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「無意識領域の改変……ですか?」
リトルレジェンドの一室であるエミリアの書斎。
地下にあるものとはうって変わって、真新しい最近の本を中心に構成されている部屋だ。
「まあそんな大袈裟な事では無いのじゃがな」
ルシアはこの日もエミリアを訪ね、例の本の《生命のウルド》の項目の解読に努めていた。
……そんな中で、エミリアがふと口にした一言。
無意識領域の意識改変である。
「あのカードはその人間が歩んだかもしれない別の運命を映すもの。となれば、“あの姿”に至るまでの人生もあったはずじゃ」
「……まあ、確かにそうですが……」
「あの様子を見るに記憶や性格の変化は無いじゃろう。しかし、女として生まれた場合にしていたであろう経験――例えば名前が違っていたかもしれんし、食べ物や服の好み、異性に対する態度なども変わってくるじゃろう。それが無意識レベルで影響はしているかもしれんな」
「……異性の……それは、リファさんに対する態度にも……?」
神妙というには少し軽い調子で語るエミリアに、ふと思い当たった心配事を投げ掛けるルシア。
しかし、エミリアは特に心配など無い、とでも言うように笑いながら、口を開いた。

「安心せい、あくまで基本となる人格はお主らが知っている”ヴィオ・ラスクール”でしかない。
持ちうる感情に関しても、+に0を足しても、+にしかならんよ」













女三人寄ればかしましい、とはよく言ったものではあるが、二人でも十分にその存在感は誇張されているような気もする。
基本、レイスとルシアはたまに行動を共にする程度なので、普段近くにいる女子と言えばリファとリフルの二人くらい。
ゆえになんとなくそんなことも考えてしまうものではあるのだが……
「ティオ、これとかどう?」
「うーん、こっちの方が似合うよー」
まさかその二人のど真ん中で、こんな風に遊ばれるような日が来るとはとても思わなかった。
――職人通りからは少し離れたところにある、通称ファッション街。
その通称が示すごとく、紳士服も女物も節操無く並んでおり、宝飾品や懐中時計等のアクセサリー類も豊富に揃っている場所で、主に女性が集まる場所だったりする。
たまに仕立て屋が集まってファッションショーなんかもやっているそうだが、いまいち自分自身の服飾に気を配ることは少なかった“ヴィオ”にとっては、興味の無い話だった。
……のだが……


「入り込めねぇ……」
ある店から数歩離れた位置で、アースが両手に女物の衣服を大量にぶら下げたまま立ち尽くす、という哀愁漂う姿でぼそりとそう呟く。
……”ヴィオ”にとってはあまり縁がないと思っていたファッション街で、男が踏み込めない程の勢いで着せ替え人形と化している……という現状に、ティオはぐったりとしながらも黙って従っていた。

(女の子の髪は命なんだから、ちゃんと気を使わなきゃダメ!)

と言う妹とリフルに押しきられて、シャンプー&リンスまで気を使わされる事になったのも記憶に新しい。
端から聞いたらそれで従うのも律儀な人間だとも思わされるが、実は自覚が無いだけでそういう気質だったりしたのかもしれない。

「うーん……やっぱりパンツスタイルだけじゃ面白くないなぁ」
……と、そんな中でリフルがポツリとそう一言。
確かにここまでティオに着せてきた服と言えばズボンと呼べるものばかりで、まあ男女兼用と言える衣装が多かったのは確かだ。
そのあたりティオに気を使っていたのかも知れないが……
その瞬間、ティオの脳裏に凄まじく嫌な予感と、異様に明確にある光景が一瞬にして構成された。
「ちょっ、ま……それはまだ心の準備が」
「問答無用! 大体女の子が男物の下着のままでどうする! トランクスじゃ見栄えもむちゃくちゃでスカートも履けないじゃない!」
逃げようとするティオの腕をぐわしと掴み、そのままズルズルと引きずっていくリフル。
……リファは少し複雑な顔をしつつもその光景を眺め、数秒の間を開けた後、そのうしろを追うようにして歩を進め始めた。


