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『そこまでだ!!』

どこからともなく聞こえてきたその声と共に、上空から複数の矢の影がライト達に向かって降り注いだ。

その数、約十数本。

その声に素早く反応したライトと椿の2人は即座に戦闘を止め、それぞれ逆の方向へ横跳びに飛び退り、その間の地面に降ってきた十数本の矢が次々と突き刺さった。

「ったく、なんだ一体?」

喧嘩に水を差されたことに舌打ちをしたライトは、声の主を探すべく周囲を見渡す。

遠くを見れば、椿が同じように周囲に視線を走らせているのが見えた。

 

ザッザッと雪を踏みしめる音が聞こえてくる。

そちらを振り返ると、そこにはやはり防寒具に身を包んだ男が1人、こちらに歩み寄ってきていた。

「よう、あんた危なかったな」

防寒具に身を包んだその男は、こちらにやってくるなり馴れ馴れしく話しかけてきた。

弓矢を持っているところを見ると、スナイパーかなにかなのだろう。

「危なかったって、なにがだ?」

「鬼に襲われていたじゃないか」

まぁ事の発端を見ていない他者から見れば、あれは襲われていたと思われても仕方がない光景だろう。というか、鬼に素手で殴りかかるなんていう話は他の人が聞けば冗談以外の何物でもない。

なので、当事者であるライトはその男に一応訂正しておいた。

「鬼に襲われていた?それはちょっと違うぞ。オレが鬼を襲っていたんだ」

 

・・・それも少し違います。

 

あのままお前が水を差さなかったら勝っていた。と少々非難めいた言葉を吐くライトに、スナイパーと思われる男は最初首を傾げたが、やがて合点がいったという風に手を叩くと

「ああ、なんだ。あんた同業者か」

「同業者?」

「あんたも角狩りなんだろ?」

「角狩り?いや確かに今鬼の角の採取依頼を受けてるが・・・」

「やっぱりそうか」

聞きなれない単語にライトが首をかしげている中、角狩りを名乗った男は勝手に納得したように頷いている。

 

―――と、そこでようやくこちらの様子に気がついた椿が、険しい表情を浮かべながらずんずんと突き進みながらこちらにやって来て、

「貴様か矢を放った愚か者は!不意打ちなどと卑怯な手を使って、それ相応の覚悟はできているだろうな!?」

いきなり角狩りの男に食ってかかった。

まぁそれについてはライトも同意である。乱戦ならばともかく、1対1の喧嘩に水を差されるのは好きではない。

だが、角狩りを名乗る男が椿を見るときの態度は、ライトを相手にした時とは大きく異なっていた。

そう、例えるならば、まるで家畜を見るような。

 

「・・・ごちゃごちゃうるせぇんだよ。鬼の分際で」

 

「なに・・・?」と椿が問いかける間も与えず、スナイパーらしき角狩りの男は素早く椿から距離を取ると、背負っていた弓矢を構え、一息で矢を放った。

こんな不意打ちを受ければ、普通の人間なら咄嗟にガードするか、そのまま矢の直撃を受けるしかないだろう。

しかし、それに流石と言えるべき速度で反応した椿は、僅かに立っていた位置をずらすだけで難なく飛んできた矢を避けると、矢はそのまま椿の横の雪の上へ突き刺さった。

避けた椿は、1度地面に刺さった矢を横見に見て、それからどこまでも冷たい双方の眼で角狩りの男を睨みつける。

「―――なるほど、スナイパー風情が、接近戦ジョブも連れずに私に戦いを仕掛けるか」

「ク、ククク・・・戦う?そんなことができれば、の話だろ?」

「なんだと?」

何かを目論んでいるのだろうか、不敵に笑う角狩りの男に椿が迫ろうとした途端、

ギシッ・・・と椿の体の動きが不自然に止まってしまった。

「な・・・っ!?」

「オツムの弱い鬼のお嬢さんは俺をスナイパーだと勘違いしたようだが・・・、残念ながらハズレだ。俺はスナイパーじゃなくてアポリオンだ」

 

