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 〈チィ チィ! パタタ……〉
「…フォンブリューヌ夫人、また二泊も長居してしまいました。
ご迷惑でなければよいのですが…。」
「気にしないで、カネモリさん。
お代はお二人で20,000のところ、15,000でいいわ。
長旅じゃ、何かと物入りでしょ♪」
「わーい! ありがとう、ジョゼットさん☆」
「恐れ入ります。それではこちらから。」
「はい、確かに30,000フィズ頂きましたわ。
カネモリさん、ジュリアさん、行ってらっしゃいな。砂漠では気をつけてね!」
「行ってきまーす! ボクたち頑張るよ!」
「夫人、博士が戻って来られましたなら、よろしくお伝えください。」
まとまった量の「水の元素」を手にしたカネモリとジュリアはこうして水の町・ミナルを
後にして、砂漠探検の拠点となる砂の村・サンドヴィレッジへと向かったのだった。

 「今までのボクの経験から言って、朝にミナルを出れば日が沈んでしばらくすると
サンドヴィレッジに着くよ。
太陽の光がキビシイ昼間に砂漠入りしなくていいのは、助かるよねぇ。」
「…しかし、
『砂漠の魔物は主に夜行性』
とも聞いていますが?」
「心配ないよ! サンドヴィレッジ近辺にいるよな奴らなら、何とかなるから。」
アッケラカンとした返答の中に、ジュリアの敏腕支援士としての自負が見える。
事実、遭遇した魔物は草原地帯でレムリナム、砂漠地帯でサンディフォックス程度で、
いずれもカネモリの手を借りることなくジュリアひとりで一掃した。
 赤々とした大陽が砂漠の西の彼方へと沈んでから半時後、薄闇の中に微かな灯火が
浮かび上がってきた。
「ジュリア、あれがサンドヴィレッジでしょうか?」
「そうだよ。
ホントに小ッちゃな村だけど、冒険者にとってはありがたい場所なんだ。」

 文字通りに「砂の村」の名を持つサンドヴィレッジ。
その始まりは砂漠の小さなオアシスに、砂上墓所を探検する者たちがテントを張ったことに
由来するという。
今はそのオアシスもほとんど枯れてしまってはいるが、酒場を兼ねた宿が建ち、道具類を商う
行商人が立ち寄るようになり、いつしか冒険者たちが足を休める場として定着した。
「…さて、ようやく着きました。
……と、いうことは……」
「カネモリぃぃ〜、宿屋で何か食べようよぉぉ〜〜……★」
「…となるわけですね? はいはい。」