「アース、これ持って暫く待ってなさい!」
今まで入っていた店で買った衣服を、投げつけるようにアースに渡すリフル。
アースは急にきたそれにバランスを崩しかけるが、なんとかその場に踏み留まり、衣服を受け取った。
「って、また置いていく気かっ!?」
「こっからはマジで男子は立ち入り禁止! と言うわけで、またにー」
ズルズルと普通に聞こえてきそうな光景を演出しながら、ずんずんと進んでいくリフル。
その手に腕を握られ、助けを求めるように泣きそうな目を向けているティオの姿を目にして、アースはなんとなくこれからどこに行こうとしているのか察していた。
「とりあえずそのかわいい泣き顔はやめてくれ」
特に誰かに言うわけでもなく、ぼそりとそう口にするアース。
一瞬ぐらりと頭が揺れた気がしたが、いかんいかん、とばかりに頭痛を抑えるように手を額にやった。
「……いいのか? あのまま勢いに任せてると、本格的に女の子に染まっちまうぞ」
それから数秒もしない間に、二人より遅れて出てきたらしいもう一人に向けて、アースはそう口にする。
「…………それならそれで、幸せだと思う。 どっちつかずのままでいるより、なりきってくれた方が、きっと」
――その言葉に、リファはまるで無理矢理作ったような笑顔を見せてそう答えた。
対してアースは、やれやれとでも言うかのようにため息をつき、再び口を開く。
「本気でそう思ってるなら別にいいんだけどな。 お前らの関係がぶっ壊れるのだけは勘弁してくれよ?」
「壊れるって……・」
「恋人を続けるにしたって友達にしたって、どのみち今までのままってのは無理だろ。 けど、別に女同士だからって付き合っちゃダメなのか?」
アースにしては珍しく、真剣な表情だった。
言ってる事と口調はいつもどおりのどこか軽い調子のものだが、その奥にある何かは確かに違うと感じられる。
「……ダメっていうより、周りが変に思うよ」
女同士。
対外的には――事情を知らなければそうとしか見えないのは確実であり、あまり快くは思われない関係であることも確かだ。
先にアースが言ったように、恋人などという関係を続けようと思えば今まで通りとはいかないだろう。
「そう言うなら、その程度だったのかねぇ、お前らの関係ってのは」
「――!?」
そのたった一言に、心が揺らぐ。
そんなことはない。 少なくとも、本心から分かれたいなどとは夢にも思っていない。
ただ、対外的な事もあり、この関係を続けようと思えばヴィオの方もいい目では見られなくなることは間違いないから。
「ま、三日しか経ってねーからなんとも言えねーけどな。 ヴィオのやつはなんか変わったか?」
と、そこでリファの思考を止めるようにアースがさらに言葉を続けた。
「変わった……って?」
姿、性別という意味で、今までとは真逆のものにはなっている。
しかし、話の流れ上そう言う意味ではないことはリファは理解していた。
「女の身体になって困惑はしてるだろうよ。 けど、態度は変わってねーだろ? 頭ん中は”ヴィオ”のまんまだ。 お前が惚れた、ヴィオ・ラスクールの、な」
「………何が、言いたいの?」
「……リフルの勢いに合わせて、ヴィオに女の子の服着せて、見た目から男だった痕跡も無くして……”ティオ”に仕立て上げて、アイツが男だったってことを忘れようとしてる。
けど、どんなに取り繕っても気持ちは変わらない……だろ、違うか?」
「…………」
図星……自分はそんなに分かりやすい顔をしていたのだろうか?
リファは、自分がヴィオの何が好きなのかははっきりとは答えられないと思っていた。
月並みなセリフを借りれば”すべて”と言ってもかまわないが……今、ヴィオがあの姿になってから思ったことが、ひとつあった。
まるで自分だけの騎士のように、どんな時でも共にいて、守ってくれるその姿。
しかし気さくで重圧のようなものはなく、気軽に、いつまでも共にいることができる、そんな人。
……それに依存していたのはいつからかは分からないけれど、彼の隣に寄り添うのが、当たり前になっていた。
そして、姿が変わっても変わりない“彼”の空気は、自分の心をも変えてはくれなかった。
「外見どころか性別すら変わっても、変わらないレベルの愛……か。 ちっくしょー、俺もそのくらい愛してくれる女がほしいぜ」
「そ、それは……」
「ま、アイツが女の子になりきるってのは実際時間が経ってみないとわからんが、お前に対する気持ちはそう簡単に変わらないだろ。
付き合いの長さだけなら俺の方がリファよりなげーし、アイツの事はよく分かってる。
下着やら服やら名前女物にされたところで……たとえ女っぽく振る舞うようになっても、根本はヴィオのままだよ」





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