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 夏の夜の花

 〈コンコン!〉
「ジュリアちゃん、こんばんは!
…入ってもいいかしら?」
〈ガチャ…〉
「あっ、フェリシアさん、それからみんな!
…ちょうどいま部屋片付いたトコだから、入ッてもいいよー☆」
「あ…あの…、お邪魔します、ジュリアさん。」
「そういえば、ロザリーさんはジュリアお姉様のお住まいは初めてですの?」
「は…はい…。
…と言いますか、わたし…誰かのお宅でご一緒するのが初めてなんです。
…教会や宿の外では。」
「なんや、レイチェル。
あんたみたいなお嬢様が、こーんな下々の下宿に出入りして大丈夫なんかいな?」
「言いましたわね、エレニさん!
お姉様のお住まい『だけ』は特別ですわ!!」
「あの…、ケンカはお止し下さいっ!
今夜はみんなで、ジュリアさんと仲良く遊ぶお約束なんですから…。」
「…ふぅ、『仲良く』ね。
ジューリアっ、『例のモノ』、私の商店から持ってきてあげたわ♪」
「あっ、ヴェロニカ! ありがとー☆」
「ちょっと、ジュリアー。
このツンツン娘に荷物運び手伝わされた、ワタシにもお礼言って欲しいわね★」
「う、うん。
ソフィア…、大変だったね!?」
「…荷物運びには、腕力のあるジョブの人が適任と思っただけよ。助かったわ。」
「エアレイドとセイクリッドなら、微妙な勝負だと思わないかしら、ヴェロニカさん?」
「…エアレイドの本領は、天を駆ける脚力にあるの。
両手で鋼の剣を振り回すセイクリッドの腕力は、ときどき羨ましく思うわ、ソフィアさん。」
「…まぁまぁ、ヴェロニカちゃんもソフィアちゃんも、仲良くし・ま・しょ♪」
『「アタシは非力な魔法系だしぃ〜」とか言って、荷物持ちから逃げたフェリシアさんに
だけは言われたくありません★』
「ふぇぇ〜〜ん、ジュリアちゃぁ〜ん…、ふたり掛かりでいぢめるのぉぉ〜〜★」
「はいはい。みんな仲良くしよーねっ♪」

 ここは南都リエステールの居住区。
独身男性支援士向けの下宿があるのと同じように、独身女性支援士向けの家賃お値頃な
下宿が建ち並ぶ一角もまた存在する。
世間ではその鋭い剣捌きから「グリーン・ホーネット」の二つ名を頂いている敏腕支援士・
ジュリアも、普段はここで慎ましやかな生活を送っているのだ。
 ギラギラした夏の熱気を放つ太陽が西の彼方に去り、涼やかな夕闇が空を覆い始めた頃、
ジュリアの下宿に数人の女の子たちが訪れる。
…今夜、彼女たちはひとつの約束をしていたのだった。
『十六夜伝来の夏服・浴衣を着て、花火で遊ぶ!』

