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―5―




――夜。
月も昇り、数々の支援士や住民達で賑わっていたモレクの町も静まりを見せ、町の賑わいは民家や酒場、宿屋の中へと移っていた。
今外にいる者達と言えば、遅めの帰宅の町人か、鉱山帰りの冒険者くらいのものだろう。
「あー……今日は空ぶりじゃったのぉ……」
ディンとエミリアの二人もその例にもれず、鉱山側の町の出口から、宿へと向かってほてほてと歩いていた。
エミリアは、目当てのものを見つけることが出来ずに意気消沈気味ではあるが……
「バッグの1/3の鉄鉱石に、宝石の原石が数個。 昼過ぎからなら上出来だろう」
それ以外で手に入った鉱石類は、酒場のアイテム捜索依頼を漁れば使った時間に見合う報酬は出る収穫。
ディンは、まぁこんなものか、という感じでこの日の行動を振り返っていた。
「何を言うか。 目的のものが手に入らなければ、何を見つけようと空振りなのじゃー」
とりあえず、訴えにいつもの勢いが無いのは気のせいでは無いだろう。
「…ま、少なくとも一ヶ月は誰も見つけられなかったシロモノだ。 今日一日でどうにかなるもんでも無いだろう」
「それはそうじゃが、いち早く見つけたいという気持ちくらい察して欲しいものじゃな」
「はいはい……とにかく今日はもう宿に入るぞ。 明日も行くんだろう?」
「あたりまえじゃ! 明日はちゃんと『巣窟』の中も探索するのじゃ」
「確かに、今日は巣窟の近くだけだったな。 横着はするものじゃない」
そうして話している間に、二人は宿の前にたどり着いていた。
窓からこもれ出る明るく温かい光が、ダンジョンで疲れた身体と心に、僅かながら気力を与えられる感覚も覚え、ディンは軽く息を抜いて、宿屋の扉に手をかけ、無造作に開き、エミリアと共に中へと入る。
……そこには、まだ見慣れないものではあるが、見覚えのある顔が一つ待ち構えていた。
「おかえり。 その様子だと、目的の物は見つからなかったのかな」
「なんだ、まだモレク(ここ)にいたのか?」
ただ黒いだけのワンピースに、袖の無いフード付きコート、といった感じの上着を羽織っている、銀髪の少女。
彼女の体格ににあわない大きさの槍は、町中ということもあってか布に包まれていたが、その威圧感にも似た存在感は少しも衰えてはいない。
「ちょっと、気になることが出来てね」
ふっと微笑みかけるような表情で、そう返事をする。
そして、続けるようにして、もう一言。
「……ところで、ものは相談だけど、3人部屋とって相部屋に出来ないかな?」
「は?」
「なんじゃいきなり」
「そっちの方が一人あたりの宿代は安くなるし。 ね?」
ぱっと見ればどこにでもいる女の子が話しかけているだけに見えるかもしれないが、ディンには、言い知れぬ何かがその笑顔の裏にあるような気がしてならなかった。
出会い頭に見せられた、『外見に合わない強さ』という第一印象も影響しているのかもしれない。
……そして、彼は彼女が口にした言葉の裏にある別のニュアンスを、なんとなくではあるが察していた。
「…………」
正直な彼の意見を言わせると、少女の評価は『正体不明』以外の何者でも無い。
何のつもりがあるのかわからないが、とりあえず少し威嚇するつもりで、睨むような視線を向ける。
しかしそれでも少女は笑顔を崩さず、それどころか『二人』に向けていた視線を、『ディン』に向けるようにしていた。
「どうかしたのか? 私は別に構わないのじゃが……」
「別にとって食おうなんて思ってないよ。 ただ、なんとなくあなた達のことが気になっただけだから」
「…『気になった』、か」
意味としては、自分側の立場から見れば、よい意味にも悪い意味にもとれそうな一言。
…だが少なくとも、その表情からは悪意のようなものは読み取れない。
「……いや、まぁいいだろう」
「ありがとう。 すこし宿代浮いたよ」
改めて、笑顔で礼の言葉を口にする少女。
足元に置いてあったらしい荷物から、ごそごそと小さな皮袋を取り出し、その中から5000フィズ取り出して、ディンの手に握らせた。
「年長者さん、お願いね」
「……」
この瞬間の彼の表情は、どう説明したらよかったのだろうか。
真意も測りかねる相手の、あまりに緊張感のない態度と言い回し。
とりあえず、一言で説明できるとするならば、その顔に張り付いていたのは困惑以外の何者でもなかったかもしれない。









