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―5―



「大丈夫か?」
大通りからふと横目に見えた路地裏の中で、小柄な少女がいかにもな悪漢に襲われているのが見え――
ティオは咄嗟に風の魔法剣技を放って男の方を吹き飛ばし、路上の奥の方へと押し込んで少女の傍へとかけよった。
「警備呼んだ方がいいか?」
それに続くように、スタスタと歩み寄ってくるアース。
鞘から抜いてこそ居ないが、愛用のダマスカスソードの柄に手をやり、ティオの行動と目に見えた状況からきな臭い雰囲気は感じ取ったのか、臨戦体制には近い状態でいるようだ。
「ちっ!」
さらにその後ろにはリファとリフルの二人も少し身構えている。
……ティオ達は見た目的にもまだ未熟っぽい雰囲気を放つ四人組なのだが、男は数の不利を見てか、そそくさと路地の奥に消えていった。
「北も南も、影にああいうのがいるのは一緒だねぇ」
そんな光景に対して、構えを解きながらリフルは一言もらす。
社会の裏の事をどうこう言えるほどの経験は無いが、支援士をやっていれば、このくらいの事なら話くらいはいくらでも入ってくるものだ。
「…………」
「立てる? どこか怪我してない?」
なにやら呆然とした様子で一行を眺める少女。
そこにかけよったリファは、そう言いながら促すように手を差し出していた。
しかし、一拍おいて反応した少女の言葉は、少し厳しく拒絶するような態度で――
「ふんっ あんなの、一人でどうにか出来ていたわ」
リファの手をつかむことなく自分で立ち上がり、服についた埃を払う。
そんな態度に、リファは一瞬目を曇らせたが、間もなくして何事もなかったかのように表情を元に戻した。
そして――
「はい、これ、あなたのでしょう?」
足下に落ちていたウサギのぬいぐるみを拾うと、改めて微笑みながら、手にとったそれを少女へと差し出す。
「―――っ!」
すると、少女は一瞬驚いたような顔を見せ、自分の足下に落ちていた袋の中身を確認すると、ひとつ間を空けてバツが悪そうにそのぬいぐるみに手を伸ばした。
その時のリファの表情が、屈託のない穏やかな笑顔だったことも、彼女の中にあるであろう複雑な感情の要因だったかもしれない。
もっとも、それは少女以外に誰も分からないものなのだが。
「……ふんっ」
一瞬間を空けて、そっぽを向いて表通りへと歩き出す少女。
アースはその様子に軽く肩をすくめると、気をとりなおすように改めて口を開いた。
「んじゃま、プリズムヒルズの情報でも集めるか。なんだかんだでダンジョンだからな、調べといて損はないだろ」
「でも、どのみち奥の方まで行かなきゃダメな可能性の方が高いんだよねー」
それに追従するように、口をはさむリフル。
普段空気をあまり読まない行動が多い二人だが、それは「あえて読んでいない」だけである、と思わされる行動だった。
リファは一瞬呆けたような顔を見せたが、すぐに二人の話に乗るように、体を二人の方へと向けた。
「レアの……庭園に来る気……?」
……と、そこで意外な方向から声が飛んでくる。
見ると、今しがた去っていこうとしていた少女が、なにやら怪訝そうな顔でティオ達の方へとその顔を向けていた。
「何か知っているのか?」
意外なところに食いついてきた少女の姿を目に入れながら、ティオがそう一言。
対して、少女のほうは“しまった”とでも言いたげに表情を曲げ、自らの左手でその口を押さえている。
彼女自身、ほぼ無意識に反応してしまったという事なのだろう。
ブリズムヒルズは、その主である魔女――レア・リズリッドという名前であることから“レアの庭園”とも呼ばれているのだ。
「……あんなところに何の用なの? 荒らしたりしたら、魔女に殺されても文句は言えないのに」
怒っているわけでは無いようだが、どこか穏やかではない空気を出してそう口にする少女。
とはいえ、ティオ達の目的はまさにその魔女本人になるわけで……
「いや、荒らすって言われても、探索しにきたわけじゃないからな」
「私達の実力的にも、余計な行動してる余裕もないと思うしね」
「魔女に勝てるとも思えないしな……用事が無理そうなら、すぐに帰るつもりさ」
ティオとリファ、そしてアースが苦笑気味にそう言うと、少女は今度はよくわからない、とでも言いたげな表情に変わった。
……確かに、これだけの話を聞いただけでは伝わらないだろう。
そう察したリフルが、咳払いをひとつして、口を開く。
「あたし達、その魔女にお願いがあって来たのよ。魔女のものすごい魔力を、貸して欲しくてね」
今度は、きょとん、と分かりやすく顔が変わる少女。
それは、彼女にとってはまるで予想外の答えが来た、というのが傍目にもわかる変化だった。
「……なに?」
少し間を空けて、ただそれだけを口にする……というより、他に出る言葉がなかったのだろう。
一般的に、人間からは危険視されているのがプリズムヒルズの魔女。
プリズムヒルズと言うダンジョンの主、ボスとして認識されている以上、なるべく避ける相手というのが普通なのだ。
「…………レアの力を、借りに来た?」
「お、なんか知ってるみたいな口ぶりだな。 しかも”レア”って呼び捨てか」
「いや、そういう意味じゃ……・」
ふと漏らした言葉に反応したアースの言葉に、返答しかけた少女だったが、何か思い当ったのか一度口を閉じる。
――そして
「………庭園の魔物を倒す時は、気をつけなさい。 ぬいぐるみのような姿をしたのは、魔女の大切なトモダチだから……殺したりしたら、問答無用で殺されるよ」
またなんとも言えない表情で、そう口にする。
「ぬいぐるみ?」
「へえ、そいつは見てみたいもんだな。 魔物っつーとゲテモノ揃いだし」
「見た目が可愛いものって、意外と油断できないって聞いたことあるけど……」
どんな光景を想像したのだろうか。
それぞれ思い思いの感想を口に出していたが、そんな一同の姿を見つめる少女の目は、相変わらずどこか冷めたものだった。
が、ふとしたところで力を抜くように大きく息を吐き、また口を開く。
「もう行くから。 さっきのお礼はここまでよ……本気なら、絶対にトモダチに攻撃しちゃだめだからね」
「ん、ああ。 いい事聞いたよ、さんきゅ」
そう言って、スタスタと立ち去って行く少女を見送る一同。
さっきリファが拾ったぬいぐるみを紙袋に入れて抱えているその姿は、妙に大人ぶったような言動と裏腹に、外見に見合った普通の女の子ような印象を与えられる。

「さってと。 そんじゃしっかり準備して、プリズムヒルズに向かうとするか」


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