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「そうか、そんなことがあったのか。よく生きてたな」

オヤジさんがそんなことを言いながらカウンター越しに温かい飲み物を手渡してくれた。

クロッセルの酒場は床や壁、調度品の殆どが木でできていて他の酒場では感じられない温もりのある造りになっている。

酒場のマスター、通称オヤジさんから飲み物を受け取ってちびちびと飲む。ついでにお酒はまだ早いと思っているので、中見はホットミルクだ。

ついさっき極寒の地から帰ったばかりで冷え切った体に、ホットミルクの温かさがじーんと染みた。

 

「まったくだよ。吹雪のせいで依頼も失敗したしさ」

「はは、まあ突然吹雪が来る、なんてことはあそこでは日常茶判事だからな。潔く諦めて、命があっただけでもよしとしとけ」

それに、と焼いている焼き鳥の串を回しながらオヤジさんは続けた。

「あそこじゃあ吹雪なんて優しい方さ。強力な魔物、不可思議な現象、それに鬼なんかの方がよっぽど脅威だ。やっぱりCランクのお前には少し早すぎたなぁ、アキ」

「むー・・・、もしかして、オヤジさん分かっててぼ・・おれを行かせた?」

ジロッとオヤジさんを睨むと、オヤジさんはあまり堪えていないような感じに苦笑した。

これはオヤジさんに限ったことじゃなくて、なんでかぼ・・おれが睨むと、みんな苦笑したり顔を赤らめたりする。いや、なんとなく理由は分かるけど、その理由というのがいまいち納得できない。

 

「まさか、流石に俺でも天気の予測なんて出来ねえよ。偶然だ」

「はぁ・・・。じゃあそーゆーことにしとくよ」

コトリ、と空になったカップをカウンターに置きながら溜息をついた。そして、おもむろにカウンターに立てかけてある自分の武器に触れる。

「なかなかBランクにならないなあ・・・。武器は悪くないはずなんだけど・・・」

 

―――長い柄の先端に、十六夜独特の片刃剣の刃が取り付けられた、槍の亜種のような武器、薙刀。名は『白雲』

ふとした思いつきで十六夜の町を散歩していた時に、とある刀匠から「きみの武器を作らせてくれ」と頼まれて、せっかくだからとお願いしたそれは、鋭い切れ味を誇る雪のように白く美しい刃を持ち、さらにどんな素材を使っているのか、見た目以上に軽くて小柄なおれでも簡単に振ることができた。美と実を兼ね合わせた、まさに名品だ。

 

「確かに武器はなかなかだが、それを扱う人間が未熟じゃあな。そんなに支援士は簡単じゃないんだよ」

「う・・・」

オヤジさんの的を得た台詞に思わず口籠る。

いくら武器が優れていても、肝心の使い手が扱えきれていなかったら武器も性能を十分に発揮できないのであまり意味がない。

こういうのを、宝の持ち腐れって言うのかな。

 

「まあそう気を落とすな。ほら、ねぎまサービスだ」

「あ、ありがとう」

少し気落ちしているところに気を使ってくれたのか、目の前に置かれるねぎまの小皿。丁度お腹も減っていたのでオヤジさんに感謝しつつ、オヤジさんがサービスしてくれたねぎまの串を取った。

すると、にゅいーんと頭上からなにやら長いものが伸びてきて、小皿の上にあったもう一本のねぎまを絡め取っていった。

 

「・・・ところで、ずっと気になってたんだが・・・」

「なに?」

オヤジさんの声に、ことりと小首を傾ける。

「そのお前の頭の上にいる奴、それがもしかしてさっきの話に出てきた変なカエルか?」

「あー、うん」

頭の上には重量感たっぷりのカエルが鎮座していて、さっき舌で取ったねぎまを食べていた。カエルがねぎまを食べる光景はシュールなのだが、それ以前に―――

「って、頭の上で食べるなよ!?食べカスで汚れるだろ!?」

「ケロー」

ぷいっとそっぽを向いて器用にねぎまを食べていく。この、カエルの分際で・・・!

 

吹雪の中で巻いてきて、ようやく船着場に到着したときに何故か隣にいたこのカエルは、船に乗る時もついてきて、今や頭の上が定位置だ。重くて首が痛いのは言うまでもない。

 

「ふむ・・」

オヤジさんがじっと頭の上でねぎまを貪り食っているカエルを観察する。

「フロストフロッグ・・・に見えるが、こんな色のフロストフロッグは見たことが無いな・・・」

「どうでもいいけどオヤジさん、顔が近い」

「お?なんだホレそうか?」

「なっ!?ちがっ・・!ぼ・・おれはそんなんじゃねぇ!!」

「アキ・・・慣れてないんならそんな無理に男っぽく話す必要はないんじゃないか?」

そんな同情するような目で見るな!

「もーうるさいな!オヤジさんには関係ないだろ!?」

声を荒げても、オヤジさんはどこ吹く風と言わんばかりに笑っている。だめだ。勝てる気がしない・・・!

 

「だが、もしかしたらアキはこのカエルに懐かれたのかもしれないな?はっはっは。男共に続いて今度は魔物まで魅了するとは」

「それ・・・嬉しくないよ・・・」

本当に、嬉しくない。寧ろものすごく困る。

 

ただでさえ消耗していてだるかった体が、余計な体力を使った所為で一層だるくなった。

今日はもう宿に帰って寝ようかな。そう思って席から立つと、オヤジさんが声を掛けてきた。

「ははは、アキ、ちょっと待てよ」

「なに?」

不機嫌を隠しもしないでオヤジさんを睨みつける。だけどオヤジさんはやっぱり笑っていた。うーんおれって睨むのが下手なのかな?

 

「まあそう怒るな。・・・ところでここに、お前が失敗した依頼と同じものがあるんだが・・・」

ひらひらと摘まんだ紙を振るオヤジさんは、なぜか楽しそうだ。でも、オヤジさんの言いたいことは分かった。うん、そうだ。やっぱりやられっぱなしは好きじゃない。

「・・するか?リベンジ」

「もちろん!!」

 

 

 

 

またいきなり吹雪になった。もう呪われているとしか思えない。