アポリオン。

スナイパーやエアレイドなどと同じく、弓矢を主体とするジョブの1つだが、その戦闘方法が他の2つのジョブとは大きく異なる特徴を持つ、ハイブリ職と呼ばれるジョブの1つだ。

その戦闘方法というのが、符という特別な触媒に矢を刺すことで発動する符術というもの。

アポリオンが使う符術は、主に敵の魂に呼応して力を増したり、敵に状態異常を引き起こしたりと、なかなか風変わりな技として知られている。

 

そしてよくよく見ると、月明かりに照らされてうっすらとできていた椿の影には、先程椿の避けた矢が深々と突き刺さっていた。さらにその矢に注目すると、その矢には何やら記号の様なものが書かれた紙の様なものが巻き付けられている。

 

「それが符さ。技名は『影縫い』。お前らみたいなおっかない鬼を封じるのには、まさにうってつけの技だ。

俺はお前らと違って真正面から何の戦略も練らずに突っ込むほど馬鹿じゃないんだよ」

 

何の戦略も練らずに突っ込んでいった馬鹿約1名が鬼狩りの男のすぐ隣にいるわけだが、

まぁこの際はどーでもいいか。

 

そして早くも勝利宣言をした鬼狩りの男を見ていた椿は、何を思ったか突然笑い出した。

その様子が不愉快なのだろう、男の顔から笑みが消える。

「・・・何が可笑しい?」

「フンッ、馬鹿め、私をこの程度で封じられると思うなよ・・・!!」

 

そう叫ぶように言い放ち、無理矢理1歩足を踏みしめたその途端、ベキンッ!と椿の影を縫い付けていた矢が粉々に砕け散った。どうやら椿の力に矢が耐えきれなかったようだ。

 

「ひっ!?」

男はまさか自慢の技を破られるとは思わなかったのか、途端に顔を青ざめて半歩身を引く。

その男に、椿はずんずんと迫ってゆく。その額にははっきりと青筋が浮かんでいた。

「・・・さて、覚悟はできたな?」

「お、おいウソだろ・・・!?ちょっと待てよ!!」

「問答無用!!」

最早男の声など殆ど聞こえていないように、叫びながら椿は拳を握り締めて男に殴りかかる。

―――だが、その瞬間、

 

『だから、策略なしで突っ込むわけないって言っただろうがよ?』

別の場所から他の男の声が聞こえてくると、何処からともなく複数の風切り音が鳴り響き、椿の影に突き刺さった14本もの矢は、今度こそ確実に椿を縫いとめた。

 

「が・・・!?」

「あっぶねー!オイもうちょっと早く撃ってくれよ。殴り殺されるかと思ったじゃねえかよ」

「しょうがねえだろ。向こうの方をやってたんだからよ」

 

どこからか姿を現した2人目の男はやれやれと首を竦めながら自分の仲間をなだめている。

―――迂闊にも、油断した。

 

「つ、椿・・・」

声のした方に視線を移すと、少し遠くでよく見えないが、どうやら先程の男にやられたのであろう、涼蘭や春華も同じ様な目に逢っているようだった。

そんな椿の気持ちを見透かしたように、2人目の男がにやにやといやらしく笑いながら口を開く。

「ああ、お仲間に助けを求めたって無駄だぞ?しっかりと縫っておいたからな」

キッと睨む椿は意にも介さず、2人目の男は椿の美しい紅蓮の角を無造作に撫でる。

その顔には満足そうなニヤニヤとした下品な笑みが浮かんでいた。

「おおっ、きちんと手入れがされていてなかなか良い角じゃないか」

「ッ!!汚らわしい手で触るな!!」

「ひゃー怖い怖い!!」

「鬼に食べられちゃうー!なーんてな。ぎゃはははは!!」

明らかに椿の反応を面白がっている。馬鹿笑いをする男達の態度は、誇りの高い者にとってどれほど屈辱的なことだろうか。それほどまでにひどい。

 

