駆け出しと中堅と先人と



「まあ気持ちはわからんでもないんだけどな」
良くも悪くも威勢のいい二人組が酒場を出て行った直後、やれやれと微妙な表情を見せながらそれを見送っていたマスターの前に、スカイブルーの髪をした、やや小柄な少女が現れてそんなことを口にした。
彼女もまたマスターや他の客と同じ感想を抱いていたのか、その表情は妙に生温かい。
「おう、ティオ。 来ていたのか」
そんな彼女――ティオの様子を見て、もう一度やれやれ、と思う。
まあ、外見こそやや細身で少々頼りなさげな雰囲気は否めないのだが、一応支援士――ついでにいえば、実力のランク的にはCとBの中間あたりにいるブレイブマスター(仮)である。
(仮)と付けた理由は、まあ色々あるのだがそこは今は重要ではないので流しておこう。
「実際、支援士の有名な話っていうと、華々しい武勇伝。 だから駆け出しの連中は意外と誤解してるのが多いし」
「それはまぁそうなんだが、誤解と過信はまた別物なんだがな」
コトリ、と水の入ったグラスがティオの前に置かれる。
マスターにとっては、ああいった新米の相手が初めてというわけではないので、同様の例だった支援士たちがその後どうなったか、という例ならばいくつか心当たりはある。
当然、ろくなことにならなかったという前例もそれなりの数に上るのだが。
「あ、ミックスサンドとコーヒー」
「おう」
「――― とはいえ、レムリナム退治ね」
マスターに注文を入れ、厨房にいるヤヨイ奥さんに通すのを確認して、改めて一言。
その表情は微妙にニヤニヤと笑っているようで、どちらかと言うと心配とかではなく、悪戯や悪だくみのようなものをたくらんでいるようにも見えた。
「なんだ、懐かしくなったか?」
「ま、こんなナリだけど レムリナムくらいなら相手じゃないし。 ……それより実力思い知らすならもっと追いつめてもいいんじゃないかなってね」
まあなんというか、そういう表情もカワイイ(愛玩動物的な意味で)もので、全く凄味を感じられないのもある意味すごいなと思うマスターだった。
が、今はその前に彼女が口にした言葉の、その意図の方が少し気になっていた。
「ボクなら……グノルダンジョンから、旧十字紋章の遺物を拾ってくるとか。 と言っても駆け出しには危険だから、上位支援士の誰かを付き添いか、こっそりつけさせるかするかな」
「そりゃあまたハードだな」
と、苦笑するマスター。
旧十字紋章と言うと、グノルが聖堂として機能していた、それこそ大昔に使われていた教会の紋章。
それが刻印された物自体はグノルではあちこちに散乱してはいるのだが、少しは中に踏み込まなければ持ち運べるような大きさのものは意外と落ちていない。
―― 一応、ダンジョン指定されるような場所に駆け出しを向かわせるのは、依頼管理者としても避けたいところでもあるのだが、上位支援士の姿を目の前で見せるのは、それはそれでどういう感想をあの二人が抱くのかは少し気にはなった。
この辺で言うと、メンバー個々の知名度も高い、リトルレジェンドの面々だろうか。
14歳という若い身空で、色々な要員があるとはいうものの、Aランク中堅程度の力を持っているティール・エインフィード。
まだ世界を知らない駆け出しには、彼女一人の力でもきっと破壊的に映るだろう。
Sランク支援士をはじめとして、実際は、もっと上はいくらでもいるというのに。
「ま、レムリナムで凝りなかったにしても、同じ事繰り返してたら近いうちに納得するよ。 依頼のランク分け制度にもね」
言うだけ言って、運ばれてきたサンドイッチに口をつけるティオ。
……彼女は、どちらかと言うと近しい友人たちと一緒に、ワイワイとやるために支援士ギルドの真似事をしている、と自分で言っていた事がある。
それゆえに、ランク制度やそういったあたりの事は特に考えてはいないのではないかと思わされていたが、実際は彼女なりに考えている側面はあったということだろう。
とはいえ、先日プリズムヒルズにまで行ってきたという話もあるし、彼女も含めて、それなりにチームとしての実力も付いてきているということかもしれない。
「ま、それに関しちゃ任せとけ。 ああいう連中をしっかりと導いてやるのも、俺みてぇな先人の役割ってな」
そういう風に、文句も言わず階段を順に登っていく者がいる一方で、何段も先に飛ばしたがる者がいるのもまた事実。
一戦を退いた先人たちの今の戦いは、そんな若さに逸る者たちをいさめ導くと共に、無駄に命を落とすのを少しでも少なくする事にある。
それを理解したうえで、マスターはこう思っていた。

――物分かりが悪いのも、若い者の特権なんだがな





                                                   オチなし(何




というわけでまたまた他人のストーリーの、語られそうにない合間を狙って埋めてみました、龍獅です(何
いや、1話を読んだ瞬間このやり取りが脳内に浮かんだのでツイ……(苦笑
なぜティオなのかと言うと、特に意味はありません。
一応フェアリーローズの後くらいを想定していますが、そこに関しては深く考えないでくださいw

……なんかもう違和感なくスカート履いてそうな気がする(何
最終更新:2010年03月31日 07:23