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―14―





『どうじゃ、この衣装』

『いいんじゃないか? いかにも魔法少女(ウィッチ)って感じだし』

『うむ。 ディンも、意外と鎧姿が似合っているではないか』

『…一応、重戦士(ブレイブソード)だからな』

『しかし、あの泣き虫がパーティーの『盾』となるブレイブソードとは、世も末じゃな』

『……俺だって、いつまでもお前に守られていたくはない……今度は、俺がお前を守ってやる番だ』

『……そうじゃな。 私も、ディンのその言葉を信じて、ウィッチ―いや、マージナルになる道を選んだ。 これなら私の前を守ってくれるお主を、後ろから助けられる』

『……お前にいきなり素直にいわれると、なんか変な感じだな』

『ふふ、そんな素直じゃない私がこう言っているのじゃ。 ……ディン、お主も、まずはブレイブソードにとどまらず、パラディンナイトを名乗れるようになるのじゃぞ?』











―――朝。
「……う…………」
この日の目覚めはいいとも言えず、悪いとも言えず……とりあえず自身の目が覚めた、という事を寝起きでぼやけた脳で知覚すると、ごしごしと両目を手でこすり始める。
「今のは……」
手を離して、なんとか開いた両目を窓の外へ向け、2、3度ぱちぱちとまばたきをする。
……今まで見ていた夢の内容は、不思議なほどはっきりと記憶の中に残っていた。
「…あれから、どのくらいになるのか……」
旅に出るために二人であつらえた、服と鎧。
あのときの衣装は、壊れたりサイズが合わなくなったりで、今となっては使い物にならなくなってしまったが、今でも自宅の部屋の中にしまわれている。
……あの時身につけていたものは、単なる防具ではない。
それらと交わしたものは、初心の誓い……二人で助け合って行こうという、ささやかな願いだった。
「目、覚めたか?」
「…ディン」
なんとなく窓の外を眺めていると、部屋の入り口となるドアが開き、その向こうから現れるのは、ディン。
服装はいつもの鎧姿ではなく、普段着にジャケットを羽織っているだけの、平凡なものだった。
「……無事、なのじゃな……よかった……」
ベッドの上のエミリアは、ディンの全身をくまなく見つめ、その身体に傷などの外傷がない事に、ほっと胸をなでおろす。
……だが、その瞬間ディンの表情は、エミリアのそれとは対象的に、随分と険しいものへと変わっていた。
両手をエミリアの頬にあて、そのままぐっと引っ張り始める
「うにゅっ!!?」
「無事? よかった? それはこっちのセリフだ!! なんであんなムチャをした!!」
声を荒げているものの、その根底から感じるものは怒りでは無い。
昨日からずっと溜め込んでいた、行き場のない心配と、不安。
ただ、それが爆発しているだけの事だった。
「……元々魔法に弱いお主(パラディンナイト)があんなものをうけて、無事でいられるはずがなかろう」
ディンの両手を外し、頬をさすりながら口を開くエミリア。
その表情には、少しづつ剣呑とした空気が混じり始めていた。
お前(マージナル)は俺ほど頑丈じゃないだろ!? ああいうのは俺の役目だ!!」
「確かにそうかもしれんが、目の前でお主に死なれて、私が耐えられると思っているのか!?」
「なっ……?」
突如、エミリアも言葉を荒げ始め、その剣幕に押され、一瞬ディンは後退してしまった。
―エミリアは、その隙を逃さないように、矢継ぎ早に思いのたけを口にし始める。
「ディンが私を守りたいと思う気持ちはよく知っている、だから今まで何も言わずにいたが、今日と言う今日は言わせてもらう!」
「……え、エミィ……?」
「お主は自分(パラディンナイト)が頑丈だからと、自分自信を守る事をほとんど考えていない!
お主自身は最低限防御しているつもりかも知れぬが、急所にでも入れば死に至るようなものもあるのじゃぞ!?
大体前の盗賊との時も、私が撃ったヤツの剣がおぬしの首を狙っていたのは気付いておらんかったじゃろうが!
昨日のエビルプラントの毒も強いものではないかも知れぬが、頭や神経にでも触れたら間違いなく後遺症は残る!!
それだけじゃない!! 今までだって、私が割って入らなければ殺されかねないような事は色々あった!!」
今まで、彼女から怒りが向けられる事がなかったと言うことは無い。
しかし、今目の前の彼女の勢いは、今まで感じた事が無い程強い意思に満ちている。
ディンに残されていたのは、何も言い返せず、ただうろたえるだけの道だった。
「お主が昨日の私を見て心配したと言うのなら、私は同じ気持ちをずっと前から感じ続けてきたのじゃ!!
私を守るのがおぬしの役目じゃから、盾になるなとは言わん!! けど、もっと自分の命も大切にしろ!!」
声が、怒りが、心が止まらない。
その気持ちは、冒険者として、支援士として旅に出たその日からのもの。
それを塞き止めていたものを取り払ってしまえば、全て出し切るまで収まりはつかない。
「自分の身も満足に守れない者が誰を守ることが出来る!!? そんな者をだれが信用できる!!?
私の”もっと頼れる男になれ”の意味を、ちゃんと理解しているのか!!?
そんなだから、私がいつまでもおぬしの『保護者』から抜ける事が出来ぬのじゃ!!
役目だからって突っ込むだけの戦い方はやめろ!! もっと自分を見ろ!!」
「……ぅ……」
「……守りたいと思ってくれるのは嬉しい。 でも、それだけじゃ仲間とは言えんじゃろ……」
突然、強く振り回すような語調が消え、小さく、静かな凪のような声に変わる
「……私の盾になるつもりなら、私を守るつもりなら、一人で戦わないで……もっと私を頼って……」 
それは懇願。
一人で走っていかないでほしい。 自分はただ、並んで歩きたいという小さな願いだった。
「……エミィ…」
「ディン……」


