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 -三日目-

「おはよう。スフィリアちゃん。今日もいい天気だよ」
「ふぁ・・・」

 シャッとカーテンが開かれる音と共に、突然の目覚め。
 知り合いの居ない南部で『起こされる』という事にまず驚いた。
 寝ぼけている頭で思い出してみれば、それは当然と言えば当然なんだっけ。
 私は支援士としてミナルに来ていたのだった。
 で、えっと…確か…

「あぁっ!! 仕事!! じょ、ジョゼットさん。スミマセンおはようございます!!」
「アハハ。スフィリアちゃんは朝が弱いみたいだねぇ」

 起こしてくれたジョゼットさんは、にこやかに笑いながらシーツを畳み始める。
 そうだった。私はお仕事でミナルに来てたんだった。
 さすがに宿屋の女将さんなのか、ジョゼットさんはもうしっかり目を覚ましてお仕事にかかっているようだった。
 そうだ。私も、慌てて支度にかからないと!

「スミマセン! すぐに準備します!」
「あらあら。落ち着いて。まだ慌てなくてもいいのよ」
「は、はい・・・」

 寝間着のキャミソールを脱いで、下着姿になったところで、ジョゼットさんの言葉通りに、時間を見れば、確かにまだゆっくりできる時間で、
 私はホッとして、落ち着いて身だしなみを整え始めた。



 午前中は、慌しくも仕事を行っていた。私はジョゼットさんにシュヴァルで農業の手伝いをしていたっていうお話をしたら、
 主に野菜を扱うお仕事を中心に渡してくれて、またお客さんから呼ばれたら対応をしたりしていた。
 中には、

「キミ可愛いねぇ。部屋の方でサービスしてくれるのかな?」
「え、あの…わ、私は……」

 そんな、ナンパしてくるようなお客さんが居て、困っていたところに、

「アンタ。そんなちょっかいばかりしてるとミナル中の宿から出禁にするよ? 水の中で野宿してみるかい?」
「いっ!? ジョゼットさん冗談ですって」

 こんな風に、ジョゼットさんが助けに来てくれたり。
 そんな中で、もう少しでお昼になるという頃だろうか。

「ちょっと良いかな?」

 扉が開いて、厨房にダノンさんが顔を覗かせる。
 野菜を切りながら、なんだろう? って、ジョゼットさんとダノンさんの会話に耳を傾けていた。

「おや。ダノさん。どうしたんだい?」
「ジョゼット婦人。すまないけど、聞きたい事があってね」
「あらあら。どうしたっていうんだい?」
「生命倫理研究所ってありますよね。教会公認の北部のバッツブラット父子を救う為の研究所ですが」
「ええ。ええ。ホントは生命生成研究所の近くのが良いんでしょうけど、良質な水を求める以上この場所の方が良いって言う話を聞いたことがあるわね。・・・ごめんなさいね。噂程度なのだけれど」
「そこの研究員が“素晴らしい錬金術師を紹介してくれてありがとう。お話は非常に参考になった”と言う事で、感謝の気持ちに紹介金を渡したいと伝書鳥が来ましてね」
「あらあら。そんな、別にそんなつもりだったワケじゃないんだけどねぇ。カネモリさんならどうかしら?と思っただけなのだけれど」
「それで、“お話からヒントを得て、今は研究で忙しいから申し訳ないが取りに来ていただけないか”と書いてあるのですわ・・・ですが、僕はあまりミナルに詳しくなくて」
「あら・・・困ったわね。私も生命倫理研究所の詳しい場所は知らないのよ」

 耳を傾けていながら内容の半分も理解していなかったけども、どうやらジョゼットさんが紹介した、カネモリさん。という人物の話のおかげで
 生命倫理研究所という施設の人が、何か得られたからお礼をしたい。という感じだろうか?
 私も、ミナルなんて初めて来たんだし、さすがに力になれないかなぁ…と思いながら、目の前の野菜に取り掛かろうとしたのだけれど、
 そんな私の横で、ナビさんが私に声を掛けてきた。

「生命倫理研究所ならオレが場所を知ってるぞ。その時に、カネモリを連れてったのがオレだからな」
「え? だったらナビさんが案内・・・・あ、出来ないんですよね」
「ああ」

 意外にも、ナビさんはその場所を知っているという。
 でも、ナビさんはその「認識されない状態」に居るのだから、案内出来ないのだった。
 こう考えると、ナビ状態というのも便利そうに見えて非常に面倒な状態だと思う。
 知っているけど教える事ができない。助けることが出来ても助けられない。というのだから。
 しかし、ナビさんが少し考えた後で、私に向って一つ提案をしてきた。

「よし。スフィリア。私が知ってますって言え」
「あ、はい…」

 え?

