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 風をもとめて —プロローグ—

 〈カタン…バタム!〉
ここは大陸南部に開けた大きく平和な都・リエステール。
生活用品、武器防具、魔法道具、宝飾品、薬。
ありとあらゆる道具の店が大通りに面して並ぶ、人呼んで「道具屋通り」。
もう夜も遅くほとんどの店が看板を仕舞っている中、まだ窓に明かりを灯している一軒に
ひとりの少年が入ってゆく。
その玄関に掲げられた真新しい白木の看板には、黒い墨で鮮やかに筆書きされていた。
『各種くすり調合いたします 錬金術師カネモリの工房』

 〈コポコポコポ……〉
奥の方から聞こえる湯の沸くような音がかえって静けさを際立たせる店内を、少年は周囲を
見回しながら無人のカウンターに向かって駆け寄る。
「…………。」
〈チリン! チリリン!! チリリンリリンッ!!!〉
『御用の方はチャイムを鳴らしてお待ち下さい』
との注意書き通り、彼はカウンターに置かれたハンド・チャイムを激しく振って待つ。
すると、
「…こんばんは。ご用件は何でしょうか?」
カウンター向こうの通用口から、ひとりの若い男が姿を現した。
リエステールの住民にはあまり見られない、漆黒の髪と瞳。
顔立ちから察するに、齢(よわい)は20代半ば。
生地をたっぷり使って仕立てられた前合わせの衣服を布の帯で整えた出で立ちも、一般的な
リエステール住民とは異なる雰囲気だ。
「えっと…、あなたが錬金術師(アルケミスト)のカネモリさん?」
「はい、私がカネモリですが…。」
すると、少年は険しい表情を崩すことなく、
「僕は支援士(ヘルパー)です。
この手紙を、一刻も早く届けて欲しいと依頼されました!」

 「夜も遅い中、ご苦労様です。気を付けてお帰り下さい…。」
受領書へのサインと引き換えに手紙の入った封筒を受け取り、支援士の少年を見送った
錬金術師は改めて手にした封筒に目を落とす。
「…………。」
上質の真ッ白な紙でできた封筒、深紅の封蝋の上に捺された十字架の紋章は、送り主が
聖アルティア教会リエステール大聖堂(カテドラール)に属していることを示している。
その一方で、
『親愛なるカネモリへ エルナ』
とペン書きされた署名の字は整っているものの、まだ幼いあどけなさを漂わせている。
「……………………。」
ペーパーナイフで丁寧に封筒を開き、広げた手紙に目を走らせるうち、彼の両手が小刻みに
震えて便箋がカサカサと音を立てて泣き始める。
「…フィナさんが…、エルナさんの…妹さんが……」
〈ダンッ!〉
その脳裏に幼い姉妹
—病に蝕まれながらも気丈に生きた妹と、彼女に無上の愛を注ぎ続けた姉—
の姿が浮かんだ刹那、男はカウンターの天板に左手の拳を激しく叩き付けていた!
「…うぅっ、私はいったい何をしているんだ!?
『究極の薬』の研究は悠長になどしてはいられない。
もうフィナさんのように、誰も死なせたくはない。
もうエルナさんのように、誰も悲しませたくはない。
…私だって、もうこんなに苦しみたくはない。
きっと…、きっと『究極の薬』を…、この手で完成させてみせるッ!」