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「しっかし、よくもまーこんなガラクタ売りつけられたもんだな。ええ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
 売りつけられた鍵(ゴミ)をくるくると回しながらフンと鼻を鳴らすと、頭にデカイたん
こぶができたティラが申し訳なさそうに何度もぺこぺこと頭を下げた。いまだ苛立ちが収
まらないのでどう言い伏せてやろうかと考えていると、横から別の女性の涼やかな声が言
葉をはさんだ。
『申し訳ありません。一応マスターを止めはしたのですが』
「ま、マキちゃん!?そこは私を庇うところじゃないかと思うのですが……!」
 しかし、声のする方にそれらしき女性の姿は見当たらない。無論昼下がりの街の中なのだ
から通行人は掃いて捨てるほどいるのだが、その中で俺たちの会話に入ってきている人間
も皆無だ。
 当たり前だ。喋っているのは人間じゃないのだから。
『自業自得です』
 そう言った女性の声は、ティラが握っているやたらとゴツい杖から発せられていた。
 彼女、いやその杖の名前は機械杖ティタノマキア。正式名称はさらに長ったらしいのだが、
どちらにしても名前が長くて面倒なので俺はマキアと呼んでいる。は、支援士がブームと
なったここ十数年で姿を現した機械武器(マシンウェポン)に分類される非常に珍しい杖
だ。またチャチな安物でも相場が十数万から数十万。高い物だと数千万というふざけた値
段が付くこともざらな機械武器としては最高峰の性能を持っているらしく、売れば億は軽
く超える代物らしい。ついでにしゃべる。
 そんな代物をティラは通りすがりで偶然知り合った老人からタダ同然で譲り受けたという
のだから、どこまで幸運なんだという話だ。
 まぁ最も、当の所有者がこの有り様なので、本人にとってこの巡り合わせが本当に幸せで
あったかどうかは甚だ疑問が残るところだが。
『私はマスターにやめたほうがいいと警告をしましたが、マスターは大丈夫だと言って私
の警告を無視されました。私はあくまでマスターの道具なのでマスターの発言を尊重しま
すが、その発言の責任はきちんと負うべきです』
「はい…はい…ごめんなさい……」
 杖に説教をされている光景はなんともシュールだが、まぁこれもマキアが加わってからは
たまに見る光景だ。しかし、いつもは感情のアップダウン自体があまりなくて、事務的に
短い言葉を発することが多いこいつにしてはえらく長口上だ。さては警告を無視されたこ
とを相当怒ってるな?
「ま、とにかく」
 そう言って鍵を指で弾いてティラに投げ渡し、ベルトのポーチからティラが鍵のおまけで
押しつけられた地図を取り出して振って見せる。
 ―――『職や財産を失ってもまだやり直したいなら支援士になれ』と誰かが言った。
 支援士稼業をしている連中は依頼を受けて日銭を稼ぐ毎日を送っている訳で、当然俺たち
もそんな連中の一員なのだが、俺たちのような無名の支援士にはいい稼ぎになる依頼とい
うのは回って来づらい。おまけにこんな昼下がりではもうまとまった稼ぎを得られるよう
な依頼は残っていないだろう。精々が初心者が受けるようなしけた依頼が関の山だ。
 冒険者がブームとなり、支援士という職業が確立されて20年。
 宿を取る金も泊まらせてくれるような知り合いもいなければ、外で腹を空かせながら星空
を眺めて眠るはめになる。最悪の場合、そこから落ちぶれて盗賊や犯罪者になる者すら出
ているのが支援士の現状だ。富や名声を夢見て支援士になった連中にとってこれは最初の
洗礼だろう。
 ……正直、7万5000フィズの出費は痛い。
 これだけあれば、安い宿で1週間は泊まっていても細々と依頼をこなしてさえいれば飲食
には困らない額だったのだ。いや実際、そのつもりでいただけに、この損失は頭を抱えざ
るを得なくなった。……もうぶっちゃけて言うと、ほぼ全財産だったのだ。
「一発狙いでこの地図に書いてある場所に行くぞ。文字は滲んでいて読めないが、幸い場
所の特定だけならできそうだ。まぁ……」
 ちらり、とティラを一瞥して不敵に笑いながら一言。
「外れだった場合は、お前に馬車馬のごとく働いてもらうことになるからよろしくな?」
 そう言った途端に真っ青になってがくがくと震えるティラを見て、少しだけ溜飲が下がっ
た。
 