 「…さぁ、これが浴衣よ。
多めに持ってきたから、好きなの選んで頂戴。」
ヴェロニカと荷物持ちのソフィアが、紙袋の中から色取り取りの浴衣をドサリと取り出す。
ヴェロニカの実家は大陸南部では珍しい十六夜製の武具や雑貨を扱う商店で、今年の夏は
着心地が涼しくて色鮮やかな浴衣をリエステールで大々的に売り出していたのだ。
「わぁ、綺麗だなぁー☆
…ところで、みんなは浴衣の着付けできるのかな?
ボクは十六夜に行ったとき、着物の着付け覚えたけど…。」
「…大丈夫よ。
私も知ってるし、着付けの説明書だって持ってきたから。」
「うわ、ヴェロニカ。
浴衣だけやのうて着付けのマニュアル本まで売り込むなんて、やらしい商魂やなぁ!?」
「…そんな事にまで考えが回るなんて、やっぱり商売人ね、エレニは。
それにしても、着付けまで出来るなんて…、ジュリアはいいわぁ♪
ジュ〜リアっ、ふたりで一緒に着付けを教える優越感に浸りましょ☆」
「あの…、サイズとかは……?」
「ロザリーちゃん。
浴衣は着付けで身体に合わせるから、気にしなくていいんだよ。
色や柄の気に入ッたモノ選んでねっ!」
ジュリアの一言で、体格が小柄なロザリーやエレニも、逆に長身のフェリシアも逡巡を止めて
浴衣選びに集中する。
 ………………………………………………。
 ……………………………。
 ………………。
 「えっと…。
みんなだいたい決まったみたいだね?」
『…。〈コクリ〉』
「それじゃまずボクとヴェロニカが着てみせるから、後でやってみてね!」
「えっ、私!? …それじゃ、見てて。
…でもあまりジロジロとは見ないで★」
全員がそれぞれお気に入りの浴衣を手にしたことを見計らい、ジュリアとヴェロニカが
見本とばかりに最初に着替えを始める。
〈……………………〉
普段の服装を脱ぎ、最小限の下着を残したところで浴衣の生地を身体に巻き付け、
丈を合わせてから器用に帯を締める。
「ジャン! 出来上がりぃぃー☆」
「……で、出来たわ。こんな…感じね。」
そこにはニコニコと微笑んで、緑の下地に鮮やかな向日葵の柄をあしらった浴衣を纏う
ジュリアが、
さらに隣には恥ずかしげな表情で、藍色の下地に千鳥の柄が群れ飛ぶ浴衣に身を包んだ
ヴェロニカが、
それぞれ立っているではないか!?
『……………………。』
他の女の子は、普段は見ない彼女たちの—特にジュリアの—艶やかな姿に息を飲む。
「さぁ、そんじゃみんなも着てみよー☆
…きっと可愛くなれること請け合いだよぉ♪」

 浴衣というものに袖を通すのが初めてなロザリー・レイチェル・エレニ・ソフィア・
フェリシアの五人は、説明書に目を通しつつジュリアやヴェロニカに手伝ってもらい
ながら、着付けを進めていた。

 「…ロザリー。
あなたは身体が細いから、この綿布を下に巻いた方が良いわ。
…そうすれば、華奢過ぎない健康的な娘に見えるの。」
「…そ、そうなんですか、ヴェロニカさん?
浴衣の着付けって、大変なんですね…。」
「…十六夜の女性は、物事が上手くいくようにいろいろ細かいところまで気を配るの。
世の男たちが『十六夜女と結婚したい』なんて口にするのは、その方が身の回りを
きちんと世話してくれると期待しているからね…。」

 「わぁ、レイチェルちゃん…可愛いよ☆
普段はアーマー姿の『凛々しい系』だから、すごいイメチェンだね♪」
「ジュリアお姉様…、照れますわ。」
「そうそう!
浴衣にはうなじが見える髪型が似合うから、髪の毛上げてあげるよ。
…頭の上で、シニョンにしちゃおかなー♪」
「…あぁ、お姉様が…、わたくしの髪に触れて……。
幸せですわぁ☆〈うっとり〉」

 「…あら、エレニ。
初めての着付けにしては、なかなかの仕上がりね?」
「ふっふーん☆
クリエイターは器用さが命やさかい、要領さえ掴んだらこの通りや!
ヴェロニカにばっかりええカッコはさせへんでぇ〜♪」
「…それにしても、その真ッ黄色の浴衣…、あなたが着ると能天気に見えるわ。」
「なッ、なんやてぇー!? もッぺん言(ゆ)うてみ……、
…言わんでええわ、やっぱ★」

 「ソフィア、ちょっと帯が曲がってるよ。…ほら。」
「ありがと、ジュリア。」
「ねぇ、キミはヨシナリと一緒に浴衣着たりしないのかな?」
「ヨシナリには十六夜の血筋はあるけど、十六夜には住んでなかったから、そういうのは
ほとんど知らないのよ。
…それよりジュリアー、一緒にお着替え遊びなんて子供の頃以来よねぇ…。」
「ふふっ、そーだねっ♪」