ぐっ・・・と奥歯を噛みしめて耐える椿に今度は先程とは打って変わって、まるで子供に諭すような優しい口調で椿の耳元に囁きかけた。

「いいかい鬼のお嬢さん?俺達がその気になれば、お前やお前のお友達なんか今すぐにでも殺すことができるんだよ?でもそうしないのはね、お嬢さんの角が、とても高額な値段で売れるからさ。つまりお前らは、俺達の家畜なんだよ」

 

そこまで言うと、男達は遂に堪えきれないと再びゲラゲラと笑いだす。

 

椿はもうこの男達の声を聞きたくなかった。

出来得ることなら殺してやりたいほど悔しい。

だがそれ以上に、こんな最低な下衆の策にまんまと嵌り、殴ることさえできない自分が憎かった。

 

「覚えていろ・・・いつか絶対に後悔させてやる・・・!」

「おーいいぜ。角を生やしたらいつでもこいよ。わざわざ角を差し出しに来るんなら俺達も楽だからなっ!」

ぎゃはははは!!と角狩り達がお互いに笑い合う中、悔しさで、角狩り達を睨む椿の瞳に涙が滲んだ。

そんな椿には気にも留めずに、そろそろ仕事を始めようと考えたのか、笑みを浮かべたまま角狩りの1人は椿の角にノコギリの様な刃を当てる。

「そんじゃ、角は頂きますますよお嬢さん?」

こんな男にむざむざと角を切られる場面を見ることに耐えられないのか、椿はギュッと固く目を瞑り、自らに起こるであろうことを覚悟した。

 

―――その時、

 

「・・・おい」

男を呼ぶ声と共に、ポンと男の肩に手が置かれた。仕事の途中に水を差された、と男が軽く舌打ちをして振り向くと―――

 

***

 

身に刺さるような寒さでティラは眼を覚ました。

ライトが椿に殴られて地面に叩きつけられた光景がショックで、いままで気を失っていたのだ。

うわ不味い凍えちゃうおじいちゃんから雪原で寝ちゃいけないって言われてたのに・・・!?と慌てて起き上がるなり、ティラは周囲の様子が何かおかしいことに気付いた。

何か、静かすぎる。

そう思い、立ち上がって周囲を見渡したティラの眼に飛び込んできたのは、

様子のおかしい涼蘭と、その涼蘭の角にノコギリを入れようとする男の姿だった。

その光景を見るなり、ティラの行動は早かった。

 

 

ミシィ!!と2人の男の顔面に、固く握られた拳と振りかぶられた機械杖がそれぞれ突き刺さる。

「人の喧嘩の妨害すんなぁぁああああああああ!!!!」

「涼蘭さんに何をしてるんですかーーー!!」

 

ライトの鉄拳は言うに及ばず、ティラの機械杖―――ティタノマキアも凄まじい威力を発揮した。

何せ杖の総重量もさることながら、通常形態のティタノマキアの先端部分は無数の金属パーツによって構成された凹凸がいくつもある凶悪な代物だ。

その様は魔法使いの使う杖というよりも、最早騎士が使う撲殺用のメイスである。

そんな代物で顔面をぶん殴られたら、どんな人間だろうと堪ったものではないだろう。

 

そしてそんなそれぞれの凶器でぶん殴られた角狩りの2人は、面白いくらいぶっ飛んで、雪の上へ勢いよく突っ込んだ。

「ぐぁあ!?い・・一体なにが・・・?」

雪の上へ突っ込んだ直後、何が起こったのか理解できていない鬼狩りへと即座に2人が詰め寄る。

「オイコラお前。オレにとっては角狩りうんぬんはよくわからねーし、正直どーでもいいがな。人の喧嘩に勝手に介入するんじゃねぇよ。OK?」

「あのですね。私だって怒る時は怒るんですよ?涼蘭さん嫌がってるじゃないですか。少しは人のことも考えてください!!」

 

立て続けに責め立てられた鬼狩り2人は、反論の隙もない一方的な文句にたじたじとし、止めにライトの「喧嘩の邪魔ださっさと消えろ!!」の一言と共に放たれた蹴り一発と、ティラの「もーいいですから帰ってください撃ちますよ!?」という一言と共に構えられた杖を見たことによって、肩を貸し合いながら慌ててその場から逃げ去って行った。

