※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 -二日目-


「ん・・・」

 窓から差し込む朝日に私は身体を起こして、瞼を擦った。
 朝。まどろむような意識の中、ゆっくりと記憶を整理していく。
 そう、昨日はあれから大変だった。
 なんせ、私のドジでバケツの水をぶっかけたお客さん・・・麻薬密売の犯人から
 その人が所属してた組織の人物や取引相手が、芋づるのように次々と洗い出されて
 自警団は「あなたのおかげで組織の根滅に向けて大きな足がかりを手にしました!!」とかで
 騎士団一隊からお礼を言われたり、懸賞金を貰ったりで、
 そのお店の店長が知人を呼んで夜遅くまで盛り上がったりで
 今でも夢を見ていた気分で・・・・ホント、大変だったなぁ・・・(遠い目
 それに、慣れないお酒なんかも飲んだせいか、少しボーっとする。

「あ・・・」

 そして、ふと部屋の隅を見れば、そこには座った姿勢で寝ているナビさん。
 昨日起こった事・・・それは、彼の運んできた『一生に一度のチャンス』の効果。
 これだけ凄い効果・・・まさに、『奇跡』を起こしてしまった『お願い』。
 しかも、まだこれは『お試し』なのだ。
 だから、私は心に決めていた。

(この『お願い』で、私はすっごいブレイブマスターになる・・・)

 情けなく悲鳴を上げる事しかできなかった私を助けてくれた。
 憧れな。あのブレイブマスターのように。

「ん・・・」
「あ・・・おはようございます」

 程なくして、ナビさんが目を覚ます。
 ぼぉっとした起き方をしてしまう私とは違って、ナビさんは目覚めたらすっと目が覚めるみたい。

「・・・おはよう。えーっと」

 ナビさんは思い出すように頭を抱え、
 そんな彼に、私は小さく笑ってから思い出させてあげた。

「くすっ・・・スフィリア。ですよ」
「ああ。おはよう、スフィリア」


 *


「しかし、昨日は大変だったな」
「ですね・・・」

 思い出しただけでも、むず痒い気持ちになってしまう。
 別に自分の実力ではなくたまたまの事だった・・・というか、お試し願いの結果がそうなったというか。
 そんな、素直に喜べない一方で、担ぎ上げられて持てはやされたのは、やはりうれしくて
 私は中心で、急にお酒出されて慌てたり、照れたりしていた気がする。
 そういえば、ナビさんは盛り上がる会場の中でポツンとお酒を飲みながら一人で居た記憶があった。

(・・・たぶん意識されないからって勝手に拝借したんだろうけど・・・)

 ・・・・・・まあ、認識されないから仕方が無いといえば仕方が無い話なんだけども、
 それ故に、ナビさんは例えば『食事』などをするにも、正攻法で得る手段は無く、
 モノを得るためには、全て対象者である私を通して得なければならないのだというらしい
 それはそれで、一週間ほどとは言え、少し寂しい状態なのかも知れない・・・って思った。

「というか。オトコノコを部屋に泊めるなんて・・・」

 だからか、ナビさんはどうも自分の家・・・ギルドがあるって言ってたっけ。
 そこに帰ってもナビ状態では不便だからと言って、私の部屋に泊まっていったのだ。

(今更だけど、お父さんお母さん。スフィリアはイケナイ子です・・・)

 そんな事を思い返している間に、ナビさんは身だしなみを整えてしまったのか、台所で朝食を作り始めたりしていた。

「あの・・・」
「一晩一泊の礼だ。それより、さっさとそのだらしない顔洗ってから、もう少しのんびりしてな」
「なんですかそれー!」
「ははっ」

 私はナビさんの背中をグーで殴りながら文句を言って、
 ナビさんはからかう様に笑って台所に入って行っちゃう。
 たったの一日だけど、それでも結構打ち解けた。
 ・・・やっぱり、私は、頼れる人が南部側には居なくて。
 一人は、やっぱり寂しくて。
 ・・・・・・たぶん。マスターとか仕事関係を除いて、南側に着ての初めての『しりあい』。
 トイレお風呂洗面がセットになった部屋で、顔を洗いながら思わず笑顔がこぼれてしまった。


  ■


「ほれ」
「・・・なんですか。このまるで首都ホテルのモーニングセットのような豪華さは」

 いや、実物を見た事は無いけど。
 男の人って、炊事洗濯とか苦手なイメージがあったけども
 それって単純にお父さんがお母さんに全部まかせっきりだから、そう思っちゃうのかな。
 ナビさんの予想外の料理の腕前に、私はちょっぴり感動する。

