※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

04:-relieve-


それからどれだけ時間が経っただろうか。
ほんの数分だった気もするし、二、三時間はしたような感覚もある。
する事は、なんということはない思い出話だったり、お互い離れた後の最近の話。
しかしただそれだけの事が、楽しかった。
今の仲間達がダメというわけではない。
ただ、目の前にいるリオナという女性は・・・・・・
師の一人であり、仲間であり、家族でもある。
ティールにとってそれだけ特別な人物なのだ。
「・・・・・・いい世界だよね、ここは」
そんな中で、ふと窓から外を眺めながらリオナが一言。
見えるものは、なんということはない町の日常風景。
平和そのものな、いつもの夕暮れ時の光景だった。
「アストが平和な時代まで眠っていて欲しくてティールにあのスクロールを使ったのだとしたら、違う結果になっていても、うまくいったことには変わりないのかな」
「リオナ・・・・・・」
魔王との戦いは、自分が物心ついた頃には始まっていた気さえする。
たとえ本格的な戦争になったのが最近の数年程度だとしても、幼い頃には既に魔物の侵攻が強くなり始めたと話には聞いていたから。
だから、魔物との小競り合いや人同士の小さな争いが耐えないこの世界も、自分達にとっては平和な世界だと言える。
たとえこの世界の過去に動乱の時代があったとしても、今自分達が生きているこの時間ではわからないことだから。
「・・・・・・あたし達の世界は、一応だけど一区切りついた。
もう、投げ出しても大丈夫だよね。みんな」
「それ、フォアリーフ・・・・・・」
フォアリーフ・クローバー。
それはなんと言うことはない、四つ葉のクローバーの形をしたアクセサリー。
ただし、中央の部分で四つの葉が着脱できうような作りになっており、ギルドの四天王の四人が一つづつ持っていたものある。
それを、今はリオナが組みあがった形で持っている・・・・・・
つまりは、彼女もギルドの名を背負って生きてきた、という証明なのだろう。
「あたしも、こういうのんびり冒険者できそうな世界で、人生やり直したいって思ってるわけよ。
あ、こっちじゃ支援士って言うんだっけ?」
「・・・・・・支援士じゃ、あんましやること変わらないと思うけど」
「ま、あたしはそういう人間だから。平和でもおしとやかにはなれないですわよ」
最後に妙なしなを作ったリオナに、ティールは思わず笑みを漏らしていた。
・・・・・・そして、こういう何気ない事で笑いそうになるのも、ずいぶんと久しぶりのように感じていた。。
この世界に来てから、感情を表に出すことが苦手になっていた気がするから。
「それにしても、ウチで一番小さかったティールがギルドマスターか。
一人前になった子供を見送る親って、こんな気分なのかなぁ・・・・・・」
「なに言ってんだか・・・・・・」
「別に? まあ保護者はもう必要ないよねって事」
「保護者、ねぇ」
確かに、元の世界にいた時は常にギルドの誰かが側にいて、何か依頼をこなすにも万が一も無いように目を光らせていてくれた。
その役がリオナだったことも、もちろん何度もあったことだ。
「うん、決めた」
そんな昔のことを思い返していると、突然リオナがそんな一言を口にするのが聞こえてきた。
その瞬間の表情は、いつものどこかイタズラっぽいもので、彼女をほんの少し幼く見せるいつもの笑顔。
一瞬間を空けて、我に返ったティールが何を、と聞く前にリオナはその両手をティールの背中に回し、抱きよせる。
――あぁ、そうだった。
今は『一生に一度のチャンス』のナビゲーターと、その対象者という関係なのだ。
近づく彼女の顔を見つめながら、そのことを思い出す。
今度の願いは、やり直しも取り消しも効かない本当の願い。
彼女が何を望むのかはわからないが、次の瞬間には、今こうして彼女と話していたことは、自分はすべて忘れてしまう。
それはとても寂しい事ではあったが、それほど未練はなかった。
少なくとも『また一緒に生きていきたい』と、自分で願ったから。
ここで忘れてしまっても、いつかの近い未来に、また会えるのはわかっていたから。


「・・・・・・願い事一つ、何かある?」

だから戸惑うこともなく、最初に口にした言葉を、もう一度。







リエステール東平原。
基本的に町の中で刃を交えるのは御法度であり、道場や訓練場でも所有してない限りは、たとえ組手であったとしても町の外で行うことになる。
ティールは、今そこである少女と対等試合を行っていた。
体格も、外見から予測できる年齢もほとんど彼女と変わらない感じの少女。
しかし、『神竜種』の力による変化で、体格以上の力を持つはずのティールとほぼ互角に切り合うその姿は同年代には見えず、まるで歴戦の戦士のごとき貫禄を放っている。
「ブレイブ・・・・・・」
距離をとり、手に持つハルバードを大きく構えるティール。
全身を駆け巡る魂の炎、それをその切っ先に集中させていく。
「にゅふふ、撃ち合う? 撃ち合っちゃう? いっくよー、ボレアス・・・・・・」
対し、少女は楽しそうに笑顔を見せると、その全身を包むように舞う凍気の風を、ティールと同様にその手の剣の刀身に集め始めた。
焼き尽くす炎の剣と、凍結し尽くす吹雪の剣。
打ち消し合うか、どちらかが打ち勝つかーー
「「ソード!!」」
双方、全く同じタイミングで武器に宿した力を解き放つ。
お互いに、お互いの代名詞とも言える大技。
組手で出すような技じゃないだろう、と観戦していたギルドの誰かが口にしたのが聞こえた気がしたが、この二人にとっては全力で撃ち合う事にこそ意味があった。
それがかつての、そして新たな仲間に対しての最大の礼儀であることが分かっていたから。





