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 「それじゃあわたしは、宿の仕事に戻るわね。
お夜食が要るときは、いつでも声を掛けてちょうだいな…。」
そう言ってジョゼットが退室すると、錬金術師カネモリの「水の元素」作りが始まった。
「まず最初に、蒸留器を組み立てましょう。手伝って下さい。」
「う…うん!」
部屋の隅に置かれている鍵の掛かった木箱の中からフラスコや冷却管など、
必要なガラス器具を取り出しては部屋の中央の大型フラスコに組み付けてゆく。
「ところでさぁー、『じょうりゅうき』ッて何するもの?」
「そうですね…。
水や液体を一度沸騰させ蒸気に変えてから冷やし、再び液体に戻すことによって
その純度を高める『蒸留』を行うための装置です。」
「う〜ん…、何だかよく分かンないけど……。
…でもさぁ、『ミナルの水』ッてとってもきれいなんでしょ!?
わざわざこれ以上『純度』なんて上げる必要あるのかな?」
とりあえず大部分が出来上がった蒸留器を見つめながらジュリアが首をかしげると、
カネモリは落ち着いた口調のまま…
「錬金術で何かを作ろうとするときには、その材料となる物質の純度を極限まで高めるのが
基本中の基本なのです。
…特に、エリクシールや賢者の石といった『究極の品』にも通じる四大元素を精製するので
あれば、それらの原料の純度に気を配るのは当然と言えるでしょう。」

 蒸留器を組立て終わったふたりは、引き続いてその装置の中心をなす大型フラスコを
水で満たす作業に移る。
「へぇ〜っ、このためにこの道具はあったんだね!?」
壁に取り付けられた水汲みポンプに革を縫い合わせて作られたホースの一方を繋ぎ、
もう一方をコルク栓を外した大型フラスコに繋ぐ。
「ポンブを回します。ジュリア、手伝って下さい。」
ふたり掛かりでハンドルを回すと、外の清流から汲み上げられた水がホースを伝って室内の
フラスコに次々と注がれてゆく。
〈……………………〉
4・5ガロンもの容量があるフラスコを満たすのに、ゆっくりと十数える程度の時間で済んで
しまう。部屋から出て手桶でいちいち汲んでいたのでは、こうはゆかない。
「…は、早い!?」
「『元素』作りには早さも重要なのです。火を付けますよ。」
フラスコの下に置かれた火炉は特別な燃料を用いているようで、薪などをくべる必要は
なさそうだ。カネモリがコックを開き、「火の元素」の欠片で点火する。
「ジュリア、その鞴(ふいご)で火に風を送って下さい。」
「そうすると…、どーなるの?」
「火の温度が上がり、水が早く沸騰します。」

 鞴から送られた空気で温度が上がり、青白い炎を上げる火炉の上で、フラスコの中の水が
グラグラと沸き立ち始める。立ち上った蒸気が冷たい水を満たした冷却管を通り抜けると、
管の内側に再び雫ができ始める…。
「…、いよいよです。『元素精製《エレメント・ピュリファイ》』を始めます。
ジュリアはそのまま、フラスコの水が残り僅かになるまで鞴を動かしていて下さい…。」
「……うん。」
フラスコの水が沸騰するのをじっと見つめ続けてきた錬金術師・カネモリがおもむろに
立ち上がり、冷却管で生じた雫を受ける小さなフラスコを両手で包む。
「…偉大なる錬金術の祖・ヘルメス=トリスメギストゥスよ、我(われ)が
水に宿りし精霊・ウンディーネの力借ること許し給え……」
…………………………………………。
「…水の精霊・ウンディーネよ、我の前に水の真の姿示す可し(べし)。
『元素精製《エレメント・ピュリファイ》』。 」

 沸騰が始まってから、フラスコ内の水がほとんど無くなってしまうまでのおよそ一時。
「……………………。」
十六夜の中年男は小さなフラスコから両手を離さず、精神集中を続けていた。
「…ジュリア、火を止めて下さい。」
「えっ!?
『水の元素』…、出来たの、カネモリ?」
彼女は火炉に点火したときの逆の操作で火を消し、彼の側に足早に歩み寄る。
「…えぇ、この通りですよ。」
錬金術師の両手が取り除かれたフラスコの中には、周囲が薄暗くなった中で清楚な青い光を
緩やかに放つ石榴石(ガーネット)状の塊が残っていた…。
「やったー! すごぉーい☆
やっぱりキミってアルケミストだったンだね!!
…でもぉ、この『元素』…やたら少なくない?」
肉体労働を担当した支援士のグリーンの瞳が、思わず点になってしまう!?
4・5ガロンもの水から精製された「元素」は、僅かにヘーゼルナッツ一個分ほどの大きさ
しかないではないか?
「材料を『元素化』すると、その体積はほんの僅かになってしまいます。
まとまった量の『元素』を得るためには、膨大な材料が必要なのです。」
「…それじゃ…、『早さが重要』ッてのは…」
「水を汲んでから蒸留・『元素化』までの作業を、根気よく繰り返さなければならないの
です。」
「はうぅ〜〜っ……★」

 かくして、カネモリとジュリアのふたりは交代で小休憩を取りながら、かつてモレクで
「レアハンター」に譲ったのとほぼ同じ量の「水の元素」を作り出すのに一晩もの時間を
費やしたのであった。

 「カネモリさーん、ジュリアさーん!
おはようございます、朝食はどうなさいま……」
「じ…ジョゼットさん……。
お願い…。ちょっと…ねむらせてぇぇ〜〜……★」
「…はいはい。
カネモリさんご一行、今回も一泊延長ですわね♪」