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エメトゼロの爆発によって引き起こされた熱風によって飛ばされた先は指令室手前の連絡通路であった。
飛ばされた衝撃で短時間だが全員が動けないところに背後より何かが接近してきた。
前からで来たわけでないのでまず敵では無い、この一本通路は零の爆破によって通行不可になっている、加えてアイズシリーズもこの通路より奥には進行及び配置は不可能、そのようにプログラムされているからだ。
消去法でもはや一人しか当てはまらない。
「お前達…あの機兵を退けれたのか、ふ…見込んだ以上の力になっているな」
もちろんアイン、その人である。

彼はβ兵器との戦いの後、最終合流地点へと向かっていた。
しかし、下の通路にも上の通路にも配置されていたエメトゼロの量産機が配置されていて―――これも予想の範疇であったが―――この戦いでさらに時間を消費させられた。
そして下から上に上がる大部屋手前にあった最後の階段へ行く途中、例の大爆発があった。
その大爆発によって零の撃破、奥へ進行もとい飛ばされたことも知り折角開いた穴なのだからそれを利用して下から上へ竜の翼を生やして移動した。

アインの合流により、全員がようやく合流し、指令室前の小部屋に目と鼻の先の距離まで近づいた。
入る前にもちろん回復を行う、外傷は聖術、メンタルは薬で最低限癒し、体力は…流石に回復しきって無いが進む他無い。

この船が次に侵攻する大陸まであと数時間を切った。
一刻を争う時間になってきた。

 

そして扉を開ける。
その小部屋は普段なら会議室に使われているが今は机も椅子も一つも…いや、椅子一つと一人ならいた。

そこにいたのは、アルと瓜二つ、僅かに違うのは雰囲気だけかもしれない。それほどよく似た人物だった。
その者はここに入ってすぐ椅子から立ちあがり、必要なくなったそれも椅子に立掛けていた大剣で一刀の元に切り捨てる。
そして、その武器も、服装までもが同じ。

切り捨て終え、その獲物を地に突き刺し言い放つ。
「―――片割れの姉妹よ、待っていたぞ」
「もう一人の私…」
この状況を正確に理解できている者はアル、アリス、そしてアルによく似たその人しかいなかった。
アインはその記憶から探りだそうとしたが、すぐ止めた。
そして判断する。
彼女もまたβと言う名の兵器として作られたのだと。
流石にそれ以上は解らなかったようだが、理解していなくても今の会話で何か深い関係があることぐらいは察することが出来た。

「ここを死守せよ、とは言われていないし、する気も無い、すぐに行けばよい」
そう簡潔に言った。
その言葉の真偽を判断するのにそう時間は必要とはしなかった。
「ならば行かせてもらうぞ」
「あ…アイン! 本当に大丈夫なの?」
「彼女もアルだ。彼女のことは大体知っているつもりだ。そうだろ?」
そう言い、あとは無言でアインを先頭に四人は付いて行く。
ただ、アリスとアル、そしてその者は残ったままだが。

部屋を出る直前アインは残された者へ向けたのかこう言い、そのまま行った。
「吹っ切れろ」
と、ただそれだけだ。
誰に言ったのかは定かではなかった。

そして、五人が出て行ったところでようやくアルから声をかけた。
「まさか、こんなところで再び会えるとは…」
「私は会いたかった、そしてようやく再会できる日が来るその日を待ち侘びていたぞ…今は『アル』だったか」
彼女もまたβの冠を押された兵器として生命を与えられた者、『β‐49 AJ2』だ。

―――アルカナのトランプの一枚として元々は共にいた。しかし、この船に乗るよりもアリスの元へ渡るよりも遥かに昔にジョーカーの一枚―――もちろん彼女―――は紛失されていた。それが意図的なのか、誤って紛失したのかは今となっては確かめようもないが。
そういう経緯があり、アリスの元に渡った時は全五十三枚として扱われていた。
そして黒船の侵攻の途中のある大陸で彼らは彼女のカードを入手し、そして兵器として生まれ変わらされた―――

そういう経緯があり、どちらも心の奥深くでは互いのことを思っていた。
そして今もそうなのだが対するもう一人のアルカナジョーカーは剣を構えている。
彼らが出ていくのをこの目で確認してからだ。

