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「ディスケンスさん。」
「何だ?弟子。」

あなたの弟子じゃないんですけど…。

「この絵、あ。」
「知る必要は無い。
知りたければ、可能性に賭けて時が経つのを待つといい。
それまでは、閉まっておいた方がいいんだよっと。」

絵を手に取ると、倉庫の扉を開けて投げ入れられてしまった。

「……どうして教えてくれないんですか?」
「知るべきことじゃない。少なくとも、今はな。
あぁ、俺もお前に聞きたいことが一つあるんだがいいか?」
「え?」
「お前さ、よく寝言で“レウィス”って単語が出て来るんだが誰だ?
おっと勘違いするなよ?ききたくてきいてるわけじゃないんだからな。
おーい、人の話を聞いてるか?」

寝言にまで出てくるのは、最近頻繁に見るようになった夢の所為?

「おい、弟子。」
「あ、はい。えっと、レウィスっていうのは…。」
「いうのは?」

黙っているよりも、伝えた方がいいのだろう。

「僕の、妹です。」
「…妹?」
「はい、正確に言えば生死共に行方不明の妹です。」
「生死共に行方不明だと?聞き捨てならんな、何故それを黙っていた?ジャック。」

寝ぼけ眼の師匠が、部屋から顔を出していった。

「え、っと…その。」
「何故、もっと速く言わない!?」

酷く苛立たしげな声で、それも寝起きだから目つきが悪い。

「おい、エールリヒ。凶悪な顔になってるぞ?
今なら熊を一睨みで殺せるくらいの顔だ。
今すぐ顔を洗って来い、これは命令だ。ゴーゴーゴー。」

人差し指でビシッと進路を指差し、

「ほら、速く行けよ。言っておくがな、お前の睨み顔なんかこわくねーよ。」

促す。

「エールリヒ。」
「うるさいな、寝起きはこういう顔なんだ。
まず話せ、その行方不明で生死不明な妹の事を。」

―――

「なるほど。」
「それじゃ、行方も生死もわからん訳だ。
ところで、お前達の家を襲撃した奴の特徴を覚えては無いか?
鎧の模様でも、武器でもとりあえずなんでもいい。」
「……。」
「覚えちゃいないか。
まぁ、それは普通なことだ。
大抵そういうときの記憶は酷く曖昧なものなんだ。
妹の事は、酒場のマスターや他の支援士の連中に聞いてみるとしよう。
で、エールリヒ。何時までそんな顔してるつもりだ?
ほら、さっさと顔を洗って来い。行った行った。」

最後までむすっとしていた師匠は、今度こそ素直に顔を洗いに
ふらふらと歩いていった。

「ジャック、それなりの覚悟はしておけよ。」
「え?」
「どんな結果であれ、な。」

“じゃあ、俺は。”そういうと、ディスケンスもまたフラフラとした足取りで
外へと出て行き人混みの中へと消えていってしまった。

どんな結果であれ。
その言葉は、まるで妹が既に死んだ。
そう告げているようで、だから覚悟をしろと言われている様で

「世界は広い。
たった一人の人間を、この広い世界から探し出すことは容易ではない。
人は街から町へ、大陸から大陸へ常に移動し続けている。
一度、生き別れた者に会える可能性は無くはないが…。」
「やめてください。
レウィスは、今じゃたった一人の家族なんです。」
「生きていたらのはな……悪かった。」

生きていたらの話し?
どうしてそんなことが言える?
死んだという証拠も何もないのに、希望も無いような言い方はあんまりだ。

「ジャック、待て。何処に行く気だ!?」
「何処だっていいでしょう。僕の勝手です。」

感情に任せ、工房の扉を乱暴に閉めた。

やっぱり、話すべきじゃなかったのだろうか?
師匠の言ったことは、間違いではない。
確かに、この広い世界で特定の人間を探すことなんでほぼ不可能に近い。

―――――

「わかってる、わかってるんだ。そんなこと。」


解ってるけど解りたくない。


「お兄ちゃん、だいじょーぶ?どこか痛いの?」
「え?」


顔を上げると、4,5歳くらいの子供が自分を見上げているではないか。


「大丈夫だよ。」
「ほんとーに?じゃあ、どうしてないてるの?」
「え、ぁ?あれ…?」

言われて気付いた。
目から頬へ、塩分を含んだ水滴が伝った感覚がある。

「かなしいの?いたいの?」
「どっちかっていうと、多分かなしいんだろうね。」
「じゃあ、これあげる!」

手渡されたのは、飴玉一つ。
よく“勇気の出る飴玉”そういって手渡される市販の飴玉。

「“かなしくなくなる飴玉”だから。」
「そう、ありがとう。」
「うぅん、いいの。」

かなしくなくなる飴玉、か。
何とも子供らしい発想だと思う。

「ばいばい、お兄ちゃん。」
「ばいばい。」

母親に手をひかれ帰っていく子供。
時間帯も夕暮れに近く、次々と家族連れが公園を離れていく。

「……羨ましいな、ちょっと。」

もう自分の傍に居ない存在。
家族という存在が自分の周りにいないことに寂しさを覚え
そして、家族という存在を持つ彼らを羨む。

「羨んでばかりじゃ何も始まりはしないぞ?」
「え?うわぁっ!?」

気配無く、背後に立っていたのはワインボトル1本を片手に
疲れた顔をしたディスケンスだった。
ついでに言うと、かなり酔っているらしくお酒臭い。

「帰ってねぇって言うから探しにきたら、餓鬼に慰められてるとはな。」
「…悪いですか?」
「なんていうか、なっさけねぇ?」
「情けなくてもいいです、別に。」

近寄らないでください。

「エリクシールは不老不死の薬である。」
「は?」
「○か×か」
「×」
「クリエイター…いや、錬金術師達はそう答える。
が、教会のお堅い連中は○であると答える。
クリエイターと教会の仲が最悪なのは、考えの違いから来た。」
「?」

何が言いたい?

「お前の父、ルキウス・ディタリアは研究を行う錬金術師達の中で
唯一エリクシールに近い男、そう言われていた。
輪廻の均衡を崩すかもしれない薬に最も近い男を教会が野放しにしておくか?」

それじゃ、まるで…

「しておくわけ、ないだろう?」

教会が、父さんと母さんを殺したような。

「そんなこと、教会がするわけっ」
「もしエリクシールを危険視する者が、独断で動いたのだとしたら?」
「ifの話でしょう!それはっ」
「可能性は無くはない、教会の仕業か、盗賊の仕業かは知らんが―
警戒しておいて損はない。息子であるお前も狙われる可能性もあるだろう。
ただ俺は親友を奪われ、ましてやその息子さえ殺されるようなことがあったら耐えられん。
ほら、帰るぞ。」