「それでだ。まあ、まだ一週間近くあるから焦る必要も無いが・・・・・・考えたのか?」
「ふぇ? ふぁんふぁふぇふぁっふぇふぁんふぇふふぁ?」
「・・・・年頃の女が恥ずかしくないのか。まずは飲み込め」

 久々のおいしいご飯を口に詰め込んだ私の言葉は怪言語となっており、
 それを見たナビさんが自分の頭をかかえて、疲れたようにツッコミを返した。
 むぅ。確かにおいしいご飯に夢中で慎みが足りなかったかも。
 紅茶と一緒に飲み込んで、もう一度同じ言葉を口にした・・・今度は、ちゃんとした言語で

「考えたって何をですか?」
「・・・チャンスの『お願い』に決まってるだろう」

 あ。そう言えばそうか。
 私のお願いは、別に考える前に決めちゃってたから、一瞬判らなかったケド
 ナビさんとの会話は大抵『お願い』のお話になるよね。

「一応、明らかに許容範囲外のモノはスルーされてチャンス自体も無効になるって本には書いてあるからな。気をつけておけ」
「うん。たぶん許容範囲内だと思うから大丈夫ですよ」

 別に世界征服するとか、お金持ちになるとか言うお願いじゃないしね。
 でも、そのボーダーが判らないっていうのはちょっとイジワルだなぁって思ったり。

「・・・一応聞くが、どういうお願いをするんだ」
「うん。私ね、立派なブレイブマスターになりたいんだ」
「・・・」
「私ね。元々シュヴァルの農家の娘だったんだけど、行商の時に助けられて――――」

 私は、自分がブレイブマスターを目指している理由も含めて、ナビさんに伝えた。
 たぶんありきたりな話で笑われるかな。と思ったけど、
 この『お願い』で、私は届きそうで、私は気分が高揚してたんだ。

「だからね。お願いは、『私をそのブレイブマスターみたいに強い支援士にしてください』ってするつもりなんです」
「なるほど・・・」

 ニハハ。と照れ笑いして、私は自分の夢を素直に話した事に照れた。
 今思えば、家を飛び出したからお父さんやお母さんには話す事ができなかったし、
 南部に知り合いが居たわけでもないから、こうやって話したのは初めてだった。
 だけど、ナビさんは難しい顔をして・・・真剣な顔をして耳を傾けて、
 そして、口に出した。

「スフィリア。本当にそれで良いのか?」
「え・・・?」

 大真面目な口調のナビさんを前に、浮ついた気持ちが引っ込んだ。
 何かマズイ事を言ったんだろうか。判らなくて、オロオロしてしまう。
 ナビさんは諭すような口調で、言葉を選びながら口にする。

「あー・・・何だ。悪いがコレはオレの口からどう言っても、何の価値も無いんだ。
 お前が自分自身で気付いて意味のあるものだから、すまないが、答えは返せない」
「はい・・・」

 困ったような顔。だけども、責めているというワケではなく、
 『夢』に対して真剣に考えて、ナビさん自身の考えを答えているんだって伝わった。

「でも、お前がブレイブマスターになる夢を持って家を出た行動力は常人には出来ないスゴイ事だと思うし、
 いつまでも子供じゃないから、お前の人生だからこそお前が決めなきゃならない。
 その点で言えば、間違いなくお前は偉いよ。自信を持って良い」

 そして、ナビさんは少し崩した口調に戻って、

「ま。それでもまだ願いの期間は一週間もあるんだ。後悔しないようにゆっくり決めな」
「・・・・・はい」

 そう優しくポンポンと頭を叩いて、撫でられる。
 何だろう・・・ナビさんの言葉は、どういう意味なんだろう。
 それを考えながら、私は『願い』と向き合った。

 もちろん、おいしいご飯はしっかり食べてからだけど



■酒場

「マスタぁー」
「おうスフィリア嬢! 昨日は大活躍だったみてぇじゃねぇか!!」

 朝はのんびりと過ごしてから、依頼がピークに来るお昼前に、私はナビさんと連れ立って酒場に向かう。
 今日の依頼を受ける為と、昨日の報酬を受ける為だ。
 その、昨日の依頼『お店のお掃除』の報酬は、最初の規定報酬に加えて
 店長の割り増し払いに、自警団からの感謝料も込めて5倍ほどに膨れ上がっていたらしい。

(というか、自警団から感謝料も貰えるなんて・・・犯人の懸賞金も貰ったのに・・・)

