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「それでこんな流れになるなんて、青いわねぇ」


リエステール東海道。
街からそれほど離れていないこともあって、魔物や賊の接近も殆んど無いと言ってもいい箇所で、立ち会いとして呼び出されたエルナはそう口にしていた。
……なんの立ち会いかと言えば、いわゆる決闘とでも言うべきだろうか?
と言っても、互いに殺傷能力の低い木槍に持ち変えているし、いざというときの為の治癒要員としてエルナを呼んでいるので、どちらかといえば組手と言う方がしっくりとくる雰囲気なのだが……


申し出たのは、ベティの方だった。
対する事で感じさせられた劣等感や、意地。
また以前から感じていた色々な感情。
それら全てが絡み合った末の行動だったのだが……


「ぁああ!」
気合一閃。
ベティの繰り出す一撃が、ティールの身体を僅かに掠めた。
対するティールは、攻撃を放ったベティの隙をつき、カウンター気味に自分の槍を振るう。
しかしそれも明確な一撃にはならず、ベティが紙一重で体勢を変えることで回避していた。
「……よく食らいついているのぉ……」
実力差は、明確と言える程ではないが確かにそこにあった。
ティールの方が僅かに速く、その一撃も重い。
が、エミリアのたった今の言葉通り、ベティもただ負けてはいられない、とばかりに彼女の攻撃をかわし、鋭い一撃を叩き込んでいる。
お互いに、全ての技が決定打に結び付かない戦い。
だが長期戦になればどちらに不利になるかは、明白だった。
「AとBの差は、実のところあまり明確じゃ無いわ。こなしてきた依頼の内容や、依頼以外で、公になっている実績も評価に含まれてる
見る限りでは、ベティちゃんにとってティールは、力の差はあっても絶対に勝てない相手、というわけじゃないのよ。
精神的な負い目があるうちは、難しいと思うけどね」
そんな様子を、何時もより少し真剣な目で見つめるエルナ。
同じく立ち会っているエミリアも、ほぼ同じことを感じていた。
心配なのか、同席しているアリスはそういう細かいところまで気付くことはなかったが、感覚的にどちらが押しているか理解している様子はあるようだ。
「くっ、この!」
「…………」
連続で放たれる突きを、小刻みに動いてかわすティール。
……その時の、ベティの姿を映すティールの目は、彼女を通してどこか遠くを見ているようなものだったが……
誰もそんなことに気付くことなく、時間は進んでいく。
「――巡る大気、我が体躯を駆け、疾風の舞を――」
互いに打ち合い、身体ごと弾かれた一瞬。
距離が空いたその瞬間を逃さずに、ベティは魂の共振を行う体勢に入った。
魂の波長を感じとる直感力から、同じ能力者だとは見切られてはいたが、その中身まではまだ気付かれてはいないはず。
―――ならば……
「シルフ・ブースト!」
「!」
発動の瞬間に、全力を込めて爆発させる。
ベティの能力の内容は、“速さ”。
対応が追い付く前に――それこそがすべての起点になる、そんな意志を込めた一撃。
「―――………風……」
なぜか一瞬、ティールの動きが硬直した。
理由は分からないが、これはもう二度と来ないだろう大きなチャンス。
ベティは槍先に自らの風の力を集中し、その周囲に激しい風刃の渦を巻き起こし―――
「ブラスト・チャリオット!」
自らを風の戦車と化す、渾身の力を込めた突撃を放った。
自らの中にある、最大の威力を誇る一撃。
と言ってもまだ研究中の技なのだが、出し惜しみなどできる相手ではないことは分かりきっている。
「くっ……!」
「―――!?」
……激しい風を纏った切っ先が、その身体を捉えようとした時、我にかえったティールは強引に身体を動かし、殆んど倒れ込むようにして真横へと飛び出した。
それでも少し間に合わなかったのか、余波の風の刃が、彼女の衣服のあちこちやその肌に無数の小さな傷を刻み込む。
「あの状態から避けた……!? 無茶苦茶な体勢で……」
「……その技、一度出したらすぐには止まれないでしょ」
「!」
図星だった。
前方ただ一点のみに威力を集中した大技。
槍を真っ直ぐに突き出し、突撃する。たたそれだけだが、その単純さ故に威力は大きい。
……が、自らを包む風を一方向にのみ集中させるため、自身がその流れに乗ってしまい、方向転換はおろか停止も難しくなるのだ。
「それだけあれば、無茶な動きで倒れても、起き上がるだけの時間はあるよ」
その言葉通り、ベティが技を解いてティールの方へ向き直った時には、地面に倒れたはずの彼女は、既に立ち上がり戦闘態勢に入ろうとしていた……が
「! お姉さま、髪が……」
『え?』
アリスの声に、その場にいた全員が声を上げた。
それと同時に、はらはらと上空から銀色の糸のようなものが無数に落ちてくる光景がそこに広がる。
その中に一つ、ちぎれた青いヘアバンドが混じり、ティールは落ちてくるそれを槍を持つ手とは逆の手でキャッチした。
「切られたか。 ベティ、ちょっとタイム」
「……うん」
身体の中心線を境に、髪の毛の右側だけが肩の上あたりまで切られてしまっている。
左側だけ地面につくような長い髪という微妙にシュールな姿のまま、手に取ったヘアバンドをポケットに仕舞うティール。
「エミィ、ナイフ持ってる?」
「む……サバイバル用なら…………いいのか?」
「……まあ、そこまでこだわるものでもないし」
エミリアが、ダンジョン探索などで使うナイフを取り出し、ティールに手渡す。
そしてティールは、それを受け取ると同時に、残っていた左側の髪を、右側と同じく肩上のあたりにあて、そのまま特に感慨を感じさせるようなこともなく、あっさりと斬り裂いていた。
「………でも、なんの皮肉かな……」
そして、飛び散る銀の髪の中でナイフをエミリアに返しながら、改めて口を開く。
そこには、言い知れない感情のようなものが込められているようで、その場にいた者達はギクリと異様な緊張感が背に走るのを、確かに感じていた。
「……もう一人の私が、風の力を……『あのひと』と、同じ技を……」
小さく、どうにか聞こえるかどうかという声で呟くティール。
―あのひと?―
何か、また自分の知らない情報がありそうな一言だったが……
次の一瞬には、そんなことなど吹き飛ぶかのような光景が目の前に広がっていた。
「――滾るは心――燃えるは魂――我が力、内なる灯火と共に――」
―”同じ技”……!?―
それは定期船内で、アリスが呟いた一言。
魂と肉体の共鳴を元に、自らに力を付加する魂の共振。
「―――ブレイブハート」
「!!」
その瞬間、彼女を中心に大きく青白い炎が展開する。
身体能力の上乗せ以外に付加される属性能力――それは魂から発せられる意志の具現。
「……デカイな……じゃが、あの色は怒りではない、か」
ティールの炎は、基本的に青白いものではあるが、その時の彼女の心情でわずかにその色が変化する。
……ということが、長くなってきた付き合いの中でエミリアは理解していた。
今は、明るく、より白に傾いた炎。
怒りなどではなく、純粋に感情が高ぶった高いテンションであることを示す色。
「……”チャリオット”を名乗るのは、その技はまだ甘い……なんてのは私情かな」
「なっ……」
「私の力も、まだ”あのひと”には届かない。 けど……」
そう言いながら変えたティールの体勢は、ブラスト・チャリオットと同じ構え。
彼女を包む炎もまた、ベティの風と同様に槍の切っ先へと集中していく。


「受けてみる? 猛き魂の槍(ブレイブ・チャリオット)



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