※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

―3―




「ぐあぁあ!!」
「!?」
その時、横からものすごい勢いで吹き飛んでくる盗賊の一人。
…今自分達が相手をしていた者では無い。 すぐ隣で、黒い服の少女と戦っていたうちの一人だ。
「…完全に気絶しておるの」
つんつん、と杖でつつきながら、エミリアが一言。
「……すごい子供もいたもんだな、5人全員倒したのか」
そして、飛んできたその方向に目を向けてみると、死屍累々と倒れている四人の盗賊と、涼しい顔で槍を肩にかけ、袖で汗をぬぐっている少女の姿があった。
さっきよりも多少傷が増えているようだが、どれもかすり傷程度のもので、盗賊達が善戦すらもゆるされなかったというのは、その姿を見れば容易に想像がつくだろう。
「ありがとう」
そして、二人の方に顔を向けたかと思うと、いきなりお礼の言葉を口にする。
二人は、一瞬なにが起こったのか分からずに、沈黙してしまった。
「な…何がだ?」
「私を助けようとしてくれたみたいだから。 そのお礼」
少し微笑んで、少女はそう答える。
その一言を耳にしたディンとエミリアは、一瞬キョトンと顔を見合わせるが……なんとなくおかしくなり、二人とも軽く笑ってしまっていた。
「いや、結局一人で倒してしまったようじゃし、私達は何もしておらんよ」
「ううん。 そこにいたのも、最初は私を狙ってたみたいだったし……バレバレだったから、無視してたけど」
「分かっていたのか」
「笑うどころか、哀れみすら覚えるのぉ……」
「それと、ごめんなさい。 そのせいで、その杖も狙われたみたいで……」
そうして少女の目が行くのは、言葉通りにエミリアの杖。
先端の宝石は、青く澄んだ輝きを見せている。
「ああ、こいつが狙われるの、今に始まった事じゃ無いからな。気にするな」
「ざっと15、6回といったところじゃな。 馬鹿どもも、さすがにこの杖の価値は分かると見える」
エミリアは、杖の先にぐるぐると布を巻きつけていた。
その布の内側にある杖の先端には、杖の魔力増幅を担う核として、アクアマリンが据え付けられている。
『轟雷』の他に『氷河』の能力を持つ彼女には、水を象徴する石であるアクアマリンが核に使われた杖は、この上ない武器となっているのだが……
「…確か3億で売ってくれなんていわれた事あったな、その石」
「うむ。 なんせ直径にして25cm、宝石としての質も最高レベル。だからこそ杖の材料として申し分ないのじゃ」
「質とかはよくわからんが、売る気は無いんだな」
「無い。 仮にも私の研究の結晶でもあるこの杖を、易々と他人の手に渡したくは無い」
杖の核とするための石は、純度が高ければ高いほど、大きければ大きいほど、強い力を蓄えることが出来る。
発見当時、一応鑑定に持ち出したところ、アクアマリンとしては最高の評価を与えられるというサンタマリアの種類である上、その品質と大きさから『Queen of SantaMaria』と呼ばれていた程の名品だったが、その時の彼女の目には、恐らく換金よりも実験用の素材に映っていたことだろう。
ちなみに、宝石の種類から杖の名前は『サンタマリア』とつけられている。
……わざわざ布で杖の先端を隠すのは、その巨大なアクアマリンを族になどに見せない為であることは想像に難くないのだが、どうやら族の間でもすでに杖の存在が噂になっているらしく、あまり意味を成しているとは思えなかった。
「ふぅん。 宝石の価値とか魔法とかはよくわからないけど……大事なものなんだね」
「まあ今ではなかなか愛着もでてきたからの。研究の成果とか、そういうのは関係無しに大切なものじゃ」
「……そういや、今回の目的地もそいつの原石を見つけたのと同じ……モレク鉱山だったな」
「うむ、そう言う意味では、あのダンジョンは縁起はいいかもしれぬな」
「そいつの時のように、都合よくみつかりゃいいんだが……」
サンタマリアを見つけたのは、洞窟内戦闘で崩れた岩の中に巨大な原石がころがっていたという、幸運以外の何者でもなく、そんな都合のいいことがそう何度も起こるはずは無い……
そう思うディンは、エミリアほど楽観的な態度をとる事は出来なかった。
「鉱山に行くの?」
「ああ、なんか新種の鉱石が見つかったとかでな。 コイツが欲しいっていうから探しに来たんだ」
「もしかしてお主も鉱石探しにモレクに来た口か?」
「ううん、盗賊退治の帰り。 これはその残党」
すっと手を広げるようにして、周囲に転がっている盗賊達に目を向ける。
全員、きれいに白目を向いて気絶していた。
「……そういや、こいつらどうするんだ? 死んじゃいないと思うが」
足元に転がっているうちの一人を軽く蹴っ飛ばしながら、その扱いを問うディン。
エミリアは口元に手を当てて、少し考えるような仕草を見せたが……
「ほうっておけ。モレクの町も近いし、ほかの通りがかりのヘルパーがどーにかするじゃろ」
かなりあっさりとした態度と口調、そして構う価値も無いとでも言うかのような表情で、ばっさりと斬り捨てるように言い放ち、その後に、手柄欲しさにな、とボソリと呟くように付け加える。
実質、あくまで考えるような仕草だけで、思考するつもりなど全くなかったようだ。
「そう言うわけにもいかないと思うけど……まあ、私達じゃ運べないし」
「そうだな……ま、一応町の警備兵には連絡しとくとするか」
少女は、少し気にするような態度はとっているが、言ったように数が多く、警備兵に付き出そうにも町まで運ぶには距離がありすぎる。
ディンは、エミリアと同じように興味は無さそうに足元の存在から離れていた。
二人の場合、いいかげん族に襲われるのも慣れてしまっているのかもしれない。
「しかしよくこんな町の近くで襲ってきたな。 捕まったら即ブタ箱行きだぞ」
「恨みは、冷静さを無くさせるからね」
「そのわりには、私の杖に目がいってからはその事を忘れていたようじゃが?」
「それなら、親分というのもその程度だったって事。本当に大事な人が殺されたなら、お金なんかに見向きもしないと思う」
「そんなもんかね…」
「ところで、モレクの方に行くんだよね? 警備兵に伝えるにしても、早く行かないとこの人達目を覚ますよ」
「おお、そうじゃった。 ディン、早く鉱石探しに向かおうぞ! 今まで発見された事が無かったと言う事は相当レアなアイテムのはずじゃ。こんなところでグダグダしていたら、他の支援士に先をこされてしまうのじゃ!!」
片手はディンの二の腕をしっかりと握り、その足は鉱山へと急ごうとする勇み足。
逆の手ではぶんぶんと杖を振り回し、どうしようもなくわきあがる、ワクワクとした気持ちの行き場を求めているかのようだった。
「そうだな……っと、お前もモレクに行くんだったよな」
「うん。 町までは一緒だね」
ディンはやれやれと溜息混じりに苦笑しながら、エミリアに引かれるままに、ダンジョンへの中継地であるモレクの町へと足を進め、少女は、その様を声には出さずに笑いながら、後をついていく。
……残された盗賊達が、後に捕まったのかどうかは、別のお話。

<<前へ     次へ>>