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南北の首都にどれだけの違いがあるかと問われ、明確に答えられる者はいるだろうか。
実際の街の様相はどちらも大差なく、細かな違いはいくらでもあるが、全体としての雰囲気や形式は似たようなものである。
……強いて言うなら、平均気温と南北の名産品の集まり具合くらいのものだろう。


「…………でかい………」
北にも支援士のギルドというものはいくつか点在しており、それに関しても大小様々な規模のものがあるのは南北で変わらない。
今目の前にあるギルドは、メンバー個々の知名度の高さもあって名声こそ高いが、実際の人数は十人にも満たず、比較的規模の小さいものと言える。
……が、今目の前にある彼女達の本拠地は、ベティが予想していた以上に大きかった。
「元々宿屋だった建物を改装した家じゃからな、空き部屋もいくつかあるから寛いでくれ」
「まだローンの支払い終わって無いけどな」どことなく自慢気に話していたエミリアだったが、すぐ横でディンがぽつりと呟いた一言に、軽くその笑顔をひきつらせていた。
……メンバー全員合わせて月に結構な金額を支払いを続けているものの、やはりこの規模の家屋はそれなりにするものなのだろう。
未だに支払いは続いているらしい。
「……ディン、もう少し空気を読めぬのか……?」
一気に現実に引き戻され、ぐったりとうなだれるエミリア。
アリスはアリスで、気は既に前へと向かってしまっているのか、すぐにでも家の中に飛び込んでいきそうな様子だった。
「……事実は事実だろ……」
「だから、それを言わないくらいの空気は読まぬか!」
「…………」
まあ、なんというか夫婦漫才だな、と思わされる。
特に家の事でごちゃごちゃともめる姿は、新居の事で意見が対立している新婚夫婦のようで……
というのはいいすぎだろうか。
「あの、口論は結構ですが……」
「む……そうじゃったな。 では改めて、Little Legendにようこそ、さあ、遠慮せずに入るのじゃ」
やれやれ、とばかりに頭をかくディンを尻目に、ギルドの戸を開けてベティ達を迎え入れるエミリア。
なんだかんだと仲がいい二人のようだが、色々と遠慮の無い関係と言うのは羨ましいものである。
色々とつっこみどころが多い一瞬だった気もするが、ベティとアリスは案内に従ってギルドの中へと足を踏み入れた。







「ママー♪」

―――硬直

「……は?」

疑問

「あ、お客さん?」

そして対面





「む、お約束的な展開は無かったか」
「……エミィ、なんの話をしてるんだ」
すぐ遅れてリビングに入ってきたエミリアが、あごのあたりに手を添えて一言口にし、ディンが少し呆れたような様子でそこにつっこむ。
「なに、ライトノベルではよくある展開じゃが、イリスがベティに抱きつきそうな気がしていたのじゃがな」
「…………まあ気持ちは分からんでもないが」
どんなお約束だ、とベティはつっこみかけたが、それ以前にイリスというらしい小さな女の子が口にした単語の意味が頭の中でリフレインを続け、どうにも次の一言が出てこなかった。
「はいはい、いいこだから後でね」
「はーい」
イリスに抱きつかれていた銀髪の少女は、軽くなだめるようにして抱きつく手を離させ、改めて客人の方へと身体を向ける。
そして―――
「久しぶりだね、アリス、アル、ワルツ。それとはじめまして、ベティ・ベルレフォート私がLittle Legendのマスター、ティール・エインフィードだよ」
少しの微笑みを浮かべながら、そう口にする少女――ティール。
決して揺らぐことの無い、堂々とした空気を纏う。
そこには威圧感こそ感じられないが、僅かに見える強固な気配をベティは感じ取っていた。
「お姉さま! 会いたかった!!」
「わっと……アリス、小さな子供じゃないんだから……」
「幼稚だって思われたって――赤ちゃんみたいだって言われてもいいよ……」
ベティがティールに向けて言葉を発するより先に、アリスは彼女にその全身を委ねていた。
……よほど強くこの瞬間を願っていたのだろう。アリスのその顔は、ベティに出会った時とは比べ物にならないほど喜びに満ちていた。
「ママ、このお姉ちゃんだれ?」
すぐ横に立ったままだったイリスが、少しムッとした様子でそう言うのが目に入った。
先ほどのエミリアではないが、空気が読みきれてないのは子供だからだろうか。
「ん? 友達だよ。 大切な、ね」
しかしティールはそのイリスの態度に気後れするようなこともなく、軽く頭を撫でながらそう答える。
……イリスは、自分が離せと言われたのに他の人間はいい、とでも言うようなティールの態度に、少し腹立てているのだろう。
しかしそれ以上に騒ぎ立てないのは日ごろの教育かそれともイリス自身の気質か。
「……ティール……さん?」
「ティールでいいよ、ベティ」
イリスの時と同様に、ぽん、とアリスの頭を撫でるように手を乗せて身体を離し、ベティと向かい合うティール。
その表情はいたって穏やかで、こうして対面しているだけでは”龍”などと称されているとはとても思えなかった。
「じゃあ、ティール。 ……私の名前、知ってたの?」
「そりゃ、支援士なんてやってれば、噂の片割れのことくらいは嫌でも耳にするよ」
ティールとベティ。
”実は双子”というまだ現実味はありそうなものから、”分身”やら”ドッペルゲンガー”やら荒唐無稽ともとれる噂を持つほどにそっくりな二人。
ティールもまた、北部ではベティに間違われたことがあるらしく、自然とその噂は彼女自身の耳にも入っていたということだろう。
「ま、立ち話もなんだから座って。 今お茶入れてもらうから」
そう言うと、テーブルの椅子の内の一つを引いて、ベティに座るのを促すティール。
と同時にキッチンの方へと顔を向けると、”マナ、お茶の準備お願い”とそこにいるらしい誰かに声をかける姿を見せた。



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