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ブレイブ・チャリオット。
全体重を乗せた突撃と、全身を駆ける炎の力を重ねた一撃。
ティールにとっては、彼女が”あのひと”と呼ぶ男性が使うブラスト・チャリオットという技を自分なりの力で再現したものに過ぎないのだが……
直撃を受けたベティは猛スピードで突進する馬車にでも跳ねられたように吹っ飛び、そのままその直線上にあった大木に激突して倒れていた。
「容赦ないわねぇ。 木槍とはいえ、アレは運が悪かったらただじゃすまない威力よ」
もはや続ける力はないと判断したエルナは、即座に駆け寄り彼女の治癒を始める。
「あれは手加減する空気じゃないよ」
自ら切ったものといえ、気にはなるのか髪の先をいじりながらそう答えるティール。
しかしその態度は平静そのもので、特に悪いことをしたなどという感情は感じ取れなかった。
……むしろ手加減は失礼に値するというのは、横で見ていたエミリアも理解はしていた。
少なくともベティは、全力で戦う事を望んでいたのを、分かっていたから。
「……ベティさん、大丈夫?」
エルナの治癒を受けるベティの横にしゃがみ、心配そうな瞳で話しかけるアリス。
「うん、なんとか……」
一通り受けたダメージは回復は終えたのか、エルナは治癒術をかけるのをやめて立ち上がり、ぱたぱたと服についた土を払う。
ティールはそれを確認すると、スタスタと二人の下に歩み寄り、ベティと目線を合わせるように腰をおろし、口を開いた。
「大したものだよ。 私と同じ年であれだけの力を出せるのは珍しい」
「……それを軽く叩きのめしておいて、よく言うね」
もはや嫌味か自慢にしか聞こえてこないのは気のせいだろうか。
ティール本人に悪気のようなものはないのは分かるのだが、自分と同じ年で、自分より力のある相手にそう言われたところであまりうれしくはなかった。
――色々と分からないことばかりな少女だが、やはりその強さを支えるものは何なのか、気にはなるものだ。
「……ティール……どうして、そんな力をつけたの……?」
「それは身につけた理由を聞いているの? それとも方法の事?」
「……」
そのどちらも、というのが本音だった。
14歳という身空でAランクの中堅というのは、普通ではありえない領域。
しかし実際にそれを名乗れるだけのの力を持っているのは、先ほどの一撃で理解できた。
……一人の支援士として、そんな力に憧れを感じるのは普通だろう。
「…………理由なんてものはない。 偶然、手にしてしまっただけ」
「偶然?」
ふと、語り出すティールの顔に影が刺す。
そういえばさっきの組手の中でも、ところどころで遠い眼を見せていた瞬間があったのを思い出す。
まるで、ベティを通して別な何かを見ているかのような……
「私の身体……普通に見えるかもしれないけど、もう人間じゃないんだ」
―――ティールがその話をしたのは、かつての白い石騒動の時のディンも含めて、片手で数える程の回数しかなかった。
「神と呼ばれる程の力のある龍の血が、人間の身体に大量に注がれるとどうなるか――
外見は人間(ベース)のまま変わることはないけど、体質は龍人のそれに近くなる」
それでも噂というものは広がるものなのだが、その話の重さから進んで広めようとする者はいなかったようだ。
それを証拠に、彼女に関する噂で確定的に扱われているものは殆んど、ないと言ってもいい。
「……まあ、強靭な肉体だったり、何にも負けることのない力だったり……戦うための力を求めていたのは確かだったよ」
彼女がディンに話した当時は、エミリアも聞かされていなかったことだ。
しかし後になってギルドの一員となり、その後に聞かされたのだろう。エミリアは少し憐れみを帯びた表情で、その話をする彼女を終始見つめていた。
「……でも、その代償は仲間全ての命と、元いた世界からの隔絶。自分の力も分からずに、龍神種の戦いに首を突っ込んだから……」
「……ティール、それって……」
「……わかってるよ。私がいなくても、きっとみんな死んでた。そういう相手ってくらい、わかってる」
「…………」
「でも、だからこそ悔しい。なんで自分だけ生き残ったのか……なんで、今更になってこんな力を得たのか……」
元々力を求めたのは、高みにいた仲間達と並んで戦えるようになりたかったから。
「“四風の英雄”アスト・ライオス……私の技の殆んどは、彼から教えられたもの。
彼があの地から逃がしてくれたから、浴びた龍神の血がこうして私の中に力として根付いた」
しかしそれを得た代償は、共に在りたかった人達との別れ。
なにより、師であり、家族であり――子供心にも愛していた人が、最後に彼女を救ったのだという。
……自らに空間転移を行えば、助かったというのに。

「…………」

―――全てが、重い
ベティが感じたことを一言で表すなら、そんなところだろう。
もし自分にもそんな人達がいて、同じことがあったなら……耐えることは、できるだろうか?
「アスト、エリー、ゼフィ、ノリス、リオナ……私は、ギルドのみんなの命で生きてるんだ。
もし私に強さと言うものがあるなら、それを支えているのは……何があっても生きるっていう約束」


「…………」
……それこそが、ティール・エインフィードという支援士の根源であり、力を扱うためのの支柱とも言える記憶であることに、間違いはないだろう。
直接味わった者だけがわかる苦しみがある。
今ティールが語ったのは、まさにその一例と言える。



「私……は……」
ベティは、自分でもよくわからない感情に見舞われ、少し胸が苦しくなるのを感じていた。


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