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これから尋ねることになる、曽祖父の話を聞いてみることにした。

「身分は貴族であられますが、没落寸前の小貴族でございます。
領地はシュヴァルの3分の1の面積くらいの大きさですね。」

没落寸前、はどうでもいいとしよう。多分よくないけど。
それにしてもシュヴァルの3分の1の面積ってどれくらいなんだ?
そんなことを考えていると、親父が肩を震わせながら

「そうか、そうなのか。」

と呟いている。何かわかったんだろうか?

「そうか、なぎさ。お前がハーフって言うのは本当だったんだなぁー
だからこんなにも美しかったんだなっ!!」

今亡き愛妻に話しかけている親父。
これが始まると先が長いんだよな。

「で、今から二人で曾じいさんの所に見舞いに行くって事か…。」
「え、何言ってるの?君一人だよ。」
「はい?」
「だって、父さん。親類倒れたって言って仕事抜け出してきたんだもん。
これ以上無理、帰らないとお前サボったなっ!!って怒られるし。
正直言って曾孫の獅童くんさえいればいいんじゃない?
婿の俺なんてどうでもいいだろうしねー。」
「俺、曾じいさんのコトなんて何一つ知らないのに?!」
「父さんだってしらないよー、なぎさはいっつも『私は天涯孤独』って言ってたし。
あ、そうだ。あっちについたら絵葉書とか送ってね。」
「黙れ、絵葉書大好き人間っ」
「うぇーん、なぎさ。息子が冷たいよぉー。」

そう仰いで嘆く、写真の中には変わらぬ笑顔のかーさん。
てか、町中でそういうことするのやめて。

以上の回想があって、俺は森林の町シュヴァルにいる。
知らない町に放り出された俺は、とりあえず歩き回ってみることにした。
迷子になったら、そこから動かない。
のが一番いいのだが、保護者は十六夜に帰ってしまったし
金髪黒サングラスの集団は

「私達、ここまでですので。」

といってクロッセルでさようなら。
馬車に乗って、此処まできたのはいいのだけれども
どうやって、曾爺さんのところに行けばいいんだろう?

「あの…。」
「どうしました?」

一つの解決策として、自警団に道を聞くことにした。

「道がわからないんですけど、バスカヴィル家は…。」

バスカヴィル、そう聞いた途端青年の表情がかげる。

「貴方は、バスカヴィル家の親族のお方ですか。
この度は、お悔やみ申し上げます。」

お、悔やみ申し上げます…?

「え、それってどういう…。」

それがどういう意味か、解っているくせに
俺は解ろうとはしなかった。それを否定したかった。

「お屋敷の方へ、ご案内いたします。」

それから無言のまま、早歩きで数十分後到着した。

「では、失礼します。」
「あ、あの。ありがとうございました。」

黒い喪服の集団
その中から、一際目立つ赤毛の同年代くらいの女性がこちらに近づいてくる。

「穂仁原、獅童?」
「え、あ。あぁ…あんたは?」
「アデル。アデル・フォン・バスカヴィル。
申し訳ない、あの人は…君が来るのを待てなかったようだ…。」

二度目の、告知。
否定しようとしていた、俺の思考は完全に停止した。

重そうな房飾りのついたカーテン
灯りのついていないシャンデリア
床に落ちる影はやたら重く深い。
そんな部屋の中央に置かれた天蓋付きのベットに
曾じいさんは横たわっていた。

「これが、俺の曾じーさん。」

わざと口に出して言ってみたが、これといって特別な感情は湧いてこなかった。
なんせ、俺にとって曾じーさんは母さんの昔話やのろけ話の中だけの存在。
まして昨日まで生きているとは知らなかった曾じーさんとあっては。
大体、「曽祖父」という存在にあったことがある人は少ないと思う。

「倒れたのは三日前。
黒の錬金術師の診察を受けてしばらくの間
容態は安定していて、本人もまだまだ元気なつもりだったんだけど。」

アデルの説明に、ただ俺は頷くだけだった。
納棺前には間に合わせたいと、連れられて来たけれども…
正直、もう少しマシな服着て来ればよかったな。
ぐらいにしか思えない。俺って冷たい人間なんだろうか。

「…俺、今まで曽祖父が生きてるなんて知らなかった。
でもそれって変ですよね。俺の母さんはずっと天涯孤独ってきいてたんだ。
なのに。」
「それは…。」

アデルが弁明をしようとしたその時、
バターンッ
と乱暴に扉が開かれた。
飛び込んできたのは黒い服を着た大人たち、ざっとみて5、6人。
全員眉を吊り上げて、怒鳴り散らしている。
アデルはそれを最初のうち黙って聞いていたのだが、
不機嫌そうな表情を浮かべると鋭く短い言葉を発した。
一瞬だけ、静かにはなったがまた直ぐに数倍の怒号が撒き散らされる。
皆、額にビキビキ青筋を立てて目が血走ってる。
対するアデルは、どこまでも冷静でまた小さく笑っては言葉を発した。
早口で何言ってるかよく聞き取れないがもの凄く馬鹿にしている
って感じは伝わってくる。
「うっせー、馬鹿。」とか「黙れ阿呆」的な言葉をいってそうだ