「…何故我らに刃を向けるのですか、もう一人の私よ」
「今は『ワルツ』と名乗っている、その方が言いやすいだろう」
「ではワルツ、再び問いますが何故それを向けるのです」

数秒の沈黙、その後にその答えを言った。
「何故私は生まれ変わらされたのか、そして存在する意味を求めるため」
「存在…異議…」
アルはその言葉を咀嚼するように反芻する。
「しかし、それは」
「言いたいことは分かる、本当に戦うことで得られるのか、と」
「ならば、何故」
「アル、貴方はアリスと出合い共に何を見た? そして、何を得た?」
「…」
「解ってくれ、今の私にはそれしか語り合う術は無い」

そして言い終え、剣を構え直して言う。

「だが、その姿では真価を発揮できないのも確かだ。準備の時間も待てぬ私ではないのでな」
と言い、切っ先を此方から外し、地に向ける。

そこでようやくアルはアリスと会話をする機会を得ることができた。
「アリス様…」
「わかってる、いつか会ったらこうなるかも、って思ってたんでしょ?」
「…」
無言のそれは肯定とも取れた。
「さっきいってたでしょ、『ふっきれろ』って」
「あれは…」
「アル」
と短く言い。
「みんなも向こうにいる、早く行くには…言わなくてもわかるよね」
「…そうですね、ではアリス様、お願いします」

アリスはこくりと頷いて何かの詠唱を始める。

―――アルカナの兵を束ねし52を越えて立つ者よ
―――その者、真なる覚醒の時は今だ果たせず
―――その力、我が失いし魔力を糧にし
―――真の覚醒の時を待たずして
―――我が声に答えることを可とすることを望む
―――我にその力を示せ―――
『アルカナ・リコール』!

本来、この魔法は存在しない筈だった。
これも黒船が作り出した物の一つであり、無理矢理戦いの場へ出すためにこれを教えられたがこの状況では多いに役立った。
向こうの用件を満たさなければ恐らくはこの場を切り抜けることはできなかった筈だ。
それはワルツの方がより深く幹部より情報を持っていたからだ。もしなかったらジョーカーの呼び出す条件を満たすまで戦わなければならなかった筈であった。
そして、魔法の効果は解き放たれ、アルを真の姿『アルカナナイトジョーカー』へとその装備も、能力をも変える。
「アリス様、暫し主への護衛に付けぬことを心得て下さい」
「…わかってるよ、アル、きちんとけっちゃくをつけて」
「了解しました」
アルが能力を解放し、準備が出来たことを確認すると、合図も無しにこちら側へと距離を詰め始めた。
アルはアリスを主戦場から遠ざけるようこちらからも詰め合う。
そして剣と共に二人は交差する。
そして何度かの打ち合いのあと、攻撃方法を先に変えたのはワルツ。
剣撃と剣撃との間で得た衝撃を利用し、小さく後ろに下がり、その距離を利用しての超突撃。
それはアルも解っていて、かわすべく軸移動をする。無闇に動いてもあの攻撃はかわせない。超突撃のは伊達では無く威力も速さも非常に高い。あれを対処するには何かしら対抗策を持たなければ対抗は困難だ。
軸をずらす、それだけだが、突撃の最中には思う以上に軸の移動ができない。それが欠点でもあるのだ。
しかし、この突撃は直前で急に突撃から薙払いへと変化したためアルは薙払いの少し前まで対処ができず、剣を守りのために軌道上に出す。
再度剣より風が起こり、互いの髪を僅かな本数だが切り、それは風で飛ばされた。

「腕が鈍っているのか、アル?」
「これでも彼らと訓練代わりにしていましたのでね」
「それでもだ、対処が遅れたのは…私が早いか貴方が遅いかのどちらかだ」
そう言って再び打ち合いを開始する。
アルもワルツも攻め合うがどちらも攻めあぐね、決着はつかないかもしれない、と一時は思われたがその思いは打ち砕かれることとなった。

「私もエネルギー制でな、そろそろこの剣に力も思いも、全てを乗せよう」

そう言い、直後これまでよりも更に距離を詰め、剣がギリギリ扱える絶妙な距離で剣を振り回す、もとい、乱れ舞うように剣を操る。
そして、アルは彼女の思いもこの剣から先よりも強く感じることが出来た。