そして、宿代と引き替えに部屋の鍵を受け取り、向かった先は412号室。
ベッドが綺麗に三つ並んでいるが、3人部屋というには少し狭いかもしれない一室だった。
「ふぅー、やはりベッドにつくと『戻ってきた』って感じがするのじゃ」
ぼふっ、という音を立てて、ベッドの上にダイビングするエミリア。
子供にしか見えんぞ、とディンは言いかけるが、後々愚痴か何かにつき合わされるのは目に見えているので、それに関してはいつものように、口は閉ざしたままだった。
「戻ってきたって、この宿が家みたいな言い方だね」
対して少女は、落ちついた調子でベッドに腰かけ、エミリアの一言へと軽くつっこみを入れる。
「なにを言っておるか、旅をする支援士にすれば、どこの宿でも自宅みたいなものじゃろ?」
「そうだけどね。 ……私は少し前まで『家』があったから」
「ま、俺もエミィもフローナに戻れば家はあるけどな」
「そういえばフローナにも久しく戻っておらんのぉ……」
「鉱山の探索が終わったら、顔くらい見せに行ってもいいかもな」
「うむ。 おばあちゃんがちゃんと生きてるか確認せねばな」
何気に縁起でも無さそうなことを笑顔で口にしながら、帽子と上着をとるエミリア。
そして、それらを手近にあった洋服掛けに掛けて、結んであった髪もほどいてしまう。
「……っと、そういえば、まだお主の名前を聞いておらんかったのぉ」
そんな事をしながら、少女に呼びかけようとでもしたのか、一瞬セリフに詰まって、改めるように問い直す。
すると少女は、”そうだったかな?”といいつつ微笑んで、片手を軽く胸の辺りにもっていき、こう答えた。
「ティール・エインフィード、見ての通り女で、歳は13。 ジョブは……”あえて言うなら”スピード特化のブレイブソードかな」
最後の一言のあたりは、ぽん、と自分の足を叩きながら言っていた。
素早さには、それなりの自身があるという表れだろうか。
「ふむ、思っていたより歳が低かったんじゃな……15くらいに見えておったが」
「うん。 私、背は高い方だから」
「…13で盗賊退治の依頼なんて受けれるものなのか? ……いや、実力は認めるが……」
自分を囲んでいた五人の盗賊を軽々と倒した、という事実を思い返し、ディンは改めて驚いた。
……確かに支援士には厳密に年齢の規定はない。
しかし盗賊退治と言えば少なくともランクCからBの依頼。
そのレベルに達するのは、普通に考えても13歳はまだ若すぎるようにも思える
「世界は広いと言う事じゃな……」
そんなディンの意図を察してか、冷静に感想を漏らすエミリア。
……そこまで単純な問題でもない気がしたが、あまりに簡潔な結論に、ディンはかえって力が抜ける感覚に見舞われていた。
「うむ、では私の番じゃな。 私はエミリア・エルクリオ、17歳のマージナルじゃ。 で、コイツが―」
「ディン・フレイクレス。 歳は19、ジョブはパラディンナイトだ」
なにかある事無い事いわれそうになったことを察知でもしたのか、すかさず会話に割ってはいるディン。
エミリアはどこかおもしろく無さそうに口を尖らせていたが、特にこだわりも無かったのか、すぐに表情を戻し、自分のバッグを漁り始めた。
そして出てくるのは、寝間着一式。
「ティール、お風呂に行こうとおもうのじゃが、一緒に行かぬか?」
―名前の事に気がついたのはそれが理由か―
エミリアの一言で、何故唐突に名前の話題が出てきたのか理解したディン。
と言っても、特に気にする事の無い些細なものではあったのだが。
「ううん、私は後で行くから、先に行っていいよ」
「そうか。 ちょっと残念じゃが……先に行かせてもらうとしよう」
少女―ティールと入りたいと言ったのはそこそこ本気だったのだろうか。
ディンの目には、どことなく落ち込み具合が少し激しいように見えていた……と言っても、今日の探索が空振りだったという影響も加えて、の話ではあるが。
しかし、それでも特に声をかけるようなこともせず、エミリアが寝間着を持って部屋の外へ出て行くのを黙って見送る。
それはティールも同様で、相変わらずの微笑んだ表情で、同じように無言で見送っていた。




「……で、俺達に何か用でもあるのか?」
ディンは、エミリアの足音が遠ざかっていったのを見計らい、のんきそうにベッドに寝そべって鼻歌を歌いながら、小説らしき本を読み始めたティールに向かって、そう声を掛けた。

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