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 八雲と士郎という2人に連れられて、俺は2人の出身地である『十六夜』という町に来た。
見たところ雪原のある山岳地帯だけあって町は雪一色の風情ある町だ。おそらく標高が高い場所にあるか、北国に位置しているんだろう。
しかし、俺の記憶上では俺の居た倭国という国には雪原はおろか標高の高い山に町がある事など聞いた事がない。
おそらく倭国ではなく他の国家であろうと推測してみる・・・が、俺自身他の国の情勢には疎いので断言は出来ない。

 十六夜に着いて、八雲は傷付いた子供を救護所へ連れて行き、俺はその間士郎と2人で待つことになった。


烈心「ほぉ、此処が十六夜っちゅう場所か・・・。中々いい場所だな。」


 俺は十六夜の町を眺めながら呟いた。町は雪一色だというのに町人たちの活気は目を見張るほどある。


士郎「ええ、この町は他の町とは違って独特の文化を持った町なんです。」
烈心「独特の文化を持った・・・町? まあ、こんなに雪深ければ独特の文化を持つ事ぐらいあるだろうな。」
士郎「まあそれもありますが、此処は他の町とは建物の様式も生活形式も違うんですよ。ほら、僕の持っているこの太刀だって他の町とは違う製法で作られたりしているんです。
それに着ている服も他の町とはまた違った作りになっているんですよ。」
烈心「へぇ・・・、なるほどね。」
八雲「それにこの町の人はこの厳しい環境で心身共に鍛えられ、『武人』と呼ばれる事を誇りとし、またその誇りを大切にしているんですよ。」


 士郎が自信ありげに自分の持ち物を見せながら俺に語る。よほど自分たちの町を誇りにしているんだろう。

烈心「武人ねぇ・・・。俺の居た所でも同じなのがあったねぇ・・・。」
士郎「でも、烈心さんの格好や持ってる太刀も僕たちのとよく似ていますね? ひょっとして烈心さんは此処しゅっし・・・」
八雲「士郎! そろそろ番所に戻るぞ!」


 士郎が何か言おうとした瞬間、後ろの方で八雲が士郎を呼び付ける。


士郎「は、はい八雲さん!!」


 士郎は八雲にいきなり呼び付けられたのに驚き、八雲のそばに駆け寄る。


八雲「そして、烈心とか言ったか。君もちょっと詰所のほうに来てもらいたい。」
烈心「詰所に・・・? ひょっとしてそこに放り込む・・・というわけじゃないだろうな?」


 俺は八雲の言葉に内心いい気持ちはしなかった。まあ、初対面であんな状況を見たら疑うのは無理は無い。


八雲「私たちはまだ君の事をよく解らない。ここで話するのも何だから、とりあえず私の所属する詰所で色々と聞きたいと思ってね。」
烈心「まあ、妥当な判断だな・・・。いいだろう、そこで話でもしようや。」
八雲「そう言ってもらえたらこちらも余計な手間をせずに済む。では一緒に来てもらおう。」


 俺は八雲の案内で彼の所属する詰所に行くことにした。
詰所は見たところ素朴な造りだが、雪国だけあって積雪に耐えれるよう梁が頑丈に組み込んであり、
防寒対策として大きな囲炉裏が詰所の中心に置かれてある。そして土間の隅にはこれまた多量の薪や炭が置かれてある。
俺は詰所の土間から室内に上がり、囲炉裏の前に腰掛けた。先程から寒い中に居たので囲炉裏の火が身に沁みる。
その時、奥の方から八雲ともう一人若々しくも精悍な顔つきの男が出てきた。見たところ俺とほぼ同年ぐらいに見えるが、若々しく見える分俺より年下な感じがせんでもない。
しかし、その爽やかそうな外見に似ず何処かの偉いさんとも思える風格が漂っている。正直俺はこういうのは好きじゃない。