 マスターから報酬を受けて、予想外の大量報酬に私は思わず「アハハ・・・」と照れ笑いを浮かべた。
 マスターから依頼を渡されて、目を通す。

「ね。マスター」
「ん。どうしたんでぇ?」

 Eランクの依頼を見せてもらいながら、私はマスターに聞いてみた。
 朝のナビさんとの会話もあったし、気になっていた。

「BランクとかAランクの依頼って、やっぱり、すごいのかな・・・?」
「ふむぅ・・・んー。そうだなぁ」

 少しマスターは考えて、

「ガハハハ!!スフィリア嬢も背伸びしたい年頃かもしれねぇが、そんなもん先の先の話だ!!
 今はまだ勉強勉強ってもんだぜ!! 慌てる必要なんかどこにあるんでぇ!!」
「あぅ・・ちょ、痛・・・」

 バシバシと、少し痛いくらいに背中を叩いてきた。
 マスター結構な肉体派だから、冗談の行為でも結構痛い
 だけど、私と同じくらいの年の支援士でBやA。果てはA後期のような位置に居る支援士の話も耳にする。
 ズルイ。と心のどこかで思う一方で、それを考える自分が居ると思うと・・・今度は、自分がひどく惨めに思えて、
 自分がどれだけノロマか比べてしまって
 悔しいのかな。自分の憧れてる位置に、自分と同じくらいの歳なのに、既に居るって事が―――
 きゅっと、唇を締めて気持ちをこらえる。

「・・・焦る事は無いだろ。スフィリア。お前はまだ支援士を始めて間もないんだから」
「うん・・・あっ」

 依頼の帳簿を見ていると、ナビさんがとある依頼のページに来たとき、ひったくる様にファイルを奪ってしまった。
 良く見る前に取られちゃったから、どんな依頼か判んなくて

「お? スフィリア嬢。なかなか見所ある依頼選ぶじゃねぇか」
「い、いえ・・・これは、この人が勝手に・・・」
「ん・・? まあ、スフィリア嬢も中々センスが出てきたって所か!! ガハハハハハ!」

 私の言葉に、マスターはうっかりしたような声をあげてナビさんを一瞥した後、
 まるで何もそこにいない。何事も無かったかのように気にもせず、私の方に向きなおって笑い。
 結局なぜか私が選択した事になっていた。

(そうだ。彼は・・・ナビゲーターは、認識されないんだ)

 思い返す。ナビは『極端に誰からも認識されない状態にある』という事を。
 自分が普通にナビさんと会話できるから、そのあたりをつい忘れそうになったりもしちゃう。
 そんな事を考えている間に、マスターは依頼の内容を確認するように私に聞かせる。

「Bランク支援士『ダノン』の手伝いで、ちぃと女性の方が都合が良い仕事があってな。と言ってもEランク依頼だし、彼の指示に従っていればそれで良いぜ」
「え!」

 そこに、私は反応した。
 Bランク支援士。上位ランクの支援士さんと一緒に仕事が出来るんだ!

「それに、ダノンは良い支援士だぜ。彼と一緒に仕事すれば良い経験にもなるってモンでぇ」
「う、受けます!!」
「よっしゃ! 場所はミナル。今から出ると・・・そうだな、スフィリア嬢の足なら、着くのは夜前になるだろうから、挨拶だけして明日から使って貰いな」

 即決した私に、マスターは鼻歌交じりに依頼を正式に通してくれる。
 その間に、チラッとナビさんを見て小声でたずねた。

「別に良いですよね・・・あの、きっと着いて来てもらっちゃう事になると思いますけど・・・?」
「ああ。オレは大賛成だ。ダノンさんは、オレも尊敬する支援士だからな」
「へぇぇ・・・そんなに凄い方なんですか?」

 そんな関心した声を上げちゃった私に対して、
 ナビさんはどこか遠く・・懐かしそうに、そこを見ながら、

「ああ・・・ホント、あの人は凄い支援士だよ」

 そう。呟いた。


■馬車

 昨日の依頼の実入りが良かったので、お弁当を買って馬車に乗った。
 私のような貧乏支援士は、馬車のお金もケチりたいお年頃だから、滅多に乗る事は無いのだけど

「早い早い!」

 はしゃぎながら、窓から外を覗いてしまう。
 この分なら夜前どころか夕方には着いちゃうんじゃないだろうか。
 それにしても、ナビさんは認識されないからって料金払わないとか
 そんなんで大丈夫なのかなぁ・・・と、心半ば思ってしまうけども、
 それよりも、お仕事をお手伝いするダノンさんだ。

(尊敬する支援士。って事は、ナビさんも支援士なのかな?)

