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 十六夜を出て数日。
 クロッセルの街を抜け、白銀の世界が消え、緑豊かな世界が見え始めた頃、
 紅蓮を乗せた馬車は、『木漏れ日そそぐ街』と呼ばれる、シュヴァルの街に着いた。

 その足で、直ぐにお世話になる農家の所に連れられ、向かった。

「ようこそ。ミス・シロガネ。十六夜の方はとても真面目で一生懸命に働いてくださるので、到着をとても楽しみにしていたんですよ」
「ハロルド・フォンティーユ殿。お褒め携わり恐縮でございます」

 広大な土壌と実りを背に、お世話になる大家と母が話す横で、紅蓮は畑を見ていた。
 剣の修行に明け暮れた毎日だったが、クワを振るう生活がそこに見て取れた。

「紅蓮。挨拶をしなさい」

 母に背を突かれ、紅蓮はハッとして大家のハロルドに向き直る。

「お初にお目にかかりますハロルド殿。銀 紅蓮と申します」
「ほぉ…さすが十六夜の子だ。ミスターグレン。とても丁寧な挨拶が出来る」

 ハロルドは感心しながら紅蓮の目線の高さにあわせ微笑み、頭を撫でる。
 来る前は、奉公などどんな性悪が出迎えるかと警戒していた紅蓮だったが、
 ハロルドのとても品の良い態度に、すこし安堵をした。
 ふむ。と一つ声を出すと、ハロルドは家のほうに向かい、

「私の長女と次女の間くらいの年か。おーい! アル! エリー! こっちに来なさい!」

 そう声を上げると、家のほうからバタバタと足音が聞こえ、人がやってくる。
 紅蓮は少し表情を曇らせた。話の流れから対面するのは女性なのは違いないだろう。
 だが、紅蓮にとって女性の知り合いは空也と並び幼馴染のホタルしかおらず、
 ホタルも言うなれば幼少から一緒に居た『兄妹』のようなもので、女性と見た事はなかった。

(まあ、空也は別だろうが)

 よくこの話をネタに、空也をからかった事を思い出し、少し笑みがこぼれる。

「はーい。おとうさん」
「ぱぱー。おきゃくさんー?」

 透るような女性の声に、紅蓮は緩んでいた気を急いで戻し、出てきた影に目を向けた。
 先に出てきたのは紅蓮よりいくらか小さい女の子で、「きゃー」と言いながら、ハロルドに体当たりするように抱きついた。

「どーん!」
「ははっ、エリー。お客さんの前だぞ。紹介するよ。この子は次女のエリーゼ。キミよりも年下だろうが、妹みたいに可愛がってくれるとうれしいよ」
「は、はぁ…」

 じぃーっと紅蓮を見るエリーゼの様子に、ただ困惑しか浮かべられなかった
 だが、エリーゼは「!」と言うような感じで何かを理解したのだろうか?

「おにーちゃん!」
「え」
「ぱぱー! エリーにおにーちゃんできたの!」
「お、おい…」
「そうだぞエリー。グレンおにーちゃんだ」

 ねっ? と言うようなハロルドのアイコンタクトに、カンベンしてくれと内心思ったが。

「ふふっ…紅蓮。良いじゃない、お兄さんになってあげれば」
「母上・・・」

 父が死んで以後、塞ぎこみがちだった母の久しぶりに笑った顔を見て、
 紅蓮は「まあ良いか」と思い、紅蓮はエリーゼに向かった。

「おう。今日からお兄ちゃんだ。よろしくな」

 紅蓮がエリーゼの頬を指で突きながら挨拶をすれば、

「おう! よろしくなー!」

 無邪気に笑い、エリーゼは紅蓮の言葉を真似た。

「もうっ。おとうさん。私の事はスルーなの?」
「おお。すまないすまない。そんな気は無かったんだ。アル、許してくれ」

 家から出てきたもう一人が呆れたような声でたしなめ、ハロルドは冗談交じりにアルと呼んだ女性を手招き紹介した。

「そしてこの子が長女のアルエットだ。ミスターグレン。エリーを妹とするなら、アルを姉として甘えてはどうかな?」
「おとうさん!!」

 ぴゅーぃ。とハロルドは口笛を吹いてアルエットをからかい、案内もかねてか、母と共に農場の方に向かってしまった。
 残されたエリーゼはアルエットの足にしがみつき、
 アルエットは「しょうがないなぁ…」と一人つぶやいて、

「えーっと。グレンくん? ごめんね、あんなパパで。自分の娘に何言ってんのって感じでしょう?」
「いや。とても素敵な方だと思うよ」
「えーー。だって、おとうさんいっつもあんな冗談しか言わないんだもの!」

 でも。とアルエットは言葉に付け加えて

「おとうさんを通して初対面の人と接すると、あんまり緊張とかしないの。そこはすごいなって思っちゃう」

 ぷっ。とお互い吹き合って、紅蓮は思った。
 確かに、まるで初対面とは思えないくらいに、エリーゼと、そしてアルエットと打ち解けてしまった。

 アルエットに案内されるままに歩き、トンっ、トンっと土の階段を下って、井戸が見える方に向かう。
 エリーゼは、そんなアルエットと手をつなぎ、変な鼻歌を歌いながら、ゆっくりとついてきていた。
 その最中、アルエットは紅蓮に話しかけた。

「十六夜ってとても強い支援士とか出ているでしょう? グレンくんもそういった剣術とかしていたの?」
「ああ。俺は竜泉道場ってトコで剣術を学んでたけど…でも、農作業じゃあんまり役に立たないんじゃないかな?」
「えー? そんな事ないよ。けっこう男手って大事だし、身体鍛えてるなら頼りになるもの」

 井戸についたところで、アルエットは後ろからついてきた紅蓮に振り返り、

「それに、シュヴァルでは農作業だけが仕事じゃないよ」
「えっ」

 いつのまに手に持っていたのか、アルエットは木製の弓を取り出し、矢はつがえずに弦だけを引き、弓を射る真似を見せた。

「農作業でヒマな時間見つけてね。私、ここで弓を作ってるの。シュヴァルは狩人の町よ。動物を追うことだってあるし、
 シュヴァルツバルトの森に行けば魔物が居るわ。そこに採集に行く事もあるもの」
「へぇ…アルエットは器用なんだな」

 見れば、地面には失敗したと思われる弓の木片が転がっており、
 その中で、アルエットの手にあるそれは、上手に作られていた。

「ね。グレンくん。今度シュヴァルツバルトの浅い所にでも採取に行って見ましょうよ。約束ね」
「もちろん。竜泉の剣、頼りにしててくれよな」
「ずるいーー! エリーもいくーー!!」

 手を握って約束して。エリーゼが変な鼻歌を止めて騒ぎだす。
 そんな様子にお互いに困った顔を浮かべて、エリーゼも一緒に手を握って、約束をした。

「エリーはまだ小さいからダメだけど、言う事聞いて大きくなったら、おねえちゃんとグレンくんとで行こうね」
「うん!!」



 そんな、すぐに打ち解けて、気さくに仲良くしてくれた事
 それが、アルエットとエリーゼとの、最初の出会いだった。


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