「え、えっと・・・一生に一度のチャンス・・・ですか・・・」
「ああ・・・そうだよ」
「へ、へぇぇ・・・それはまた、ずいぶんと・・・その、ご立派な・・・」
彼は、自分で言った言葉が恥ずかしいのか頭を抱えてため息をさっきからついてる。
そりゃそうだろう。まず長ったらしい前置きで言ってたように、『何も知らずに聞いたら馬鹿馬鹿しく思える』話だ。
一方の私も、正直言って
(胡散臭)
と思っている。
「ああクソ・・・これからナビになるヤツは、絶対みんなここで苦労するぞ・・・。
常識的に考えて、すんなり信じるやつなんか居るかよ・・・」
彼は、怪訝そうな私を尻目に、ぶつぶつと文句を垂れている。
しかし、『一生に一度のチャンス』というのは何なんだろうか。
もしかして、それがあの、彼が『干渉されない』状態にある事と関係するのだろうか?
私は疑問が尽きなかった。
「もういい。とりあえずコレを読め・・・」
が、何かを諦めたのか、彼・・・ナビ(仮)さんは、一冊の本を渡してきた。
そりゃあ・・・仕方ないよね。と、内心同情してしまう。
こんな事、説明してもドロ沼になりそうだもの。私もぶっちゃけ疑ってるし
(えっと・・・)
目を本に落とすと、それは『一生に一度のチャンス』のナビゲーターという役割を果たす為の本。
彼がナビゲーターだから持ってるのは良いとして、こういうのって見ちゃっても良いのかな。と
私は思ってしまう。まあでも、その方がナビさんが二度恥ずかしい思いをする必要は無いだろうな。って考え直して
私は、ぱらぱらと目を通した。
その中で抑えておくべき点だな。と思ったのは、
やはり、まずは主題の『一生に一度のチャンス』という事について。
その一生に一度のチャンスでは、『お願い』を一つだけ叶えてくれるというのだ。
・・・胡散臭いことこの上ないが、それでも、とりあえず続きを読む。
そしてもう一つ判った事。それは、このチャンスシステムは別に私が『特別』というワケ『ではない』らしいという事。
、それは、まるでリレーのように、『お願い』をさせる事を遂行する為の『ナビゲーター』が、『お願い』をする『対象者』へと、順々に受け渡すように
行っていくらしいのだ。
また、すっごく気になってた先ほどの『存在がおもいっきり希薄になって干渉できない』状態の事。
これは、ナビゲーターは『お願いを叶えられる存在になっている』から、対象者以外の他者との干渉を避ける為に
そういう仕様として措置しているのだという。
コレでもし、ナビさんが透明人間であれば、空間に向かってお喋りをしている変な子として噂が立っていただろうけども
あくまで今のナビさんは『影の薄い存在』であるらしく、そんな心配は無用であるという事も記されていた。
(・・・?)
そして、もう一つ目についたもの。
それは・・・
「お、お試し・・・?」
そんな私の怪訝そうな声に、ナビさんは顔を上げてまるで思い出したように言った。
「・・・そういえば、そんなものもあったな」
お試しとは、このチャンスシステム自体が『一度しかない』という事で、失敗をなるべく避ける為に用意されているものらしく
このお試しをまず行ってから、本番を実行するのだというらしいのだ。
また、私みたいに怪しいと思ったり、信じないような人を一発で信じさせる為に用意されているそうな
というか。お試しって・・・まるで、クリエイターから新薬の試供品を渡される感覚なのだろうか・・・良くわからないけど
「どうだ。オレも説明が上手い方じゃないし、案ずるより何とやらと言うだろう。一度試してみるか?」
「うーん・・そうですね」
それに、お試しお願いは一週間の有効期限で、ぶっちゃけ今の私には失敗云々より
この『一生に一度のチャンス』というモノを信じる為に使う方が言いかな。と思い始めている。
「じゃあ。お願いします。どうすればいいんですか?」
「それはだな・・・ひたいとひたいを近づけて、ただ頭に念ずれば良い」
「え゛」
これはまた・・・地味に恥ずかしい・・・
それはナビさんも同じなのか、後ろ頭を掻きながら、顔を突き出す
「・・・さっさとしろ」
「はぁい」
ひたいをナビさんの頭に近づけて・・・・念じる。
まあ、もしこれで『お願い』が行われれば、もう信じる。言い訳しようもなく
でも、それこそ都合の良い話で・・・・・・
「お、おお~い!!」
「え・・・?」
遠くの通りから、叫ぶような大声を出して走ってくる影があった。
その声に、「嘘・・・」。と思った。
公園に向かってきたのは、
「て、て、て・・・店長!? どうしたんですか・・・!」
今日の依頼先の店長。
追い返される前とは打って変わって、今では情けないような声をあげながら
私の方に全速力で走りこんで来た。
「すまなかった!!」
「えええ!?」
いきなり謝られて、私は狼狽する。
うそーん・・・
そんな店長の言葉に、私は慌てる。
これは、まさか・・・つまり、そういうことなのだろうか。
「アンタ実は気づいてたんだな・・・ドジをしてバケツの水をお客さんにぶちまけたと思ったら、
そりゃワザとだったんだな!!
いやあ。まさかそれが自警団の追っている麻薬密売の重要人物だったなんて、びっくりだぜ!!!」
「な、なんだってー!!」
と。オームが三つくらい並びそうな反応を思わず私は店長に返してしまう。
しかし、そんな私の反応を流したのか気付かなかったのか
店長は白熱する勢いで話を続けた。
「何よりもすげえのは、その時偶然居合わせた自警団のヴァジル隊長が、アンタのドジ騒ぎにふっと目を向けて、そのお客さんの正体が麻薬密売組織のヤツだって気付いたんだとよ!!
しかも、そいつはあの場所で取引相手の毒殺を企んでたって話だ!!」
「ど、ど・・毒殺!?」
「ああ。ウチの店でそんな事件が事が起こったら、信用なんざガタ落ちだぜ・・・営業しばらく出来ずに、儲けが減るトコだったぜ。
それを未然に防げたのはアンタのおかげだ!
ヴァジル隊長も、犯人を事前にずぶ濡れにしてくれたから、動きが鈍ってて捕まえるのは容易だったってアンタに感謝してたぜ!!」
「・・・・(ぱくぱく)」
まるで説明するような口調で、ガハハハハ!!と笑う店長に、
私は陸の魚のように口を動かした。
「しっかしアンタも人が悪いぜ!!事情を言ってくれれば、オレもあんな事言わなかったんだぜ・・・何も言わずに去っちまうなんてよ。
まあでも、酷い事言っちまって悪かったな・・・さすがは支援士だな!! 今後も贔屓にさせてもらうぜ!!」
(いやそれ偶然ですから・・・私知りませんからぁ・・・)
しかし、感謝感激を受ける中で、
私はこの『一生に一度のチャンス』を信じるしか無かった。
(『今日の失敗を無くして下さい』・・・か)
かなり予想外というか何と言うか。
それでも、願いが叶ったんだ。
「よっし!!依頼料は多めに払ってやる!! それに、とんでもないデカイ借りを作っちまった。
ウチの店でメシでも奢らせてくれ!! なんでも食べていきな!!」
「え、あ、ちょぉぉぉ・・・・!!!」
でも、そんな事を思う間もなく
慌しく。私は店長に連れられてお店に戻り
そして、こそばゆいような気分で、ものすごいご馳走をされてしまったのです
最終更新:2010年06月04日 12:01