????「君が雪原で襲われていた子を助けた者かね? 私の名は竜泉空也。此処十六夜に住む竜泉家の党首だ。君の名は?」


 空也と名乗った男は俺の真向かいに腰掛けて尋ねた。


烈心「俺の名は磐野烈心。見ての通りただの風来坊だ。」
空也「烈心・・・、いい名前だね。さて烈心、君に色々聞きたい事がある。まず第一に君は何処から来たんだ? 見たところ私たち十六夜の者と似たような格好をしているが・・・。」


 空也が俺の出身の事を尋ねてきた。まあ第一に尋ねるなら誰だって出身の事を聞くだろう。


烈心「俺の出身は倭国・伊吹野出身だ。信じるか信じないかはおたくら次第だがな。」
空也「伊吹野・・・? そこは何処なんだ? それに倭国とは何処の国なんだ? 十六夜はおろかこの世界でも聞いた事の無い場所だが・・・。」


 空也が狐につままれた様な表情で俺を見る。傍らに居た八雲と士郎も同じ表情だ。
まあ確かに自分たちの知らない地名を出されたらそう思うのは無理は無い。


烈心「俺だってこの十六夜って言う場所は初めて聞く場所だ。それ以前に俺の住んでいる倭国にはこんな豪雪地帯なぞあるわけが無い。
あるとすれば倭国の隣にある羅国か華国だろうが、どう見てもこの町は俺の住んでいた倭国と酷似していやがる。それだけに俺にも何がなんだかさっぱりわからねぇ。」
空也「羅国? 華国? これまた聞いた事の無い国だな・・・。」


 空也が目を丸くして驚いている。確かにこれだけ自分の知らない事をポンポン出されたら驚くに決まっている。


空也「俄かには信じがたい話だが・・・、君はどうしてあんな吹雪の中雪原を彷徨っていたんだ?」


 続いて空也が尋ねる。


烈心「こいつもおたくらには信じがたい話だがな、俺が旅をしていた時、ふと荒野を通っていたらいきなり俺を呼ぶ声が聞こえてきてな・・・、
確か、『貴方の赴く場所へ導きましょう・・・。』とか何とか言っていたな。その次の瞬間俺の目の前が光り、気が付いた時はあの雪原の中に放り出されていたんだ。」
空也「・・・? これまた信じがたい話だな・・・。」


 空也が更に目を丸くして驚いている。


烈心「確かにな・・・。誰が聞いても驚く内容だわな。」


 俺も自分でこう答えるのは初めてだ。嘘を言うならもっと現実味のある事を言うだろうが、
こちらでも理解しがたい現象を体験しただけあって、嘘を吐くなど到底できるものではない。
また、嘘を吐いてもすぐ見破られるのがオチだ。俺自身嘘を吐く事が苦手なものだしな。


空也「うーむ・・・。」


 空也が腕組みしながら思案している。俺の余りの荒唐無稽な返答に苦慮しているようだ。


空也「私としても君の返答には信じがたい・・・。だが、他の町でも君と似たような現象でこの世界に来たという者も居ると聞いた事がある・・・。」


 俺と似たような現象で来ただと? 俺は空也のその発言に眉を動かした。俺以外にこの世界に迷い込んだ連中が居るのか? 一体この世界は何なんだ?


烈心「兎に角、これが俺が此処に来た経緯だ。これ以上尋ねられても答えられるものじゃねぇ。どうやら外の吹雪も止んだようだし俺はこの辺で失礼させてもらうぜ。」


 俺はそう言うと囲炉裏の前から立ち上がり、外へ出ようとした。


空也「待ちたまえ、君は此処から出て行く当てはあるのかね?」


 空也が俺を引き止めて尋ねる。


烈心「さあな、まあ俺は風来坊だから気の向くまま足の向くまま、往く先は風に訊けってな。まあ歩いていればなんとかなるさ。」
空也「しかし、この地域の天候は不安定だ。今は大丈夫でもまた吹雪が来るか解らないぞ。」
烈心「・・・まあ確かにそうだが。」


 その時、詰所に誰かが入ってきた気配がした。



 -続く-