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町の人が逃げている道をしばらくの間つららを追いかけて逆走すると、逃げ惑う町の人がいなくなった代わりに別の光景が飛び込んできた。

崩れた建物、何か重い物を引きずったようにへこんだ道。

そんな廃墟じみた町並みの所々では、多分この町の医者や教会のカーディアルトと思われる人達があわただしく動き回って怪我人に治療を行っていた。まるで野戦病院だ。

でも人手が足りないみたいで、あちらこちらにはぐったりして動かない自警団や支援士が転がっている。

武器や防具の破片が散乱してるけど、見ている限りじゃ死人は出ていないみたいだ。

 

「うーん、スゴイことになってるなぁ」

見た限り、ここにつららはいないみたいだ。だったらもっと先かもしれない。

野戦病院の横を通り過ぎる途中でいろんな人からその先に行くなって言われたけど、とりあえず無視した。そんなことよりも、つららのことが心配だ。

 

 

随分と荒れた道を走って行くと、少し開けた広場に大勢の人間が集まっていた。

ほかの町から来た人達もいるだろうけど、見た感じだとクロッセルの戦力総結集といった感じだ。

でもその圧巻の光景よりも、それと対峙しているものに目を奪われた。

 

青く輝く美しい鱗に覆われた雄々しい巨体。頭部からつき出た二本の純白の角。同色の爪。閉じられた巨大な翼に、しなやかに動く長い尾。そしてアメジストにも似た綺麗な紫色の瞳。

まるで巨大な宝石の彫像みたいだった。

これが竜か。始めて見た・・・。

 

けど見ている時点では、どうやら両者が激突している様子はない。

まあ行きがけのあの惨状を見た限りだと決して戦況はいいとは言えそうにないし、どうやら攻めあぐねているみたいだ。

それにしてもあんなに人が小さく見えるなんて、本当に大きな竜だな。

まるで人が虫ケラかゴミのようだ。

 

さらに近付くと声が聞こえてきた。

『俺達が囮になる。奴の気を引いている内に、本隊は迎撃してくれ』

『よし、わかった』

ふむふむ、どうやら二手に分かれて竜を迎撃するみたいだ。

迎撃役の本隊は向こうへ、囮役の人達はこっちにやってくる。

その中の一人と目が合うと、その人はこちらにやって来ておれの肩を掴んだ。

「丁度いいところにいた!君も一緒に来てくれ!」

「えっ、何でですか!?」

「何でも何も、ここにいるってことは君もAランクかSランクの支援士なんだろう!?」

なにやらとんでもない勘違いをされている。これは誤解を解かないとぼくの命が危ない!

「ちょっと待ってくださいよ!ぼ・・おれはCランクです!」

「こんな非常時にそんな冗談を言っている場合か!ほらぐずぐずしてないでさっさと行くぞ!」

「うわっ!?待ってやめて引っ張らないで!?ぼくはまだ死にたくない!」

必死の抵抗もむなしくぼくは首根っこを掴まれて自警団の人に連行される。

なんてことだ。このままじゃ完全に死亡フラグじゃないか!

 

「―――あ、あれは!」

決死の抵抗を続けるぼくの視線の先に大勢の人達と話しているある人物の後ろ姿が映った。

あの浅黒い肌に無骨なシルエット。間違いない。

「お、オヤジさん助けて!」

「うん?一体なんだ―――ってアキじゃないか。何でこんな所にいるんだ?」

「そんなことより助けてよオヤジさん!このままじゃぼくは囮として竜の生け贄にされちゃう!」

オヤジさんに必死で懇願する。ぼくが竜なんかに勝てるわけがない。よくて数秒、悪ければ瞬殺だ。結果が見えているのに自ら死地に赴くなんてまっぴらごめんだ。もう頼れるのはオヤジさんしかいない!