 「…フェリシアさん。
浴衣着る前に、これを胸に巻いて下さらない?」
「なぁに、この細長い布切れは、ヴェロニカちゃん?」
「…これは『さらし』と言って、大き過ぎる胸を押さえ付けるものよ。
着物の着付けでは、大きな胸はかえって邪魔になるの…。」
「へっ!? 冗談でしょ?
…ヴェロニカちゃん、この場にかこつけて意地悪言ってない…?」
「嘘じゃないよぉ!
コレは十六夜の常識なンだから…ねっ♪」
「えぇ〜っ、ジュリアちゃんまでぇ★」
「さぁ、ヴェロニカ。
ボクが押さえてるから、フェリシアさんにさらし巻いちゃえー☆」
「…了解〈ニヤリ〉。」
「ちょっ、やっ、ジュリアちゃん、ヴェロニカちゃん!
あ〜れぇぇ〜〜っっ……★」

 …こうしてようやく、全員の着付けは完了した。
ロザリーの浴衣は、清楚な白い下地に控えめな朝顔の柄。
レイチェルの浴衣は、少女趣味な桜色の下地に可憐な撫子の柄が咲く。
エレニの浴衣は、活力に満ちた黄色の下地に笹の葉の柄がアクセント。
ソフィアの浴衣は、下地の紅の情熱を縦縞が引き締めている。
そしてフェリシアの浴衣は、上品な紫の下地の上で蝶の柄が舞う。

 「よっしゃー!
ええ感じで日も暮れたし、これからウチが手作りした花火の出番やな☆」
「…ジュリアお姉様。
花火はエレニさんが準備しましたの?」
「うん。
花火は守備警団から危険物扱いされてて、十六夜製の本場物は高価(たか)いんだよ。」
「ねー、ジュリアー。
ワタシたち空のバケツ運んでるんだけど、水が入ってなくて大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫!
水入れて運んだら重いから、カネモリから『水の元素』分けてもらったンだ、ソフィア♪」
「…でも、それをどうやって水に戻すのかしら?」
「ヴェロニカ、フェリシアさんなら『解放《リリース》』できるよ。」
住宅が密集したリエステール市街地で花火遊びをするのは危険かつ迷惑なので、
ジュリア一行は都を取り囲む城壁の出入口付近に向かっていた。
都の外では夜になると魔物どもが闊歩しているものの、城門のすぐ側なら明かりもあるし
守備警団のナイトが夜勤で警備もしているので、おおむね安全は確保されているのだ。
「やぁ、お嬢ちゃんたち。浴衣着て花火かい? 風流だねぇ!」
「むぅ★
ナイトさんたち、もっと別に言うべきコトあるでしょ?」
「…あぁ…、いや…。
お嬢ちゃんたち、浴衣似合ってるよ。綺麗だね!」
「そうだよ、そう来なくっちゃ!
ありがとー、警備頑張ってねー☆」

 〈コロン コロン…〉
夜警ナイトたちが見守るなか花火用の陣地を確保したジュリアは、ヴェロニカとソフィアが
運んできた空のバケツに水色に光る小石のようなものを次々と入れる。
「フェリシアさーん。
『水の元素』、水に戻してくれないかな?」
「えっ!? この石コロみたいなのが『水の元素』?
どうやったら水になるのかしら…?」
「フェリシアさんみたいな魔力の持ち主が、『元素から水が溢れ出る』と念じるだけだよ。」
「ふーん……。えいっ!」
バケツの中の青い物体に手をかざし、フェリシアが念じると…
〈パシャッ!〉
「水の元素」は一瞬輝きを放ち、バケツ一杯分の水に姿を変えたではないか!?
「す…すごいのねぇ……。」
フェリシアが全ての「水の元素」を解放し、大きめのロウソクに火種を魔法で点火すると、
花火遊びの準備が整った。
「さぁさぁ、ウチら『ジュリアの嫁同盟』の……」
『…………………………………………★〈全員の冷たい視線〉』
「…あーいや、『ジュリアの友同盟』の花火大会、始まり始まりぃぃ〜〜☆」
〈パン! パンパンパパッパパパンパパッ…!!!〉
エレニは調子に乗ってスベった自分をフォローするように、景気よく爆竹を鳴らす。