「えええ!!? 無理無理 無理ですって!?」

 いやいや。それはいろいろおかしいでしょ? 私今日初めてミナルに来たっていうのに、
 それで私が知ってる。なんて言うのはあり得ない話でしょう?
 そんな事を私がナビさんに伝えるけれど、それでも、ナビさんは「やれやれ」という感じで首を鳴らし、言葉をつづけたのだった。

「お前が初めてミナルに来ました。なんてジョゼットさんやダノさんが知ってるか? 支援士って仕事はケースバイケース。嘘も方便ってやつだ。お前は知ってるふりしてオレの後ついてくりゃ良い」
「は、はぁ・・・」

 しょうがない…彼がその気なんだし、私もその手しかないと思う。
 そのナビさんの言葉に半ばうなづいて、私はジョゼットさんとダノンさんの所に向かった。

「あのー・・・」
「おお。スフィリア君。仕事は順調かな?」
「は、はい。あの、ダノンさん」
「どうしたんだい?」
「生命倫理研究所の場所なら、わ、私が知ってますよ」

 うう。むねがいたい
 しかし、その言葉にダノンさんは驚いた後、にっこりと笑って私の両肩をとんとんと叩いた。

「本当かい! ジョゼットさん、悪いけどスフィリア君を借りれないかな?」
「判ったわ。相手さんがどうしてもって押してくるなら仕方が無いけど・・・そんなつもりは無かったから、遠慮していただけるかしら?」
「ハハ。判ってますよ」

 こうして、私はダノンさんを連れて…と言うよりも、ナビさんに連れられながら、ダノンさんを案内するような形で、
 生命倫理研究所に向かったのでした。





「結構強引な方でしたね…ダノンさん」
「いやぁ。参ったね。研究員タイプという感じだったね」

 ナビさんの案内されたのは、ミナルの街の外。フィールドに出てからさらに南に行ったところだった。…これはさすがに気づかないワケだ。
 無事に生命倫理研究所に着いたら、ジョゼットさんの希望通りお礼なんて大丈夫です。という旨を伝えようとしたのだけれども、
 すでにお礼のお金が入った封書を用意していて、ただ一言「時間の無駄になるからそれを受け取って帰ってくれ」というだけだった。
 本当に感謝してるのかなぁ…と、半ば呆れたけれども、一緒に渡された便箋には、たぶん2~3枚? 1枚程度の手紙ではなさそうで、
 きっと、こっちにお礼の文章でも書いているのかな。と思った。

「きっと悪い人ではないと思うよ。さて、スフィリア君、仕事から抜け出してきたのだし急いで戻らないとね」
「あ、そうでしたね」

 そうだ。立ち話してる場合じゃないか。
 帰りは分かるので、ダノンさんと少し足早に帰りながら、ふとダノンさんが声を掛けてきた。

「スフィリア君はシュヴァルの出身だったね」
「あ。はい。シュヴァルで、両親の手伝いをしていました」
「なるほど。君は、どうして支援士になりたいと思ったんだい?」
「それは…」

 ダノンさんの言葉に、私は前にナビさんに話をしたのと同じで、十六夜に収穫物の配送をしている途中で助けてくれた支援士に憧れた話をした。
 今でも覚えている。華麗な剣技。その鋭さ。速さ。
 素人の私では、ただ「すごい」としか言えない、その強さに。

「…って、なんだか恥ずかしいです」

 私は恥ずかしくなってはにかみながら、ダノンさんの方を向いた。
 ダノンさんは、にこやかにその話を聞いていて、私の言葉に頭をぽんぽん。と撫でてくれた。

「恥ずかしくなんてないじゃないか、すばらしい事だよスフィリア君。君くらいの年で夢は大事だよ」
「でも…私、グズでノロマだから…Aランクの支援士みたいに強くないし。それどころか、Eランクの依頼ですら失敗したりしますし…」

 思わず、うつむいてダノンさんに愚痴をこぼしてしまう。
 昨日の宿のお客さんの言葉が、未だに耳に残っている…。
 その私の愚痴に、ダノンさんは「ふむ」と一つ声を出して、

「良いじゃないか。失敗したって」
「え?」
「人それぞれだから、すぐに強くなる必要なんて無いと思う。だけど、僕は強くありたいと思うんだ」

 そうダノンさんは言った。その瞳はとてもまっすぐで、前を見ていた。
 強く、ありたい…

「いくらAランクSランクとか言って強くても、それを振りかざしたり、見下したり、比べたり……そんな人はね。僕は今のスフィリア君よりも弱っちいと思うんだ」
「…」

 そう。なのかな…?
 そんな話をしながら、ダノンさんと歩き、もう少しでミナルに到着する…

「スフィリア!」

 というところで、後ろから歩いていたナビさんが、急に手を握ってきた!

