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…アルとワルツの戦いの始まる直前のことだ。

「ここが…か」
アイン一行は指令室の扉を開け、中に入った。
暗闇の中、指令室の中にあったのはただ一つ。

何かカプセルのような形をした扉―――転送装置、そう表現するのが正しいだろう―――ただそれだけがあり、四人の幹部の姿はどこにも無い。
その扉の上に設置されていた装置から音声と立体映像が流れる。

『これが再生されたということはここに到達したか、抗う者達よ』
そこより流れてきた声はこの船の総指揮者、シャマルその人のだ。
『回りくどいことは言わない、決着を望む。そうであろうアイン』
「…」
アインはその声に目を閉じ、無言で聴きいっている。
『あいつらも下がらせている。邪魔は入らない、この場所に来い。それだけだ』
『あいつら』とは勿論幹部の三人だ。
同じ空間にはいるだろうが邪魔は一切入らないのは恐らく間違いないだろう。
「…悪いな、お前達。待っていてくれ」
「アイン…」
「分かってるからさっさと終わらせようぜ」
「同意だ、少なくても侵略が正しい行為とは思えぬ」
「そーだよ、こういう時はただ『行ってくる』それだけで十分」
「…すまんな、行ってくるぞ」

と、四人の思い思いの言葉を聴き、それだけ言って振り返らずにその扉に入る。


「…黒船の技術ではまたしても無い物…か」
その扉は予想通り転送装置、アインは異空間に飛んできた。
この空間は空間よりも部屋と言った方が正しい。
何も無い、四方を壁に囲まれた広い空間。
壁の様なものも見えるが現実かどうかは定かではない。
ただ、現実として認識できるらしいのは彼自身がよく分かった。

「来たか」
そう手短に言ったのはこの空間に入って最初から目視できる距離にいた人、もちろんシャマルだ。

「あいつらは?」
「察してる通りこの空間にいる…但し手出しはさせない、いや、出来ないだろう」
その言葉を聞き、早速アインは構える。
「ならば確認することは無い、始めるか?」
「…焦るな、アイン」
と、ここで会話を求めてきたのはシャマルの方だった。
「お前をここに喚んだ時のことを思い出してな」
「…」
アインは無言で聞き流そうとするがどうも無視はできない。
一時、深い関わりがあったのが原因で、彼自身もそれが深く根付いていて切り離すことは今でもできない。
彼はシャマルに召喚された者。シャマルが何らかの力を使って、だ。
そして召喚されたのは侵略活動を開始する直前だった。
気が合っていた時期があったのもまた事実であった。

「あの頃は気が合っていたがどうしてこうも逆らいたがる」
「侵略は正しいことか? 否、違うな」
「それは本心からでは無いな…まあいい、続けろ」
「そして間違いに気が付いたからだ」
「それは何だ?」

「自分の胸に聞け」それは心の底から言う。吐き捨てるようにだ。
それには怒りや憎しみ。そんな感情も含まれていた。
「そうか…あれか、あれからだな」
「最初は気付かなかった。だが、気付いた。それだけだ」
「だがな、アイン。それは捉え方を変えると肯定のための理由とも取れないか?」
無言の肯定。
「そうかもしれない。だが、俺もこれに囚われるのはここで終りにしたい」
彼自身色々と変わる物ではないとも思った。

人は簡単には変われるものでは無い、性格にしても、心情にしても。
彼の行動に興味を持ったから一時は協力し、途中までは協力していた。
しかし、止める必要があると決心させた出来事、それがなければもしかしたら今も協力を続けていたかもしれなかったと彼自身も思っている。
この船は海賊まがいのことをしながらも各地の技術、この船の未知の技術を取り込んでいる。そこに惹かれ、協力していた。
もしかしたら何かを変える技術、それをも産み出すかもしれないと思っていた。
確かに、この世界の技術に革新を起こすような代物もこの船は作りだした。彼もまた技術も、知識も、それだけで無くここで得たものは色々とあった。

しかしそれと共に産み出してはならない物も数知れず作り出したのも事実だが、それもまた革新なのだろうとあの時は感じていた。

しかし。
この船の者達の本性を見た。
そして、この船の行き着く果てに何が見えるのか分かった分けでは無いが、いる意味もまた無くなった。
それは、彼がここで得たものの一つを壊された事件。それを通してだった。
…結局の所、この船に反旗を翻したのは彼自身のためでもあった。
彼だけでもなく、だが。