あの、皆さん。
そんなに怒ると健康に悪いです…。
俺がビビッてるうちに、親族が次から次へとやってきて怒鳴りあいに参加している。
蜂の巣をつついたよう。とはまさにこういうことなんだろうっていう状況下
俺は曾じーさんの遺体に取りすがりたくなってきた。

そんな中、パンパンと高らかな拍手がその場を静めた。

「ほら、彼だって驚いてるじゃありませんか。
それに亡くなった方の前で財産の事で騒いではいけませんよ。」

それから程なくして、葬儀は終了した。

「それにしても、貴方災難でしたね。わざわざ十六夜から来たのでしょう?」
「はい、今日の午後つきました。」
「可愛そうに、あの女も気が聞かないのね。」

台詞の後半、アデルの表情が翳った。
『あの女』『この女』
全て彼女の事を指していった言葉なんだろう。

「遺産相続の件を考え始めた時、バスカビル公はもう100を越えていましたのよ。」
「はぁ。」
「あの小娘に、何か吹き込まれたんじゃないかを私達は疑ったのよ。
素性のよくしらない女でしたからね。」
「は、はぁ・・・。」

まずい。
険悪なムードが形成されつつある
俺とその人が話しているのをみて、他の親族もわらわら集まってきて
ピーチクパーチクいい始めた。
この場から俺は離れようとするが
連中はそうはさせまいと、周囲を取り囲む。

「全く聡明なあの方が何故?」
「やはり、若い女の魅力には勝てないということかね。」

丁寧な物腰だが、下品な笑みを浮かべて男は言った。
あらいやだ。誰かがそう反論するかと思ったが

「生まれはともかく、顔はいいですからね。あの女は。」
「そうそう、そういえばこの間もね。」
「それはなんということだ。」
「あとあの時だって。」

止め処なくあふれ出てくる憎々しげな台詞の応酬

「そうなってくると、財産があるということはそう幸せなことではありませんな。
後から後へと、面倒ごとが増えるだけですから。」

白い髭の老紳士が、やけにゆったりと言いこちらに目をむけた
親族全員が、口をつぐみ視線をぴったりと俺に合わせてきた。
わずかな沈黙。
でもそこには滴るような悪意が感じられた。

くそ。
来るんじゃなかった。
いまの俺は、あれだ。
金持ちの葬式に突然沸いて出てくる恥知らずな親戚。
あんな奴知らないよ、どっからきたのって後ろ指される存在。

「さて、もう帰るか。」
「帰る?」

親族から離れて一人呟いた「帰る」という単語を聞き取ったのか
アデルは首を傾げて俺を見つめた。

「そう、帰るんだ。」
「いや、まだ帰ることは出来ない。」
「どうしてだよ?葬儀にも出ただろ?」
「あの人は、君に遺産を残してる…。」
「遺産?」

俺がそう呟いた瞬間、後ろで騒いでいた親族達は静まり
俺は背中に、敵意ある視線を感じていた。

「そう、遺産。故人の意思により私はここの次期領主を務める。
財産の半分は私が相続し、残り半分が君に。
余りは親族で分け合うことになっている。」
「待て。どういうことだ、ちゃんと説明しろ!!」

アデルが薄く笑った。
それから親族達の前へ向かうと、感情のない声で早口に何か言っている。

「よかったら、教えてあげようか?」

するすると寄ってきたのは、金髪の神父だった。

『「だから、前にも説明しただろう?さっき貴様らに説明したとおりだ。」と彼女はいっている。』
「説明?」
『で、あちらの紳士が「あの方がお前に一番多く財産を残したことがおかしい。」』
「おかしいの?」
『さぁ?私詳しくないし。「お前がでっちあげたんだろう?」』
『「遺言状を見せただろう。」』
『「そんなの信用できない。」』
『「なら、彼に聞けばいいだろう!」』

そこまで言うと神父は、あとは罵詈雑言とだけ言って黙ってしまった。
それからドンドン口論はヒートアップして、神父から教えてもらわずとも聞こえるようになっていた。

「お前は、この屋敷と土地を自分の支配化に置くつもりか!!」

アデルは笑っていった。

「そのつもりだ。
此処にあるモノは、誰にも渡さない。フィズもそうだ。私が譲り受けた。」

「ふざけるなっ!!」

激怒する親族を前に、アデルは一層笑みを深くして言う。

「なにを騒ぐ。条件を満たせば、取り分はあなた達にもあるだろう?」

何故か親族達は、この言葉にたじろいだ。

「一つ、この屋敷に居住してわたしの手伝いをすること。
二つ、この地に存在する全ての者を種族問わず庇護すること。」

そう説明すると、俺のほうに向き直って一言。

「相続するにせよ、放棄するにせよ手続きが終わるまで帰らせることは出来ない。」

そう決然と彼女は締めくくった。