「えっえ!?」

 急に手を握るなんて。そりゃあダノンさんとは確かに仲良くなれそうな雰囲気だったけど、お父さんくらいの年の人だし恋愛なんてならないから嫉妬なんかしなくても
 …などと、意味不明な事を考えてたら、その握った私の手でダノンさんをばんっ!!と突いて、転ばせる!

「う、うわっ!?」
(えええ!? ナビさん何やってるの!!?)
「スフィリア! お前もだ!!」
「え?」

 ナビさんはそのまま、私の頭を掴んでぐいっと押し下げる!

「きゃあぁぁぁ!!」

 直後、轟音と共に、頭の上を氷魔法が通過した!!

「いたた…す、スフィリア君。大丈夫かい!?」
「は、はい…」
「あれは……アイスコフィン。スフィリア君、助かったよ」

 危なかった…ナビさんが居なかったら、思いっきり頭に当たっていた。
 しかし、安心はしていられなかった。
 私たちが歩いてきた方向…つまり、背後から、人が出てくる。
 ぱっと見て、剣士、魔法使い、ナックル…私じゃジョブとかはわからなかったけれど、三人の男の人だった。

「ごぉめん、ごめぇん。アタシの魔法がぁ、ちょぉっと軌道がそれちゃったみたいだわぁ」

 魔法使いみたいな細身の男が、クネクネとしながら、なんだか女の人みたいな口調で喋りながら、
 ニヤニヤと嫌らしい笑いをして悪びれる様子もなく謝罪の言葉を言った。
 …なんだか、嫌……

「団長~。おっさんが可愛い女の子つれてるゲロ~。二人きりでデートなんて羨ましいゲロよ~!」

 その後ろで、ナックルを身に着けたイボだらけの男が、軽い感じで剣士に声を掛ける。
 その言葉に、団長と呼ばれた剣士の男が、興味ない、という感じで首を小さく振った
 ダノンさんは、背中の棒に手を掛けて抜き構える。

(ダノンさん…棒術使いなんだ!)
「君たちは最近ミナルの付近で荒らしてる盗賊だな!?」
「え、と、盗賊!?」

 魔物に襲われるとかは、前にブレイブマスターさんに助けてもらったことがあったから、危険だってわかっていた。
 だけど、人に襲われる。というのは今まで無くて…人は、人と協力して何かを成し遂げると思っていたから。
 ショックで、足がガクガクと震えてしまう。

「アタシたち見ちゃったのよねぇ…さっき、研究所のトコでさぁ。その手に結構なお金渡されちゃったのを」

 盗賊の三人はそれぞれ構えて…戦闘態勢を取る。
 剣士の人は腰の剣に手を当て…イボだらけの男は、ニヤニヤしながらファイティングポーズを取る。
 女のような喋り方をする男は、ツンと鼻を上に向けながら、小馬鹿にしたように私達を見ていた。
 ダノンさんも、それに対峙してじりじりと…緊張感が、辺りに漂う。
 私は……私も、ダノンさんと一緒に戦う………戦う? 人を斬るの?

(無理、そんなの無理だよぉ…!)

 魔物なら戦える。それは魔物が脅威で、倒さなければならない相手だと判ってるから。
 だけど、悪い人とは言え人を斬るなんて…
 脅威になるのは同じだけど、何でか私は目の前の人たちを斬ることは出来ない…そう思った。
 だから、私はただ泣くことしか出来なくて……これじゃあ、あの時と何にも変わってない……!!
 それでも、私は本当にどうすればいいのか判らなくなって、何にも出来ないでいた。

「おいおい~。泣かないでゲロ~。まるでオイラ達が悪い事してるみたいになっちゃうでゲロゲロ~?」
「強奪行為を重ねておいて何を言うんだ! 貴様たちは、十分悪い事をしているだろうが!!」
「ゲロゲロゲロゲロー!! おっさんの声は汚いでゲロー!!」

 ナックルを付けた男の言葉に、ダノンさんが吼える。
 さっきまで、平和な感じだったのに、
 嫌…こんなの、どうしてこんな目に……

「……スフィリア君。良く聞くんだ」
「ダノ…ダノン…さん…」

 震える声で答える私に、ダノンさんはにこりと優しく微笑んだ。
 そして、私の頭をぽんぽんと、優しく撫でるようにしてから、語りかけるように話した。

「君は、ブレイブマスター志望だったね」
「は、はい…」
「なら決まりだ。 ここは僕が食い止める。だから君は……」

 ハッっと前を向いて、ダノンさんは私を突っぱねて、右に跳ねた!!

「きゃあ!」

 突然の行動に転んでから直後、ダノンさんの居たところにまた魔法が飛んできていた!

