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「ん・・・?」

目を開けたら突然つららの寝顔が目の前にあった。

「ぃ・・・っ!?」

零れ出そうになった驚きの声を咄嗟に飲み込む。な、なんでつららがこっちの布団に潜り込んでるの?

 

「んんぅ・・・」

もぞもぞと僅かに身じろぎしたあと、口が小さく開いて吐息が洩れる。

それだけでぼ・・おれの心拍数はばくんばくんと急上昇だ。

 

いや待て。待つんだアキ!まずは落ち着くんだ相手は小さな女の子だぞ!

 

下手をしたら自警団に突き出されてもおかしくないこの状況、こういう時こそ冷静に、日頃のおれの実力を発揮する時!

ゆっくりと布団を持ち上げて、体を横にしたままそろそろとつららから離れていく。

外は雪が積もっているみたいで、部屋の中がもの凄く寒いから布団の温もりが名残惜しいけど、ここは我慢だ。

少しもどかしいくらいゆっくりとだけど、つららを起こさずに順調に距離を離す。よし、このまま―――

 

「・・・ん(ぎゅっ)」

(きゃーっ!)

突然ぎゅっと腕に抱きつかれた。あ、危なかった。思わず叫びそうになった。

ていうかどうしよう。これじゃ布団から脱出できない!

どうにかして脱出できないか思案していると、腕に抱きついていたつららがうっすらと瞼を開けた。

「んむにゃ・・・、んむ?・・おお、アキ。おはようじゃ」

「あ・・お、おはよう」

まだ寝ぼけているのかとろんとした瞳を向けて挨拶してきたつららに反射的に挨拶を返す。

おはようじゃないだろぼく。

「・・ところで、なんでアキがワシの布団の中に入ってきておるのじゃ・・・?」

うわ、この子自分から潜り込んできたって気が付いてないよ。これじゃあぼくがつららの布団に潜り込んだみたいじゃないか!

 

「いや、これはぼ・・おれじゃなくてつららが―――」

「んむ~・・・。まだ眠いのじゃぁ~・・・」

とりあえず事情を説明しようとしたら、つららは人の話も聞かずに人の布団の中でスヤスヤと眠り始めた。

 

・・・あれ?いいの?

 

「って、良く考えたら平気でオヤジさんと一緒に温泉に入ってくるような子だしね」

あれに比べたら布団に潜り込むなんて造作もないことだよね。

 

・・・なんだか朝っぱらから色々と疲れる出来事だった。

 

 

「オヤジさんおはよう」

二度寝しだしたつららは宿に置いてきて、開店時間にはまだちょっと早いけど、この時間なら扉は開いているので酒場にお邪魔した。

「ん?おおアキか。早いな」

「うん。まあちょっとね」

起きたそばからあんなことがあったら流石にね。

「まあ、何があったかはお前の顔で予想がつくがな」

「オヤジさんって読心術とか使えたっけ?」

そもそもそんなものがあるのかどうかさえ怪しいけど、オヤジさんがあまりにも自信ありげに言うので聞いてみた。

「使えるわけがないだろう。大方、あの子がお前の布団に入りこんできて、それで跳び起きたとかそんなところだろう?」

「なっ!なんでわかるの!?」

なんてことだ。まるでその場にいたような口振りじゃないか。

「お前は顔に出やすいからな。それぐらいはわかるさ」

自身たっぷりに言うオヤジさん。流石は腐っても酒場のマスターをやっていることはある。物凄い洞察力だ。

「・・・オヤジさん、ストーカー?」

しまった思わず本音の方が口に出てしまった!

 

「・・・・・・」

「あ、いや、これはその・・・」

朝一番のオヤジさんの鉄拳は痛かった。

 

「ケロー」

「あれ、キミいたの?」

殴られた頭の鈍痛に苦悶していると、つららと一緒に宿に置いてきたはずのカエルが高く飛び跳ねてぼ・・おれの頭に着地した。ずしっとした重量が首にかかる。

このカエル、体がひんやりしてるからオヤジさんに殴られて痛む頭にはありがたいけど、重くて首が痛くなるのが難点だ。

「そういえばアキ、そのカエルには名前をつけないのか?」

しばらくして、オヤジさんがおれの頭の上のカエルを見ながらそんなことを聞いてきた。

さっき思いっきり殴ったことを少しも悪びれていないところとかが本当に鬼だと思う。

「一応便宜上はつけてるよ。別にぼ・・おれが飼ってるわけじゃないけど」

こいつが勝手に連いて来るだけだけど、名前がないと不便だしね。本当ならつららみたいに自分でつけさせたら楽なんだけど、カエルだし。

 

「ほう、一体どんな名前をつけたんだ?」

名前をつけたと聞いたオヤジさんは少し興味を持ったようだ。

「―――マンジュウ」

「饅頭?饅頭がなんだ?」

「いやだからマンジュウって名前。自分で言うのもなんだけどセンスあるでしょ?」

布団に入った後に、寝るまでの暇潰しに考えたこの名前は、数ある候補の中でも傑作の一つだ。

それなのにオヤジさんは、なぜか気の毒そうな顔をおれに、そして頭の上のカエルに向けて、

「お前、正気か?」

なにか失礼なことを言ってきた。

・・・でも、オヤジさんの言葉を冷静に考えてみると、

「うーん、やっぱりまずかったかな?」

「そうか、まずく思う程度の常識はあったか。安心し―――」

「・・・マンジュウの他にもシラタマとかオモチとかいう候補もあって、そっちも捨てがたかったんだけど」

「前言を撤回する。俺はお前の頭が心配だ」

失礼な!どういう意味だ!?

「オヤジさん、流石にそれはちょっと失礼だよ?」

「失礼なもんか。俺は本当に思ったことを言ったまでだ」

「それが失礼だって言ってるの!オヤジさんには人を思いやる気持ちがないのかこの人でなし!」

「黙れアキちゃん!いい医者紹介してやるから入院しろ!!」

「ムカッ!!アキちゃんって言うなこのひげ面!!ぼ・・おれは女じゃない!!」

「はっはっは!どこからどう見ても女にしか見えん!!自分に嘘を吐き続けるのはやめたらどうだ!?」

「だから違うって言ってるだろーーーっ!!」

 

 

この口論は結局その後小一時間くらい続いて、最終的にオヤジさんの実力行使で決着がついた。

 

朝からまったくついてない。うう・・頭いたい・・・・・。