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早朝、十六夜特有の肌寒さに目を覚ました。
枕元に置いてあった刀を手に取り、布団から這い出して障子を開く。
いつもなら既にそこにいるはずの親父の姿はなく、
玄関の戸がこれでもかってぐらいに、開けっ放しにされているのに気付いた。
新手の嫌がらせだろうか。

「これじゃなんの為に、囲炉裏に火焚いてるかわからんだろ。」

開けたら開けっ放し、火もつけたらつけっぱなし。子供かっ!?
お陰様で火事になりかけて近隣住民の皆様にやたら心配かけられるし。

「ったく…仕方のない親父だ。」

これじゃどっちが親だかわからないじゃねぇか。
溜息をつきながら、引き戸を閉めようとした。

ガッ、ガッ。

「ん?おかしいな、いつもはすんなり閉まるんだけど…。」

もしかして、凍りついたか?
いや、今までそんなこと親父が面白半分で引き戸のレール部分に水ぶっ掛けた時しかないし。

「また悪戯したのか。」

全く、どうして家の親はこうなんだ。
あぁ、頭が痛い。
ここは一つ、引き戸を外してはめ直そう。
そう思い顔を上げた時だった。

「うおぁ!?」

顔を少しだけ覘かせた金髪サングラスのごっついお方が、引き戸に手をかけ
俺をじぃっと見つめていた。

怖い、怖いって。

後ずさる俺、ごっついお方は鍛え抜かれた鋼のような腕を伸ばし
俺のドテラをつかむと、ぐいっと引き寄せて笑った。
その笑い方が、さらなる恐怖を呼ぶような笑みで
地獄の底から響くようなドスのきいた声で「おはようございます。」
と俺に言ったのだ。

「お、おはようございます。」

引き攣った笑みで、なんとか受け答えをする俺。
あぁ、やばい。
近隣住民の皆様が、心配な目でこちらを見ていらっしゃる…。
あ、空也さんタスケテ…。
通りすがった空也さんは、蛍さんと一緒でだった。
デートだろうか?デートにいけるほど距離は縮まったんだろうか。
あらゆる誤解はちゃんと解けたのだろうか。

そんなことを思っていると、空也さんは俺の家の前にいる
黒い洋服をきた集団を不審に思ったらしく、なにやら数点質問をしている。
そうしているうちに、我が家の前にたくさんの人だかりが出来ていた。
そんな中から、「あぁ、失礼。すいません通りますよ。」と人混みから姿を現した男と目が合った。
そいつはニコリと笑うと、空也さんに挨拶をし何やら話し始めた。
空也さんもそいつの話を聞いて

「そういうことでしたか。承知しました。」

では、と頭を下げるとまた蛍さんと歩き始めてしまった。
唯一の救いを失った俺は、目の前にそいつがやってきた時に呟くように言った。

「親父、とうとう何かやらかしたのか…。」
「…なるほど、我が息子よ。君がどういう目で父さんを見ていたかよーくわかりました。」

その口調に、俺は反射的に身構えた。
口調が丁寧な時は必ずといっていいほど、ろくでもない報せを持ってくる。

「説明は後からにしましょう、それじゃよろしく。」

パチン、と親父が指を鳴らした。
そこからがあっというまだった。
どこぞの危ない組織でないって言うのが信じられないほど
見事な手際で俺をソリの後部座席へと押し込め、
親父が俺の手から落ちた刀を拾う。
なに、その連係プレイ?
何処につれてく気ですか?
縄でぐるぐる巻きにされた俺は空也さんに助けを請おうとし振り返った。
が、肝心の空也さんは蛍さんと談笑していてこちらに気付いていない。
近所の人たちは、ぽかんとした表情で俺を見送っている。

速度を上げ走り出したソリ。

「え、ちょっ!助けてー拉致されるーっ!!」
「実の親がわが子を拉致するっていうのもなかなかシュールな話しじゃない?」
「うっせぇ、馬鹿!!てかこれが拉致以外のなんなんだっつぅの!」

どんどん十六夜は遠ざかり、やがて見えなくなってしまった。

「ごほん…。事態は一刻を争います。まずはこちらをお読みください。」

借金の証明書だろうか?
臓器一個何フィズとかそういった書類でも入ってるんだろうか?
突き出された白い封筒を手に取った俺は封を切り中の便箋を取り出した。
そこには俺が予想した物とは別の内容が書かれていた。

『「我が娘・エイダの血を継ぐシドウへ。
本当はもっと早くに告げるべきだったことだが
実は私は、君の曽祖父にあたる人物だ。まだまだ元気なつもりでいたんだが
最近体調が思わしくない。遠い十六夜から足労願うのは心苦しいが
一度私の元へ来て欲しい。是非、この老いぼれ爺の願いを聞き入れておくれ。
セルゲイ・フォン・バスカヴィル」』

「誰?」
「ですから貴方の曽祖父。あ、曽祖父というのは曾おじいちゃんという意味で。」

いや、わかってるけどさ。それくらい

「なぁ、何で俺の曾じいちゃんがナントカ・フォン・ナントカになってんだよ
普通、山田ナントカだったり鈴木ナントカのはずだろ!?」
「正解は、霜月さん。」
「馬鹿、誰が母さんの旧姓を答えろって言った?
あんたが隅から隅まで十六夜の人オンリーの血を継いでるんだったら
母さんは、クロッセルとかリックテール方面の人なわけ?」
「正解はシュヴァルです。」

口を挟んだのは、黒いトレンチコートのお兄さん。

「いや、何処だっていいけどさ。」
「手紙を読んでいただいてお分かりになったと思いますが、
貴方の曽祖父の容態は刻一刻と悪化しているようです。ご同行お願いできますね?」