「チィ。外しちゃったわねぇ!!」
「スフィリア君! 逃げたまえ!!」

 ダノンさんの言葉にはっとする。
 立ち上がって、走り出そうとするけど…足がもつれて、転びそうになる…
 こんな…情けない! せめて、ダノンさんの言う通り走らないと!!

「あっ…」
「行くぞ!」

 そんな私に手を差し伸べてくれて、ナビさんは手を握って立たせてくれて、
 そのまま、私を引っ張って走った。
 後ろで、戦いの音が聞こえる。

「団長! 持ってるのはあっちの女よぉ!!」
「ひっ…!?」

 その魔術師の言葉の直後、団長と呼ばれた剣士は物凄い速度で私とナビさんを追いかけてくる!
 それが早い…! 私もブレイブマスター志望として速く動ける訓練はしてたのに、そんなの比較にならないくらいだった。

「くそっ! あいつもブレイブマスターか!!」
(えっ…)

 ナビさんの言葉に、私は頭が真っ白になる。
 だって…ブレイブマスターは、強くて、かっこよくて、誰かを護るために戦ってくれる……
 追いかけてくる男のような、人を傷つけて暴力で行きる盗賊なんかじゃないよ……?
 だけど、認めるしかなかった。だって、剣の使い手。それに速さ。私を助けてくれたブレイブマスターさんとは、戦い方…『流派』とか言うのは、違うみたいだけど、
 その動きは、ブレイブマスターのものだったから。

「こんな状態じゃなけりゃ…!! オレとダノさんで倒せんのに…くそっ!!」

 ナビさんは、悔しそうに声を上げた…そうだ。ナビさんは前に証明した…ナビさんは、ナビさんという状態だから、おばあさんを斬ることはできなかった。
 どこまで私以外の人に触れられるのかは判らないけれど、それでもあの団長と呼ばれた男を倒すことは出来ないんだ。
 走って、走って、もう少しでミナルに入る。そんな所で、私がまだ遅いから…ブレイブマスターの盗賊に回り込まれて、私達はミナルに入るに至れなかった。

「…女。お前に恨みは無いが、おとなしくしていれば痛くはしない」
「あっ…あぁ……」

 ナビさんも、この状況でどうすればいいか考えているようで、冷や汗を伝わらせていた。
 私は、おとなしくもなにも怖くて震えるだけで何もできない…
 戦うしか無いとは判っているけど、とても戦えない…

「ナビさん…だ、ダノ…ンさん………た、助けて……」
「諦めろ。あの男の実力ではあの二人を相手には出来ん。あいつらの気分さえ良ければ殺されずにすむだろう」
「っ……!?」

 そんな…だって、ダノンさんは逃げろって。
 でも。自分が助からないの判っていながら、逃がしてくれたの……?
 男の冷酷な言葉に、ぎゅっと目をつぶって…ボロボロと、涙が落ちた。

(もう…ダメだぁ……!)

 心が、絶望でいっぱいになる。
 だけど、そんな私の背中に、ふわっと暖かいのに包まれる

「な、ナビさん……」
「安心しろ。絶対にオレが助ける。お前を傷つけたりはしない。だから、オレを信じてこのまま大人しく身を任せてくれ…!」

 その言葉の後に、ぎゅっと身体を抱きしめられる。
 信じていいのか…いや、そんな疑問の前に、私はナビさんのしっかりとした声に、何故か安心ができた。
 信じられる。ナビさんが、助けてくれる。

「金もそうだが女も高く売れるのでな。その手の奴に売っぱらわせてもらう。女、そのままおとなしくしていろ」

 そうして、ゆらりと動いた男の手。
 ナビさんは…ぎゅっと私を抱きしめたまま、微動だにしない。
 それでも今、私はナビさんを信じて身を固めた。
 もう盗賊の男の手が届く…その時だった。 ナビさんが、呟いた。

「――――止水」
「ひゃ!」

 ザッ!と、身体がナビさんに引っ張られ、盗賊の男の手が空を切る。
 何が起こったのかまったく判らなかった。でも、ナビさんがあの男の動きを見極めて、それを避けたんだという事だけは理解できた。
 間違いなく囚われたと思った―――相手の男も、捕えたと思っただろう。びっくりした顔をしていた。

(すごい。すごいよ!)

 「止水」といった言葉。これが、ナビさんの使える技の一つなんだ。
 びっくりした顔をしていた盗賊の男は、次第に怒りの表情を見せつけながら、静かに喋り始めた。

「何…! 何故だ…その動きは止水。オレですら身に着けていないブレイブマスター上位の技だ…なぜ貴様のような女に使える…」
(ブレイブマスターの…上位の技?)