思いを込めぬ、ただ虚無感だけが流れていた先とは違う。

迷い。
彼女はこの状況に迷っている。
正しいか正しく無いかは分からなかったが、意味があるのか。いや、あったのか。

思いは感じていた。
そんな思いだけも悠長に感じる時間はアルにはなかった。
当然乱舞攻撃は続いていたからである。
しかし彼女は考えてしまった。

その一瞬の緩み。
その一瞬、手から剣は弾き飛ばされていた。

刹那、切っ先は彼女を『たち』斬るべく襲ってくる。
判断は一瞬。
一瞬あれば十分だった、背に背負っていた物を手に握るなら。
「二刀目の剣…」
アルが背負っていた剣は『ジェノヴァ』戦うべき相手に剣は力を発揮する聖魔の剣。
それが今光を得ている。

「何だ…その光は…」
「やはり『きる』べき、ですか…」
そう言い、アルは反撃を開始する。

アルカナナイトジョーカーの持つ剣は確かに強力。
しかし、この場合はどうなのか。

聖魔の剣はそれをも上回る、そしてアルも決心を付けた。
対するワルツは徐々に能力が下がってきている。

原因は三つ。
一つ目はユニットの能力だ。このユニットは時間が経過ごとにエネルギーが下がって行く。短時間だから影響は殆んど無いが若干は下がっていた。
二つ目は聖魔の剣。切るべき相手に最大の威力を持つこの剣より放たれる輝きは対象の能力を若干下げる。
三つ目は心だ。迷いを消した者、迷いを持つ者、これも若干だが影響を及ぼす。

それぞれの影響は小さいが重なり合うと目に見えるようになる。

(どうやら、これまでか)

こうなるとアルの押しは止まることを知らない。互いのことは自分のことのだから考えも、力も知っている。
但し、切るべきものだけは見失わない。

(そうか、私は…)

この数回の剣撃は力を発揮したアルは力を発揮できないワルツの手から剣を失わせるのは困難ではなかった。
そしてワルツの体を光輝く刃は一刀の元に切り捨てる。

(私は…ただ、生きる意味が欲しかっただけ…そして…)

薄れ行く意識の元で最後に彼女は思う。

(嫉妬…していただけかもしれなかったな…)

そしてワルツは元の姿、カードへと戻ることになった…

 

戦いを終え、僅かな時間を置いてからだ。
その場にいたのは三人。
アリス、元のメイド姿に戻ったアル、そして…

「―――私は…斬られた筈だが…」
「あの剣は『きるべきもの』にしか効果は得ないのです」

―――ワルツの本体を斬った訳では無い。
斬るべきもの、それは。
彼女の心を迷わせた原因にもなり彼女をトランプより実体化させるのに必要だった物、ユニットだ。
しかし、それは彼女には必要無かった。
必要の無い物、それだけを断ち切った。

きるべきはそれだけでは無い。
お互いの必要の無かった思い、迷いもその一刀は斬ったのかもしれなかった。

カードに戻った彼女はアリスの元にあるアルカナのトランプの一枚として再び元の正しい位置に置かれ、彼女は今も実体を維持することができる。
それは多分、これからも。

「こんな私だが…本当にいいのか?」
「私達が遠慮をする必要は無いのですよ、最初から」
「うん、それに…」
「アリス様?」
「家族がまたふえた…いや、もどった、かな?
それはわたしも、アルも、ワルツも、みんなが幸せになれる。
ただ、それだけでいいんじゃないの?」
「…やれやれ、まだ大した年を召されてない主に悟らされるとは…」
「でも、じじつでしょ」
「…アルはこの主をどう思う?」
「どう、と言われましても…」
「いい主に巡り会えたな、我らは」
「…そうですね」

そこで会話は一旦途切れた。
区切りもよく、アリスがまとめる。

「それじゃあ二人とも、みんながまっている奥へ」
『はい』
その言葉は二人が同時に言ったものだった。

アリスを真ん中にアル、ワルツと手を繋ぐようにして奥へと歩を進めた。

 

―――繋いだ手を離さ無いように…