 いままでいた河川の街ミナルから、南下してグノルダンジョンへの中継所となっている村
へ向かう商隊の馬車に相乗りさせてもらい、途中で降りてさらに丸数日歩いたところでよ
うやく目的地へと到着した。
 商隊と別れる際にもらった干し肉を口に咥えながら、沈みかけた夕陽に照らされた目の前
の建築物に対して思わず漏れた「そりゃあ、ここなら宝もあるかもな」という感想は、引
きつった笑みと共に。
 大抵のダンジョンというのは街から遠く離れた場所に点在しているため、ちょっと日帰り
で行ってくる。ということができず、その周囲などには野営の準備などをしている冒険者
の姿などをよく見かけたりするのだが、ここの周囲は閑散としたものだ。
 ―――1位2位を争う不人気ダンジョン、有限回廊。またの名を無限迷宮。
 特殊な条件下でしか侵入できないため、月に一度しかダンジョンの中に入れないのも閑散
としている理由のひとつだが、ここが不人気なのはまた別の理由からだ。
 先の見えないまさに迷宮然とした曲がりくねった通路に、無数のトラップ群。他の場所で
はまずお目にかかれないようなグロテスクな外見をした魔物が闊歩し、地獄へつながって
いると言われるほどの多種多様な悪魔が巣くう、超がつくほどの難関ダンジョン。
 何よりも、割に合わない。というのがこのダンジョンの不人気の最大の理由だった。息も
つかせないほどの死闘を繰り返して進んでも、待っているのは自分の命を狙う気味の悪い
魔物やトラップばかり。それらしい部屋の扉を開けると魔物が口を開けて待ってました。
なんていう冗談にしては笑えない話が数えきれないくらい存在するくらいだ。
 それでも何人もの冒険者が果敢に挑むのは、ろくに攻略も進んでいないからこそ一攫千金
の可能性も高いからなのだが。
「……さて、ティラ」
「はい!」
 威勢のいい返事に振り返ると、そこにはティラが気力充溢といった様子で立っている。相
変わらず元気だけはいいようだ。
「帰るか」
「え」
 俺の一言に、ティラがぽかんと呆けた顔をした。
「え、えぇ?ええー!?な、なんで!?」
「何でもなにも、非効率だろ」
 俺だって命が惜しい。好き好んでこんな人の命がたんぽぽの綿毛のように吹き散らされる
場所になんか行こうとは思わない。
「で、でも!ここで稼げなかったら私が馬車馬のごとく働くことに・・・!」
「自業自得だろ。俺には関係ないね」
 そんなぁ……と嘆く少女を無視してダンジョンの入り口に背を向けて引き返そうとしたら、
いきなり背中を掴まれた。不承不承振り返ると、帰って馬車馬のごとく働く予定の少女が
半泣きになりながら服を力いっぱい握りしめている。
 そのおでこには、「馬車馬はヤダ!!」と大きく書かれているのがありありと見て取れた。
「……おい離せ。さっさと帰るぞ」
「…その、ちょ、ちょっとくらい中に入っても」
「やだね」
「―――ッ!い、いいじゃないですか!宝物あるかもしれないんだよ!」
「そんなちょっと入って手に入るようなもんなんてある訳ないだろうが!」
「馬車馬は嫌ですー!」
 この野郎、ついにぶっちゃけやがった!
「お前やっぱりそれが理由か!つべこべ言わずにさっさと帰るぞ!」
 もう言い包めるのも面倒になってきたので無理やり帰ろうとすると、そうはさせじとばか
りにティラが体重をかけて逆の方向に引っ張った。所詮は少女の腕力なので無理やり行こ
うと思えば行けるのだが、体重をかけているうえに足で踏ん張っているので動きにくいこ
とこの上ない。というかああもうめんどくせぇ!!
「くそっ…!大体どうやって入るつもりだお前。このダンジョンは新月にしか入り口が開
かねぇんだぞ!入ろうにも入りようがねえよ!」
 そう言い放って振り返ると、ティラは掴んでいた服を離してジトッとした上目づかいでこ
ちらを見て言った。
「……じゃあ、開いてたら行ってもいいんですか?」
「あん?……おおいいぜ。もしも開いてたらな」
 無限迷宮への入り口は月に一度の新月の夜にしか絶対に開かない。何をするのかは知らな
いが、そのうち諦めるだろう。そう思って頷いてやると、なぜかティラは賭けに勝ったよ
うな笑顔を浮かべて両手を広げた。さっきからの馬鹿なやりとりの間に日は完全に沈んだ
らしく、辺りには夜の暗闇が満ちている。そういえば、今夜はいつもに比べて妙に暗い様
な……。
「ライト気がつかなかったの?今日、新月だよ」
「……」
 やっちまった。と俺は両手で頭を抱えてうなだれた。