 つまり、それを使えるナビさんも、ブレイブマスター?
 私の身体を抱きしめて支えたまま、ナビさんは一息つきながら、聞こえていないだろうけども盗賊の男に言っていた。

「所詮Bランク初期程度の実力か。どう見てもブレイザーな少女が使えるように見えてるのは焦るだろう? さあ、もっと騒げ…!」
「アマ…!」
「…っ!」

 盗賊は剣を抜くけども、その攻撃はやはりかすりもせず、ギリギリの所で…だけども、全てを安定して回避していた。
 怖くない。大丈夫。ナビさんが護ってくれる。
 だけど、このまま避け続けるだけでナビさんはどうするつもりなんだろう…?

「何故だ…! 何故だぁ!!」
「想定外の出来事、そこからくる焦りは周りを見えなくする…。それに溺れた時点で、お前の負けだ」
「うおおおおお!!!」
「スフィリア。もう少しだ」

 たぶんナビさんの言葉は、盗賊に届いては居ないだろう。
 だけど、ナビさんの言葉に私は気付いた。

「あ……」

 もう、ミナルは目の前だった。
 攻撃を避けながら、少しずつミナルへと近づいて行ってたんだ!
 ナビさんの狙いはこれだったんだ。
 確かにここはまだ街の外。それでも、ここまで近づいている状態で戦闘をして、騒ぎが起こっていれば……そこに、人が来る!

「てめえ何をしてやがる!!」
「ぐあっ!!?」

 盗賊の男の後ろから、別の男の声が聞こえて顔を上げる!
 するとそこには金髪の男が立っていて、ナビさんは安堵の息を漏らしながら、ぽつりとつぶやいた

「グリッツか……」

 助けに入ってくれた双剣を携えた男の人は、グリッツという名前らしい。
 しかし、当然ナビさんの言葉に反応する事なく、グリッツさんは双剣を使って盗賊の男の攻撃を受け流した!

「てめぇ!? 女の子苛めるなんざ男の風上にも置けねぇヤツだな!! 何様のつもりだっ!!」
「くっ…!」
「オラオラ!! 本気で行くぜ!!」

 グリッツさんはその特徴的な剣で、相手の剣を受け止めつつ押していった!
 打ち合いが続いて、やがて…

「せあっ!!」
「!」

 ガギン!! という音と共に、盗賊の男の剣が真中からぽっきりと折れてしまった。
 そのまま、グリッツさんの強烈な蹴りが、盗賊にめり込んで、盗賊はガクリと倒れた。
 …わ、私……助かった……んだ……

「そ、そうだ!! ダノンさん!!」
「ん?」

 安心している場合なんかじゃない!! ハッとして、私はグリッツさんに近づいて、助けを求める!

「お願いします! ダノンさんがこの盗賊の仲間に襲われて!! 私だけ逃がしてくれて!!」
「っと、落ち着きなお嬢ちゃん。ダノンさんが襲われてんのか!?」
「は、はい! 向こうの道の通りです!! お願いです助けてください!!」

 グリッツさんの言葉に、私は必至で頭をこくこくと頷きながら、懇願した。
 すると、「そうか…」と呟いたグリッツさんは後ろ…ミナルの街の方を向いた。
 その様子に、私は見捨てるのかと思ってしまった。
 でも、そうじゃなかった。
 すぅ…とグリッツさんは息を吸い込むと、

「ダノンの旦那がピンチだ!! 行くぞお前ら!!!」

 と、思い切り叫んだ。
 直後、静寂……
 何をしたのか意味が分からなかったが…すぐに、私は理解した。

「ダノンの旦那がピンチだと!?」

「ふてぇやろうだ!? オレ達のダノさんと知ってんだろうな!?」

「わたしだって力になるわよ!!」

「勘違いしないでよね! 前にダノンさんにお世話になった恩。ここで返すだけなんだから!!」

「ダノさんにはいつも世話になってんだ!! おばちゃんに付いておいで!!」

「行くぞお前ぇぇぇぇらああああああああああ!!!!!」


「「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」

 10人。20人。いや、もっとだろうか、
 たくさんの支援士が、中には、クワを持ったおじさんに、フライパンを持ったおばさんまで
 どんどん。人が集まって、ダノンさんのところに向かっていった。
 ぽかんとしている私に、ナビさんは肩に手を置いて、ニッと無邪気な感じで笑った。

「な。ダノさんすげぇだろ。こんなにたくさんの人に慕われてるんだ。
 オレでも…いや、例えSランクの支援士だったとしても、これだけの人を助けて、助けられるんだから、彼には敵わない。
 だってどんな支援士だって、オレ達はあの人に世話にならなかった事はない。色んな所で支えてくれた、助けられた。
 だからあの人がピンチになったら、オレ達は絶対に助けたい。助けになりたいって思うんだ」