 話す気は無いみたいだし、詳しくは聞かなかったけども
 でも、あのぶっきらぼうなナビさんが『尊敬する』とまで言った支援士さんだ。
 どんな素敵な人なのか。会えるだけでも、楽しみだった。

「ダノンさんってどんな人なんですか?」

 私はミナルに着くまでの間、ナビさんにダノンさんの事を聞いてみようと思って声をかけた。
 そんなナビさんは、懐かしむような口調で語る。
 ・・・その口調は、どこか優しさが含まれていた。

「ホントに良い人だよ。真面目で、気配りが良くて、何かと他人を気に掛けてくれる人さ。
 最後に会ったのは二年くらい前だったか? 変わってねぇんだろうなぁ・・・ダノさん」

 ふっと笑みを零したその顔に、私は思わずドキッとしちゃった。
 最後の『ダノさん』って言うのは、親しまれてそう呼ばれてるんだろう。
 それだけで、まだ見知らぬ人に会う事なのに、不安は微塵も無くて、
 私は早くミナルに着かないかな。と、ただそう思っていた。



■ミナル

 ミナルには、予想の夕方よりはちょっと遅かったけども
 それでも、夜の帳を見せる前・・・日が赤い内には、ミナルについてしまっていた。
 入り混じる川の移動手段として、船がゆったりとあちこちに並んで、
 綺麗な水。名前などは有名だけど、初めて来た。

「ここが、ミナル・・・!」

 すごい魅力あふれる町だった。
 そりゃあ、私の住んでいるシュヴァルだって『緑の木漏れ日ふりそそぐ』とか大自然の樹の中に立ち並ぶ家々で、
 幻想的な緑の世界は、観光スポットとして言われるけど、それでも幼い頃から住んでれば珍しいという感覚も無い。
 でも、生まれて初めて見る、ミナルの川を船で移動して、水上に立つ箇所箇所にあるお店や家に行くというのは
 すっごくに珍しくて。
 まさに、河川の町と言われるだけはあると感動した。

「とりあえずダノさんに挨拶に行こう。あの人の事だからまだ職場に居るだろ」
「あ。はい!」

 ナビさんにそう言われて、私は後を着いて行った。
 さすがに自分ひとりで初めてだったらオロオロしてたかもだけど、こういう時詳しい人が居るのって安心できる。
 初めて河船に乗って、観光気分で少しはしゃいで、ナビさんに小突かれながらも、
 着いた仕事先は、一つの宿屋だった。
 その入り口の前で、ちょっと太めの女性と体格の大きな・・・だいたい40歳前後くらいだろうか。男の人が話していた。

「あの・・・」
「お? ジョゼット婦人。ちょいと失礼をば。外は寒いでしょうから、お先に中にどうぞ」
「ええ。では失礼しますね」

 太めの女性。ジョゼットさんは、体格の大きな男の人ににこやかに言葉を返しながら
 宿屋の中に先に入って行った。

「えっと・・・すみません。私、ダノンさんという人と仕事する為に来たのですけど・・・」

 その男性に、ダノンさんの事を尋ねると
 軽く笑ってから、握手するように手を差し出して

「マスターから伝書鳥が来て聞いたぞ。キミが、スフィリア君だね。ボクがダノン。
 ダノン=ストレインだ。どうぞ宜しくな!」
「は、はぁ・・・スフィリアと申します」

 思わず握手をして・・・うわ。この人手大きい。
 ぶんぶんと、手を振る。

「いやぁ助かったよ。ボクはどうもこのナリだから、お客さんに怖がられちゃってね。
 裏方の仕事しかお手伝い出来なかったんだよ」
「な、なるほど・・・」

 確かに、ダノンさんは身体が大きいし怖がられるのも仕方が無いかも。
 私も思わず潰されちゃうって考えちゃったし。
 でも、あれ・・・?

「ダノンさんって、おいくつなんですか?」
「ん? アハハ。自己紹介で年齢を尋ねるなんて面白い子だね! ボクは今年で42歳かな。キミは?」
「あ。はい・・・15歳です」
「ハハッ。まだまだ伸びる時だね。成功も失敗も沢山して、いっぱい人生経験を積んで、頑張って精進しなよ!」

 朗らかで良い人なのは間違いなく判る。
 だけど、42歳でBランク支援士・・・
 若手の支援士がAやらSやら居る中で、この年齢でBランク支援士ってどうなんだろう?
 酒場のマスターやナビさんが凄い凄い言う支援士だから、正直ちょっと拍子抜けしてしまった。

