※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「1時間見ない間にかわいくなってっちまってまー」

アースがティオの下着を含めた服を買いに行っている間放置されていたのは言うまでも無く、リファもまたリフルに従うように後を追い、着せ替え合戦(?)に加わっていったのは言うまでも無い事かどうか。
ただ、アースと話す前よりは、少しは以前のような穏やかな笑顔を出せるようになったようにも感じたのは確かだった。
「………うぅ……もうお嫁にいけない……」
ちなみにティオは、引きずりまわされた一時間の間に何があったのか、顔を赤くしているような青ざめているようなよく分からない顔色で、ぐったりと喫茶店のテーブルに突っ伏していた。
その服装は最初身につけていた、まだ少年っぽさを感じされるボーイッシュなスタイルではなく、ミニスカートに誰の趣味だか黒のオーバーニ―ソックス。上半身もシンプルではあるがかわいげのあるものを着せられている。
スカートの内側は……触れないようにした方がいいかもしれない。
「冗談言う気力があるなら大丈夫だろ」
とはいえ、アースのその言葉通り全く余裕がないというわけでもないらしく、明らかに冗談だとわかるような一言を口にしていた。
とはいえ、色々と精神的ダメージを受けているのは確かなようで、それをごまかすために口にしただけとも考えられる気がしないでもない。
「お待たせいたしました――――……お客様?」
「あ、ああ……スミマセン」
とかなんとかしている間に、商品を乗せたトレイを手に現われる店員。
営業スマイルがやや崩れているような気がするが、まあティオのこの状態を見れば仕方ないだろう、と一同は苦笑しつつ無言で受け流していた。
ティオは、ごまかすように笑いながら上半身を起こす。
「ミルクレープとホワイトケーキ、プリンパフェとストロベリーパフェ、コーヒーが一点と、ストレートティーが三点。お待たせいたしました」
商品名を口にしながら、トントンと慣れた様子で順に商品を置いていくウェイトレス。
営業的な笑顔が妙に目につく感じではあったが、その表情のまま淡々と仕事を進める様はある意味何かのプロのような空気を感じられる。
――などとどうでもいい事を考えながら、一同はそれぞれの前に置かれたモノに手を伸ばした。


「……なんだよ」
と、そのまましばらくして、ティオは周囲の三人の目が自分に集中していることに気がつく。
その眼の色は好奇に染まっていた……と言うべきか、とにかく今まで見たことも無いような珍しいものを見るようなものだった。
「いや、そんな幸せそーな顔してモノ食うお前はじめてだなーと」
「…………」
ぴたり、とティオの持っていたスプーンが動きを止める。
ああ、そういえばそうかもしれない……と、なんとなく言われた言葉をそのまま自覚した。
ちなみに、いま各人が食べているモノを確認すると――
ホワイトケーキとコーヒーはアースが、ミルクレープはリフル。
そしてプリンパフェはリファの前にあり、そうなるとストロベリーパフェは……当然の如く、ティオの前にある。
「……なんか、甘いものが妙にうまくてさ……その、三日くらい前から」
「それって、味覚も変わったの?」
「いや……甘いのは前からそれなりに好きだったけどさ。 なんか特に、最近は……・」
あははは……と乾いた笑みを浮かべながら、改めてパフェを口に運ぶティオ。
――口にした言葉は本当だったのだろうか、その次の瞬間には、どこか幸せそうな空気を醸し出すなんとも言えない笑顔に変わっている。
また一瞬遅れて我に返ったのか、ティオはハッと周囲の顔をうかがうが、まあなんとも生暖かい感じに自分の方に向けられた目が見えただけだった。
「……男んときは、なんとなく周りが気になってたから避けてたけど……女になってもこれじゃぁなぁ……」
数秒の間をあけて諦めたように、はぁ、とため息をつきながらそんな事を口にする。
厳密にいえばつい最近まで男だったからこそそういう反応になるのだが、そこまで本人が気づいているかどうかは不明である。
とりあえず、3人はごまかすように笑って聞き流すしかないか、と何も言わずにひきつった笑みを浮かべていた。
「……実は結構、楽しんでたりする?」
少し間をあけて、気でも取り直したのか再びスプーンを動かし始めたティオに、リファがそう語りかけた。
なんだかんだと言いながら勝手に揃えられた服も着ているし、髪の手入れなどという細かい事に関しても言われたことをやっている。
そして今のように”女”でないとやりにくい、と思っていたことをやってみたりと、結構状況に対して前向きのような行動をとっているようにも見えるのは確かだ。
自分たちの関係もだが、色々とティオ本人の事を心配していたらしいリファだが、それに関しては杞憂だったのだろうか、と思い始めていた。
「…………楽しんでるっつーか、受け入れるしかないなら、この状態で楽しみ見つけるしかないだろ」
そうして帰ってきたのは複雑そうな表情とそんな一言。
決して望んだことではない、ただの事故。
それでどうにかなる目途もないというのなら、確かに今この状況で進める道を探すしかない。
元に戻る道を探すという行動を排他するのは少々後ろ向きなようにも思える行動なのだが、あのカードを使える状態にする以外に皆目見当もつかないというのなら仕方ない事かもしれない。
実際、あの時あの場にいた魔術師全員のメンタルを集中させてカードを発動させてみたが、ティオに対しては全く反応を見せなかったのだ。
さすがに、自然界という途方も無い規模の力を相手にするには、人間が数人集まっただけではどうしようもないということだろう。
「ま、それはそれでいーんじゃねーの? これからリファとどーすっか決めてんならな」
「――アース!?」
ビクッ! と過剰とも見える反応を見せるリファ。
それは、先ほど少しだけとはいえアースとリファが話した事だ。
……リファ自身は、ティオに問うような勇気は持ち合わせていなかった。
自分の気持ちは理解したけれど、相手の言葉を聞くのはまだ怖かったのだ。
「…………お前も、やっぱそこに食いつくか」
「ああ、そりゃうちのギルドきってのバカップルだからな。 気になるに決まってるだろ」
「…………」
止めるべきなのだろうか……と、リファは思っていたが、それを口から出すことができなかった。
結局、それに関しては自分が一番気にしている。
それが分かっていたから、これで答えが聞けるなら聞きたい、と、心の深い部分に根付いていることも理解していた。
「別に子供作れなくなったわけでもねーし、問題があるとすりゃ周りの目くらいだしな」
そんなリファの想いをよそに、何やら妙な笑顔で言葉を続けるアースだったが……
そこで、また別なところに食いつく者が一人。
「ちょーっとまちなさい、子供がどうこうって聞こえたような気がするんだけど?」
微妙に口元を引きつらせながら、そう問いかけるリフル。
……確かに、普通の思考をしていればそれは誰でも食いつくような発言だっただろう。
あまりに普通に口に出していたことと、少々考えこまされる状況だったためか、ティオとリファの当事者たちはそれに関しては聞き流しかけていたようだ。
「……ティオは変身できなくても、リファはあのカードで変身できんだろ? 一人分のメンタルでも、2~3時間くらいなら効果続くってエミィも言ってたし」
「…………なんでそういう方向にだけ頭が回るかなアンタは……」
あー、と妙に納得させられながらも、同時にすさまじい勢いで呆れという感情が湧きあがってくる一同。
それはそれで色々と問題が浮上してきそうな気もするが、追及するとどうにも収集がつかなくなると本能的に察したのか、一同は彼のその一言に対しては黙殺する、と無言のままに結論付けた。




<前へ     次へ>