       一方、スフィリアを逃がした直後のダノン。

「ゲロゲロゲロ!! おっさんが恰好付けなんて似合わない事するんじゃねーゲロ!!」
「ぐ…ぬぅ!」

 ダノンは思った。ナックルイェーガ…強さは支援士ランクで見て、だいたいCランク後期からBランク初期くらいだろうか。
 実力としては、おそらくほぼ同じ。
 だけど、相手は氷のマージナルとイェーガの二人組だ。イボだらけの、カエルのような声で喋るイェーガの男の攻撃を棒術で受け止めたとしても、

「ウフフ。これは痛いわぁよ。 フローズンピラーぁ!!」
「ぐあぁ!!」

 オカマのマージナルの魔法に、ダメージを被る!
 それでも立ち上がり、ダノンは棒を構える。

「このおっさんしつこいでゲロ!! だいたい、そんな棒っきれじゃオイラに傷一つ付けるのは無理でゲロ~!」
「黙りたまえ……! 棒術は、相手を傷つける術ではない…! 貴様のような奴らの根性を叩き直し、更生する術なのだ!」
「ゲロゲロー!! 臭すぎて吐きそうな言葉でゲロー!!」
「やだぁ。暑苦しくてワタシの魔法も溶けちゃいそうだわぁ」
「いい加減殺しちゃうでゲロ?」
「だめよぉ…いっぱい楽しませてくれないとねぇ……どうせさっきの女の子じゃ、団長に勝てるワケないんだもの」

 そう。ダノンにとってこの戦いに負けるのは自明の理。
 だけど、ダノンにとっての勝ちは、スフィリアが無事に逃げること。
 逃げ切れることをただ信じて…この二人を、彼女のもとに向かわせるわけには行かなかった!

「ふふ…」
「何を笑ってるでゲロ!」
「それはどうかな。いつまで経っても君たちの団長とやらは戻ってこないではないか…スフィリア君が、逃げ切って何かしら問題が起きたのではないかね?」
「キ、キィィィ……! おっさん…言わせておけば!! いっぱい汚い声で泣かせてやるんだから!!」

 ダノンの言葉に、オカマが悔しそうに口を曲げて魔法の詠唱に入る。
 ダノンもそれに応じて、狙いをつけさせまい。と動こうと思ったが、さきほどのフローズンピラーで足がやられている!
 満足に動くことは、叶わなかった!

「ゲロゲロ!! 動けない相手を殴るのは楽しいゲロ!!」
「ぐぅぅ…!!」

 そんなダノンに、イボだらけの男は、何度も何度も拳を突いてくる。
 ただ出来るのは、動く腕を動かし、棒術でイボだらけの男の攻撃を弾くことだけだった。
 視界の端には、詠唱に入っているオカマ。
 このままではやられる。その言葉が脳裏に過った。
 だが、ダノンは思った。自分は…正しくあれたハズだ。
 ここで敗れても、それだけは恥じない。そんな生き方をしてきたと!


(すまない…スフィリア君……!)

 ただ、心残り一つ。
 スフィリアが無事か判らない。さっきの言葉もブラフ。ハッタリに過ぎない。
 逃げ切れていれば良いが……いや、それ以前にスフィリアに、こんな危険な目に合わせてしまった事を
 ダノンは心の中で一つ謝った……。


「ヌハハハハ…フハハハハハハ…!!」


「な、何事よぉ!!」

 諦めかけた心に届く…そんな声。
 この声は…!と、ダノンは、目を開く。

「諦めるなダノン!! オヌシの心の輝きは、まだ失ってはおらぬ!!!」
「ハートゥー………」


「我が名は愛と正義の使者ジャスティスムゥゥゥゥン!!!

 悪のあるところに正義の鉄槌を下すためであれば、昼夜を問わず華麗に参上!! 月に代わってお仕置きよッ!!!」


 ダノンの言葉を遮り、圧倒的な存在感と、「ど~このだ~れだかわ~からな~い~♪」と、どこからか流れている歌と共に登場した男、ジャスティスムーン。
 バサッ!とマントをなびかせ、ダノンの横に立った。

「ヌハハハ!!! 義により助太刀をいたぁす!! 悪党共、覚悟をするが良い!!」
「助かった…ハートゥー」
「我が名はジャスティスムーン!!!!!」

 やはりダノンの言葉を遮り、ジャスティスムーンは、「ぬん!」と掛け声を一つ入れて構える。

「何よ…!! 何なんだテメェクソジジイがぁ!! テメェ一人増えただけでアタシに勝てるわけねーだろうがクソがあああああ!!!」

 オカマは急に男の声で叫ぶのと共に、アイスコフィンをジャスティスムーンに放つ!
 だが、ジャスティスムーンはシュッと最小限の動きでそれを避け、

「ヌハハハ。我が輩一人だと? お前は何を勘違いしておるのだ」
「クソが!! クソが!! クソジジイがあああああ!!!!!」

 魔法をジャスティスムーンに乱射する中で、それらが全てジャスティスムーンに届く前に弾かれる。
 直後、その魔法は全てオカマに跳ねかえっていた!!