そんなぼ・・おれの必死の願いが通じたのか、オヤジさんが呆れた様子で額に手を当てながらこちらに近づいてきた。

 

「君、悪いがそいつを放してやれ。そいつに囮は勤まらん」

「え?で、ですが・・・」

納得できないのか食い下がる自警団の人に、オヤジさんはやれやれと肩をすくめた。

そしてぼくを指差して言う。

「そいつは役にも立たんCランクの雑魚だ。そんな奴を連れて行っても竜に餌をやるようなものだぞ」

どうしてだろう。助けてもらっているはずなのに罵倒されているようにしか聞こえない。

いやまあ確かにそうなんだけどね。

「そ、そうなんですか?まあ言われてみれば弱そうですけど・・・」

こいつ殴ってもいいかな?

全く失礼な奴だ。確かにぼ・・おれは弱いけど、その弱さを補うだけの取り柄があるのに。

「そうだ。こいつは容姿だけが取り柄のくせに性格も悪くて言葉使いもなってない雑魚中の雑魚だ」

「オヤジさん!流石にそれはあんまりだよ!」

あまりの言われように目から塩辛い味のする水が出てきた。

 

「あーその顔で泣くな泣くな。そういうのは男を落とす時にでもとっておけ」

「ひげ面キサマぁ!今のは絶対わざとだろ!?だからぼ・・おれは女じゃないって何回言えば―――」

「君、竜に餌をやってこい」

「心の底からごめんなさい」

くぅう!怨敵が目の前にいるのに手が出せないなんて!この借りは後で必ず返してやる!

 

「冗談だ。まあそう言う訳で、こいつに囮は無理だから放してやってくれ」

「わかりました。・・・折角盾が増えたと思ったんですが、残念です」

よし、オヤジさんの前にコイツを殺ろう。顔は覚えたから抹殺リストに乗せるために後で名前も聞いておかないとね。

 

でも手段はともかくとして、なんとか生け贄にならずに済んだみたいだし、今日ほどオヤジさんに感謝した日はない。

流石は町で『自警団よりも頼りになる男』と噂されるだけはある。

 

これでやっとつらら探しを再開できる。そう思った矢先、

「・・・え?」

なんか、視界の端で奇妙なものが見える気がするんだけど、おれの気の所為かな?むしろそうだと言ってほしい。

 

―――竜が、こちらに向かって丸太の様に太い尾を振ってきた。

「!むぅっ!」

「う、うわっ」

さすがと言うべきか、自警団の人とオヤジさんが反射的に回避行動を取る。

ということは、その場に残されたのはぼくだけというわけで。尾がこっちに迫って来る訳で、

 

ゴォォォォォオオオッッッ!!!!(竜の尾が風を薙いで迫ってくる音)

 

「きゃぁぁあああああ!!?」

物凄い勢いで迫ってくる巨大な尾の迫力に思わず目を瞑ってしまった。ヤバいって。これ絶対に死ぬって。

そんな感じで人生諦めかけていた時。

「父上!やめるのじゃ!!」

ぼくを庇うように目の前に人が立つ気配がした。そんなことを言っても竜に届くはずないのに馬鹿だなぁ。誰か知らないけど巻き添えになっちゃうよ?

でもこの声、とても聞き覚えがあるような・・・。

 

不意に、風が止まった。

不思議なことに痛みは無い。もしかして、痛みを感じる前に死んでしまったとか?

でも、死んだらこんなことを考えれるはずないし・・・。

そんな怖いことを考えながら恐る恐る目を開けると、そこにはぼくを庇うようにぼくの前に仁王立ちする女の子と、信じられない光景が広がっていた。

「つ、つらら・・・?」

「まったくおぬしは・・・。大人しそうな顔をしておるくせにワシの度肝を抜くようなことをするのう」

つららが呆れたような、ホッとしたような表情を浮かべてこちらを見る。いや、それよりもこの状況はどういうことなんだろう。

 

つららの目の前で、巨大な尾が止まっていた。

 

「え・・こ、これ一体どうなってるの・・・?」

「いや・・まぁ・・・の」

つららは言いにくそうに頬を掻いている。ほんとに、どういうことなんだろう。

 

 

『い・・今の内に・・・!』

『馬鹿やめろ!子供がいるんだぞ!?』

 

・・・ん?なんだろう。

声の聞こえた方向を見てみると、そこに弓を引く支援士とそれを止めようとしている人の姿が目に止まった。

二人は少しの間だけ揉めて、それから止めようとした人の説得もむなしく、支援士の弓から矢が放たれる。

だけど狙いが甘かったみたいで、支援士の放った矢が見当違いの方向に飛んでいき、弧を描きながらこちら―――つららに向かって飛んで来る!