 〈シュシュシュシュ……〉
手にした紙の筒から鮮やかな火花が穂のように噴き出し、辺りの空気を紅く染める。
あるいは、噴き出す火花が時とともにその色を次々と変え、周囲に七色の空間を生み出す。
夕闇の中で仄(ほの)明るく浮かぶ光は、その中に立つ娘たちを普段とは一味違った魅力の
持ち主に……
「そりゃあ、次はネズミ花火の大乱舞やぁ! みんな用心せぇや☆」
〈シュルルル…パパパパーンッ!!〉
「わわっ!」
「きゃッ!」
「キャアーッ!!」
「…あのさ、ロザリーちゃん、ヴェロニカ。
ふたり同時に抱き着かれちゃッたら…、ボクぅ…苦しいよ★」
「あっ!
…ご、ごめんなさいっ!!〈離れる〉」
「……………〈ブルブル〉」
「ちょっと、ヴェロニカさん!
いつまでお姉様に抱き着いているのかしら!?」
「そぉーよ、そぉーよ!
羨まし…もとい! けしからんと思わないかしらん?」
「…レイチェルさん、フェリシアさん。
それはふたりで抱き合いながら口にする台詞ではないと思いますけど…★」
『!!!』
「ソフィア、ええツッコミやで☆」
……完全には変えてくれないようだ。

 噴水のように火柱を噴き上げるドラゴン花火。
竹竿の先に吊すと回転して火花を散らす円盤花火。
超古代に作られた兵器の名前に由来すると言われている、火を噴き出して矢のように
空を飛ぶロケット花火。
そして、竹の筒から大空に打ち上げられ、闇の中に光の花を咲かせる打ち上げ花火…。
「…ふぅ。
これでウチが準備した花火も、打ち止めの『七連発花火』だけになってもうた。
そんじゃ…」
「待ってよ、エレニ!」
「!?」
「…実はね、ボクもカネモリに花火作ッてもらってたンだよ。」
『………………………。』
「聞いた話じゃ、コレが彼の作る唯一の花火なんだって。
やってみようよ!」

 ジュリアが持ってきた花火。
それは、色付き紙こよりの中に火薬を仕込んだだけのような、地味な見た目のものだった。
屈み込んでロウソクで火を付けると、紙こよりの先で火薬が熔けて火玉が生まれ、
ささやかながらも可愛らしい火花をパチパチと放つ。
『………………………』
…しかし、火玉の寿命は儚いもので、ちょっとした手のブレでポトリと地面に落ち消えて
しまう…。
「…『線香花火』ね。
豪華な派手さよりも繊細な美を愛する、十六夜の民好みの一品だわ。」
「…そう、ヴェロニカさんは知ってたのね。」
「…せやな、ソフィア。
時にはしんみりと情緒に浸るんも、悪うないな…。」
「あの…、心の中が澄み切ってゆく感じがしますね…?」
「あらぁ、いいこと言うのねぇ、ロザリーちゃん♪
…案外カネモリも、実はいい人なのかもしれないわねぇ…。」
「甘いですわ、フェリシアさん!
…でも、こんな小さな花火しか作らないのなら……?」
七人の娘たちが線香花火を囲んで和む時間は、まさに線香花火の閃きのように
「永遠のひととき」となってゆく。
 ………………………………………………。
 ……………………………。
 ………………。

 「…さあ、泣いても笑うても、最後の一発やで☆
ジュリア、この花火は何を記念するんや?」
「う〜ん、難しいなぁ…。
でもやっぱり、出身もジョブも性格も違うのに、こうして集まってる大切な『絆』かな。
…それじゃ、ボクたちの『絆』を記念して!」
『記念して!』
〈シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン!
……ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ!〉



今まで二回続けてイベント参加を逃してきましたJollyのイベント作品,ようやく悲願の
実現となりましたが,いかがでしたでしょうか?
本作の題『夏の夜の花』とは,夏の娯楽・花火と夏の風物詩・浴衣で着飾る娘たちの
ふたつの意味を掛けております…蛇足ながら★
…それにしても,「ジュリア好き好き娘たちの絆」とは,我ながら何とも微笑ましくも
奇妙だと思いますが,良い思い出になるまで永く続いてほしいと願っています.
                                     Jolly