「派手にやったものじゃな」
ある一点を境界線にして、片方は焼け野原、逆側は地面ごと凍り付いた雑草の山・・・・・・
と、激しくも見ようによってはシュールな光景を眺めながら、エミリアは苦笑しながらそう呟いた。
「リオナ・ノースウィンド――北風のリオナか。
最近急に名前を聞くようになったが、ティールと同じ異世界の人間とはな」
それにしても、ここまで互角とはな。
後にそう付け加えて、ヴァイは再び眼前の戦場跡地に目を向ける。
そう、ティールのブレイブソードと、リオナのボレアスソード。
属性的相性云々はひとまず横に置いておくとして、互いの中央地点でぶつかり合ったそれは、完全に相殺し爆心地に跡を残したのみで消滅していた。
「にゅふふ、そりゃ日々デッドオアアライブな生活してたもん、この身体ぐらいの歳の頃には、このくらい戦えてたよ」
「ブーストも強力だもんねぇ・・・・・・」
ブースト。それはティールーーと、リオナがかつていた世界における、固有能力の総称。
自身の体内で燃焼し、身体能力の強化がメインであるティールの能力が『ソウルタイプ』と呼ばれるのに対し、身体を包み込むように展開する、体外で発現する力がメインのリオナの能力は『ドレスタイプ』
いずれにしても、この二人に限っては、。身体の内外の比率を調節できるという点で、結果的に同じようなものではあるのだが。
「能力名『スノーウィストーム』あたしの異名、『北風(ボレアス)』の所以よ」
「俺としては、全盛期の力とやらは気になるがな」
「さすがにこの身体じゃ追いつかないかなぁ」
ヴァイの一言に、あははと笑いながら答えるリオナ。
・・・・・・そう、リオナは本来、ティールよりも一回り近くは年上であるはずだった。
もちろん見た目もやや幼く感じる事も多いが二十歳前後の歳相応のもので、同じ歳に見えるなどと言うことはないはずだった。
結論を言うと、大体同じ年齢ーー14~15歳程度まで逆行したかのような状態である。
「でもなんでそんな事になったんでしょう?」
ふと、横で成り行きを眺めていたリスティがそう口にする。
リオナの事をよく知るティールも、その点は気になっていたのか改めて耳をその会話に傾けていた。
「んー、時空乱流に巻き込まれたときに何かあったのかなーってくらいしか推測も立たないけど」
「まあ、それはそうじゃろうな」
意図的に開かれた時空の扉ではなく、偶然開いたソレで世界を越える。
不確定要素しか見あたらないようなソレが相手ということはつまり、何が起こるか分からないし、何が起こるか分からないと言うことは、何が起こっても不思議ではないとも言える。
「まあ、あたし的には別にいっかなーって感じなんだけど」
そんなことを言いながら、なぜかティールに抱きつくリオナ。
『わぷっ』と自分でもよく分からない声を出したティールは、なにやら微妙な笑顔を浮かべている。
・・・・・・おそらく抱きつかれること自体は日常茶飯事的な行動だったのだろう。
「だってこのくらいの歳の頃って、魔物の侵攻が激化してきた時期だったし・・・・・・
戦い向きの能力者は、子供だろーが戦うのが当たり前だったんだよ?
二十歳過ぎた頃になって、あたしの青春なんだったんだろーなーって思ったくらいだし」
「生々しいな」
女心が分かるかどうかと言えば、全く分かっていなさそうな印象しか与えないヴァイだったが、長い時間戦いに明け暮れるしかなかったと言う点では共通しているところもあるかもしれない。
強制と逃避という差異は、確かにそこにあるのだけれども。
「それが物理的にやり直せるっていうんなら望むところだし、それに・・・・・・」
「むぎゅっ!?」
さらにティールの顔面を胸に押し付けるように抱え込むリオナ。
背丈はリオナのほうが高いものの、半ば強引に頭の位置を下げさせているあたり、もう狙ってやっているとしか思えない。
「ティールがブレイカーズ・ギルドに来た時、あたしは丁度このくらいの歳だったからさ。
あの時と同じ姿で、別の世界でもう一度『初めまして』から始められるのなら、悪くないかなって」
「ぷはっ! ……そりゃまあ、リオナがいきなりウチのギルドに入ってきたのは驚いたけど……
結局お互い知った相手なんだから、今更始めましても何もないと思う……」
ようやくリオナのハグから開放されたティールが、微妙な表情のままリオナの言葉に返答する。
……が、どことなく嬉しそうに目元が緩んでいたのは決して気のせいではないだろう。
「にゅふふ、気持ちの問題だから別にいいの。それよりさ、ほらっ」
そんな様子などお構い無しに、リオナはどこからともなく取り出した何かを放り投げる。
それは綺麗な放物線を描いて、ティールの手元に収まっていた。
「……フォアリーフ・クローバー……」
ブレイカーズ・ギルドの四天王がそれぞれ一葉ずつ持っていた、四つ葉のクローバーを模したアクセサリ。
受け取ったそれは三つ葉にされていたが、ティールが良く知るエンブレムであるそれに間違いはなかった。
ふとリオナの方へ目を向けると、その手にはティールの持つ三つ葉と、同じ葉の形をしたものが一つ。
「あたしは葉っぱ一枚で十分だから。 持っていてよ、リトルレジェンド・ギルドマスター」
「…………うん」
ただ一言、たった二文字の返答。
しかし万感の想いがこもった一声。
その返答をその耳で確認したリオナは、横でその様子を眺めていたほかのギルドメンバーに向けて、こう言い放った。



「元ブレイカーズ四天王、北風の(ボレアス・)リオナ。 これからよろしく!!」