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「ベルレフォートの黒陽姫か、噂には聞いていたが、まさかここまで瓜二つとはのぉ」

不幸中の幸いというか悲哀の中の幸いというか、フローナで話しかけてきたのはLittle Legendギルドのサブマスター、エミリア・エルクリオ、その人だった。
銀雪の姫君(スノーリージュ)、伝説の探求者(レアハンター)の二つの異名を持つマージナル……
ギルドの知名度に間違いなく一役買っている、それなりに有名な支援士の一人だ。
「光栄ですが……黒陽姫の名は私にはまだ荷が重く……」
「む、そうか? 14の身空でBランクは大したものと思うのじゃが」
「……自分で名乗るのは、もう少し力をつけてから考えます……」
この力も、人より幼い頃から武芸の指南を受けてきた積み重ねに過ぎない。
かつての時代の王宮騎士あがりの貴族として、武芸は半ば義務のようなものだから。
――リエステール行きの馬車に揺られながら、そんなことを考えさせられる。
アリスは馬車に乗った後すぐに寝てしまい、今はワルツの膝の上ですやすやと穏やかな寝息を立てていた。
「ふむ、目を覚ましているからもしやと思っていたが、まだ甘いようじゃな」
「甘いって……何がですか?」
そんな光景を見て、エミリアが放った一言。
一度眠るとそう簡単には起きず、寝起きも盛大に寝ぼけてなかなか目を覚まさない、というのがベティが感じたアリスの印象だったが……
出発の朝に彼女に用意した部屋まで起こしに行った時、“んぅ……おかーさまぁ……”などと口にしながら胸に抱きつかれた時はかなりあせったものである。
その後、メイドの何人かがやたらと微笑ましそうな顔で自分達を見ていたのは憶えている。
『制御訓練はしていたよ。だけどあの能力はアリスという人格の根源が形になったものだ、そう簡単に完全に止めることなんて出来ないね』
「うぉあ!?」
「おお、チェシャか。見かけないと思ったら何をしていた?」
突如として聞こえてきた声に驚き、座った状態にも関わらず一歩分は後ずさるベティ。
反射的にその声が聞こえてきた方へと目を向けると、そこにはずっしりと妙に重量感がある大きな猫が、ニヤニヤした笑顔を浮かべて鎮座していた。
『姿を消していただけさ、ずっとアリスの傍にいたよ』
「……なにこいつ……」
「チェシャ猫――猫型の精霊です」
『まあ、精霊といってもできるのは姿を消すか空間渡航くらいだけどね』
アルの一言に続けるように答えるチェシャ。
それも十分すごい気がするのだが、一同はあえてつっこむようなことはしなかった。
「……で、アリスの力って何ですか」
我ながらこの短時間でスルースキルが高くなったものだと思いつつ、エミリアに改めて問うベティ。
人間慣れてくれば対応も変わってくるものである。
――それが意味する正否はともかくとして。
「エレメント・シーカー。一定範囲内の“どこに”“何が”“どんな状態で”“いくつあるか”……それら全てを把握する探知能力じゃよ」
「……それって、かなりとんでもない能力なんじゃ……」
例えば、ダンジョン内で近づいてくる魔物の位置や数も把握できるし、罠もほぼ無効果出来てしまうことになる。
「その分消耗も激しいそうじゃ。おまけに制御が出来ておらんから、常に発動状態にあったはずじゃが……」
「それでメンタルが持つんですか?」
「じゃから、前は常に半分眠った状態でいたのぉ」
ああなるほど、とベティは納得した。
寝たらなかなか起きないことといい、起きてもなかなか寝ぼけた状態から出てこなかったりと、いろいろと説明がつく。
『その能力の大本は、“好奇心”だ。あれはなに?どこにあるの? そんな気持ちの現れ―――夢の顕現さ
大人になったり、小さな子供に戻ったりする力も、ラビの“時”を借りなければ出来ないとはいえアリスの夢の顕現のひとつ。
まあ、大人の自分を夢見たり、小さい頃の自分を思い返したりは、誰だって経験がある事だと思うけどね』
”闇”の力とは協調を意味する”光”とは反する、自我の力だと聞いたことがある。
自己を認める優しさ、我を押し通す強さ――それが”闇”
しかし過ぎればそれは”闇”ではない”悪”となる……が、周囲をも自己の世界へと自然と取り込むような、穏やかな闇があるとすれば……?
「――”夢”の能力?」
「……夢、意識の闇に映る自己世界の顕現か。 特クラスの能力として噂には聞いていたが――案外、そうなのかもしれぬな」
つくづく、とんでもない子と知り合ったものだと思わされる。
しかし自覚があるかどうかと問えば、多分そんな強力な力をもっているなどと思ってはいないだろう。
アリスの力の根源が”好奇心”や”遊び心”だと言うのなら、ある意味これ以上純粋な”闇”はない。
他者に危害を加えることの意味も、自身がそうであったことから分かっているだろう。
「その通りですが、アリス様は夢の力を意識的に使えるわけではありません」
「そもそも、まだその器は備わってはいないのでしょう……証拠に、今ある力も完全な制御はできていないのです」
「ま、そのくらいで丁度いいじゃろう。 幼いころから強すぎる力を自由にできるとあれば、どうなるか分かったものではない」
あくまで冷静に、正当な評価を下すアルとワルツ。
そして少し笑ったような調子でその一言に答えるエミリア。
なんということはない会話のはずだが、ベティはそこに一つの違和感を感じていた。
―ティールは……どうなんだろう―
エミリアは先ほど、14歳という身空でBランクは大したもの、と言っていたが、ティールは同じ年でAランクの中堅に差し込む程度の力をもっていると聞いたことがある。
そこから考えると、彼女もまた幼い段階で大きな力を持っていた可能性が高いのだが……
「そういえばベティ、一つ気になっていたのじゃが」
「え? あ、はい?」
と、そこまで考えたところで、エミリアの呼びかけに思考を遮られる。
まあ考えても真実が分かるような内容でもないので、特に苛立ちのようなものは感じなかった。
「私達に他人行儀な敬語はいらぬぞ?」
「は、はあ……でも年上で支援士としてもセンパイだと思うのですが……」
「いや、友達相手にそういうのは落ち着かぬからな……」
「と、友達ですか……?」
「うむ。 まぁ少なくともアリスと関わっておるようじゃし、”友達の友達”の位置ではあるじゃろうしな」
あはは、と無邪気に笑うエミリアは、その姿を歳より幾分か幼く見せているかのようだった。




――と、一方その横で――

「……ところでディンさん、まったく会話に参加してないですが、いいんですか?」
「エミィが楽しそうにしてるなら、任せておけばいいだろう。 俺は話すのは得意じゃないからな」


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