「キャアアアアア!!! 痛いぃぃぃぃ!! 痛いわぁぁぁぁぁ!!!!」

 ジャスティスムーンの後ろから現れるのは一人の女性。
 してやったりという表情で笑いながら、指を弓矢のように突きつけて、オカマに言い放った。

「ミナルに訪れた時は、レイスの工房をよろしくね☆ もっとも、アンタ等盗賊に売るようなアイテムはポーション一つありゃしないけどね!!」

 そう宣伝しながら、レイスと呼ばれた女性。
 さきほどオカマが魔法をジャスティスムーンに放った際、ジャスティスムーンに使ったのは、マジックミラーコートの魔法石。
 いや。レイスだけではない、オカマの向こうでは――――――

「ゲロー!! ゲロゲロ!! やめるゲロ! 何をするゲロ!!」
「あらあら。うふふ。 『止めてくれ。』と仰れば、貴方はダノン様を助けてあげたのですの? 違いますわよねぇ?」

 イボだらけの男が、白銀のアーマーを付けた槍使いの少女……ドミニオン。純白の鈴蘭エリスの槍で弄ばれていた。
 槍を回しナックルをはじき返しながら、槍を横なぎにして地面へと叩き伏せる。

「グェ!! ゲロロー!!」

 地面に押さえつけられ、つぶれたような声を上げるイボだらけの男の前に、
 セイクリッドの男ライルと、ネクロマンサの少女ミュールが立ちふさがり、
 ライルが双剣をイボだらけの男に突きつけ、ミュールは話しだした。

「…ダノンさんは……私達みたいな孤児にもいっぱい支援をして優しくしてくれた。勇気をくれたの……!!」
「だから、そんな人を痛めつけたお前達を、オレ達は許さねぇ!!」

 そんな三人の支援士に続いて、

「そうだそうだ!! よくもダノンさんを!!」
「ダノちゃんは、おばちゃん達の愚痴にも一生懸命聞いてくれるんだい!! 苛める奴は容赦しないねぇ!!」
「ヒィィ!! やめるゲロー!!」

 他の支援士、さらに街の一般人までもが、イボだらけの男にありとあらゆる攻撃を与えて、拘束し、簀巻きにしていく!

「ゲロゲロ!! 悪かったゲロ!! 許してゲロ!!」

 醜い顔をさらにボコボコにされて、簀巻きにされながら連れられて行くイボだらけの男。
 このまま、ミナルのナイトの元へ連行される事だろう。
 そんなイボだらけの男から戻って、ジャスティスムーンと対峙するオカマ。

「い、いやぁ…いやよ。わ、悪かったわぁ…せ、せめてこれ以上、痛くしないで……」
「ぬぅ!! 反省したと言うのか!!」
「したした!! 反省の気持ちでいっぱいいっぱいだわぁ!!」

 みっともなく土下座をするオカマを前に、ジャスティスムーンは鋭い眼光で睨み付ける。
 魔術師にとって、マジックミラーコートを張られた段階で、もはや勝ち目なんて無いのだ。情けなくともオカマはこうするしかないのだろう。
 平謝りするオカマの態度に、ジャスティスムーンは一つ頷いた。

「よかろう。反省したと言うならばこれ以上の折檻は我が輩も望むところでは無い。 大人しく縄につくのだ!!」

 その言葉に、ほっと一息を着いたオカマ。
 だが、非情にもジャスティスムーンはさらに言葉を続けた。

「……とでも言うと思うたか?」
「ひぃぃぃっ!!」
「貴様がダノンを痛めつけ、殺めようとした事実は変わらぬわ戯け者が!!!」

 ジャスティスムーンは目にも留まらぬ速さで土下座するオカマに近づき、
 そして、胸倉をつかんで起こし上げる!