「つらら、危ない!!」

咄嗟におれはつららを庇って、白雲で矢を払おうと突き出した。

 

ヒュンッ・・・ ドスッ

 

「ぐっ・・・痛ぅ・・・?」

「あ、アキ!?」

つららが悲鳴じみた声でぼくを呼びながら駆け寄って来た。どうしてそんな顔をしてるんだろう?キミに飛んできた矢はぼくが白雲で叩き落したはずなのに。

 

でも、それじゃあこの肩の痛みはなに?

痛みの原因を確かめるべく痛む肩を見てみてもいまいち理解ができなかった。

ぼくの肩から突き出ている棒みたいな物はなんだろう?

肩の棒の生えている部分から血がにじんできた。

どうしよう、ちょっと、いやかなり痛い。

 

「おぬしは馬鹿か!?自分から矢に突っ込んでどうするのじゃ!」

血相を変えてつららがぼくに詰め寄ってくる。

咄嗟に体を動かした所為で、タイミングが早過ぎてちょっと身を乗り出し過ぎたみたいだ。

うーん、矢を叩き落とすのって意外と難しいね。

「アキ!聞いておるのか!?」

「え?あ、はい!ごめんなさい!」

あれ?なんでぼくが謝ってるんだろう?つららを助けたのはぼくだよね?

「まったく・・・。アキ、肩を見せるのじゃ」

「えっと、こう?」

「うむ」

 

ずぼっ ブシュッ!

 

「―――――ッ!?!?(声にならない悲鳴)」

 

つららの言う通り矢の刺さった肩を見せると、つららは鷹揚に頷いて、あろうことか容赦なく肩に刺さった矢を引っこ抜いた。心の準備をする暇も与えない見事な手際だ。

矢を引っこ抜かれた途端、脳天に突き刺さるような激痛と一緒に、傷口から血が噴き出る。

ていうかヒドイ!抜く前に一言あってもいいはずだ!

 

「ひ、酷いよつらら!キミはぼくに何の恨みがあるの!?」

「落ち着くのじゃアキ。矢が突き刺さったままというのも不味いじゃろう?」

「血が止まらない今の状態の方が不味いよ!」

涙声になりながら叫ぶ。どうやら太い血管を傷つけたみたいで血が後から後から溢れだして、すでに肩部は真っ赤に染まっていた。

「だから落ち付けと言うておるんじゃ」

そう言うとつららは血の出ているぼくの肩に向かって手をかざして、

 

キィィィィィン・・・ カキンッ

 

「ほら。止まったじゃろ?」

「って冷たい冷たい!寒いし痛いし冷たいよ!」

き、傷口が肩ごと凍りついて凄いことに!ていうか腕が動かない上にどんどん変色し始めているよ!?ねえこれなんの拷問!?

「んむ?血は止めたのじゃから問題はあるまい?」

「血が止まればいいってわけじゃないよつらら!」

このままじゃ血は止まっても凍傷になってしまいそうだ。どうしよう、この子には後で常識というものを教える必要がありそうだ。

 

・・・あれ?でもこんなことしてる状況だったっけ?

 

「あ・・、そういえば竜」

こんな馬鹿なやり取りをしていたにも関わらず、なぜか竜は律儀に待ってくれていた。

「んむ?ああ、それは別に問題ないのじゃ」

「あっ!ちょっと待ってよつらら!それどういうこと!?」

止める間もなく、つららは躊躇する素振りも見せずに竜に向かって歩み寄っていった。距離的には既に竜の殺戮圏内に入ってしまっている。

そしてつららは竜の目の前まで来ると立ち止まり、竜の顔を見上げた。気のせいかな、竜もつららを見下ろす様に顔を下げている気がする。

「ふぅ・・・まったく」

開口一言、つららは溜息と一緒にそんなことを呟くと、

 

「父上、一体どうしてここにおるのじゃ?」

 

あろうことか、竜に向かってそう言った。