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カードの表と裏。
一枚一枚違う模様が描かれているのが表で、すべて同じ模様で統一されている裏。
カードを利用したゲームは、裏面からは区別がつけられないことこそがその肝であり、裏面の模様が違っていては意味がない。
トランプの神経衰弱などがいい例だろう。

……人というものも、案外そんなカードの表と裏のようなものなのかもしれない。
外見的には同じ双子でも、性格が全く違うことはよくあることで、外面だけ見てもその内側というのはなかなか分からないものである。




鏡合わせの少女

―夢の国より―






町の中を、歩く。
変わらないようでいて、毎日、誰も気づかないようなゆるやかな速度で、様相を変えていくのが人の町。
変わったと気付いたころには、以前の姿など忘れ去っていることも珍しくはない。
「もう、復興も終わっちゃってるんだね」
北部の首都、リックテール。
大陸の南北の中央である二大都市の内の一つで、北部で最も人が集まる街でもある。
……ゆえに人探しをしているのであれば、情報を探すにせよ直接見つけるにせよ、首都程適した町はないだろう。
「時間の流れ方は私たちの世界と同じようですね。 あれからずいぶんと時間は経過しました」
一人の少女に付き従う二人の内の一人が、少女の言葉に落ち着いた様子で応える。
少女の腕の中には一匹のウサギが抱かれ、人波に興奮しているのかぴすぴすと鼻を鳴らしていた。

復興――と聞くと、今のこの世界において思い出されるのは、あの”黒艦”の一件だろう。
艦そのものは支援士達の活躍により上陸前に阻止できたのだが、飛行能力を持った魔物達による航空部隊により、大陸の内部にある主都もずいぶんと打撃を受けていた。
もうすでに過去の話ではあるが、彼女たちは当時の事を少し思い返していた。
「しかし……いかがいたしましょう。 こちらの地理に関しては、さすがに」
どこから来たのかは定かではないが、すくなくともこの地方の出身ではない、とその会話からは察することはできる。
旅の経験の少ない新米の支援士も多く来る街だけに、その程度の存在はそこかしこに溢れ、今更気にかけるような人間はほとんどいないと言ってもいい。
まぁ道を聞けば教えてくれる、程度のものはあるかもしれないのだが。
「じゃあまずは、情報を集めよう? お姉さまは有名なはずだから……聞いて回ったら、居場所くらいわかるかも」
「はい。 ……では、酒場に参りましょう。 経験上、情報が集まり安い場所ですので」
「わかった」



「……あ、でも私は入れるのかな?」
「大丈夫です。 確かに少々品位に欠ける者も多く集まる場所ではありますが、私達がついておりますので」
「それに、この世界では飲酒そのものに年齢制限はないようですし」
「とは言っても、できればご遠慮願いますが……」
「大丈夫、もう少し大人になるまで、お酒は飲まないから」









僅か14歳という少女と言えど、単身酒場に身を置くことは特に珍しくはない。
それは支援士という職につく者は、どんなに早くとも12歳、平均すれば、おそらくその年代が起点になる者がほとんどだからだ。
……まあ、その年で町の外への仕事をしようとするなら、適当にでも臨時の同レベルの仲間を見つけ、共同で当たるのが普通ではあるのだが。
「はい、届け物完了の証明書」
彼女――ベティ・ベルレフォートは、14歳という若い者にしては優秀な方である。
北部の貴族、ベルレフォート家の令嬢でありながら、幼いころより武芸を学び、今では一介のドミニオンとして支援士稼業を行っている。
南に『白麗の戦姫』クローディア・プレスコット、北に『黒陽の戦姫』ベティ・ベルレフォート
……南北二対の姫騎士……いずれはそう呼ばれるような、貴族出身の支援士の一人になるなどとささやかれていたりもするが、まぁ今はただのどこかの誰かが言い出しただけの妄想である。
若いだけに、まだまだその力は荒削り、実際に二つ名を得るにはまだ早い。
「おお、ごくろうさん。 ほれ、報酬だ」
マスターから受け渡された金額を確認して、財布にしまうベティ。
貴族のご令嬢という立場から見れば、たかだか届け物の報酬など大した金額ではないだろう。
しかし、ベティにとっては自分の力で稼いだお金という意味がとても大きかった。
「しかし、お嬢様がそんな小銭稼いでなにに使ってるんだい?」
まあ、そんな質問も多いのは仕方ないだろう。
今回連れ立った新米の――といっても同じ年齢だが――ブレイザーの少年が、カウンターを離れた後にそう訪ねてきた。
「個人的に欲しいものは、自分のお金で買いたい、と思ってるだけだから」
「そんなもんかねぇ」
いまいちその感覚がわからない、とでも言うように首をかしげる少年。
ベティは慣れた調子でその一言をあしらい、別れを済ます。
……今の彼女の腕ならば、街道を渡る程度の仕事であれば、書簡の伝達どころか護衛くらい一人で受けてもいいレベルだろう。
それでも、時折こうして新米に力を貸したり借りたりしている理由は、どういったものだろうか。
「さて、と……今日はもう帰ろうかな」
もう一本仕事を受けてもいいが、モノによっては時間的に微妙なラインになりうる。
この日は素直に家に帰ることにし、酒場から外に出て行った……丁度、その時だった。


「お姉さま!?」

聞き慣れない声
――といっても町の中にいて聞こえてくる声など、9割は聞き覚えのない声ではあるのだが……
その声は、他のモノには無い確かな意志のようなものが、自分に向けて発せられたものだということが感じられた。
ほぼ無意識的にその声の主へと目を向けると……
「――え?」
まず映ったのは、金髪碧眼で青空色の大きなリボンをつけ、同色のエプロンドレスを着た女の子――
が、思いっきり自分に向って抱きついてくる様だった。
その背後に二人ほど剣を背負った、鏡でもそこにあるかのようにそっくりなメイドが二人いたような気もするが、あまりに急な展開に動揺してそちらの方まで気が回らなかった。
「え? 何?」
酒場の戸の前で、がばっという効果音が聞こえてきそうな勢いで抱きつく女の子と、その行動に戸惑う少女。
そしてそれを特に手を出すわけでもなく見守る二人のメイド。
……傍から見てもよく分からない状況が、そこでは展開されていた。