 

「まったく。とんだ邪魔が入ったな」

そう言って椿の元まで歩いてきたライトは、椿の影に刺さった無数の矢を、まるで雑草を引き抜くような要領で引っこ抜いていく。

別の所では、ティラが涼蘭と晴華の元まで行って同じように矢を引っこ抜きだしているようだ。

 

「・・・貴様、どうして・・・?」

「別に。ただ身動きできないお前をボコボコにしてもスッキリしない。それだけだ」

 

半ば信じられないようなものを見ているように問いかける椿に、ぶっきらぼうにそう言ったライトは一旦止めた作業を再開する。その姿を見ていた椿はその後口を開かず、その作業をただ呆然と黙って見つめていた。

 

 

「やー、ティラには助けられちゃったねー。ありがと」

矢の束縛から解放された涼蘭が背伸びをしながら笑顔でティラへお礼を言う。その後ろでは晴華も声こそ小さくて聞き取りづらかったが、「どうもありがとうございました」と頭を下げていた。

 

それを見たティラは「べ、別にそんな頭なんか下げなくてもいいですよ!」と何故か大慌てだ。

 

「ほらほら椿―。助けてもらったんだからお礼くらい言ったら?」

「礼はどうでもいいからオレの仕事を手伝え」

「ちょ・・・ちょっとライト・・・」

その発言は少し不味いだろうとティラと涼蘭と晴華がギクリと冷や汗を流し、3人揃って恐る恐る腕を組んで少し離れた位置に立っている椿を伺い見ると、

「・・・そうだな。助けられた借りができた。手伝ってやってもいいぞ」

椿は腕を組んだまま了解したと頷いた。

 

そんな椿を見た涼蘭は、まさか椿がそんなことを言うとは思っていなかったのか、ひどく驚いた表情で見た後、しばらくして何かに気が付いたような含み笑いと共に、好奇の視線を椿に投げかけた。

「・・・あれ?椿、もしかしてホレ」

 

ガッ!  あー!

 

涼蘭が何かを言おうとした瞬間、椿の拳がそれを黙らせる。

涼蘭の頭に拳を振り下ろした椿は「ふんっ」と両腕を組むと、片手で頭を押さえて呻いている涼蘭を睨み下ろした。

「勘違いするな涼蘭。危ない所を助けられた借りを返すだけだ」

「椿、それって・・・」

涼蘭は涙ぐんだまま自分の頭から手を放し、なにやら神妙な面持ちに表情を切り替えてから小首を傾げて、

「・・・つんでれ?」

 

次の瞬間、涼蘭のドタマに遠慮の欠片もない鉄拳制裁が突き刺ささる音がしたのだった。

 

***

 

吹雪の中、2人の角狩りが互いに支え合うようにしてクロッセルへの道を辿っていた。

「ちくしょうあの野郎!!俺達の邪魔をしやがって!いつか後悔させてやる!!」

角狩りの片割れがそう憤ると、もう片方の角狩りもそれに同意するように口を開いた。

「ああ、それにあの鬼共も角を狩るだけじゃ腹の虫が収まらねえ、もっと酷い目に合わせてやる・・・!!」

お互いに悪態をつくことによって、行き場のない発散させる。

 

だがしかし、それにしても、と冷静を取り戻しつつある片方の角狩りは疑問に思いだしていた。

一体、いつになったら町に着くのだろうか?

