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この地は腐っている。

 

この地の正義は正義にあらず。

 

この地の善は偽善に満ちて

この地を支えるはずの柱もまた汚濁にまみれ穢れきっている。

 

それはこの地の中枢に醜く汚らわしい害虫が巣食っているからだ。

 

だが誰もそのことには気付かず、日々をのうのうと生きている。

 

そんな愚かで愛しい民たちはその害虫を知らない。ならば誰かが変わりに害虫を殺さなければならない。

 

誰もいないというのなら、我らがその役を担おう。

 

例え世間から汚名を受け、憎しみを向けられ、その身を泥沼に浸そうとも。

我らは悪となって真の正義を遂行する。

 

我らは繰り返し唱える。害虫を殺す我らに相応しき名を。

 

血に染まることで正義を遂行するその名は―――

 

―――反アルティア教『血の聖堂騎士団(ブラッディ・テンプルナイツ)』。

 

***

 

いつものように部屋で本を読んでいたら、ドアの向こうから数回ノックする音が聞こえてきた。

入るように言うと、腹心の部下がきびきびした足取りで部屋に入り、ある程度の距離まで近づいてから立ち止って報告した。

「ロザート様。“クリア”が到着したようです」

腹心のその部下の報告を聞いた時、私の胸には歓喜にも似た衝動が沸き起こった。思わず椅子から立ち上がってしまいそうになるのを必死に抑えなければならないほどだった。

そうか。遂に、やっと。

「おおっ、そうですか。ではすぐにそちらへ行くと伝えてください」

「はい」

部下が僅かに顔を綻ばせる。どうやら、態度にもこの気持ちの昂りが表れたようだ。

本を閉じ、机の上に置いてから椅子から立ち上がると、部下が近付いてきてコートを差し出してきた。

それに軽く礼を言い、コートを着てから部屋を出る直前、また部下が話しかけてくる。

「・・・いよいよですね。ロザートさま」

「ええレベーゼル。あなたにも苦労をかけます」

「よしてください」

腹心の部下のレベーゼルは気恥ずかしそうに笑って頬を掻いた。

この男はこの組織を立ち上げた創設時から一緒にいるメンバーの1人だ。

これまで、この男には何度も助けられてきた。

正直この組織をここまで大きく出来たのは、この男と、創設時のメンバーが協力してくれたお陰と言っても過言ではない。

 

「・・・そういえば、あちらの状況はどうですか?」

「只今報告待ちです」

「そうですか。まぁいいでしょう。こちらは早く“調整”を終わらせて、向こうの出方を待つだけです」

 

あの青年のことだ。ここまでコケにされておいて、何もしないということはないだろう。

この前対峙した時も、あの青年からは底知れぬ何かが漂っていた。

それが何だったのかは分からない。だが、アレは常人から漂うはずのない―――漂ってはいけない何かだったと言うことだけは理解できた。

部下に彼らの素性を調べさせたが、目ぼしい物どころか、ほぼ一切の情報が出てこないとなると、少なくとも彼は“こちら側”の人間だと見て間違いないだろう。

彼がどこまで深みにいるのかは分からない。だが、何かをしてくることだけは確かだ。

寧ろ、私の想像を上回ることをしてしまいそうな予感もする。

 

―――だが、どのような事をして来ようが、“クリア”の調整さえ終えてしまえば恐れるものなどにもない。

彼がどんなことをしてくるのかは分からないが、もうそれは前座の楽しみでしかなかった。

 

「さてと、何時までもここで立ち話をするのも部下達に悪いですし、そろそろ行きましょうか」

「はい。―――叶えましょう。私達の理想を」

「ええ、当然です」

 

***

 

リエステールにあるプレスコット従騎士団の拠点であるプレスコット家の屋敷。

その中の一室で、ライトとティラ、そしてプレスコット従騎士団の騎士団長クローディアと、クローディアが不在の際に戦闘で指揮を執る隊長格の騎士達が円卓を囲んでいた。

 

ついでにあの場にいたスズ、パール、その他1名は、あの後こちらの事情を聞こうとしてきたが、事情を話すと何だか余計に面倒なことになるような気がしたので黙って巻いてきた。

当然リインの姿はない。

ほんの僅かな間の出会いだったとはいえ、いつも聞こえた声が聞こえなくなると、少しだけ物哀しい感じがするから不思議だ。

 

ライトの話に、円卓を囲む皆が息を飲んでいた。

「・・・では、あの方達の目的は、アルティア教を乗っ取ることでしたのね」

「乗っ取るどころの話じゃねえよ」

クローディアが言ったことを、だがライトはあっさりと否定した。

乗っ取る、か。まだそんな生易しい表現をするとは、さすが善人だ。

「あいつらの最終目的は、アルティア教の根絶だ」

「お言葉ですがライト殿。そのようなことが可能なわけが・・・」

ライトの言葉に騎士の1人が質問した。まぁそれは当然の質問だろう。

アルティア教は、この大陸で絶対無二とも言える巨大宗教だ。この地に生きるほぼすべての人間が、なんらかの形で教会に関係しているといっても過言ではない。

そんなこの地に深く根付いた思想を潰すとなると、どれほどの規模の事態になるかなんて想像もつかないだろう。

「無理だろうな。不可能と言ってもいい。少なくとも今の時代じゃ。・・・だがあいつらも馬鹿じゃない。必ず何か成功させる根拠や確信があるんだろう」

「奴らの妄想ということのほうが高いのでは?」

また別の騎士も声を上げる。

確かに今ではあまり聞かない話ではあるものの、ありもしないものをあるように仕立て上げて人々を惑わし、勢力を拡大させていった組織や集団といった類のものは過去に数多くある。

