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「あらあら。まさか本当に言っちゃうなんてねぇ」
「カンベンしてください。マスター…」

 十六夜の酒場。たまには外で食べるか、と竜泉空也は天宮智香を誘い、いつも依頼を受けているマスターの店に来ていた。
 空也が蕎麦を食べ終え、お冷を飲む傍らで、智香は焼き魚を器用に箸で食べていた。
 ため息をつく空也の理由は、数日前の事。
 客人を連れて空也が竜泉道場に帰った時に、智香は空也を出迎えた。
 いや、これだけ言えば聞こえは良いかもしれないが、その時に言った言葉というのは

『お帰りなさいませ空也殿!! お食事になさいますか! お風呂になさいますか! それとも私めにございますか!!』

 …今思い出しただけでも、空也は頭を抱えたくなる。
 幸い、客人はそういうノリに理解のある人物なのが幸いだったが、頭の固い老公方達なら訝しがられ兼ねない。
 いや、或いは酒の肴とされかねないだろう。
 この言葉を、「家のご主人様が帰られた時の作法なのよ」と言って、隣の少女にデマを教えたのが目の前の女性。つまり、酒場のマスターだったのだ。

「ふふっ。良いじゃない、それだけ空也君を慕っているということの現れよ。ねぇ、智香ちゃん」
「もぐもぐ…んく。 はい! 空也殿は尊敬する師匠でございます!!」

 食べながら喋る。という真似が出来ない智香は口の中を空にして、マスターの言葉に答えた。
 その言葉に空也は悪い気がせず、やれやれ。と肩をすくませた。

「でも、智香ちゃんもあんまり言いなりになっていると、いつか本当に食べられちゃうわよ?」
「マスター殿!!」

 あらあら。と笑うマスターに対し、空也は力強く反した。
 いや、目の前の人物であればそこまで教え込むとは思えないが
 第一、空也が智香に対する目線は、出来の悪い妹。或いは、娘が居たとしたらこんな感じなのだろうか。という感じである。

「たべられる…?」
「智香殿も、マスター殿の戯言にいちいち耳を貸さなくて良い」

 そう言われるも智香は「たべられる」に想像をする。
 もちろん、母親の天宮那由がそういった話題を完全に遮断していたせいか、知識が薄く、
 たべられる。と言って思いつくのは、空也が智香の髪からモグモグしている所であった。

「空也君。同意なら良いのだけど、智香ちゃんが可愛いからと言って、乱暴にしちゃダメよ?」
「だからマスター殿!!」

 話を引っ張るマスターに、空也はさらに強く制した。

「そのような事はありませんから!」

 空也の言葉に、智香は続けて言った。

「心配ないですマスター殿! 乱暴な事などありませぬ。空也殿はいつもいつも優しく導いて下さいますし、そのような禍々しく凶悪な意思(モノ)は持っておりませぬゆえ!!」
「ぶーーーー!!!」

 自信満々に、笑顔で答えた智香の言葉に、空也は口に含んだ水を噴出した。
 今までの話の流れから、どう考えても地雷の発言である。

「あらあら…おアツいのねぇ」
「ち、違…これは違」

 予想外の言葉だったのか、マスターは表情を変えていないが、内心は動揺していたのかもしれない。
 一方で、後ろの席からは

「竜泉の旦那。禍々しく凶悪なモノは持ってないのか…」
「租チンなのか…」
「いや、だからそういう意味では…!!」

 1人焦る空也の横で、相変わらず「?」となっている智香は、再び箸を進め、魚を口に運んでいた。
 そして、パサッと巾着の落ちる音。
 空也は嫌な予感をして目を向ければ…

「あ、あの。空也さんと智香ちゃんが既にそこまで進んでいたなんて私なにも知らなくて…す、すみません失礼しました!!」

 予想通り、どうしていつもこういうタイミングで居るのか。
 いや、もはやお約束なのか、走り去る天乃ほたるの背を見ながら、空也は叫んだ

「だから誤解だああああああああああああああああ!!!!!!」




■竜泉家 空也の部屋

「失礼します」
「うむ…智香殿、そこに座ってくれ」

 ぜーはーと疲れ果てたような空也の前に智香は正座し、姿勢を正す。
 もちろん、空也が疲れ果ててるのは恒例の誤解を解く為に走り回ったせいである。

「智香殿。リア殿やタキア殿とは連絡は取っているのか?」
「はい! 十六夜とリエステールでは遠いので、頻繁には難しいですが…」

 智香の言葉に、空也は「ふむ」と声を上げて、言った。

「会いに行きたくは無いか?」
「え…し、しかし空也殿。よろしいのですか?」

 智香の言葉は、『十六夜を空けて外に出ても良いのか?』というものだが、
 空也は苦笑いを浮かべて言った。

「良いも悪いも、智香殿は既に支援士として活動している。ならば十六夜に拘らず各地に出ても構わない」

 その言葉に、智香は一つ頷いて、

「空也殿! 私は…久しくリエステールに向かいたいと思います!」

 そう答えた。
 空也は一つ頷き、智香の言葉に応えた

「では近い内に向かうと良い。十六夜の事はこちらに任せなさい」
「はい!!」

 話は以上だ。と空也は言い、智香は「では失礼しました。空也殿、おやすみなさいませ!」と言って退席をした。
 空也は智香が去った後、大きくため息をついて。

(すまない…! 本当にすまない。リア殿タキア殿…!! 少し噂が引けるまでの間だけ頼んだ…!!)

 と、1人思ったのだった。



 というわけで、天宮智香。リエステールに向かい旅に出ます!




あとがき

 ちょっと短かったですが、スタートとしてはこんなものかな?と思いつつ

 智香のパッシブスキル(笑)の『対象に誤解を与えつつ、自らはその外側に居る』という能力の犠牲者が、リエステールに向かう旅の途中に出てくることでしょう。

 それにしても相変わらず空也さんは苦労人だと思うの

 智香ちゃん大暴れ!(無自覚)ヽ('ヮ')ノ