み方の最小単位のことよ、約10のマイナス43乗分の1秒ね。)」
リリー「って、それじゃあ1秒じゃんっ!!」
セー「はい、喋った~、リリーの負け~♪」
リリー「どんなゲームよっ!!?」


セー「まず、翠水晶石はどうなったのか。」
リリー「あれは、帰りにリエステールの酒場に持ってったんだよね。結構大きかったから本来の報酬額より多く貰っちゃった。」
セー「けど帰りにリリーがカジノで全部すっちゃったから、店長に大目玉くらったんだよね~。」
リリー「してないっ!! そんなことっ!!」


セー「はい、では次のおたよりは、リエステール在住のリリーさんからです。えーと、『ギルド名はいつ決まったのですか?』、はい、リリー、答えて!!?」
リリー「えーっと・・・、って、それ、差出人私になってるし、でも私そんなの出してないし、そもそもいつからおたより形式になったのか分からないし、さっき私が質問した内容と同じだし、私が知ってるわけないし、あと、『細かいことは気にしない』はどこいったのよーっ!!」
セー「はい、よく言えました。」
リリー「はぁ、はぁ・・・。人で遊ぶなーーっ!!」
セー「では、私から回答を・・・。これは店長の所持する権限能力、『店長絶対権限(オーナーズ・アブソリュート)』の発動により店長が決めたのよ!! これを使われると居候のリリー達は逆らえないから。」
リリー「店長にそんな能力が・・・。って、居候って言うなっ!!」
セー「まあ、こんな言い方すると凄そうに聞こえるけど、ただ単に店長が決めたってだけよ。店の名前と同じだと、宣伝にもなるでしょ。」
リリー「能力は嘘?」
セー「嘘は言ってないわ、言い方を変えただけ。」
リリー「紛らわしい言い方するなーーっ!!」


セー「まあ、今はこんな所かしら。」
リリー「・・・なんかもう、疲れた・・・。」
セー「ではまた来週~♪」
リリー「また来週~♪ って、どこ向いて話してるの?」
セー「世の中。」