※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

世界には不思議が満ちているってどこかの偉い人が言ってた気がするけど、流石にその名言を言った人もこんなことがあるなんて思いもよらなかっただろう。

 

「父上、どうしてここにおるのじゃ?」

 

「へ?」

つららが言った言葉に耳を疑った。聞き違いかなと思って耳を殴ってみたけど痛かっただけで、正直なんでこんなことしたのだろうかと少し後悔した。

 

だってどう見ても、つららが会話してるのは竜だ。いや竜と平然としゃべってるってところからつっこみ所満載だけど、つららは父上って言ったし、もはやどこから突っ込めばいいのか分からない感じだ。

「えっとえっと・・・あれ?」

マズイ。頭がこんがらがってきた。よし、まずは落ち着いて考えるんだ。

 

つまり、つららは人間の女の子で、つららが父上って言ってるのは竜で、ということは―――

 

「―――どういうこと?」

危ない。危うく頭が処理能力の限界を超えるところだった。

 

「なるほど、そういうことだったのか」

「あ、いたの?この薄情者」

いつの間にかおれの隣に、なにやら思案顔のオヤジさんが佇んでいた。

さっきは平然と見捨てたくせに、よくものうのうとぼ・・おれの隣に来れたものだ。

「そう拗ねるなアキ。正直悪かったと思っているんだ」

そう言ってオヤジさんにしては珍しくすまなそうな顔をした。それもそうか。仮にも酒場のマスターだ。平然と人を見捨てるような人が酒場のマスターに選ばれるわけがないしね。

だからって簡単には許さないけど。そもそもおれは拗ねてない。

「どーだか。まあ結果的には助かったからいいけどね。で、なにが分かったの?」

「質問の仕方を知らんのかお前は」

すまなそうな顔から一変、呆れた顔でおれを見るオヤジさん。ねえ本当に悪かったって思ってる?どうもおれには反省してるようには思えないんだけど。

「まあいいだろう。この状況を見てもまだ分からない未熟なお前に特別に説明してやる」

「ねえ、いま遠まわしに馬鹿って言わなかった?」

まったく失礼な。クロッセルがどういう基準で酒場のマスターを選んでいるのか不安になったよ。

「いいか?お前の頭じゃ詳しく言っても分からないだろうから簡単に言うが」

「ねえ、いま絶対遠まわしに馬鹿って言ったよね?」

クロッセルはどうやら致命的な人選ミスをしたみたいだ。どうしてこんなひげ面を酒場のマスターにしたんだろう?不思議で仕方がない。

 

「ようするに―――あの娘は人間じゃないってことだ」

「・・・はい?」

いきなりのオヤジさんのトンデモ発言に、一瞬目が点になった。

「あはは、何言ってるのオヤジさん。そんなわけないじゃんか」

こんな状況下でそんな冗談を言えるオヤジさんに脱帽だ。

まったく、冗談にしては笑えな―――

 

「―――いいや、事実じゃ」

 

―――い?

 

「つ、つらら?」

竜に背を向けて、つららはジッとぼく目を見つめていた。なんでだろう、つららの態度が少しよそよそしいような気がする。

「あ、あはは。つららまでそんな冗談を言うなんて、一体どうしたの?」

「アキ、無理をするでない。おぬしも薄々と気が付いていたのじゃろう?」

「・・・・・・」

「その反応を見る限りじゃと、図星、じゃな。本当はおぬしには知ってほしくなかったのじゃが、知ってしまったのであれば仕方がないの・・・」

 

つららは「ふぅ・・・」と一度だけ溜息のようなものを漏らした後、まっすぐにぼくの眼を見て言った。

 

「アキ、ワシは人間ではない」

 

実際に本人の口からそのことを聞かされると、言葉が出なかった。

そりゃあ、気になることならいくらでもあった。

極寒の雪原での非常識な浴衣姿。名前がない。氷を操る不思議な力。町を歩いたのは初めて。

どれもこれも、ひとつだけ聞くだけなら「変わってるね」だけで済む話だけど、数が増えれば普通の人間にしては“変わってる”だけじゃ済まなくなってくる。

 

 

「でもそれじゃあ、つららはその・・・竜、なの・・・?」

どうにかして絞り出した言葉でこんなことしか言えない自分が嫌になった。

「竜、か。どうなんじゃろうかのぅ」

ぼくの言葉に、つららは苦笑ともとれる曖昧な笑みを浮かべた。その笑顔を見てるとなぜだか胸が苦しくなってきた。

「ワシはこの通り、外見は人間とさして変わらぬからの。こんな姿で竜を名乗るのもおかしな話じゃ」

「でも、それじゃあ」

キミは、一体なに?

・・・流石にそんなことを言うほど無粋じゃないけど、つららはぼくが思ったことを解ったみたいで、少し俯いて小さな、本当に小さな声で呟いた。

「本当に、ワシは一体なんなのじゃろうな・・・」

 

呟いた後で顔を上げたつららの表情は、不自然なほど自然体だった。

 

「まあ、ワシのことはどうでもいいのじゃ。父上がここに来た理由も、どうやらワシを連れ戻すためじゃったみたいだからのう。ワシが帰ればすべては丸く収まる」

「・・・え?ちょ、ちょっと待ってよ!」

「んむ?なんじゃ?」

「いや・・その、なんて言ったらわからないけど、いきなりそう言われても困るというか・・・」

「なにを困っておるのじゃ?別にワシが帰ろうともおぬしに困るような点はない気がするのじゃが」

「いや、それはそうなんだけど・・・」

それでも、いまいち釈然としない。

「まあ、そもそもワシが無理を言っておぬしに連いてきただけじゃからな。おぬしにも都合がよいじゃろ」

「・・・なんだよ、その言い方」

つららの言い方にカチンときた。確かに最初はそうだったし知り合って一日くらいしか経ってないけど、まったく知らない仲でもないし、まるで他人みたいなその言い方はあんまりだ。

 

「ええと、とにかくキミのお父さんと話をさせてよ!」

「それは別に構わぬが・・・。父上と話をしようとする人間なんておぬしが初めてじゃな・・・」

あ、なんだか馬鹿を見るような眼でつららが見てる。今日はぼくを馬鹿にするのが流行ってるんだろうか?

「じゃが、どうなっても知らぬぞ。覚悟はできておるのか?」

「当然」

これにはもちろん即答する。そもそもぼくは特別に強いわけでもない普通の人間だ。覚悟ができてなきゃ竜と話すなんてトチ狂ったことは言わないさ。

「・・・そうか。ではもう止めぬぞ」