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―4―



――ああ、くだらない事に巻き込まれた。
その少女は、もう何度目かわからないため息をついていた。
奥には綿や糸に縫い針、フェルトやベルベットの生地が詰め込まれ、また口からは真新しいうさぎのぬいぐるみが顔を出している紙袋を抱きながら走るその様は、少女の姿をより幼い印象にさせている。
ゴシック調のやや短めのスカートのドレスは、彼女が足を動かすたびに揺れ、遠目にも急いでいる様子が見てとれた。
こう急いでいる理由はと言えば、これもつまらないことだ。


――話は少し前にさかのぼる
「お嬢ちゃん、裁縫でもするのかい?」
湊町ルナータ。
港と言えば海、海と言えば海産物と連想が繋がりそうなものだが、実際はそれに限らず南北を繋ぐ唯一の窓口のためか、あらゆるものがこの町に集う。
日用品でも、南北の町の特産品――シュヴァルの絹糸や木製品なども例外ではなく、ものによっては首都よりも探しやすいほどだ。
「…………」
店の人から糸その他を受け取った少々は、何か答えるわけでもなく、黙ったままお金を取り出して支払った。
表情もどこか不機嫌そうで、どちらかといえばさっさとこの場を立ち去りたいと思っているようにも見える。
「あっ……」
そしてその推測通り、商品を受け取った少女はそのままなにも言わずに店の前を離れていった。
「あの子はいつもあんな調子さ。たまに見かけたと思ったら、買うだけ買って会話はしてこない」
その直後に、多少慣れているらしい店員が現れ、そう一言。
どうやら先程の少女の態度は今に始まったものではないらしい。


――少し時は進み、人気のない裏道。
裁縫道具を買っていた少女は、人のいる場所を避けるようにして、そこにたどり着いていた。
とはいえ目指す方向は見失ってはおらず、入り組んだ路地を迷うことなくルナータ正面門に向かって進んでいる。
「……あ」
と、もうすぐ出口というところでで鉢合わせたのは、数人の男と、獣人の少女。
恐らく頭の上の耳を隠していたであろうフードが外れ、もう下がりようがない壁に身体を押し付けるようにしてなお逃げようとしている。
「………」
厄介なところにはちあわせたものだ、と少女はため息をついた。
人目につかない裏道ということは、こういう連中も好んで使うのは分かっていたことなのだが、まあこうなってしまっては仕方ない。
気付かれる前に離れるのが吉である。
―――が
「…ふみっ!」
振り返って足を踏み出そうとした瞬間、足元にあったらしい空き瓶を踏みつけ、そのままバランスを崩してどさりと派手に転倒してしまった。
だから人里は嫌いだ、余計なゴミが散らかりすぎている。
……などと呑気に構えているような場合でもなく、地面に打った鼻の頭をさすりながら起き上がると、目の前には分かりやすく人相の悪い男が一人。
獣人の子供を捕まえていたうちの一人だ。
「見たな、お嬢ちゃん」
「ええ。別に興味ないから誰にも言わないわよ」
明らかに凄まれているのにも関わらず、ぱたぱたと服についた埃を払いながら、平然と答える少女。
しかしその態度は見るからに短気そうな男には気に障ったらしく、直後には思い切りつかみかかるように少女に手を伸ばしていた。
「……下らないわね」
ひらりとその腕をかわし、走り出す少女。
「おい、そいつはしっかり押さえとけよ!」
そして、男の方もまた後ろにいる仲間にそう呼び掛けながら、後を追って走り出していた。



そんな流れで路地を逃げ回っているわけだが、正直うんざりしてきたところである。
人目を避けて入った道で、こうも見計らったかのように質の悪い相手に出会うとは、本末転倒も極まったと言うべきか。
とにかく、こうなればむしろ人目につく場所に出た方が撒きやすいだろう――
そう考えて、表通りに繋がる横路に向きを変えた時だった。
「――!?」
ガッ、と音を立てて目の前の壁に突き刺さる一本の剣。
少女が曲がると見て、丁度その先を遮るようにして男が投げたのだろう。
流石に不意をつかれ、行き場を見失った足を止めてしまう少女。
男はそれを見逃さず、一気に距離をつめるようにその足をさらに速めた。
「……あまり目立つ事はしたくないんだけどな」
ここまで距離を詰められては、これ以上先に逃げるのは困難だろう。
そう考えでもしたのか、少女は何かを決意したように男の方へと向き直り――
「――烈風!!」
「ごぉあ!?」
丁度その瞬間、大通りの方から強烈な風――いや、魔法じみた何かが吹き込み、目の前にいたはずの男は奥側の壁に叩きつけられるかのように吹き飛ばされていた。


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