――沈黙。
お互いに何を言うべきなのか、そしてどうすればいいのか……それすらも、思考の中から消え去っていた。
ただ、今の言葉が何度も頭の中を繰り返し……互いに、何も言えなくなっていた。


「――あーもしかしてタイミング最悪かな?」
「なぁっ!!?」
「うひぁあ!!!?」
その声が耳に入ると同時に、弾かれたように距離を開ける二人。
エミリアは僅かにベッドの奥へ引いた程度だったが、ディンは足元にころがっていた何かに足を引っ掛けて、盛大にその場で転んでしまっていた。
そんな二人の様子を眺めつつ、ドアのところで微妙な笑みを浮かべているのは、黒い服を着た少女……ティールだった。
「ま、今のでとりあえず安心したよ。 色々とね」
「い、色々とって……」
「……盾である事に必死すぎるディンと、それを守ろうとするエミリア。 あのままならどちらかが倒れた時に、もう片方の心も崩れてしまうし……その時が来るのも早いと思った」
「……お主、まさかそのために私達に…?」
「まぁ…最初は漠然と思っただけだけど、一日ついて歩いて確信したから。 このままじゃ、ダメだってね」
「……」
「『命の借り』を作ってしまえば、例えそれに気付いてもその借りは返せなくなるけど……互いに生きているなら、いくらでもやりなおせる。 ちょっとうらやましいよ」
「…………うらやましい? どういう……」
最後に聞こえた一つの単語に反応を示すディン。
しかし、その疑問を口にするその前に、ティールが浮かべた無言の微笑みに、思わずその口を止めてしまった。
……笑っているはずなのに、強く悲しげな圧迫感を感じさせられたから。
「さっ、しめっぽいのは終わりにして、本題に入ろうかな」
そんなディンの様子もお構い無しに、ティールは笑顔でぽん、と両手を叩くと、足元に置いていたバッグから、少し大きめのビンを取り出した。

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