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エピローグ



「今日も張りきってるな」
リエステール近郊。
魔物もそれほど強くはなく、数もあまり沸いてはこないはずの平原で、ある一団がコボルトの集団を相手に戦っていた。
――いや、正確にはまともに戦っているのはその一団の中の二人だけで、他のメンバーは自分たちに迫ってくる分だけ叩いている様子だった。
「自分のスタイルを考えなおしてるんでしょ」
そう言いながら、傍観組の一人――リフルが、フレイムを付与したメイスで間近まできたコボルトの一匹の脳天を叩き割る。
将来的に剣中心のフルーレティを目指しているという殴りウィッチの彼女だが、そろそろメイスを練習用の剣に持ち替えてもいいころではないかとささやかれているのはまた別の話。
とりあえず町周辺の魔物相手には苦労もしないようである。
「スタイル、ねぇ」
”ヴィオ”は、ブレイブマスターで『刃』の特性持ち――つまるところ、若干ではあるがパワー型の傾向にあった。
それが現状では総合的な能力が身体年齢に比例するように落ち、中でも力が大幅に落ち込んでいる。
逆に、すばしっこさだけはあまり減少傾向になかったことから、おそらく今の身体は純粋な『速型』としての形になっているのではないか、と周囲は推測していた。
”ティオ”の身体は、ヴィオという人間の別の可能性の姿
――つまるところ、IFな要素を持ち合わせていてもおかしくはないということだろうか。
「特性が変わったら変わったで苦労しそうだな」
しかしそう都合よくはいかないもので、ティオは自身の戦い方そのものを考えさせられる結果になっていた。
今までのクセに頼っていては、最大限の力を出せないという現状にぶち当たったのだ。
「まぁ、あれはあれで楽しそうだからいいんじゃないの? リファ姉も少しは吹っ切れてるみたいだし」
今、コボルトの群れの中で戦っているのは、ティオとリファの二人。
……リファに関しては、つい先日まで悩みに悩み抜いていた彼女とは別人のように、いつもの調子で数々の魔法をティオの背後から撃ち出している。
なんだかんだと言っても、結局いいコンビであることには変わりないようではあるのだが――
どことなく、その戦闘風景からは以前よりも二人の距離が近づいているように見えた気がした。
「雨降って地固まる……かな? 根本的なことは解決してないけどねぇ」
やれやれ、とばかりにリフルは肩をすくめ、ごそごそと戦闘前にリファから預かった鞄のなかをあさり始める。
中に入っているのは、回復薬と日帰り程度の軽い食料。
そして――薄手のクリアケースにしまわれた、《生命のウルド》のカード。
手元の資料をあらかた読み終えたらしいエミリアが『これはお主たちが見つけたものじゃろう、好きにせい』と言ってリファに渡したものだ。
種別的にはフルーカードの一種らしく、解析を進めていく途中で試したところ、仲間内でこれを起動できたのはリファとルシアだけ。
その際に一度暴発して誰かさんの姿が別のものに変わったのも記憶に新しい。
が、その時は数分で勝手に元の姿に戻っていたので、ティオの事態の大きさはなんとなく察することはできるだろう。
「持ち歩いてるってことは、まぁ大丈夫だろ。 最初は見たくも無い様子だったしな」
「エミィに手渡して数日は確かにねぇ」
まぁ、その一件も買い物の日を区切りにマシになったようではあるのだが。
最初からコレが原因と確信に近い推測で見ていたので、事件当初からリファのこのカードに対する視線は複雑なものばかりが入り混じっていた。
「――しっかし、一人で使う分にはおもしろい魔法具だよな。 長くても数時間で元にもどっちまうんだし」
モノの重大さをわかっているのかいないのか、ニヤリと奇妙な笑みを浮かべるアース。
そして何を考えているのかエロバカなこいつのことだ、と若干呆れ気味の表情でそんな姿に目を向けるリフル。
どのフルーカードの扱い方を知り、また扱う事ができる魔法系のジョブでしか起動できない道具なので、純粋な前衛と前衛傾向なこの二人には扱えないシロモノなのだが、想像するだけならタダだと言わんばかりの態度である。
―そこまで言うならお望みどおり女にして徹底的にいじめ倒してやろうか―
などと数日前にレインが言っていたが、なんとなくリフルは賛成したい気分になっていた。
……まぁ何を、という細かい事は気にしないことにして、ではあるのだが。
「まっ、結局一緒にいれるのが一番ってことなのかな」
一度カードを上に投げ上げて、重力に従って落ちてくるそれを再び鞄の中に落とすリフル。
姿形に性別も関係なく好きだというのなら、まあ落ち着く結論はその一点だけなのだろう。
人間の感情なんてものは、時とともに変化していくものだ。
それがいい変化なのか悪い変化なのかは、その時が来るまで分からないものなのだが……
「よっし、私も軽く暴れてくるか!」
まぁアレを多少なりとも吹っ切れたなら、悪いようにはならないだろうと勝手に納得し、いつものようにちょっかいをかけるついでに戦闘に飛び込むリフル。
その際に放り出された荷物は狙い澄ましたようにアースの手に収まり、最近どこかで見たような光景を再び演出していた。
「――ったく、またおいてけぼりかよ」
最近こんなのばかりだな、とふてくされるアース。
それもまた時々はある珍しくはない光景で――
結局のところ、多少形が変わったところで日々はいつもどおり回っていくものなのだ、と、妙な悟りを感じさせられるものでもあった。


普通なら見過ごしてしまうような小さな事件も、とても無視はできない大事件も、喉元過ぎれば昔のトラブル。
時折幾分かの問題を残しつつも、それらも含めて時は過ぎ、先へとつながっていく。
いつまでも引きずることにはなりそうな今回の事件も、笑い話として語れる日は来るのだろうか――
などと誰かさんは思い、いつもの調子で戦場を駆けていた。