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黒船で激戦が繰り広げられている頃、ルナータの港海岸に一台の馬車が猛スピードで駆けてきた。

戦況や魔物の迎撃、被害状況の確認などで駆けずり回っていた支援士や自警団の人々がなんだなんだと視線を向けると、馬車の中から数人の影が姿を現した。

「あー、やっと着いたか」

そうだるそうに言った黒髪で黒いコートを着てこれまた黒い双剣を両腰に吊るした真っ黒い青年は、長時間の移動で固くなった体をほぐすように体をぐぐっと伸ばし、

「うあー、もうくたくたー・・・」

次に茶髪で真っ白な外套を羽織った少女が、その手に持った機械のようなやたらとゴツイ杖を突きながら、ぐったりとした様子で馬車の中から這い出し、その後ろを

「がおー」

と謎の鳴き声だかなんだかわからないような声を発して、長い金髪とオレンジと緑のオッドアイの、他の二人以上に人目を引く幼い少女が出てきた。

 

はっきり言って、この激戦真っ只中においては場違いなほど珍妙な組み合わせである。

 

「くそっ、北の雪原に用事があったせいでこんなうまい儲け話に乗り遅れるとは思わなかったな」

そう言って黒髪黒コートの真っ黒な青年は悔しそうに舌を打つ。

そして片手で日よけを作りながら海を凝視してさらに顔をしかめた。

「・・・なんだよ、あと一隻しか残ってないじゃねぇか」

余程楽しみにしていたのか、青年はやれやれとばかりに肩を落とし、ちょうど近くを通りかかった自警団員を引き止めて戦況報告書を持ってくるよう頼んでから、溜息を吐きぽつりと一言。

「こりゃ大した稼ぎにならないかもしれないな・・・」

「まぁまぁライト、なんだか無事に勝てそうだしいいじゃないですか」

ぶちぶちと愚痴をこぼす青年―――ライト・エバーデンの横で、ようやく復活した茶髪の少女が優しげなくりくりした瞳を向けてのほほんとそんなことを言う。

それに自警団員をパシって持ってこさせた報告書をぱらぱらとめくりながらライトは、少女の顔を見てさらに溜息を吐き、

「いや、オレが心配してるのはそんなことじゃなくてな」

「へ?」

と茶髪の少女は首を傾げる。

「大した稼ぎにならなかったら、どーせお前らの食費に使って消えるんだろうなーとライトさんは心配しているんだよ」

「・・・う?」

笑顔だった少女の表情が固まる。それからやっちゃった。とばかりに目を泳がせた。

「おいこらティラ、目を逸らすなちゃんとこっちを見ろ。なんなら今回かかった北への船代や馬車での移動費やお前らの食費なんかを事細かく教えてやろうか?ついでにこの依頼の報酬次第で今後どんな食生活を送ることになるのかも―――」

「う、あ、ぬ、ちょ、ちょっと待ってごめんなさいごめんなさいこれ以上はご勘弁をー!?」

今回の旅費を事細かくつらつらと語り出したライトに、茶髪の少女―――ティラ・ミルリスは悲鳴を上げながら耐えられないと言わんばかりに目をつぶって両手で耳を塞いだ。

 

その光景に、何しに来たんだこいつら。みたいな視線が周囲からぐさぐさと突き刺さる。

 

「さて、こんなことをしてる暇もないし、今はこれくらいで勘弁してやるよ」

「・・う・・あ、はい・・・」

ちょっとすっきりした様子で説教を切り上げたライトは、魂を抜かれたようにまっ白になったティラともう一人の少女を引きつれて海岸まで進むと、少し離れた場所で海を見なら黄昏ているどこかで見たことのあるような男女に目が止まったが、ライトはとりあえず無視した。

 

「さーてと、ここまで展開が進んでいたら今更あの船に乗り込んでも意味が無さそうだし、どうするかな」

うーんと腕を組んで考え始めると、

「がおー」

「ライト、リーちゃんお腹すいたって」

とかなんとか緊張感ゼロなことを言い出した連れ二人、そこでライトはにこやかに振り返ると、

「・・・もう一回ヘタなこと言ったら二人とも飯抜きな?」

と言った。

その言葉に少女二人は凍り付き、両手で自分の口を押さえながら、黙ってます!と言わんばかりに何度も首を上下にこくこくと振る。

それを見て再び溜息をついたライトは、前方にある黒船を見据えて一言、

「・・・やっぱやるなら豪快にやったほうが儲けるか」

そう言いながら周囲を見渡し、両手で口を押さえているおかしな少女二人の他に、こちらに向かってきている小さな光に気がついた。

「ソール」

「あれ?どうしたのライト。遅かったねー」

そして目の前まで近づいた光が急にぽんっと弾け、中から姿を現したのは陽光を司る妖精にして彼の友人でもあるソールだ。

「うるせー、こっちにも色々とあったんだよ色々と」

そんなライトの言葉に「ふーん?」とわかったようなわかっていないような返事を返すソール。それを見てライトは肩を竦めながら、

「まぁ、それはいい。それよりソールに頼みたいことがあるんだが、いいか?」

「いーよー。ライトが頼み事って珍しいね」

「ああ、ちょっと伝言を頼みたいんだが」

「うん。だれになんて言えばいいの?」

「黒船の中にいる味方の奴らにこう伝えてくれ。『三十分以内に艦内を制圧して合図を送らなかった場合、こっちで勝手に船を沈めるんでそのつもりで』」

その発言にソールと口を塞いでいる少女達以外の周囲にいた人間が全員ぎょっとするが、

「おっけー。じゃあ行って来るね」

ソールは特に驚いた様子もなくうなずくと、黒船の方向へ一直線に飛んで行った。

「よし、後は・・・」

と言いながら周囲を見渡し、

「聞いたなお前ら、これから三十分過ぎても黒船から合図がなかったらあの船を沈める。巻き込まれたくなかったらさっさと周辺に展開してる味方の船を下げろ!」

と言った。

それに一人の自警団員が、

「一体なんだお前は勝手に指示を出して。それにどうやってあの黒船を沈めるんだ?そんな根拠のない事で船を動かすわけには―――」

だが、そこでライトは話を遮り、

「嫌なら別にいいぞ?そのかわりに沈める時、何隻の船が巻き添えを喰らうかわからないけどな。お前の判断ミスで無駄な被害を出したいならお好きにどうぞ」

そう言うと、その自警団員はぐっと口をつぐんで言葉を詰まらせた。だがライトはもう相手をせずに踵を返すと、いまだ口を塞いでいる少女達に近づき、

「もうしゃべっていいぞ」

と言うと、少女達は明らかにほっとした様子で口から手を放した。

「ああ、それから三十分後に働くことになるからその準備もしとけよ」

その言葉にアホ毛をぴょこんと反応させてティラが、

「あ・・じゃあその前におやつを食べるというのは・・・?」

という提案をしてきたので、ライトはにこやかに笑って、

「却下に決まってるだろ?」

と言った。