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―17―






モレクの酒場。
先日と変わらず、『新種の鉱石』―その真の名が『エメトの欠片』と呼ばれる事を彼らは知らないだろうが、それを求める支援士達で賑わっていた。
当然、他の目的の支援士もいるかもしれないが、現在酒場に置かれている依頼の大半はそれで間違いないだろう。
「ティール。 ここにいたか」
目的の人物を発見するまでに、特に時間はかからなかった。
酒場の中にはいったその時点で、カウンターに座りバージンメアリーを飲みながら、マスターと話している姿が目に映っていた。
「……随分と災難だったみたいだな」
マスターのその言葉は、先日の盗賊の時と言っている内容こそ同じものの、あの時のような気楽さはなかった。
彼の心にのしかかっていた重さを、ティールというフィルタを通して聞いていながら、しっかりと理解している。
―当のティールは、黙って顔も向けずにグラスを傾けている。
「何か飲むか?」
「いや、いい……ティール、話がある。 外に出れないか?」
ここにきて、グラスから口を離したティールが、始めてディンの方へと目を向ける。
その目は、ディンの心の内を理解しているのか、真剣そのものだった。
「マスター、話はそれで全部だから、あとお願いね」
「わかった。 また来いよ」
まだ中身が1/3は残っているグラスを放置し、椅子からおりて荷物を手にし、無言で出口へ向かうティール。
ディンもその後に続いて、酒場の扉をくぐっていった。






「…何を話していたんだ?」
たどり着いたのは、人気のない裏路地。
民家や店の勝手口もほとんどなく、普段から人が通ることのない場所というのが、始めて通った者にでもありありと分かる通路だった。
「エメトと、石の事をね。 昨日実際に目にして、私の考えが当たってたって確信したから」
そんな道の、丁度中心にあたる地点に差し掛かったところで、ティールはぴたりと足を止め、ただ淡々とした口調でディンの問いに答えていく。
「確かにな。 あれはもうただの『採取依頼』じゃない……『上級モンスターの討伐』だ」
「多分、最初に見つかった石は、たまたま何かにぶつかって崩れた部分が転がっていただけじゃないかな。 それを誰かが見つけた」
「そうだな」
「………で、そんな事を聞くために追って来たわけじゃないでしょ?」
くるりと振り返りながら話を切り、改めてそう問いかける。
しかしその表情は、『問い』がいったいどんなものであるか、すでに分かっているようなそれだった。
ただ本人の口から言わせたい……それだけの問いかけ。
「ああ……『ブレイブハート』とかいってたあの力、どうやって手に入れた?」
互いに互いの瞳を見つめ、張り詰めた面持ちで問いを続ける二人。
もしこの場に他の誰かがいれば、空気の重圧を受けてなにも言えなくなるだろう。
「あんな能力『ベルセルク』や『パラディンナイト』でも聞いた事がない。 ましてやお前は下位職の『ブレイブソード』……」
そこまで口にしたところで、ティールに手の平をつきつけられ制止される。
ディンはそのまま黙り、今度はティールが口を開いた。
「私は自分が『ブレイブソード』なんて一言も言ってない。 ……”あえて定義する”ならそうかもしれない、とは言ったけれど、ね」
「………」
―ジョブは……”あえて言うなら”スピード特化のブレイブソードかな―
言われて思い返してみれば、確かにそんなニュアンスの曖昧な言い方をしていた。
「なにより私の技は、貴方たちの言葉を借りるなら『部隊騎士(レンジャーナイト)』『剣闘士(ブレイブマスター)』のそれに近い」
昨日の洞窟内の戦闘で彼女が放った技―『チャージ・ストライク』『クロスブレイク』
チャージストライクは確かにレンジャーナイトの『チャージ』の”パラディンナイトかベルセルク仕様”とでも言うべき程に、パワーを強化された技のような印象を受ける。
クロスブレイクは、武器こそ槍で、動作にも多少の違いはあるものの、ブレイブマスターの多段切りの2段といった感じだった。
しかし、ハルバードという武器を操れるのは一般的に考えてパラディンナイトのみ。
……確かに、徹底的に考えてしまえば彼女に定義できるジョブはない。
「全部私が元々使えた技だから、この世界でも問題なく使えるみたい。 ……貴方たちから見れば、反則に見えるかもしれないけど」
笑うような表情を見せて、そう付け加えるティール。
……だが、その言葉の中にある聞き捨てならない単語を、ディンは聞き逃しはしなかった。
「まて、今……『この世界』でもと……どういう意味だ」
「…鋭いね。 まぁ、今貴方が思った事が、たぶん正解だよ」
―『元々使えた技』『定義から外れた技』『”この世界でも”という言葉』
これらの情報を纏め、考えられる可能性。


――――異世界の住人――――


「!!」
『知覚出来ないはず存在』が、今、目の前に存在する。
誰もが一度はあるかもしれないと思いを馳せるも、誰も行けない場所の存在が、目の前にある。
それに気がついたその瞬間、
「『向こう』では、ブレイブハートみたいな特殊な力は総じて『ブースト』と呼ばれていて、その効果と能力の名は、人によって個別のもの。 つまり、『ブレイブハート』という能力を使えるのは私だけなの」
その後に”似た能力を持った人はいるかもしれないけど”と小声で付け加えて、ふっと笑みをこぼすティール。
だが、その目はとても笑っているとは言えず、いまだに鋭く目の前の青年を貫くような光を宿していた。
「だから、この世界の存在であるあなたには、決して身につける事は出来ない。 ……戦うための力を求めると言うなら、他をあたって欲しい」
ここまで言うと、ふぅ、と力の入った肩を休めるように、軽く息を吐き出した。
―だが、ディンは未だうつむいたまま、強く拳を握っている。
「………そんな空想話を、信じろと?」
「疑ってるふりをしても、貴方の顔は信じるって言ってるよ」
「……」
「――だって、それを認めれば私の言葉の全てに説明がつくから」
誰も知らないはずの、エメトという存在を知っていた彼女。
ここまでの話を統合すると、『エメト』という存在も、おそらく彼女と同じ世界から来たものという事になり………それも含めて考えれば、『彼女が誰も見た事もない、エメトという存在の事を知っている』という理由も理解できる。
「くっ……」
自分は何に悔しがっているのだろうか? …その答えは簡単だった。
彼女が異世界の住人だろうと関係ない。
自分(パラディンナイト)の下位職であるブレイブソードの彼女が使える能力なら、もしかしたら自分も使える物なのかもしれない。
……そんな淡い期待が裏切られた事に、悔しさを覚えていた。
「ディン、今の貴方は私に似てる」
「……何?」
「私も、仲間と並んで戦いたくて、力を求めていたから」
「…力を……?」
「……私は親はいなかったけど、家族と呼べる仲間達がいた。
……みんなはすごく強い冒険者で、私はいつか一緒に戦える日を夢見ていた」

……ゆっくりと、過去を語り始めるティール。
それは、13歳という少女に課すには重すぎる顛末……運命と呼ぶには、残酷すぎるだろう記憶だった。

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