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とある街の商店街。
今日も賑わいが絶えず、店によっては売り上げが上々であったり、それなりであったり。
薬草等を始めとする医療関係の品を売る店、旅の役に立つ物を売る店、様々な店がずらりとここには並んでいる。
あちらこちらで、物々交換を持ちかける者や値下げを頼み込み挙句の果てに土下座をする者、様々な人達で賑わっている。
そしてその商店街の一番端。いつもは何も無いフリースペースのような場所にはひっそりと荷台と急造で作ったのがよくわかる
小さな店が佇んでいた。
『名無し屋』と呼ばれる店。知る人ぞ知る、珍しい物を各地から集め、売っている店である。
人によっては『何でも揃っている萬屋』『無いもの知らずの隠れたお店』等と様々な呼ばれ方をしている。
発見報告は様々な場所で報告されているが、不定期、そして誰にも知らせずに転々としている事から半ば都市伝説と化している。
この話は、そんな小さな謎店舗『名無し屋』のとある一日について書き綴ったものである。

名無し屋の朝は早い…わけでもない。
店長と呼ばれる少女、もしくは店長の代理を行っている少年が満足のいくまで寝た後に店の準備を行っている。
開店時間は日に日に遅れる場合、やけに早く開店し昼過ぎには他の街へと出発している時もある。要するに2人の気分次第である。
本日の開店時間は昼。彼女達は結局昼近くまで惰眠を貪っていた事になる。
仮設の小さな店の入り口近くの椅子に座り、適当に書物を読みふけながら店長代理は店番を務める。
店長は奥の方で怪しい実験や、再び惰眠を貪ったり、時には席を外してどこかに出かけていたり比較的自由であった。
店の看板には『珍しい品、ありマス』と何とも怪しげな雰囲気を出しているのが良く分かる。
商店街から帰る人達がたまにちらっとその看板を見、興味を持ち近づく所をたびたび目撃しているが、
店長代理が読書にふけている為に、声をかけるのをやめ、多くの人たちは帰っていった。
そんな中、4人程のグループが『名無し屋』に近づき、
「卵って…ありますかね…。」
どこにでもありそうな品を求めてきた。店長代理にその声は届いたようで、一瞬ピクリと反応し、
「隣で売ってるはず…。」
とそっけない返事をし、再び読書に戻ろうとするが、
あ、ちょっと話を聞いて欲しい。と読書に戻るのを阻止し、
「知らない人達が大量に卵を買って、今何処にもないんだ。」
と頼み込むような顔で、再び卵がどうしても欲しいと言う。
わかった。そう短い返事を返すと店長代理は一度裏方へ行き、しばらくしてから卵を持ってきた。
…勿論普通の卵の大きさではなかった。
「何処にもなかったからうちを訪ねてきたって?お目が高い!」
そしてやけに機嫌が良い店長が、からからと笑いながら店長代理と共に卵を持ち現れた。
「さ、いくらで買う!?」
「普通の大きさの卵は…」
「ああ、普通の大きさね…。わかった。代理、後ろに下げておいて。」
途中まで一緒に運んでいた店長はあろうことか手を離し、近くの戸棚から並みの大きさの卵を取り出した。
一方の店長代理、驚いたような顔を一瞬してから何とか持ち直し、フラフラと揺れながらゆっくりと裏方に姿を消した。
「確かに普通の大きさですね。…で何で輝いているんですかこれ。」
「金の卵ですからねー!さ、いくらで買う?」
「卵焼きを作るだけなのに!そんな高級そうな卵を使いたくないですよっ!」
すかさずツッコミを入れる客。なるほど、一理ありますね!と続ける店長。
だが、ここでひかないのが店長である。ですが!と続け
「今日も明日も明後日も。毎日が平凡でそして何の特別でもない日々。そんな日々を送っていてあなたは楽しいですか?」
あ、いえ、あまりたのしくないですね。答える客。
「なら、今日ぐらいは特別な出費をして、少し豪華そうな金の卵を使って、料理をしよう。そしてそこからはじまる
 のは特別な日の連続!なぜならあなたは金の卵という普通なら料理に使わない食材を敢えて使ったから!なら、そこ
 から毎日のように楽しい日々が続くかもしれないじゃないですか!そんな権利を手に入れるのに、今なら何とたったの500フィズ!
 さぁどうだ!」
「買った!」
「毎度あり!素敵な一日を!」
マシンガントーク。そしてほぼ全てがアドリブで構成される謎の営業トーク。特別な日々を送れるぞ、という言葉に惹かれた客も客である。
しかし、その言葉の通り今日は少し高めの卵を食べてきっと何か特別だな、と客は思えるかもしれない。そんなやり取りを終え、後は適当に
情報を垂れ流したり、収集したりとよくよくあるあるな雑談を繰り広げる。元冒険者である店長の癖なのかもしれない。
今日は良い買い物をありがとう!といい、笑顔で去る一行を手を振って送りだす店長を横目に卵を戻してきた店長代理が
「安い…。」
そうぼそっと愚痴をこぼす。
「原価が0だから。大丈夫!こういう人生も面白いじゃない!」
そう笑顔で告げ、代理の肩をポンポンと何度か叩き、そうそう。と続ける店長。
「ここの街もそろそろ出ようか!次はどこの街にいこうか?」
「…任せるよ。」
「任せなさい!」
そんなやりとりをしているところを見るとどうやら今日は金の卵だけを売って店じまいのようである。
本を終い、荷車に道具を着々としまっていく。
そんな光景を横目に店長がこちらに近づいてきた。
「これから私達はまた適当に街を行きますが、どうします?ついてきますか?」
勿論記者としてはついていきたいが、今日の事を記事にしたいためとやんわり断った。

『名無し屋』
様々な物を取り揃えており、そして『特別な一日』を提供する小さな店。
今日はそんな彼女達の一日に注目してみた。都市伝説と言われる放浪故に、
商店街や道中、見かけたら寄ってみることをお勧めしたい。

記事担当:新聞屋。