またそういった妄言・妄想に捕り付かれた人間が、時に恐ろしい力を発揮するのはよく知られた話だ。

だがそのような妄信者の場合、力の代わりに妄言や妄想に取りつかれて周りのことが一切見えなくなってしまったりするので、方法さえ考えれば制圧は比較的に簡単だったりする。

 

「それならそれで結構なんだがな。・・・どうもロザートの言葉が気になる」

「と、言いますと?」

「あいつはリインのことを“神姫”とか言う大戦の兵器だと言ってた」

そして実際に連中はリインを手に入れることに執着し、方々に手を回して決して小さいとは言えない規模の罠を張り、ついには力ずくでリインを連れ去った。

 

どう見ても、彼女が奴らの確信している根拠の鍵を握っているのは間違いない。

 

「その“神姫”について、こちらでも文献で調べてみましたがまったく情報が掴めませんでした。一体何なのですか?その“神姫”というのは」

「んなものオレが知る訳ないだろ」

騎士の疑問を一言で両断する。そもそも、オレ達がリインに出会ったのはほんの偶然だ。

奇跡と言ってもいい。

しかもリインは、まるで生まれたばかりの赤ん坊のように何も知らなかった。言葉をまともに話せないどころか、自分が何なのかわかっているのかも分からない彼女に、お前は何者なんだと聞くのも馬鹿な話である。

 

「まぁ、とりあえず“神姫”の話は置いておこう。それよりも今後の行動だ」

そうだ。考えても分からないことをぐちぐち考え続けるほどの暇は今ない。

「そうですわね。・・・ところで」

ふと、クローディアがオレの席の隣を見ながら、少し恐る恐ると言った感じに口を開いた。

まぁ、やっぱり気になるだろうな。さっきというかここに来る前からずっとこいつはこんな感じだったし。

 

「ティラさんはどうしたのですか?随分と雰囲気が・・・」

「・・・まーなんだ。いまはほっといた方がいい」

 

ライトの横の席、そこでティラが俯きがちに黙っていた。髪の影に隠れて表情は見えない。

だが、ただ黙って席に座っているだけなのに、『怒ってますよ』というのがありありと分かるような空気を纏っていた

ぶっちゃけティラの周りの空気がピリピリしていて痛い。

 

気の所為だといいのだが、ティラの髪が海を漂う海藻のように僅かにうねっているような気がする。というか実際に頭のアホ毛がゆらゆらうねっていた。

 

錯覚かもしれないが、行き場のない怒りがいまにも爆発してしまいそうな感じだ。

 

「と、とりあえずクローディア、例の話をまとめてくれるか?」

とりあえず今はそっとしておこう。

それが視線だけの会話で交わされた満場一致の決定だった。

 

気を取り直して言ったライトの言葉にクローディアは頷くと、一枚の書類を取り出して読み始めた。

「では例の件ですが、伝達によれば、北ではヴァジル・リュークベルさん率いるリックテール第2騎士団。ベルレフォート伯爵のシルバリィホーン騎士団。クウヤ・リュウセンさん率いる討伐隊が。南ではフローナのリーマリー伯爵のアクアローズ騎士団が承諾。

昨日届いた新しい情報によれば、既に準備は整い、何時でも進軍できるそうですわ。そして、私達プレスコット従騎士団も今件に参加します」

「・・・まさかヴァジルの簀巻き野郎なんかの手を借りる羽目になるとは・・・」

「?何か申されました?」

「いや、なんでもない。とりあえずいろんな所に声掛けといて正解だったな」

「そうですわね。私としては、その声を掛けた騎士団すべてから承諾を得られたことの方が驚きですけど」

「な?オレの名前だして正解だったろ?」

「ええ。・・・ところで、伝達の話を聞くところによると、どの騎士団の方々もライトさんに恩や借りがあると申していたそうですが?」

「なに、色々あるんだよ。色々」

クローディアの疑問に大雑把に答えてからライトは椅子から立ち上がった。

「さてと、人員は無事確保できたし、そろそろ手順の説明でもするか」

そして円卓に広げられている地図の印を順番に指さしていく。

「第2騎士団はリックテールを、シルバリィホーン騎士団はシュヴァルを、リュウセンの討伐隊は十六夜を、アクアローズ騎士団はフローラの拠点を制圧するよう伝達に―――いや、伝達じゃ遅すぎるな。ルナータのスカイライダーズ支部から本部へ連絡を取って各騎士団に伝えろ」

そう言うとライトは紙切れを取り出し、ざっと殴り書きで何かを書いた後、それを折りたたんでクローディアの前へ差し出した。

「これをルナータ支部の支部長リディア・コーネリウスに渡せばすぐに動いてくれるはずだ。作戦決行時刻は午前2時。教会や周囲に勘付かれない様に行動することを第一に考えて、周囲への防音処理も忘れるな」

「ライト殿、モレクが残っていますが」

「問題ない。モレクはオレの知人が制圧する」

「それに最高指揮官のいない騎士団を無闇に敵陣に突っ込ませるのもどうかと思うのですが」

「そこは各個騎士団に任せるしかないだろ。オレの体は分裂なんてできねえし。それにあいつらも馬鹿でも軟でもない。リーマリーの奴らにはオレが直接戦法を教えたこともあったし、ベルレフォートのおっさんも強い。ヴァジルの簀巻き野郎とクウヤの部隊なんかオレが言うまでもないしな」

「分かりましたわ。では・・・」

ライトはクローディアに一度頷くと

「オレとティラ、そしてお前らプレスコット従騎士団でリエステールの拠点を落とす」

そう言い楽しそうに笑った。

「さぁ、奴らに目に物を見せてやれ。作戦名『ラグニーリ』決行は、明日だ」