「求められるのは薄氷の交差。
薄皮一枚未満の、直撃に限りなく近い完全回避が理想―。」

目の前の男、レギウスが剣を模した木を二本構えながら言った。

「武器を持たないお前は、ただひたすら回避方法を身につけることを考えろ。
間違っても反射的に手を前に出したりするんじゃないぞ。いいな?」

手加減。

そんな言葉、俺の辞書には載ってない。

まるで、その言葉を態度で示すかのようにレギウスは容赦なく剣を振り回してくる。

「レウィス、お前がいまやっていることは回避ではなく逃げだ。
逃げたいのなら逃げるといい、だがよく考えろ。
痛いのが嫌だ、そんなことを考えているようならお前は誰一人護れなどしない。」

誰も護れない。

その言葉が悔しかった。

しかし、それが今の現実。
理想とは程遠い、実力。
でも此処で諦めたらこの先他人を護ることも自分自身を護ることもできなくなるような気がした。
一生、何かから逃げ続けるような日々を送るような気がした。

「動きをよく見ろ。速さに目を慣らし可能な限り敵のパターンを読みきれ。」

パターン…。

フィールドに転げ回り、追撃をやっとの事でかわしつつ
それを見ていた。

素早い攻撃で反撃の隙を与えず
更に自分のペースに巻き込み、相手が体勢の維持ができなくなった直後
力任せの一撃に転じる。

隙が生じるのは、力任せの一撃を放つ瞬間だ。
この時ばかりは力の溜めが入り大きなスイングになる。
反撃の時は、力の溜めに入った瞬間。

「どうした、もう終わりか?」

木刀を弄びながら、レギウスは言った。

「ま、まだまだ。」
「無理はするなよ?」

意地悪い笑みで、笑った。
その笑い顔――、歪ませてやる。

ちょっとした決意を秘め、再び回避訓練を開始した。

タイミングはわかっている、けど想像通りに物事は進行しない。

「くっ…」

避けるのが一杯一杯で、足がもつれそうになる。

「あっ…。」

重心が後ろにかかりすぎた。

「もらったっ!!」

大きく振りかぶった。

 

 

 

 

「なんて、ね?」

ちょっとしたフェイント
わざとずらした重心を前に倒し
今まで痛い目にあった、その仕返し。
剣が振られる寸前にスピードをつけて蹴りを入れた。

「がっはっ、げほッ…。」

鎧を着けていなかったため、諸に蹴りが入ったらしい。
ざまぁみろ、だ。

「く、い…今の蹴りは効いたぞレウィス。
言っておくが、俺はあのパターンを永久的に繰り返しているわけじゃないからな。
次は反撃させないから、覚悟しておけ。」

以外に師匠は負けず嫌いで、その後一度もパターンの解読も出来ずに
逃げ回ることしかできなかった。

後、手加減をしろと抗議したところ師匠は私にこういった。

「そんな言葉、俺の辞書には載ってない。」

……あぁ、そうですか。じゃぁ、もういいです。
こっちもこれからは手加減しませんから。


その日から、毎日不意打ちすることに決めた。

最終更新:2008年12月01日 20:19