そして今の行動を決める要因、それは周りの変化か、周りの変化自体に流されているだけかもしれない。
若しくは―――

「言われるまでも無い、決着の刻だ」
過去の回想の余韻も覚めぬまま決戦を促す。
「来い、私に逆らうことの」
「ご託はいい、行くぞ」

戦いは音も無く始まった。
刻はアルとワルツとの戦いの幕開けとほぼ刻を同じくして。

先に仕掛けたのはどちらからでもない。
タイミングは狙わずともほぼ同時だった。
アルとワルツの様に意思を疎通していた訳でもなく、カムシンの時の様に狙った訳でもなかった。
それほど素早さも技も拮抗していた。

(試してみるか…)
最初の攻撃を終え、直ぐ様仕掛けたのはアイン。
臥竜奥義の型の一つである、攻撃速度を追求した一式『雷』の構えから直ぐ様繰り出された掌擲。
それは『鎧通し』と呼ばれる技術で、鎧の内部へと直接ダメージを与える技だ。
シャマルの甲冑に直撃はした…しかし、効果がありそうにもなかった。
「今のは…鎧通しか? だがな…」
「効かないことがよく分かった」
シャマルの装備は普段肌身放さず持ち歩いている紫色の結晶がどこにもないのを除けば普段と変わらぬ大刀と全身鎧、甲冑だ。
対するアインも普段と変わらぬ軽装と拳。
全身鎧は威力の低めの武器に対しては特に絶大な防御力を誇る。拳も勿論低い方に含まれる。
本来動きが鈍い筈のしかも全身鎧でも彼はアインと対等に技を繰り出せるのは鎧が軽くなっているだけではなく、中のシャマルも相当早い。よって速さの差がつきにくい。
ダメージを与えにくい甲冑に加え武器の射程も劣る、大刀は近接武器ではハルバードや大槍に続く最大級の射程を持つのに対し拳は真逆の最も短い。

初撃を入れた以降、アインは攻めあぐね、シャマルが攻める一方となった。
鎧通しも効かず、素早さも対等かそれ以上。攻める術は直ぐ様見付かるものではない。
シャマルの攻めを身の早さや足の早さを追求した二式『風』で一撃一撃を見切りながらひたすら何か突破口を開こうと受け流しながら模索する。
「どうした? 手も足も出ないか?」
「試さんことには分からんな」
とりあえず、アインはある考えは浮かんでいた。
言葉通り試さないと分からないのも事実なのでシャマルの攻撃射程から外れる距離まで後ろに大きく跳ぶ。
それを追撃せんとシャマルは切っ先を此方に向けて突撃するが僅かな時間があれば構えを変え、実行するのには十分。
構えは気功を読みやすくする型、六式『光』その構えから僅かな時間を使い素早く気を溜める。
シャマルの大刀はその間に有効射程に入り、一度、二度と降られる。
その剣風に僅かに身を切り裂かれながら更に後退しながらも気功を溜め、溜め終える間も無く相手の懐へと飛び込み拳擲を再び鎧向け放つ。
振られた剣先が直ぐ様此方に向け直され、僅かに傷を負うが皮膚が少し切れただけで支障は無かった。
手に気を込め打ち据える『八剄』は鎧の上からでも気功は直接流れダメージに繋がると読んだ一種の賭け。これが駄目なら手段は僅かしか無くなる。
鈍い衝撃と共に衝撃は鎧に振動を与える。
それが伝わったという手応えは確実に手からも実感できた。
「効かんな」
「嘘を言うな、確実に入って動いてるだけでも驚きだ」
「だが、対したことは無いな」
今の一撃は確実にシャマルにダメージを与え、彼自身も鎧の上からダメージを与えられたことを少なからず衝撃を受けたようだ。
しかし、すぐに立ち直る辺りから本人の以上な体力と気力を感じることもできる。加えて、鎧の高い性能もだ。
アインは再び距離を取り、距離をとった戦いを仕掛ける。気功拳が効くと分かればそれに徹するしか他無いからだ。
どれほど威力を軽減されようが効くことは分かった。当分はこれで攻撃をするげとにした。
しかし気功を溜めるには僅かながら時間を要し、近付きすぎると有効射程に入り、遠すぎると近付くまでにより反撃を食らいやすくなる。
絶妙な距離を維持しながら行動し、更に向こうの攻撃も読み、此方の攻撃を当てるための距離を計算する。
しかし、シャマルも飛び道具はあることも計算に入れなければならない。
距離を計る途中でシャマルの不審な行動を一瞬だが見て着地予定の場所の一歩手前に着地する。
次の瞬間、着地予定の場所から火柱が出現し、熱風が彼の背後から遅いかかる。
「む…これはお前の力か、それとも…?」
「好きに判断すればいいさ」
火柱の召喚後、より攻撃は激しくなった。

 

―――後編へ