「じゃ、そろそろ夜になるし、キミも冷えると行けない。宿に入ろうか」
「あ、はい」

 そのまま、ジョゼットさんが入っていったのと同じく、
 私は、いまいち頼りない第一印象を持ったダノンさんと一緒に
 仕事場に入った。


 *

「わたしはジョゼット=フォンブリューヌ。アナタの依頼主にあたるのですけど・・・そんなに堅苦しく考えず、ジョゼットさんって気軽に呼んでくれれば良いわよ」
「はい。ジョゼットさん、宜しくお願いしますね」

 私は頭を下げて、ジョゼットさんに挨拶をする。
 依頼の内容は、ちょっとした事故で裏方の仕事をしていた人が軽い怪我をしてしまった事。
 それだけでなく、ルームサービスなどの女給さんがちょっと重めの風邪でダウン。
 平たく言えば、アルバイトが必要となったという話である。

「お前には、たぶん女給の仕事を任せられるだろ。多少は手伝ってやるから気楽にやれ」
「うん・・・」

 ナビさんの言葉に頷くも、本番前にして緊張してきてしまった。
 Eランクの依頼でも、失敗したりしていた私が、迷惑を掛けずに済むだろうか・・・
 良い人ばかりで、逆に気遣われたりしないか。不安になってきた。

「ハハハ。なぁに、緊張する必要はないよ。ボクがフォローもしてあげるから。
 キミは出来る事からしていけば良いさ。まずは、リラックスして仕事に慣れよう」
「は、はい」

 そんな状態の私に気付いたのか、ダノンさんは軽く笑いながら、気を使ってくれた。
 うー。迷惑かけないように頑張ろう・・・

「スフィリアちゃんは、これからわたしと一緒に明日の仕込みのお手伝いしてくれないかしら。
 あと、ルームサービスの時間が終了するまでは、ちょっと行ってくれないかしら。
 おばさんみたいなのより、きっと若い子の方が評判良いと思うから」

 アハハ。と、ジョゼットさんは冗談交じりに私に仕事内容を伝えて、さっそくキッチンに行く。
 ダノンさんはもう仕事の指示を貰っていたのか

「さって、ボクも始めるとするかな」

 そうして、宿の外に出てしまった。
 私は慌ててジョゼットさんの居るキッチンに入る。

「わぁ・・・」

 そこは、想像以上に広い厨房。
 幾つもの鍋やテーブルが並ぶ中、ジョゼットさんの仕込みの台だろうか
 ジョゼットさんの居る、機材が置かれている所に私は向かった。

「じゃ。流しに使ってる野菜があるでしょう。それを洗ってもらえるかしら?」
「はい」

 あ、ちょっと安心した。こんな感じの手伝いなら、いつもやっていた。
 だって農家の娘ですもの。
 バシャバシャとお野菜のドロを落としながら、思い出す。

(お母さん。元気かな・・・)

 寂しくないといえば嘘になるけれど、
 それでも、私は凄い支援士になりたい。
 今はこんな手伝いみたいな仕事だけども、いつかは助けてくれたブレイブマスターみたいに、なりたいんだ。

(お願いでブレイブマスターになる事はいけない事なのかな・・・? ナビさん。ダメとは言わなかったけど、あんまり賛成してくれる雰囲気じゃなかった・・・)

 そうして手伝いを続けてしばらくすると、

 チリンと音が聞こえた。

「あら、お客さんだわ。スフィリアちゃんお願い出来るかしら?」
「はぁい!」

 ジョゼットさんの言葉に、慌てて向かい

「アハハ。スフィリアちゃん。さすがにルームサービスにジャガイモを持っていく必要は無いよ」
「はうっ!」

 手には、洗っていたジャガイモ。
 ちょっとしたミスだけど、そんなミスをする自分が情けなくて
 厨房を後にしてお部屋に向かう。

「リエステールのティール・エインフィード知ってるか?」
「知ってる知ってる! 可愛くて強くてなぁー・・・あんな子に守られて過ごせれば幸せだよな」
「お前、男なのに守られるってどうなんだよ。 まあでも、Aランク支援士だしな。オレも同感だわ」

 ふと、ロビーで対談しているお客さんの会話が耳に入る。
 支援士のティールさん。噂で聞いた事ある。
 異世界から来た女の子で、年齢も私とそう変わらないAランク支援士。
 新聞でも取り上げられて、有名な子・・・・
 ・・・私は、ジクリと胸が痛んで

(私、強くなりたいよ・・・・・・)

 そう思って、パタパタとその場から逃げるように後にした。



 そうして、今日はルームサービスに対応したり
 ジョゼットさんのお手伝いをしながら一時ほど働いただろうか。
 上がって良いと言われて、私は用意してもらってた一部屋でゆっくりと眠りについた・・・