 「わぁ、いい感じ♪ いッただっきまーす☆」
瞳キラキラなジュリアの目前で神々しい輝きを放つ、大麦の粥・ハムステーキ・野菜炒めに
ビール。
「それではごゆっくりとどうぞ。わたくしは少し周りを…」
「あの…、ジュリア・アマティさんでいらっしゃいます…ね?」
カネモリが席を立とうとしたとき、ひとりの少女がジュリアの側へとおずおずと寄って来る。
服装と風貌から察するに、アリスキュアから転身したばかりの10代半ばのカーディアルト
らしいが、頬が微かに紅潮しているように見えるは気のせいか?
「うん。ボクがジュリアだよ。どーしたの?」
「わたし…、支援士になって酒場で依頼を探すようになってから…、ずっと同じように依頼を
探すジュリアさんのこと…見てました。」
『……………………』
「お名前も分かり、すごいブレイブマスターさんである事も知り、…そのうち、
『素敵な女性(ひと)だなぁ。わたしの事も覚えてほしい!』
と思う…ように……」
詰まる言葉。高まる紅潮。胸の前で力のこもる手。
〈…………………………………………〉
「…わたしの名前を刻んだこの十字架、もらって下さいッ!」
彼女は両手で包み込むように握り締めていた十字架のペンダントを、ジュリアに手渡した!
銀で出来た十字架の裏側には、彼女の名前が
『Rosalie Lambert (ロザリー・ランベール)』
と刻印されていた。
「…あ、ありがとう……、ロザリーちゃん…」
「ジュリアお姉様、非道いですわ! わたくしという者がありながら…」
高級な甲冑に育ちの良さを感じさせる、年下のパラディンナイト。
「冗談はたいがいにしときい! ジュリアはウチの嫁にもう決定なんや…」
話口調に独特の訛りがある、同年代のクリエイター。
「…べ…、別に私は、ジュリアが気になって来たんじゃなくってよ。でも…」
ツンと澄ましつつも言動がまるで噛み合っていない、やはり同年代のエアレイド。
「ジュリアちゃん、こんなお子ちゃまたちなんて放っといて、アタシとイイコトしましょ…」
女なら誰もが嫉妬するナイスバディの、年上のマージナル。
いつの間にやら、ジュリアとカネモリのテーブルは数人の女性支援士・冒険者に取り囲まれて
しまったではないか!?
「あぁーーッッ、もぉ!
レイチェルちゃん! エレニ! ヴェロニカ! フェリシアさん!
ボクは今、腹ペコで仕方ないンだよ。
ゆっくり食べさせてくんないと、遊んであげないぞ★」
『…………………………………………』
彼女たちはみんな何らかの形でジュリアに好意を持っているので、この「鶴の一声」には
敵わない。先の騒動から一転して静かになる。
「…ところで、冒険せんと支援士稼業専門のジュリアが、ココに何しに来たん?」
「エレニ、砂上墓所で探し物するアルケミストの護衛をする仕事だよ。
そんで、仕事は探し物が見つかるまで他のダンジョンでも続くんだ。
…ほら、こちらが依頼者のアルケミスト、タテカワ・カネモリだよ!」
無邪気に依頼者を紹介するジュリア。
…しかし、彼に注がれる女性たちの視線は…、冷たい。
「『タテカワ・カネモリ』…、
あの教会で悪名高き『黒の錬金術師』ですか!?」
「そうですわ、ロザリーさん。
錬金術で人々から大金を巻き上げ、アルティア様のお心や『輪廻の均衡』さえも崩しかねない
『究極の薬』を研究しているらしいですの。」
「ウチだって錬金術師の師匠に弟子入りして、ささやかにアルケミスト目指しとったんや。
…でも、どんなに頑張って修行しても、結局はなれなんだんや!
どうして…、どうして強欲な奴らばかりがアルケミストになれるんやぁ!!」
「…『黒の錬金術師』は
『全ての魔法や特殊能力は薬やアイテムで再現できる』
と豪語したそうね?
天から授かったこの誇り高き『天駆』の力…、たかが薬なんかで真似されるものですか!」
「そうそう。最近パーティーで仕事請けようとしても、
『俺、魔法薬持ってるからなぁ…』
なんて言われて迷われちゃうこともあるし…。ムカつくわぁ★
…ジュリアちゃん、可哀想に。仕事、早く終わればいいわね。」
「フェリシアさん……」
「黒の錬金術師」の悪評ですっかり興醒めしてしまった女性たちは、それ以上何も言葉にせず
ジュリアたちのテーブルから次々と去って行った。

 「…ジュリア、申し訳ありませんでした。
わたくしがこの場にいたばかりに、お友達方に不愉快な思いをさせてしまいましたね。」
「…気にしないでいいよ、カネモリ。
それよりキミ、あんなに悪く思われてたんだね? あんなの誤解だよ!」
「いいえ。一部は本当ですし、アルケミストが社会から警戒されるのは当然ですよ。
魔法も使わずに怪現象を起こせる。
その気になれば、危険な毒劇物を悪人に横流しできる。
犯罪が起これば、まず真ッ先に守備警団に目を付けられる。
…いや、普段から教会の強硬派に日々の行動を監視される…。」
「でもカネモリは根はいい人だよ!
だから、エンリケやジョゼットさんとも仲良くなれるんだ!」
…………………………………………。
「ありがとうございます、ジュリア。
今はあなたがそう思って下さるだけで助かります。
…さぁ、食事が冷めてしまう前にいただきましょう。
そして、明日に備えて早く眠りましょう……。」

………………………………………………。
………………………。
…………。 

 〈……………………〉
「…おふぁよぉ、カネモリ。
まだ暗いうちから発つんだね?」
「えぇ。
明け方は夜の魔物も活動を止めようとしますし、少しでも昼間の酷暑は避けたいですからね。
それに…」
「…あの娘たちと鉢合わせしないよう…でしょ?」
「ふふっ。ジュリアはわたくしのことを、ずいぶん分かるようになってきたようですね。
さぁ、出発です。」

 こうして、カネモリとジュリアは砂の村・サンドヴィレッジを後にした。
ふたりが探し求めるものは、はたしてこの世のどこに存在するのだろうか?
まだ見ぬ大地に吹く風だけが、それを知っている。

                                《次回に続く》