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―6―



「チクショウ、あのガキども、邪魔しやがって」
分かりやすく怒りを露にしながら、のっしのっしと機嫌悪そうに街道を歩く男。
特に説明するまでもなく、先程ティオ達に追っ払われた誘拐魔の一人だった。
「あの獣人も逃げられちまいましたしねぇ」
「そりゃキサマが押さえて無かったからだろうが!」
ゴスッ、という擬音でも聞こえてきそうな感じに、脳天に拳骨を叩き込まれるもう一人の男。
会話の内容から、誘拐魔の片割れであることは明らかだ。
「……ったく、暫くルナータには近寄らねぇ方がいいな。覆面してても面が割れてねぇとも限らねぇし」
……と言いながら、首元のあたりから頭の皮を剥ぐ二人――
いや、剥いだそれはさも本物の顔と見間違うような精巧に造られたマスクで、その下にあった彼ら本来の顔が現れただけだった。
裏の世界では、たまに見掛けると言われている代物だが、どれだけ流通しているのかも不明という、騎士隊にとっては迷惑極まりないものだったりする。
「だが、金もねえところだしな、他の町に移る前に、寄り道していくしかねえか……」








――プリズムヒルズ
七色の力を持つ魔女が住むと言われ、一つのダンジョンと認識されている場所。
しかし、このダンジョンから帰って来た者は、往々にして魔女には会わなかったと言い、奥地まで向かったが、帰って来なかった者は、恐らく魔女に殺されたのだろうと囁かれる。
「……だから、魔女がどんな姿をしているかとかは、実際のところ分からないんだって」町で集めた情報と、あらかじめ調べてきた情報を確認する一同。
最後に魔女の存在が直接確認されたのは、もう随分と昔の事であり、その姿を見て帰ってきた支援士もいない。
……もしくはいたとしても、誰も口外していない可能性もあるのだが。
結果、“確かに存在はしている”という事実だけが囁かれる現在に至る、ということだ。
「まあ人間っぽい姿してるのを祈るしかないな」
ははは、と笑いながらそう言うのはアース。
素性が知れない存在なだけに、その一言もあながち冗談には聞こえない。
「まあそうだが、あれは流石に違うよな?」
え? とその一言を口にしたティオ意外の声が揃う。
そして、その指が向いている先に目をやると……
「妖精と……火の玉?」
色とりどりの火の玉をお供にした妖精らしき姿をしたものの群れが、ぞろぞろと一同に向かって接近しているのが見えた。
「それっぽいけど妖精じゃなくて、厳密には魔物らしいわね」
「まあ、だろうな」
そもそも妖精はあんな群れで人に近寄ってくることはないし、あんな好戦的な目をするような種族じゃない……
と、なにかの本で読んだとルシアが言っていたのを思い出した。
「一面七色の花畑に妖精風の魔物か。噂通りファンシーなダンジョンだな」
と言いつつ、スラリと愛用のダマスカスソードを抜くアース。
まあ敵と見て間違いない状況ではあるのだが、ティオはその群れに紛れて、何か気になる姿をした魔物が見えたような気がしたことに、妙なひっかかりを覚えていた。






「だぁらっしぇぁぁあ!!」
それぞれの色に対応した魔法を連発してくる火の玉と、それを補助するような魔法を繰り出してくる妖精たち。
どうにかこうにかそれらを掻い潜り、半ば狂乱気味の叫び声をあげながら振るったアースの一撃で、最後の妖精を地面に叩き落とした。
「ったく、流石にキツいな……」
回復薬も無限に用意出来るわけではない。
着いてきてくれるようなカーディアルトやビショップ、ましてやアリスキュアやセントロザリオすらも知り合いにはおらず、治癒自体は道具頼みなのが辛いところだ。
……まあ、大多数の支援士はそんなもので、連れて歩ける者の方が珍しいのだが、愚痴の一つでもこぼしたくなるのは仕方がない。
「やっぱり、魔女のいる奥地まで行くのは私達には早いのかも」
メンタルポーションを口にしながら、冷静に自分達の状態を考えるリファ。
正直、まだ序の口といったところだろう事は一同は理解していただけに、その一言を引き金に、妙な空気が漂い始めていた。


「……戻るか」


そんな中で、真っ先に口を開いたのは……
「ティオ…!」
他でもない。今この場所にいる理由の最大の当事者である、ティオ自身だった。
「ボク自身の命に関わるような状態じゃないのに、全員の命をかけてまで戻りたくはない
とりあえず、まだ早いって分かっただけでもいいだろ。またいつかくればいいさ」
「…………」
傍目には、あっさりと口にしているように見せていたが、内心は多少なり落ち込んでいる様子は見てとれる。
なんだかんだと言っても、元の身体への未練は捨てきれるものではなく、なまじ希望のようなものが見えていただけに、そのショックもそれなりにはあるのかもしれない。

「……ん?」

と、さらに空気が重くなりそうになったその時だった。
足元になにやらモフモフしたウサギのようなものがうろうろしていることに気が付く。
「あらかわいい」
などと言いながら、ツンツンとウサギのようなものの背中のあたりをつつくリフル。
それがきもちいいのかどうかは分からないが、ウサギのようなものはその行動を甘んじて受けている。
「ぬいぐるみのような魔物か」
ふむ、と少し考えるような体勢を取りながら、先程感じた引っ掛かりに思い当たるティオ。
なんということはない、ルナータで聞いた話に符合するものが、視界の中に紛れ込んでいただけということだった。
「どうする。害は無さそうだが、ダンジョンの魔物だぞ?」
アースもしゃがみこんでそのウサギのようなものをのぞきこみ、そう口にする。
支援士としては、何事にも警戒するのは当然の行為と言えるのだが……
その行動からは、言葉程の注意を払っているようには見えなかった。
「……放っておけ。ルナータで言われたこともあるし、触らぬ神になんとやらってな」
ふう、とため息を挟んでそう答えるティオ。
子供の言う事と受け流す選択肢もあるのだが、それでも前情報として受けていた以上は無視はできない……そう考えての一言だ。
「そうね。それにかわいい子だし、倒しちゃっても後味悪くなりそうだもの」
リファも、ふっと微笑んでその一言に同意する。
「そんじゃま、帰るか――っ!?」
――その時だった。
倒したと思われていた魔物が一匹、倒れたままながらも大型の火球を放っていた。
たまたま視線がそちらに向いて気がついたティオだったが、十分な詠唱時間で放たれたそれをどうにかするような技の準備などできていない。
それでも、何かをする、どうにかするために、その手にある魔導剣・ブランクソードのスペル・オーブの発動に入ろうとした――

「――グラウンドアップ」

が、その瞬間を待たずして、また別の方向からそんな声が響き……
瞬間的に隆起した地面がその火球を塞き止める壁となり、また同時に、まだ息のあった魔物も巻き込んで、生き埋めにするかのように崩れ落ちて行った。



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