あの場所から町までの距離なら、もう既に辿り着いていてもおかしくはない筈なのだが、辺りには相変わらず吹雪の白と薄暗闇しかなく、町の光さえ未だ見えない。

まるで、吹雪の檻に閉じ込められたような、そんな感覚すら覚える。

先程、正確には狩りの邪魔をされて逃げ始めた頃からまるでタイミングを見計らったように吹き始めたこの吹雪は、一体何時になったら止むのかとイライラした様子で舌打ちをした。

 

すると突然、2人のいる場所だけ吹雪が2人を意図的に避けるような不自然な動きを見せた。

―――いや、違う。

 

「―――里の者が世話になったようだな」

 

それはあたかも民が王のために道を開けるように、吹雪が彼とその周辺だけをさけて吹き荒んでゆく。

 

「俺にも人間の友は数多くいるから、人間自体は否定しない。角狩りも賛成こそしないが、鬼と解っただけで始末しようとしたあの頃に比べれば可愛いものだ」

だが、と彼は逃げ腰の2人を無表情に見下ろしながら付け足した。

「里の者をまるで家畜のように扱い、我らに対するその言動を聞いては、里の長として挨拶しておかねば失礼だろう?」

彼が、恐怖に支配されて身動きのできない鬼狩り達に向かって一歩足を踏み出す。鬼狩り達は、自分たちに近づいてくるその一歩一歩の歩幅が自分たちの寿命なのだと知った。

「く・・来るなぁ!!」

角狩りの1人が彼に向って矢を放った。それは意図的と言うよりは、恐怖から反射的に行った動作に近いだろう。

そしてその矢は彼にこそ当たらなかったが、その後ろの彼の影へ突き刺さった。

彼らのジョブはアポリオン。矢が外れてしまっても、その矢が影にさえ突き刺されば拘束術『影縫い』が発動できる。そして角狩りは実際にそうした。だが―――

その矢は、彼が少し動いただけでまるで力に耐えきれなかったようにやすやすと弾け飛んだ。

影縫いは影を射た相手の全てを拘束できるほど万能な技ではない。椿の例を見るように、強い敵を拘束するには何本もの矢を影へ打ち込む必要があるのだ。

ならばと、2人の角狩りが一斉に矢を放った。影に刺さった矢に数は14本。そんな座った態勢からよくもまぁと感心するほどの数だ。

 

―――だが、それでも、

 

「なっ・・・」

 

彼を止めるには、全然足りない。

 

椿の動きを完全に封じることのできた14本もの矢は、彼がたった1歩踏み出しただけでバキバキと連続的に、そして一斉に砕け散った。

 

角狩り達の顔が一瞬にして青ざめる。もう矢は残っていない。

 

もう強いとか格が違うとかそれどころの話ではない。

最早、次元が違った。

 

こんなもの、勝てるはずがない。そう角狩りが思った矢先、ついに鬼狩り達と彼との距離がゼロになる。

「―――褒美だ。消え失せろ、雑魚が」

 

そう彼が言った途端、2人の鬼狩りの男達は悲鳴をあげる間もなく蒸発した。

 

 

「―――神龍丸様」

吹雪の中で佇む彼の背後から、何時の間にいたのか、凛と澄んだ女性の声が彼に声をかけた。

外見年齢20歳前後の若い女性だ。

髪の色は黒、瞳の色は紫。

和服にも似た衣服から覗く素肌は白く、その一挙一動の動作には芯が通っている。

清楚可憐という言葉の似合うその容姿は、同性が見ても思わず見とれてしまうだろう。

だがその額には、瞳と同じ色の角が生えていた。

 

「・・・朝香緒(あさがお)か、どうした」

「それはこちらの台詞です。里の大頭である神龍丸様が、何も賊の数人程度のためにわざわざ出向かなくてもいいではないですか」

「偶々近くを通りかかったから出向いたまでだ。わざわざお前を呼ぶ程の事でもないだろう」

それに対し、朝香緒と呼ばれた女性は特に反論を言うでもなく、ただ「そうですか」と呟き、体重を感じさせない静かな挙動で彼の斜め後ろへと―――まるでそこが自分の場所だというように―――控えた。

「俺が離れていた間、里の方はどうだ」

「相変わらずで」

「そうか」

従者の答えに軽く頷いた彼は、顎を撫でながら少し思案した後に、再び口を開く。

辺りを見渡せば、吹雪は既に止んでいた。

「・・・ふむ。偶には里の方にも顔を出すとしよう」

 

そして彼は踵を返し歩き出す。その後からぴったりと寄り添うようにして付いてくる従者を従えて。

「帰るぞ」

「御意」