「嫌あああああ!! 嫌ああああ!!!」
「これはダノンの分!! 甘んじて受けい!! 正義の鉄拳!!ムーンライトナッコォォォォォ!!!!」
「ぎやああああああああああああ!!!!」

 至近距離から、荒ぶる轟音と共に繰り出される、全てを破壊しかねないジャスティスムーンの拳は、まっすぐオカマを捉え
 そのまま、オカマの眼前でピタっと拳を止めた。

「あばばばばば!! あばばばば!!!」
「ぬわーっはっはっはっは!!! 約束通り、痛くはしなかったぞ!!
 これに懲りたら、盗賊などというみっともない行動は二度とするでないわ!!
 お前の、精神が! 魂が!! 心の輝きが!!! 嘆き悲しんでおる事に気付かぬか!!!」

 ジャスティスムーンの言葉に、レイスは内心、「いや、あれはトラウマになるでしょ…」とツッコミを入れたが、
 あえて何も言わず、オカマを暴れられないようロープで縛った。

「このままアンタを教会に引き渡すわよ。何か言いたいことはあるかしら?」
「……」

 ショックで黙りこくるオカマに、レイスは声を掛けるが、帰ってくるのはやはり沈黙。
 さすがにアルケミストで戦闘向きではないレイスが彼をミナルまで連行するのは危険だろう。
 近くに居た支援士に声をかけようとする……が、

「……ステキ」
「は?」

 ショックから戻ったのか、オカマはぽつりと声を漏らし、その言葉に、レイスは思わず声を上げる。
 そのぶっ飛んだ謎思考に、頭が追いつかなかった。
 そのオカマの見つめる先は、イボだらけの男を連行して戻る人々が安全に戻っているかを見ているジャスティスムーンの横顔

「ステキだわ。ジャスティスムーン様……アタシ、きっと正しくなって帰ってくるわ…!!」
(…もう知らん……)

 オカマの後の事は支援士に任せて、レイスはビショップの手で治癒されているダノンの元に向かった。



一方、戻ってスフィリアの方


 向こうで、「わぁぁぁぁ!!!」と、勝どきの明るい声が聞こえ、引き上げてくる。
 そこには、ボコボコにされて簀巻きにされたイボだらけの男と、
 とても大人しくなってしまった魔術師の男。
 そして、

「ダノンさん!!」
「ははっ…スフィリア君。無事で良かったよ…」

 ボロボロになったダノンさんが、冗談しかめて笑う。
 ダノンさんを支えていた女性は、ダノンさんにポーションを渡して体力の回復を促していた。
 無事だった。ダノンさんは生きていた。その事実に、私はまた泣き出してしまう。

「何言ってるんですか!! わたし…わたしなんかより、ダノンさんボロボロで…!!」
「大丈夫。ぼくは丈夫だからね。2~3日休めばすっかり元気になるさ。それに、女の子を傷つけるワケにはいかないからね」

 その顔に、私はまた涙があふれ出て……

「いてて…」
「悪いけどダノンさん。今はしっかり休んだ方が良いわ。宿に向かいましょう」
「ああ。レイス君……そうさせてもらうよ。ありがとう」

 そうして、ダノンさんはレイスさんと呼ばれた女の人に連れられて、ミナルに戻っていく。
 こうして、このちょっとした騒動はこれで収まった。
 今になってまた、私は身体がブルブルと震えて、へたんと地面に座り込んでしまう。
 そんな私は、ナビさんに慰められるように頭を撫でられて…

「怖い思いをさせたな…すまない」

 ナビさんの言葉に、私は手の甲で涙をぬぐいながら、小さく首を横に振る。
 でも、ぬぐってもぬぐっても、涙は収まらなかった…。

「ううん。ナビさんは私を助けてくれました…私、ナビさんを信じてました…」

 でも、それでも…涙は一向に収まらなくて
 ナビさんは、涙を流す胸を貸してくれた…。

「あぁ…うぁぁぁ………!!」

 そんな状態のまま、ナビさんはゆっくりと語りかけた。

「いくら強くなっても、力をあんな風に間違った使い方をするヤツだって居る。
 ダノさんが言ったように、見下したり、比べたりするヤツが居る。
 スフィリア。今でもただ強いブレイブマスターになりたいか?」

 ぐりぐり、とナビさんの胸で、首を横に振る。
 なりたくない。例え強くても、あんな嫌で怖くて。悪いブレイブマスターなんかなりたくない。
 その答えに、ナビさんは頭を包むように抱きしめて、

「オレもああだった。力を過信して大切なモノを失って荒れては暴力に生きてた」
「…」
「だけど、ダノさんはいつもオレを気にかけてくれた。たぶん、人として繋ぎ止めてくれてたのはあの人の存在もあったと思う。
 スフィリア。もしダノさんがピンチになったら、助けてやりたいって思うよな」
「…はい………」

 強いブレイブマスターになりたい。なんて願いは、私の中から消え去っていた。
 ダノンさんの言う通り、急いで強くなる必要なんてない。
 それよりも、一歩一歩自分らしく強くなっていくこと。それが大事なんだってわかった。

「ナビさん…私」

 ダノンさんみたいに、なりたい。そう思った。

「強く、ありたいです―――――」